挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
849/1062

番外101 脱穀と精米と

 フローリアの言っていた意味はすぐに分かった。
 試しにということで刈り取った稲を、種籾と稲の茎の束に分離させた時点で、小さな精霊達の姿に変化が起こったのだ。
 種子――籾が纏うぼんやりとした精霊力らしきものとは別に――茎の束の間から、顔を覗かせ、何やらこちらに向かって手を振っていたりする小さな精霊達の姿が見える。丸っこくて二頭身ぐらい。手足もちんまりとしている。こちらは稲藁に宿る精霊とでも言えばいいのか。妙にフレンドリーだな。

「種子に力が移っていったのが見えた?」

 と、フローリアが尋ねてくる。

「精霊の力みたいに見えたけど……あれは?」
「そのまま精霊の力の一部よ。種の中に宿っていて、発芽する時にまた小さな精霊として現れるの」

 なるほどな。分離したり種に力を残したり等……色々と植物の精霊らしい変化と言える。活力の強い植物となると根の一部からでもまた再生したりするしな。
 果実や種子の栄養価と、そこに宿っている精霊力の関係だとか……そのあたりを調べてみても面白いかも知れない。

 では……みんなで稲を収穫していくとしよう。道具の類は収穫の時に備えて、既に地下区画に用意してあったりするのだ。改造したティアーズ達も作業の補助役ということで配備していたりする。

 だが、一般に普及させるのが目的なのでどんな工程でどんな苦労があるのかを知っておく、というのは重要だ。

 みんなで一度、収穫の経験はしておこうということで、昔ながらの方法、鎌などで刈り取っていく。刈り取った稲の束をラヴィーネやベリウス、リンドブルムが口に咥えて運んでいったり、ヴィンクルやコルリス、オルトナが腕に抱えて運んでいったりと、動物組も色々手伝ってくれる。イングウェイやレギーナ、オルディアも見ているだけでは物足りなかったのか、収穫を手伝ってくれた。イングウェイ等は道具無しでも軽く爪で切ったりできるので楽そうである。

 そうして地下区画に置かれた作業台の上に収穫した稲を積んでいく。

「ふむ。白米と聞いていましたが、殻がついているのですな」
「そうですね。籾をまず茎から外し、それから殻を取ると……こういった感じの中身が出てきて、玄米と呼ばれる状態になります」
「まだ白くないのね」

 フォルセトが説明すると、イングウェイ達は興味深そうに耳を傾けていた。

「ここから表面の糠部分を削って白くすることで、味や食感が良くなります」

 玄米については……圧力鍋で炊けば食感も良くなるという話も聞いたことがあるな。白米ではなく玄米の状態で置いておくことで長期保存もしやすくなる、と。

 というわけでみんなで手分けして収穫が終わったら、今度は脱穀だ。
 木魔法を用いて狙った部分を乾燥させ、種子を取りやすくしたうえで、足踏み回転式の千歯扱きで種子と茎を分けていく。一束を大きな櫛の歯のような部品に引っ掛け、回転に合わせて茎束を引っ張れば種子が取れて下の篭に溜まっていき脱穀が完了する、というわけだ。道具に関しては、ビオラとの合作である。

 稲作を世間に普及させるにあたり、回転式千歯扱きなら準備にあまり魔法が絡まず、初期投資もランニングコストも少なく、能率も良いというメリットがある。麦などにも応用が利くというのもポイントだ。

 ゴーレムや魔法生物をコンバイン代わりに、などというのもできなくもないのだろうが、広く普及させるには若干敷居が高くなってしまう気がするからな。

 一方で、稲作に長い年月をかけてきた上にに高度な魔法技術を持っているハルバロニスはというと――収穫、脱穀、籾摺りから精米までの一連の工程を魔法でこなせるノウハウを持っていたりする。

「種籾は次の分を確保しておきますね。選別した種籾を、ハルバロニスとの間で交換したりすると、品質も維持できると思いますよ」

 と、フォルセトが穏やかな笑みを浮かべて言う。
 そう。種籾の選別にしてもそうだ。無計画に種籾を自家だけで確保して育てているとどうしても作物としての仕上がりが悪くなってくる。そこで種籾を選別し、次に育てる分を確保する、というわけだ。
 これについては木魔法でも手作業でも分別できるようだが……木魔法の仕組みを見ると、どうも宿っている精霊力の多寡で良い種籾かそうでないかを判別しているようだ。

 作業台の上にマジックサークルが閃き、まるで磁力で引っ張られるように適性のある籾が種籾とそうでないものに分かれていく。
 ふむ。稲作が広まっても種籾等の品質保持に関してはハルバロニスとしっかり連携していくのが大事だな。

「脱穀や精米みたいな工程については――それぞれの地方に専用の設備を作り、そこに公共の魔道具を設置する、という構想を練っています。魔道具で魔力を消耗することになりますが、そのぐらいなら魔法の心得がない面々でも大丈夫かなと」
「良い案ね。敷居が下がれば稲作を始めようとする者も増えるのではないかしら?」
「そうなってくれると嬉しいですね」

 ローズマリーが目を閉じて言うとアシュレイが微笑んだ。そうだな。それを見込んで、という部分はある。
 同時にできるだけローテクな手順もノウハウとして残しておけば、魔道具が不調になった時も安心、というわけだ。回転式千歯扱きなどはその一環である。2人の言葉に頷き、仕事を進めていく。

「後は……一部を手作業で籾殻を取ってから精米。残りは魔法でかな。茎も藁にしないといけないから、葉は取り除いて、束ねて干せるようにしておく、と」

 稲藁は燃料や飼料以外にも様々な物品に加工品にしたりと使い道が沢山あるからな。無駄がないというのは良いことだ。

「それじゃあ、そっちの作業も手分けをして進めましょうか」

 クラウディアの言葉にマルレーンがにこにことしながら頷く。葉を取り除き、茎で茎の束を縛り、ある程度の太さに纏めて積んでいく。
 こういう加工作業が得意なのはやはりシーラだ。すぐにコツを掴んでどんどん縛っていく。イルムヒルトが手を動かしながらも歌を口ずさんでセラフィナが一緒に歌う。マルレーンとステファニアがにこにことしながら、歌に合わせて軽く体を動かし、茎を束にする作業を続けていた。
 ハーベスタ達ノーブルリーフもイルムヒルトの歌声に反応しているのが中々面白い。

 そんな調子で、のんびりとしながらも楽しく収穫と脱穀に絡んだ作業を行った。
 収穫した分は、自分達で食べる分、種籾用として分別したものの他にも……稲作を広めるためのプレゼンに使う試食用、米麹等を作るための発酵蔵用と、ある程度用途があったりする。

 ミシェルがデータ取りしてくれたお陰で、シルン伯爵領でも稲作可能というのは分かっているし、シルン伯爵領に試験用の水田を作ると共に、周辺の農家にも白米を食べてもらって周知していく必要があるだろう。味噌と醤油を作るには米麹も必須で……試食を行うならこれらについても宣伝する良い機会になる。

 だがまあ、今日のところは折角みんなで収穫したわけだし……。

「一部を先に精米したらここに集まっている面々で試食会といきましょうか?」
「それは良いですね」

 俺の提案にミシェルが相好を崩す。自分で育てた収穫物を味わってこそ農業の醍醐味と言えるしな。新米を有り難く食べさせてもらおう。

「む、それはかたじけない。食材が必要なら、少ないながらも迷宮と市場で確保してきましたが」

 と、イングウェイ。んー。旧坑道から確保できる食材と言うとオーク肉か。トンカツにすれば米にも合うな。では、今日はトンカツで夕食と行くか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ