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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外95 伝統衣装と森の都と

 宴会も終わって部屋に戻り、その後は戦いの休息も兼ねて一日部屋で休ませてもらう、ということになった。
 まあ、休息というか夫婦水入らずの時間というか……体調を整え、回復を早めるのに一番手っ取り早いのが多人数による循環錬気だからな。不調を取り除き、肉体が活性化するので無茶な魔法の使い方をした後には行っておくと後々が楽だ。

 そんなわけで時間はたっぷりとあるので、みんなとのんびりと過ごす訳だが……。

「ん。宴会の時に、伝統衣装について聞いたら城にあるからって、色々くれた」

 というのはシーラの弁だ。何やら楽器の交換の他にもエインフェウスの民族衣装やらドレス、アクセサリーやらを色々城の女官から貰って来た、らしい。

「ああ、これは刺繍が綺麗で可愛らしい服ですね」
「アシュレイやマルレーンに良く似合いそうだわ」
「クラウディア様には、こちらの色のものが似合いそうです」

 と、グレイスとアシュレイ、マルレーン、クラウディアが服を体の前で合わせたりして楽しそうにしている。
 年少のアシュレイとマルレーンがみんなに着せ替えられたりというのは割といつものことだ。

「ああ。獣人は尻尾があるからかしら。腰のところに隙間が……」
「これは……室内では良いけれどちょっと外には着ていけないわね」

 ステファニアとローズマリーが腰回りの構造の違いを見つけて少し頬を赤らめる。

「シーラなら問題無さそうかしら?」
「ん。私はへーき」

 イルムヒルトの言葉に衣服から尻尾を出してぴょこぴょこと動かすシーラである。
 と、そんな感じでみんなで楽しそうに伝統衣装やらに着替えて、更に髪型を弄ったりして盛り上がっていた。
 そして俺にお披露目してきたりするわけだ。バハルザードやドラフデニアに行った時も衣装を色々貰っているからな。こういうのも実は何度かあったりする。
 こう、俺としては眼福だし全く不満もないのだが……何というかみんなは狙ってやっているわけではないにしてもコスプレだとか、そんな単語が頭を過ぎるというか何というか。それに今回の民族衣装は獣人用ということもあって、腰回りに肌が見えていたりして、こう、色々と刺激が強い。

「そう言えば、前から少し思っていたのですが……テオの前世の記憶にある服、というのも興味がありますね」
「あー……うん」

 そんなグレイスの言葉にみんなが食いつくのが分かった。俺としてはコスプレ云々が頭を過ぎっていただけに返事も曖昧にならざるを得ないところがあるが。

「そうね。異世界の衣服というのは、面白そうだわ」
「どんな服があるんですか? やはり夜桜横丁で見たような?」

 アシュレイがにこにこ笑って尋ねてきて。マルレーンも何かわくわくと期待するような面持ちでこちらを見てくる。うん。俺なら土魔法でも幻影でも実物を見せることができてしまうからな。
 そうすると多分、みんながデザインを気に入ったら帰ってから仕立屋に行こう、なんて話になるところまで想像できてしまった。

「んん……。夜桜横丁の白拍子の服もあるね。あれはええと。昔の伝統的な服だったりするけど……」
「伝統的、ということは、新しい時代の服もあるのかしらね」

 ローズマリーが首を傾げる。

「うん。まあ、こんな感じでね」

 マルレーンのランタンを借りて、幻影で色々映し出す。白拍子の巫女服、浴衣に大正袴、晴れ着といった和服の他に、セーラー服にブレザー、チャイナドレス、看護服、スーツ等々……色々と思いつくものを映していく。
 実際にみんなに幻影を重ねてみたりもして、実際に着てみた時の印象を確かめるといった感じだ。
 みんなもこれが気に入ったとか、あれが誰に似合いそうとか、色々盛り上がっているので……まあ、良しとしておこう。案の定帰ったらデイジーの店で色々仕立ててもらおうなんて話になっているが。



 予想外の方向で盛り上がりがあったが……その後、休息と触れ合いでみんなと一緒に夫婦水入らずの時間を過ごした。みんなと循環錬気を用いた時間もかなり長く、お陰で体調はすこぶる良い感じだ。
 そして明けて一日。予定通りエインフェウス国内の観光に出かけようという話になった。
 レステンベルグの街中を見て回って買い物をしたり、エインフェウス王国の住民達の暮らしぶりや文化、産業等々色んなものを見て回って意見交換をしたりする、と言うわけだ。

 獣人とエルフ達の樹上生活は確かに色々興味があるかな。
 緑の城を出て、街中――つまり樹上に張り巡らされた木の足場の上を進む。梯子やら蔦で作ったロープやら立体歩道橋のような階段やらと、昇り降りする手段は氏族達の身体能力に合わせて色々なようだ。

 樹上の道もイメージしていたより広々としていて、行き交うのに不都合がないぐらいだ。コルリスも通れるぐらい……。まあ、身体の大きい獣人も多いからな。

 ベルクフリッツ捕縛から帰還、一日置いたから話が広がっているのか、それともイグナード王が同行しているからか、家々から獣人の家族や子供達が顔を出し、こちらに笑顔で手を振ってきたりする。

「うむ。子供はどこでも可愛いのう」

 と、アウリアやみんなが相好を崩して手を振り返す。
 俺は俺で、何やら虎や狼、熊の氏族といった獣人の子供達から手を振られたりしているが……お国柄かな。手を振り返してみると、顔を見合わせて嬉しそうにぶんぶんと更に手を振ってくる。何やら随分と嬉しそうにしているが……。

「うむ。そなたについては余の側近らがベルクフリッツ一派の討伐の様子を色々話をしたようなのだな」
「すっかり憧れの的になってしまっているようですね」

 イグナード王とオルディアがそんなふうに教えてくれた。

「強者に憧れるのは、エインフェウスでは良くあることですからな。氏族によって多少は違いますが、尊敬を集めるのは間違いありません」
「そういうわけでしたか」

 イングウェイの言葉に苦笑する。
 そんな調子で街中の視察を兼ねた観光を進めていく。

「あれが精霊殿となっておる木だな」

 イグナード王が少し大きな木を指差して教えてくれる。エルフが多く住む国だけあり、精霊殿はしっかり存在しているわけだ。
 迷宮の主が原初の精霊ティエーラとなり、そしてクラウディアはティエーラと契約している。
 月神殿だけでなく精霊殿も転移の拠点とすることが可能な状態であるので、正式な転移設備が氏族長との合議によって承認され、実際に建設、実動するまでは精霊殿を利用してエインフェウスと行き来することになるだろう。

「それじゃあ、後で精霊殿に立ち寄ってから戻ることにしましょう」

 クラウディアが言う。そうだな。色々見て回ってから立ち寄るとしよう。
 レステンベルグの街は、樹上、樹下に広がっているが、緑の王城正門の正面は大通りと呼べる場所だ。商店があったり市場があったり、活気のある場所だ。

 あれは仕立屋、あれは靴屋、鍛冶屋……とレギーナが色々と教えてくれる。樹の上や下に店があったりするが、店の種類や品揃え等は実に真っ当な内容だったりする。まあ、生活に根差したものが多少場所が違った程度でそれほど大きく変わるという事もないだろうけれど。

 街の外れに行くと木々の間で果実等の作物を育てていたり、山羊や羊といった家畜を飼っていたりと、長閑な光景が見られる。
 エルフが作物の面倒を見ていたりする。エルフ達は精霊の声を聞いたり直接その動きに働きかけられるから、ノーブルリーフ達のように植物の促進であるとか病気の有無を調べたり、それを治療したりというのは得意分野だ。

 拠点から外に出て、魔物が近付いてこないように狩りに行ったりといった、冒険者的な仕事は荒事を得意とする氏族達の出番。こうして見ると各々が得意分野で色々仕事を分担しているわけだな。
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