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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外94 緑の城の宴

 レステンベルグの緑の王城――その一角の貴賓室に通され、そこに滞在する、ということになった。
 広々とした部屋にふかふかとした毛足の長い絨毯が敷かれている。中庭に面しており、バルコニーがあって眺めも良い。風呂トイレ等々、生活のために必要な設備も部屋内にある。

 他のみんなも幾つかの部屋に割り当てられる形で滞在。……まあ、何というか滞在中は夫婦水入らずで過ごせるようにしてもらえたようだ。部屋に荷物を置いてそれぞれの部屋の場所を確認していく。

「こういう豪華な絨毯が敷いてあると、転がりたくなる」

 シーラが言うと、ステファニアとアウリアがその言葉にうんうんと頷く。うん……。まあ、2人は実行済みだろうという気がするが。

 そうして荷物を置いてから、歓待の宴と祝勝会が行われる大広間へと通された。
 氏族長達や主だった武官、文官も宴に顔を出している。俺達が大広間に入ると、敬礼をもって迎えられた。部屋に通されて荷物を置いたりしている内に、今回の事件の経緯や顛末についての説明があったのだろう。

 一礼を返し、用意された席に着く。大広間に続々と料理が運ばれてくる。獣人の国らしく、鳥の魔物の丸焼きに香草詰めたものだとか、かなり見た目にもインパクトのあるワイルドな料理もあれば、果物の盛り合わせだとか、様々なキノコがたっぷり入ったスープだとか、いかにも森の幸といった料理が並ぶ。

 獣人の楽士隊と踊り子達も宴の開始を待っているようだ。今は楽士がのんびりとした音楽を奏でているという状態で、踊り子達は宴が始まれば本格的に出し物を見せてくれるのだろう。
 用いる弦楽器もエインフェウスならではのものだ。三角形をした胴体を持つ弦楽器である。
 踊り子の衣装も伝統衣装をベースにした華やかなもので、文化的な違いは見ていて中々興味深い。

「今回もお土産に魔法楽器を持ってきたし、代わりに楽器を交換していけると面白いんだけどな」
「そうね。後で交渉してみたいわ」
「実演して気に入ってもらえたらいけそうな気がするな」

 そう言うとイルムヒルトは嬉しそうに表情を綻ばせる。
 色んな土地で楽器を貰ったりしているからな。その音色を魔力キーボードに組み込んだりしてバージョンアップもできるし。

 それから……獣人達も氏族が同じでも、見た目の動物度と言えば良いのかが結構違ったりする。
 今までは武官タイプの獣人達と関わりが多かったが、一般住民や文官や楽士、踊り子達はかなりバリエーション豊富というか。カワウソの文官だとかウサギの楽士だとか……あまりエインフェウスの外には出てこない氏族もいるな。

 そして、銅鑼の音と共に会場にイグナード王が入ってくる。イグナード王は大広間を見回し、一瞬視線が合うと笑ってから、両手を広げて言った。

「皆、良く集まってくれた。知っての通り、今宵の宴はヴェルドガル王国の賓客を迎える大事な席である。そして獣王の品位を貶めようとしたベルクフリッツ一味の捕縛にその力を惜しみなく貸してくれた英雄、フォレスタニア境界公の武勇と叡智を称え、語り継ぐ祝勝の宴でもある」

 そう言うと居並ぶ列席者から歓声が起こる。厳かに頷き、歓声が収まるのを待ってイグナード王が言葉を続ける。

「しかしだ。ベルクフリッツの企みに呼応する者が城の内部にもいたのは残念なことである。それでも、建国以来――獣王は変われどもその志は受け継がれていると儂は信じたいのだ。時の獣王に合わせてエインフェウスは緩やかな変化を重ねてきた。儂もいつかは老い、この座を退くであろうが……我等が初代の想いと志を忘れなければ、この国は変わらずに栄え、明るい未来に向かって行くものと思っておるよ」

 そんなイグナード王の言葉。静かに語り掛けるような言葉に、居並ぶ武官、文官達は何かを感じ入っている様子であった。
 少しの静寂。それを打ち破るようにイグナード王が拳を握り、力強い声を響かせる。

「だからこそ客人を真心を込めて持て成すことで、エインフェウス本来の姿を伝えるのだ。それは初代獣王の御心に改めて思いを巡らせ、隣国とも手を取り合える未来に繋がるであろう! さあ! 皆、盛大にこの宴を祝おうではないか! 存分に飲み食いし、歌い踊って楽しむとしよう!」

 イグナード王の言葉に再び歓声が上がる。楽士達も宴の始まりを知らせる、軽快で賑やかな音楽を奏で出した。

 初代獣王か。様々な獣人の氏族達を庇護下に置き、獣人達を束ねてエインフェウスを建国した王。だから初代獣王の志を忘れないならば、獣人以外の治める隣国とも手を取り合える、というわけだ。
 それはきっと、クラウディアの考えにも通じるものではないだろうか。視線が合うと、クラウディアは静かに笑う。

 ……そうだな。それじゃあ、俺達も宴を楽しませてもらうとしよう。



 料理に舌鼓を打ちながら楽士隊と踊り子達の催し物を見せてもらう。
 エインフェウスの舞踊は――何というかお国柄や運動能力に優れる獣人達を反映してか、武術的な動きが源流にあるように見えるな。高く跳躍したり機敏な足の動きを見せたりとダイナミックな動きが多い。

「何というか……武術に通じるような動きに見えますね」
「ああ。実際そうですよ。あれらの伝統舞踊は武術的な動きを取り入れたものです」

 グレイスも同じことを思ったのか、レギーナに尋ねるとあっさりとそんな答えが返ってきた。
 各国に武術というのはあってそれぞれ独自に発展しているが、レギーナの言葉が正しいのなら、エインフェウスのそれもまた独特だ。
 色んな武器、流派があるのだろうが、こうして伝統舞踊からその背景にある体術、武術を見ていくと……何となく拳法的な動きがあったりして、獣魔の森の向こう――極東の国から流入してきた技術というのは、仙術以外にも過去にあったのではないかと窺える。中々に興味深いな。

 そうして食事が一段落したところで、イルムヒルトとシーラは魔力楽器を用意して楽士隊に話しかけに向かう。中々楽しそうに上品そうな犬獣人の女性と談笑しているところを見ると、交渉は順調なようだ。

 獣人の文官、武官が挨拶に来たり、会場の端にいるコルリスに鉱石を食べさせて盛り上がっていたりと、会場のあちこちで交流が進んでいるようだ。

「おお。これは何というか……興味深いな」

 と、エルフの氏族長であるウラシールが率先してコルリスに鉱石を手ずから食べさせていたりするが。
 イングウェイも……タームウィルズの事を知りたいからか俺達の席の近くに来て、色々と話をしている。

「迷宮に降りるには冒険者登録が必要というわけですか。ふむ」
「基本的にはそうじゃな。獣王候補と目される程の腕前の持ち主であるなら、冒険者ギルドとしては大歓迎といったところじゃな。ヴェルドガル国内で活動するにしても冒険者の肩書きは有ったほうがよかろう」
「なるほど。それは確かに」

 と、アウリアに言われて冒険者としての登録を考えているようだ。優秀な人材を冒険者として勧誘できるとあって、アウリアは割とほくほく顔である。

「迷宮で訓練か。となれば儂も鍛練を頑張らねばならぬな」

 イグナード王がそんなやり取りを見てにやりと笑う。イングウェイも応じるように笑うあたり、2人とも獣王継承戦でまみえるのを楽しみにしている様子だ。

「オルディアについても話をせねばならんな。オルディアは此度の事件を経て得た知己を活かし、エインフェウスからの親善大使としてヴェルドガル王国へ向かう事となった」
「どうかよろしくお願いします」
「あたしも、オルディア姉さんの護衛として同行することになりました。よろしくお願いします」

 イグナード王が言うとオルディアとレギーナが一礼してくる。
 そうか。それじゃあ帰国する際は2人もシリウス号に乗っていく、ということになるな。
 因みにオルディアが使った能力に関しては、武官達にはオルディアの魔力資質が向いているから封印術の魔道具を使ってベルクフリッツ捕縛に協力してもらった、ということで説明してあったりする。

 本来なら事後処理に封印術を手分けして使う予定だったが戦場に出てしまったのは、些かオルディアが逸り過ぎた、という感じの説明だ。

「儂が獣王位を引退すれば親善大使の人選も変わるのだろうが……まあ、その時には儂もタームウィルズかフォレスタニアでの引退生活を考えるかも知れんな」

 ああ、それも前に言っていたな。もっとも、転移の拠点をエインフェウスにも作ろうかという話をしているから、今後はイグナード王も割と気軽にタームウィルズに来られるようになるとは思うが。
 転移港の設備が作られて正式に稼働すれば各国との交易や交流もしやすくなるしな。色々と今後の事が楽しみではあるかな。
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