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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外92 獣魔の儀式場

 ベルクフリッツに封印術を叩き込むと同時に、手勢の獣人達に与えられた魔物の力が、光輝く靄のような形で霧散していった。ベルクフリッツという要が力を発揮できなくなったことで手下達に与えられた力も失われるわけだ。

 遅れて落ちてきたベルクフリッツにレビテーションをかけて激突しないように地面に降ろし、息があることを確認してから動けないよう四肢を固めておく。
 封印術を叩き込んだから仙術と共に身体能力的も無力化できているが、魔物の能力を取り込んだものに関しては、オルディアの能力で引き剥がしておいた方が良いのかも知れない。

 魔物の力を失った獣人達は、ベルクフリッツの敗北と相まって抵抗する気が失せたのか、武器を捨てて投降する構えを見せていた。
 俺も手足の末端部に痛みはあるが……投降してくる獣人達の梱包や移送作業等もある。ベルクフリッツの手勢達が恐怖の目で見てくれているのは睨みを利かせる意味で都合がいい。もう少し気を張っている必要があるか。
 ベルクフリッツの襟首を掴んでこちらから防御陣地に向かうと、すぐにアシュレイが駆け寄ってきてくれる。

「テオドール様!」
「ああ。うん。勝ったよ」
「はい……! すぐに治癒魔法を……!」

 アシュレイが手を取って治癒魔法を用いてくれる。痛みはすぐに引いて行き、暖かい心地良さのようなものがじんわりと広がってくる。魔力の反射で体の状態も調べ、それで深刻なダメージはないというのを理解したのか、安堵したような表情を浮かべる。

「テオドール様は、一先ずは大丈夫みたいです。手足に負荷がかかったようではありますが」
「良かった……」

 アシュレイの言葉に、グレイス達もほっとしたような様子だ。

「ごめん。また心配をかけて」

 そう言うと、アシュレイは小さく苦笑した。

「いいえ。でも、ご無事で何よりです」

 アシュレイの言葉に頷く。みんなに怪我をした部位に触れられたり、軽く抱擁されたりする。

「無事で何よりだ。此度の事、そなたがいなければベルクフリッツを倒すのにどれほどの犠牲を払ったか想像もつかぬ。エインフェウスを預かる獣王として礼を言う」

 と、イグナード王がやって来て静かに一礼して言った。ボリスと戦った際の手傷は治療済みなようである。

「ありがとうございます。お互いに無事で何よりです」

 そうイグナード王に答える。
 変身前はともかくとして、魔物の力を全開放して変身した後は……確かに何か対抗策が無いと危険な印象ではあったな。

 だが――別世界の俺が知っていた未来では、ベルクフリッツは獣王では無かった。となると、エインフェウス国内でどうにかした、ということになる。
 エインフェウス国内で奴を打倒できる戦力があるとしたら、やはりイグナード王とオルディア……それに他の獣王候補の力を結集すれば……だろうか。

 ベルクフリッツ打倒のために犠牲を払ってでも、か。オルディアの能力はベルクフリッツを打倒する鍵足り得るが……その場合、魔人であることが露見してしまうだろう。
 その過程と結果がどう転ぶかは、今となっては想像するしかない。そんなふうに、有り得たであろう未来に思いを巡らし、かぶりを振る。

「ベルクフリッツは、オルディアさんにとっても害を成す存在でしたし、ここで止められたのは近隣国家の今後の平穏の為にもなると思っていますよ。僕自身の成すべき目的と一致していましたし、エインフェウス王国だけに留まらない可能性を持つ問題だったと思います。余りお気になさらないよう」
「むう。中々にままならぬものではあるな」

 軽く笑ってそう言うと、イグナード王はやや難しい表情を浮かべていたが、やがて頷くと思考を切り替えて、側近の武官達に色々と指示を飛ばしていた。

 そうして治療を終えて。まずは意識を失っている連中に封印術を叩き込む。それをステファニアとコルリスが土魔法で梱包といった感じで分担作業だ。
 まだ戦えるだけの余力を残した連中も戦意を失っていたので、封印術を叩き込んで拘束しておく。

「私も手伝います」

 と、オルディアも能力を使って封印術を使って無力化する工程に近い作業を手伝ってくれた。
 生命反応を見て、屋敷や物陰に隠れている者がいないか。どさくさに紛れて逃げようとしている者がいないか等を見つつ、梱包した連中をシリウス号に積み込む。

 屋敷の内部も調査しておく必要があるだろうか。ベルクフリッツが身に付けた仙術の資料があるようならそれは回収しておくべきだろうし、何より魔物の力を取り込む儀式のための設備は確実にあるだろうから、それについてはしっかり破棄しておきたい。
 魔物喰いの仙術は邪法もいいところだ。回数を重ねた時に肉体や思考に与える影響が未知数である上に、変身した後は理性を無くしていたという事を考えると、危険極まりない術と言って良い。特に、エインフェウスの風土だと同じような野心を抱く者が今後現れないとは限らないしな。



 ベルクフリッツの居室自体は分かりやすいものだった。他の部屋に比べて明らかに内装が豪華な上、仕留めた大物の魔物を毛皮などに加工して絨毯等にしていたようだ。

「魔法には詳しくなかったみたいだけど……仙術もあったからな。隠し通路にそのへんの技術を応用している可能性は高いかな」

 儀式の秘密を秘匿しておくというのなら、仙術を利用して通路を隠す、というのは有り得る話だ。

「なら、あまり弄らない方が良い?」

 首を傾げるシーラに頷く。

「仙術絡みの罠があるかも知れない。探すべき場所はそんなに多くないし、魔力感知でも引っかかるから、どうにかなると思う」

 というわけでベルクフリッツの居室をつぶさに見ていく。仙術は環境魔力に作用しているという印象がある。どこかに仕掛けとして魔力を集中させるのではなく、全体でそういう場を作る、というのか。
 仕掛けの魔力が拡散しているので一見しただけ分かりにくいが……ベルクフリッツ自身が仙術を実演してくれたし、居室の様子を見回していると、何となく働きも分かってくる。
 要となる鍵があり、それを正しい場所に置くことで魔力の流れを作り出す……というところだろうか。疑わしい調度品を別の場所に置いたりして魔力の流れを追っていくと、その流れ自体が仙術の印を結んでいくのが分かる。

 ふむ。なるほどな。あれこれとパズルを解くように調度品を動かしていると、仙術の印と魔力の流れがスムーズになる位置にぴたりとはまる。
 壁の一部が虚空に溶けるように消えて、隠し通路が姿を現した。

「何だか、ハルバロニスの隠蔽魔術に似ていますね」

 と、フォルセトが言う。確かにな。場を作って認識を惑わしたり、というのは仙術でも似たような逸話があったような無かったような。

 そうして通路――階段を下へと進んでいくと、方陣の描かれた地下室へと出た。ここがベルクフリッツの本当の拠点、というわけだ。木簡を紐で連ねた巻物もある。……仙術を記した資料、ということになるのか。開いて中を見てみるが……漢字のような印象のある未知の象形文字がびっしりと記されていた。
 あー。極東方面とは獣魔の森等のせいで文化的に断絶しているか。となると、解読から始めないと記されている内容の意味するところが分からない。

「仙術の資料はともかくとして、ここの設備は破壊してしまって構いませんね?」
「そうだな。これを残しておくのは後の世の禍にしかならんだろう」

 イグナード王に尋ねると、即答で同意してくれた。
 では、方陣は土魔法で埋めて消してしまうというのがいいだろう。
 後は巻物の扱いをどうするかだが……解読できなければそもそも無用の長物だったりするし、梱包したベルクフリッツ一派を森の都に運んで、その後で話し合って考えればいいだろう。イグナード王が扱いに困るというのなら、フォレスタニアの宝物庫に封印してしまうという手もあるしな。
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