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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外89 追跡と調査と

「ザインベルグの住人は……割と落ち着いているようですね」

 モニター越しに輝く生命反応の動きを見ながらフォルセトが言う。シリウス号の艦橋を臨時の発令所として、ザインベルグにて情報収集を行っている、という状況だ。
 住民の出入りと調査に関して……現時点で特に問題は起こっていない。それは取りも直さず、ザインベルグの兵士達が職務に忠実に動いている事を意味する。

「証拠集めも順調です。過去の書類の提出等々、他の官吏の皆さんは協力的ですね」

 と、レギーナ。決算の書類等々をザインベルグの城からシリウス号まで持ってきたところだ。イグナード王がタームウィルズに同行させた側近の武官達は潔白が証明されているので、ザインベルグの城で必要な証拠集めに動いている。カドケウスとバロールを同行させているので、彼らに攻撃が加えられるような事態が起きてもすぐに対応可能というわけだ。

 ……コーバックが焦って動いて捕縛。コーバックと組んでいたディグロフが逃走したという状況だ。
 仮にザインベルグの城でディグロフの企てに加担していた者が他にもいるとするなら、尻に火が点いている状態である。何かしらの不自然な動きを見せるだろうと思っていたが、現時点で不自然な動きはない。

「――今のところは平穏な状態、というわけだな」

 現状を聞いて、書類に目を通しながらイグナード王が頷く。
 そうなる。ザインベルグの状況は一先ず問題無し。となれば、残りの問題はディグロフの行方とベルクフリッツの所在だ。
 ディグロフの追跡に関してはマルレーンとエクレールの担当である。

「マルレーン、大丈夫? 疲れてきたら言ってくれれば、循環錬気で魔力の補助も行うからね」

 俺が声をかけると、マルレーンはこちらを見てにっこりと微笑んで頷いた。今のところは大丈夫、ということらしい。魔力の消耗だけでなく、追跡に関しても大丈夫という意味合いが込められているわけだが。

 マルレーンはエクレールとの五感リンクを行いながら、地図の上に魔力の光球を浮かべている状態である。エクレールの座標を地図上で連動して動かしているわけだ。
 エクレール自身は――森を進むディグロフを追いかけている状態である。

 エクレールの座標とその動きから垣間見えるディグロフの様子はと言えば……時折立ち止まったり、また移動を開始したりというのを繰り返している。立ち止まるのは追手が来ていないか確認しているからだな。

 森を流れる小さな川を遡るように移動したり、臭いでも追えないように色々工夫しているのが窺える。

 基本的には北に向かって逃走していたようだが、その中でも時折方角を変えて偽装するような動きを見せていた。
 そして先程、北にある比較的大きな川岸まで到達したところで――東の方面に向かって移動の方向を変えた。

 追手に気を遣いながら森の中を進み、特徴的な地形に到達したところで……現在地を確認したというわけだ。その場所からベルクフリッツのいる方角へ進むことで、事態の報告に向かう、というわけだな。

「ディグロフは依然、東に向かって移動中のようね」
「森の中に拠点だとか、そういうものが見えたらそこがベルクフリッツの居場所かも知れないわね」

 ローズマリーとステファニア……姉達の言葉にマルレーンがこくこくと頷く。真剣な表情で俺に視線を向けて、自分の胸に手を当てる。エクレールの視界を通して何か見かけたら教える、ということらしい。

「ん。マルレーンとエクレールには負担をかけるけど」

 俺がそう言うと、マルレーンは屈託のない笑みを浮かべて小さく首を横に振った。大丈夫と言っているのだろう。

 というわけで俺も自分の作業に集中しよう。
 レギーナの運んできた書類に不自然なところがないか目を通しつつ、カドケウスとバロールが同行している武官達の聞き取り調査などの内容にも意識を向ける。

 武官達は城とザインベルグの街、二手に分かれて調査中であるが……。

「――はい。ヴェルドガルなりドラフデニアなりから飛竜を仕入れることができないかと相談を受けておりました」
「それで、結局飛竜は仕入れることができたのか? その飛竜の色など、身体的な特徴は――」

 と、獣人の武官達は街中で情報を聞いて回る中で当たりを引いたらしい。
 普通ならば商人が取引相手の情報を余人に漏らすのは商売上の信用に関わるのだろうが、取引相手が獣王に対して反旗を翻したともなれば話は別だ。犯罪者を匿えば自分にも累が及ぶと、商人達は寧ろ調査に対しては協力的であった。

 国や貴族、領主、役人等の保有する飛竜や竜籠の管理体制がエインフェウスでどうなっているかまでは詳しくないが、仮に登録なりなんなりの手続きがあったとしても取引相手も官吏であるなら、そのあたりに抜かりはないのだろう。

「街中の証拠集めも順調なようですね」

 そう言って街中の情報収集の現状について艦橋にいるみんなに説明する。

「裏が取れたか。となれば後はディグロフの行き先だけだな」

 イグナード王が腕組みをして頷く。
 飛竜を連れていた部隊が捕まって色々証拠が出て来てしまっては……いずれ裏が取れてしまうと、コーバックもディグロフも理解していたわけだ。
 だからコーバックは焦って動いたし、ディグロフは無駄な足掻きはせず、逃げる機会だけを窺っていた。文官があんな力技で逃げるというのは確かに予想外ではあるから仮に牢に入れられても結局逃げていただろうな。

「ベルクフリッツの名前を事前に入手できたのは僥倖でしたね。彼に心酔しているディグロフだからこそ、その正当性をイグナード王に主張せざるを得なかった。彼にとっては正しいと信じていることだからです」

 そのお陰で少しばかり見えてきたものもある。

 ベルクフリッツの持っている技術か、それとも知識か。その一端も垣間見えたように思う。ガルディニスは儀式を経て半魔人を作り出したり、シルヴァトリアの元王太子であるザディアスは、瘴気を利用した技術開発等をしていたが……あれと似たような感じだ。
 いや、現時点では魔人や瘴気に絡んだものであると断定しているわけではないが。

 ディグロフが力を見せてからの生命反応にも、マルレーンの訴えてきたところによると、異常が見られるようだしな。
 加えてディグロフの言動等から判断するなら、ベルクフリッツが何かしらの手段で他者に力を与えられるだとか、潜在的な能力を引き出せるだとか……推測するならそんなところだろうか?

 そういった内容をみんなにも説明する。

「その推測が正しいとすれば……私の能力にも、少し似ているかも知れません」

 オルディアがそう言うと、みんなの視線が集まる。
 ああ、そうだな。オルディアの能力は他者への力の干渉。力を宝石の形に切り離して、そこから力を扱えるというもの。封印術のような効果はその際の副産物とも言える。

「それを――ベルクフリッツがどこかで知る機会を得るだとか、或いは何かを感知する能力があった、と言うことは有り得るでしょうか?」
「何らかの形で目を付けたとすれば……人質としての目的以外でオルディアに手出ししてきた理由にも想像が及んでくるわね」

 アシュレイが首を傾げるとローズマリーが羽扇の向こうで頷き、それに同意した。

「ベルクフリッツが王位を望むのなら当然儂についても調べただろうな。オルディアの存在を知る機会もあったはず」

 ……それはベルクフリッツがオルディアの両親襲撃の一件と無関係であるなら、という前提だな。オルディアが魔人であることを知っていたか否かはまた別の話となる。

 ベルクフリッツがオルディアに関する背景を全て知っているのなら、魔人を保護しているなどと言って、イグナード王失脚のための手段に利用する。そうすればオルディアを利用するにしても非合法な手段で誘拐する必要などない。
 そうしなかったということは魔人であるということまでは知らないとか確信を得ていないとか……或いはそれができない理由がある、ということを意味するが……。

 と、思索と相談の時間はそこまでだった。マルレーンが座席から立ち上がり、こちらに視線を向けてきたのだ。

「何か見つけた?」

 尋ねるとこくんと頷く。ランタンを手に取って――言葉ではなく、幻影で教えてくれた。
 鬱蒼とした森の中に作られた大きな洋館。それに加えて――。

「何だか練兵場のような設備までありますね」

 グレイスが言って眉を顰めた。武術、体術の鍛練のための訓練場か。個人用ではない。大人数が訓練するための場所。目的は1つだ。自分に同調する獣人を集め、秘密裏に手駒となる兵力を増強しているのかも知れない。これが――ベルクフリッツの拠点か。
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