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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外87 東の拠点と獣魔の森と

 眼下に広がる夜の大森林。シリウス号が比較的緩やかな速度で進む。
 方位磁石と地図を参考に、目的地まで予定時間ぴったりに到着できるように調整。早い時間に睡眠を取り……そして朝駆けに備え、まだ暗い時間に目覚めて艦橋で朝食をとる。ちなみに船倉の捕虜の面倒――食事や水分補給はゴーレム達が食べさせたりといった具合だ。

「そう言えば、地図を見る限りだと……東側はあまり開発が進んでいない感じでしょうか」

 と、朝食をとりながらイグナード王に質問する。大森林に関する色々な情報は仕入れておきたい。エインフェイス王国の東の拠点に向かうのなら地理に関する情報も必須だろう。

「その一帯は既にエインフェウスの統治からは外れておる。大森林の東――拠点より更に進んでいくと、そこは獣魔の森と言って、強力な魔物達が出現する場所なのだ。大樹の恩恵もそこまでは届かぬ」
「……獣魔の森、ですか」
「多分、魔力溜まりが沢山噴出しているのでしょうね。だから凶暴な魔物の棲家になってしまうのでしょうけれど」

 クラウディアが言う。植物園を訪れた時に、魔物の凶暴化等の仕組みはイグナード王にも説明済みだ。
 しかし、魔力溜まりか。ドラフデニア王国の妖精の森にもいくつかそういったスポットが点在していたが、聞いた印象では妖精の森よりも危険度が高そうというか、全体的に性質が悪そうだ。

 魔力溜まりを独占する主が居座り、その縄張りの周囲に漏れ出してくる魔力のおこぼれに与る魔物が棲みつき……といった感じで、凶暴化した魔物の支配圏は層が厚くなる。

 種類にもよるが、魔物は体内の魔石成分のお陰で環境魔力さえ潤沢であるなら、それだけで活動のための力を得られる。そうして人が足を踏み入れることのできない魔境へと変貌していくわけだ。
 迷宮の中枢にでも行かなければ遭遇しないような強力な高位種や変異体は、大体こういった場所に主として居座っている。個体の数も少なく、通常なら縄張りの外に出てこない、というのが人にとっての救いではあるかな。

「冒険者ギルドの情報では……強力な魔物が出る森の話は聞いたことがあるが、まあ、辺境故に人里までは脅威も及ばぬと聞く。縄張り争いに敗れた弱い魔物は流れてくるそうじゃがな。ドラフデニア王国の北部となるのもあって、エインフェウスでは最も人間の多い地域かも知れぬ」

 アウリアが言うとレギーナが頷く。

「そうですね。獣魔の森までは緩衝地帯と言いますか……距離を置いているので直接的な被害はそこまで多くありません。森から出てきたゴブリンやオーク、アント等も、砦を作って冒険者との連携で対処ができていますから」
「例の人物と、獣魔の森に関係があるなどということは考えられるのでしょうか?」

 と、そこでアシュレイが首を傾げる。

「獣魔の森を修行の場所に選ぶ、というのは考えられるかも知れぬな」

 イグナード王がアシュレイの言葉を首肯する。

「人知れず修行して強くなることのできる場所……というわけですね。獣王候補自身が策謀の黒幕であるなら、力を充分に蓄えても名を広めることをせず、最初から暗躍する方向で動いていたと考えるのが良さそうです」

 ブレンのように名も売れているのかと思ったが……少しこの獣王候補とやらの人物像を見直す必要があるだろうな。今1つ見えてこない部分もあるが、どうにも油断のならない相手という印象だ。



 早めの朝食を済ませて英気を整え――そして東の空が僅かに白み始めた頃。遠くに東の拠点が見えてくる。エインフェウス王国、東部の都市ザインベルグ。
 都市部の作りは中央の森の都に似ているか。魔除けの大樹と潤沢な水源を備え、都市中央に石造りの城が聳えるという作りだ。ただ、レステンベルグの獣王城とは違って蔦や苔を纏っていない。あちらに比べると城は森の中にあってやや浮いている印象がある。

 城に続く大通りや広場も見えるかな。
 街中と森と完全に一体化しているレステンベルグよりも、少し開けた場所が作られている印象があるが……エインフェウス東部はアウリアの話にあった通り、獣魔の森から流れてくる弱い魔物を退治するという事情もあり、冒険者ギルドの活動が比較的活発な場所だ。他国で見るようなドラフデニア王国風の邸宅もあったりと獣人の習俗以外の文化が色濃い部分があるらしい。

 ……となると、猿獣人達と共にいた獣人以外の面々も、エインフェウス東部出身かドラフデニアからの流れ者ということになるか。
 冒険者として馴染めなかったか。金や将来の見返りを条件に雇われた、とするなら納得できるところもあるかな。

「官吏の面々はあの城に?」
「うむ。中央から派遣された官吏は他所の国で言うところの領主としての役割を負っているからな」

 都市部に外壁がない代わりに大樹が魔除けの空間を構築。緊急時には城内に住人を収容するのが基本……と、色々他国とは細かなところで違いが見られる。
 だがまあ、色々な習俗、背景を加味してもこれからするべきことはもう決まっている。

「では、城に直接横付けということで」

 このまま予定通りに朝駆けだ。エインフェウスの要人が国内の拠点の城に訪問するのも滞在するのも、正当であり普通の事でもある。非常識なのは来訪の時間と手段だけだ。
 問答無用で飛行船を城につけて、受け入れ態勢も何もできていないディグロフに調査協力を要請する、という寸法である。

 そこで――タームウィルズから通信機に連絡が入った。コーバックを転移魔法で送ってまだ一晩ではあるが……獣王候補の名前を特定することに成功したという内容であった。
 ヨナガドリの囀りを用い、文字列をある程度区切って順番に質問していき反応を見ていった、ということらしい。
 ああ。それなら確かに名前の特定も可能だろう。コーバックは沈黙することができないわけだしな。

「今連絡があって、獣王候補の名前が分かったと連絡がありました。ベルクフリッツ……という名らしいです。ご存じですか?」
「いや……。知らぬ名だな」
「私も、初めて聞く名前です」
「あたしにも、心当たりはありません」

 イグナード王に尋ねるが首を横に振る。オルディアもレギーナも同様に首を横に振った。
 もっとも、コーバックやディグロフ達に伝えた名前がそもそも偽名であるという可能性も否定できないが。
 名前の語感は……エインフェウスよりもドラフデニアだとか、外国の影響も見られる……かな? それだけで出自を推測するというのも早計だが、東部出身、或いは外国の出自であることも充分考えられる。

 いずれにしても限られた時間の中でデレクが引き出してくれた名だ。出来る限り有効活用したいところではある。
 名前が分かっているという、ただそれだけでも充分な揺さぶりになる。それだけであっても敵からして見れば、こちらがどの程度の情報を掴んでいるのかが分からないからだ。

「分かっている情報から考えても油断ならない相手だと思う。相当手強い可能性や絡め手を持っている可能性もあるから、気合を入れてかかろう」

 と、みんなに警戒度を高めておくように促す。俺の言葉を受けてみんなも真っ直ぐにこちらを見て頷いた。

 俺達は俺達で下船の準備をしながら、迷彩を解いたシリウス号が城へ向かって進む。
 突然現れたシリウス号に、ザインベルグの周辺に配置された樹上の監視小屋の人員が驚いたような顔をしたが、甲板に立つイグナード王が問題ない、とばかりに片手で動きを制する。
 緊急時は笛を吹き鳴らす等して脅威の接近を知らせるらしいが、相手がイグナード王とあっては警告等を発する必要もない。代わりに監視小屋の兵士は王の到着を知らせる旗を振って城や、他の監視小屋に報告を行う。

 前置き無しの、早朝からの訪問に慌てている印象はあるかな。城に横付けし、そこから中庭に下船する。
 集まってきた武官、文官達はやはり寝起きという印象だ。シリウス号から降りてきたイグナード王や俺達を見て、目を白黒させていたが……。そこにイグナード王が言った。

「火急の用故、前もっての訪問の連絡ができなかった。官吏らに大事な話があるのだが、至急集めて貰えるかな」
「はっ! かしこまりました!」

 命令を受けて、慌ただしく文官達が走っていった。訪問の仕方からして普通の用件ではないというのは察しがつくのだろう。
 さて……ディグロフとの対面だ。ベルクフリッツの得体の知れなさから見ても、こちらも気合を入れてかかるとしよう。
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