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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外84 臨時会合

「――フォレスタニア境界公……ヴェルドガル王国の英雄殿が来訪なさるとは驚きです」

 自己紹介が終わったところで氏族長の1人が言った。

「お初にお目にかかります。こうしてイグナード陛下に同行した経緯も、これから説明させて頂ければと思います」

 そう俺が言うと氏族長は静かに頷く。
 イシュトルムとの戦いが終わって月から戻った後……功績や名誉の所在を明らかにするということで、ヴェルドガル王国や、対魔人同盟の各国が正しい情報を周知していた。
 それでイグナード王にも俺に関する色々な情報――例えば魔人を保護する話も含めてのものが届いたわけだ。

 元々、イグナード王と氏族長達のエインフェウス王国の今後の方針として、他国との交流を少しずつ広げていく方向も検討していたそうだ。
 そこに来て魔人殺しの武力、対魔人同盟等の話が聞こえてきたとなると、他国との交流を最小限にしていたエインフェウスとしては、パワーバランス的な危機感を覚えるところがあった。

 そういった流れにオルディアの事情も重なって、使者を出して俺に関する情報を集めている内に少々齟齬があったわけだが……。まあ、そのあたりの事情も今となっては解決している。イグナード王の人となりや事情、エインフェウスの実情が分かった事もあって、メルヴィン王との間では今後の二国間の交流についての話もついている。

 イグナード王からして見れば秘匿しているオルディアの事とは別にして、ヴェルドガル王国を訪問した成果、となるわけだ。

 そうしてイグナード王の口からメルヴィン王や俺との会談が上手くいった旨が報告される。今後ヴェルドガルとは交流を持ち、友好関係を深めていく、と。

「ところが――その状況で思わぬ横槍があってな」
「横槍、ですか」
「オルディア嬢に対する誘拐未遂事件です。犯人一味についてはレギーナ殿と現地で協力して捕縛しております」

 そう言うと氏族長達はやや驚いた様子でこちらを見てくる。……まあ氏族長に黒幕がいたとしても、この程度では動揺したりはしないか。

「横槍という言葉から察してもらえるとは思うがな。犯人一味はエインフェウス出身の獣人達が含まれていた。儂が連れて行った武官にも、内通者がいてな。オルディアを誘拐し、人質に取ることで儂を脅迫し、何かしらの目的を果たせると考えたのだろう」
「誘拐と脅迫、ですか」

 ウラシールや氏族長達が不快げに眉を顰める。
 実行部隊のリーダー役であった猿獣人、内通していた熊獣人の話を聞いて、それぞれの氏族長達は頭痛を抑えるように頭に手をやって忌々しそうな表情を浮かべる。

「卑劣な。氏族の恥晒しめが」

 犯人一味全体を見回せば猿、熊、狼獣人にホークマンの氏族だけでなく、色んな獣人がいた。身体能力に優れる氏族の荒くれ者に声をかけて集めた、という印象だ。
 氏族長との繋がりを示す証拠はない。同じ氏族であるからと責任を問うことはできないが……卑怯、卑劣は唾棄される国風だから、彼らとしても他人事ではないのだろう。

「メルヴィン王はこれからの交流の為にも事件を表沙汰にするつもりはない、との事だ。捕縛された一味については尋問にも協力をしてくれた。従って、ヴェルドガル国内にて既に魔法審問を行っている」
「末端である実行犯に対して審問を行ってはいますが、黒幕ではないようなのでどれだけの事情を知っているのかが分かりません。推測可能な目的としては、獣王継承戦での八百長であるとか、或いは特定氏族への利益誘導。外交や内政の方針に反感を抱いてそれらの中止を求めるというのも考えられます。そういった経緯もあり、イグナード陛下達の護衛と、犯人一味の輸送、そして貴国との交流を兼ねて飛行船を用いた……というわけです」

 オルディアの本当のところを語れない以上はしっかりとした理由が必要だ。表向きの理由とは言え、嘘ではないしな。
 俺達がここにいる理由と経緯を説明したところで……ここからが本番だ。まずは氏族長達と繋がりがあるかどうか、軽く揺さぶりをかけてみよう。

「誘拐の実行犯の他にも、逃走を幇助する部隊がいました。この連中も捕縛して魔法審問を行っています。その結果――ディグロフという東部の官吏が裏で糸を引いている、ということが分かっています」
「ディグロフ……。あの人物は確か――貴公の推薦でしたな?」

 蝙蝠の顔をした氏族長が、白い髭を蓄えた狼の氏族長に尋ねる。ディグロフ自身は犬獣人、という話だ。狼と犬など、近縁種は1つの氏族の括りとして扱われる。

「確かに……。利発な若者故に推挙はしました。あの者がこのような……」

 狼の氏族長は、寧ろ意外といった様子の反応を見せる。

「貴公は、与り知らぬ事、というわけですな?」
「当然ながら。しかし、推挙した責任は私にあるでしょうな」

 痛恨の極みだと、そう言って狼の氏族長はかぶりを振った。

「ホークマンの副官から得た情報では、連中は事が失敗した際に魔法審問で黒幕が明るみに出るのを警戒し、情報を与える対象を選んでいたようです。部隊を指揮するブレンという男も、イグナード陛下との戦いを条件に雇ったという印象でした」
「ブレン……! その者も狼氏族の高名な戦士ではありませんか!」
「無礼な! 私が関わっているとでも言いたいのか!」

 蝙蝠の氏族長が立ち上がって狼の氏族長に言う。狼の氏族長は心外だとばかりに激高して腰を浮かせかけたが、それをイグナード王が手で制する。

「待て待て。氏族長にまで繋がる証拠は今のところ出てきていない。実行犯にどの氏族の者がいた、程度の事で憶測で物を言っても始まらん。故に、まずは迅速にディグロフのところを訪れて事情を尋ね……実行犯を集めるために使われた資金であるとか、逃走のための飛竜と竜籠の出所を探ろうと考えている」
「飛竜に竜籠、ですと? そんなものまで用意していたとは」
「滞在予定より早く戻ってきたのもそのためです。この後……そうですね。魔石等の準備を整えたら夜までには飛行船で東へ出立したいと考えています。犯人一味とディグロフを面通しして、反応を見ながら調査への協力をお願いしようというわけですね」
「飛竜と竜籠を押さえられた意味は大きい。金と物資の出入りを調べれば、遠からず策謀の痕跡は見つかるであろう」

 そうだな。飛竜も竜籠も、そう簡単に用意できるものではない。出所を探ればホークマンの後ろにいる犯人に繋がってくる。
 逃走幇助の部隊はタームウィルズから大分距離を置いていた。猿獣人達の実行部隊はまだしも、ブレン達は黒幕にとっては見つかってはならない部隊だったということも示している。

「では、ディグロフのところに向かう前に護衛として武官達をお連れ下さいませ」
「残念なことに、誰が陰謀に加担しているか分からん。その点タームウィルズに同行した他の武官達は潔白が証明されている。人手が必要というなら、証拠を隠滅させないためにもその者達のみを同行させる。境界公のお力も借りることとしよう。ここで臨時の会議を開いたのは、誘拐事件の顛末と経緯、そしてディグロフに対しての対応を皆に周知した上で動くためでもある。儂の方針と決定に異論がある者は?」

 イグナード王が居並ぶ氏族長達を見回す。異論は――出ない。

「では、解散とする。何か新しい事が分かれば、また集まって話し合い、情報を共有するとしよう。それまではここでの話は他言無用である」

 話が纏まったというか、経緯と方針を伝えたところで散会となる。氏族長達の反応を見てはいたが……怪しいのはやはり、あの蝙蝠の氏族長だろうか?
 ディグロフという名が出てから雄弁になるというのはな。望む方向に誘導しようとしたとか、息のかかった者を調査に紛れ込ませて証拠を隠滅しようとしたとか……。
 そう思ったのは、俺だけでは無かったらしい。ウラシールが小さく何事か呟けば、顕現していない精霊がそれに応じて、蝙蝠の氏族長にぴったりと張り付く。

 片眼鏡を通してそれが見えたが……。他の氏族長達が退出したところでウラシールが話しかけてくる。

「思い過ごしであると良いのですが――」

 と、前置きをしてから蝙蝠の氏族長に精霊を張り付けて監視している事を教えてくれた。

「こちらでも、氏族長に精霊を張り付けても問題はありませんか?」
「勿論でしょう。私も潔白であるとは直ちに身の証を立てられない状況です。監視の目をそちらで用意して頂きたくてこうしたところがあります」

 なるほどな。
 誰かが精霊を動かせば、少なくともこの場にいるエルフであるアウリアとウラシールは気付くわけで。そこで自分がまず精霊を動かして手の内を明かすことで、アウリアが堂々とウラシールの前で精霊を使役できる状況を作った、というわけだ。
 同時に、ウラシールがここにいることでアウリアの目が届くから、精霊を使って裏工作をすることもできないという寸法になる。そうなると、この場に留まって何もしないというのが、ウラシールの潔白を証明する手段ではあるのか。

「感謝するぞ、ウラシール殿」
「礼には及びません」

 アウリアは静かに頷いて監視の精霊を放っていた。これで蝙蝠の氏族長の情報は入ってくるだろう。

「陰謀に加担している者が氏族長の中にいるとして……対応して動くとするなら今すぐに、かも知れませんね」
「証拠が積まれているシリウス号に、何かしらの妨害工作を行おうとする可能性はあるわね」

 グレイスの言葉に、ローズマリーが頷いて言った。

「ディグロフに対して、証拠を隠滅するように連絡を取ろうとするというのも有り得るわ」

 と、ステファニアがそれを受けて言う。ふむ。どちらの可能性もあり得るな。

「妨害工作……。犯人達を輸送してきた、となれば。口を塞ぐために船ごと火を点ける、だとか?」

 シーラが首を傾げる。そうだな。或いは離発着できないように船体を破壊して時間稼ぎだとか。
 先程は魔石の準備をして夜までに出立とか何とか言ったが、あの言葉そのものがこちらの仕掛けた罠だ。本当は今すぐでも出発できる。猶予がある、と見せかけているに過ぎない。

「少しだけ動向を見てみますか? シリウス号は相当な大魔法でもない限り傷1つ付けられませんし……船に置いた戦力も十分なものです。シリウス号に関わらず、ディグロフに警告しようと誰かを遣わそうとしたところで、シリウス号は後からでも簡単に追い抜けます。証拠隠滅の時間を与えることもないでしょう」
「そう、さな。それから動くという形でも問題はあるまい」

 イグナード王が頷く。では、決まりだな。シリウス号に対しての行動を見て動くものがいたら捕縛するという形を取るということで。
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