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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外81 エインフェウスへの旅

 幻術の魔道具をオルディア用に調整し、副官から敵の情報を得る等、エインフェウス訪問にあたり、必要なものも揃ってきた。
 後は……シリウス号にてエインフェウスに向かい、その移動速度を以ってブレン達の帰還と報告を待っているディグロフの不意を突く、というわけだ。

 造船所にて、ゴーレムを使ってシリウス号に荷物を積み込み、エインフェウスに出発する準備を進めつつ、ディグロフと相対した時にどういった対応に出るかなどを話し合う。
 魔法審問による証言を得ているわけだが、それが他国で行われた魔法審問であると考えると、素知らぬ振りで押し通そうとする可能性もある。
 まず、言い逃れしようと、魔法審問そのものの信頼性に疑問を呈してくる場合。

「……確かに、魔法審問の仕組みを熟知していれば、望む方向に誘導する、というのも不可能ではないわね」

 甲板に立ったローズマリーが思案しながら言う。
 そうだな。魔法審問は受ける者の認識を問うことで嘘か真か判別するというものなので、そこには誤認、誤解、錯覚、先入観等が紛れ込む余地がないわけではない。
 だからそこを上手く利用すれば、魔法審問の証言を用いて特定の人物に対して有利、不利にしたりすることが……まあ、出来ないわけではないのだ。
 とは言え、そこはプロフェッショナルのデレクである。錯覚や思い込みではないか、という点も含めてきっちり調べてきている。
 そうなると魔法審問を誤魔化す手段としては幻術や変装等でディグロフに成りすまして依頼を持ちかけるという手が考えられるわけだが……。

「けど、副官はディグロフの知り合いのようですし、実際に結構な金額まで動いているとなると、どこかに証拠は残っているのではないでしょうか?」
「当人から魔法審問を行うか、身辺の調査を行えば……実際のところは明らかになるだろうね」

 アシュレイの言葉に頷いて答える。水面下で動いていたとは言え、これだけ色々策動しておいて、全く何も痕跡を残さないというのは無理な話だろうからな。

「まずは副官達をディグロフに付き付け、動揺を誘う。それで動じないなら魔法審問で証言を得ている事を告げ、身の潔白を証明するために調査に協力してもらう、というところか」

 と、イグナード王。
 ディグロフに相対した時の流れとしてはそうなるだろうか。協力とは言っているが実際に嫌疑があるのだし、相手が他ならない獣王である以上、そう言われて断るのは無理な話だ。

「そこで暴れたりする可能性もある、かしら?」

 首を傾げるイルムヒルト。

「その時はまあ、こっちも実力行使になるかな……」

 短絡的に動くならこっちも制圧するだけの話である。

「ディグロフが潔白だった場合は……どうなるのでしょうか?」

 グレイスが尋ねてくる。確かに、そちらの方が厄介な事態と言えるかな。

「その時はイグナード陛下とディグロフの共通の政敵……或いはディグロフが失脚すると得をする輩がいないかっていう方向で調べていくことになる。魔法審問を想定した上で動けるっていうことは、高い魔法技術を持っている相手ということになるからエインフェウスじゃ目立つだろうし」
「利害関係とそれが可能な技術関係の両面で追いかける、というわけね」
「ディグロフが引き合わせた獣王候補というのも、そんな強者であるならエインフェウスでは目立っていそうよね」

 クラウディアの言葉にステファニアが頷いて言う。
 副官はその人物が顔を隠していたと言ったが、身体的な特徴ならある程度の情報は得ている。爪撃を披露したことも含めて、その人物を捜索するという方向でも犯人を追えるだろう。獣王候補と見込まれる程の実力者。ステファニアの言う通り、獣人達の間で噂にならないはずがない。
 特に、こっちの人物についてはディグロフを捕縛しても一緒にいるとは限らないからな。

「ん。聞き込みや証拠探しだとか、追跡なら力になれる」
「私も頑張る!」

 シーラがそう言うと、セラフィナが拳を空へと突き出す。それを見たマルレーンが、自分も頑張ると言うようにこくこくと頷いて、傍らのエクレールを撫でたりしていた。
 確かにエクレールは逃亡した相手への追跡に関しては相当な力を発揮するだろう。
 そんな彼女達の様子に、オルディアが柔らかい笑みを浮かべていた。

 そうやって話をしながら各種物資や梱包した下手人やらをシリウス号の第一、第二船倉に積み込んでいると、造船所に馬車がやって来て、そこからメルヴィン王とジョサイア王子が降りてきた。

「これは陛下」
「ふむ。出立の準備は順調に進んでおるようだな」

 挨拶するとメルヴィン王達はにこやかに応じる。出立前に見送りに来てくれたのだが、他にも大事なものを渡しに来てくれたのである。

「早速ではあるが必要な用件を済ませてしまおうか。これが余からの書簡となる。魔法審問の正当性に疑義を投げかけられた場合、これを用いるとよい」
「ありがとうございます。大切に扱わせていただきます」

 メルヴィン王から封蝋の押された書簡を受け取る。内容としては……イグナード王からの調査依頼に協力し、誘拐犯一味への魔法審問を行ったという旨が記されている。氏族長や官吏といった者達に対する説明や説得をする際に、大いに力を発揮してくれるだろう。

「私としては先日の演武から考えると、テオドール公に危害を加えられる者などいないのではないかと思ってしまうところもあるのだが……相手は獣人。地の利も向こうにある。充分に気を付けて欲しい」

 と、ジョサイア王子が言った。ジョサイア王子としては……妹達とアルフレッドを心配しているのかも知れない。その言葉に礼を言うと、ジョサイア王子は柔らかく笑う。

「少し話は変わるが、先日の武術交流会のお陰で騎士団の士気も随分高まっていたよ。私でさえ見ていて熱くなる部分があったのだから、本職である彼らとしては相当なものだろうね」
「仕事の合間に良い物を見せてもらったというところだな。そなたの考える催しは毎回楽しませて貰っている故、何かあれば気兼ねせず、また呼んで貰えると余らとしても嬉しいところだ」

 メルヴィン王とジョサイア王子にも楽しんで貰えたわけだ。

「そういうことでしたら。また何か思いついたら連絡します」

 そうこうしている間に積み込みも終わり準備が整った。後は今回同行する面々を点呼し、イグナード王の供の者達にも造船所に来て貰えば、いつでも出発可能という状態だ。
 今回はテスディロスとウィンベルグ、それから幻影の魔道具の調整や修理をできるようにとアルフレッドも同行する予定である。
 封印された状態でも傭兵をしていた彼らは中々腕が立つ。確かな槍や剣、弓の技量の他にも、物資、人員の護衛、索敵や警戒等のノウハウも持っていたりするので、名目上俺達の護衛、ということになる。

 それから――エインフェウスにはエルフ達も住んでいるということで、敵にエルフの精霊使いがいることも想定し、アウリアも同行してくれる予定だ。
 噂をすれば何とやら、造船所にやって来たアウリアが、こちらに向かってにこやかに手を振っていた。

 諸々準備が整ったところでイグナード王の供の者達も造船所にやってくる。竜籠を積み込み、飛竜達に乗り込んでもらう。

「いやはや。このような船に乗れるとは。イグナード陛下と共にヴェルドガル王国を訪問することができて実に役得です」
「温泉も幻影劇も……素晴らしいものでしたからな」
「うむ。第一部も良かったですが、第二部、三部共に、こう……血が滾るような感覚と言いますか」
「あれは素晴らしかった。戦士たるものかくありたいものだ」
「機会があればドラフデニア王国にも行ってみたいですね」

 と、お供の獣人達は相当に上機嫌な様子だ。タームウィルズとフォレスタニアのあちこちを巡って、すっかりに気に入ってくれたという印象がある。
 うむ。土産話としてエインフェウスにも色々広めてもらえると俺達としても有り難い。

 同行者と共にシリウス号に乗り込み……そうしてメルヴィン王達に見送られながら俺達はエインフェウスへと出発するのであった。
いつも拙作をお読み下さり、誠にありがとうございます。

オーバーラップ様より、境界迷宮と異界の魔術師のヒロイン人気投票が開催しております。
詳細は活動報告にて記してありますので、興味のある方はそちらの記事を読んで頂けましたら幸いです。
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