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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外79 獣王の工房見学

 イグナード王達に工房を見学してもらうのと、オルディアが魔人であるという秘密を守る方法を練っておくということで、アルフレッド達のところに顔を出した。
 開発中の魔道具を見せるということで企業秘密だがイグナード王は特別で、という名目を作り、供の者達には今回遠慮してもらっている。オルディアとレギーナは事情を知っているので同行しているが。

 テスディロスとウィンベルグにも来て貰って、早速実験だ。魔人であることを隠さなければならない。とは言うものの、幻影劇場の魔道具の応用と調整で何とかなると見積もっているのだが。

「なるほど。これは面白いな」

 テスディロスは己の手を見ながら呟いた。全身から雷が迸っているが……その姿は変身したそれではなく、人間形態のままだ。
 ウィンベルグも空を飛んでいるが、その姿は人間形態のままだ。とはいえ、魔人は元々飛行術を使えるので、見た目はテスディロス程の変化ではないか。ウィンベルグは一通り空を舞ってから工房の庭に降りてくる。

「きちんと瘴気も隠せているようですな。これは威圧感もなくて便利かも知れません」
「――理屈としては幻影劇場の魔道具と同じですね。幻術を身体の周辺に薄く張ることで、変身した姿は人間形態のままに、立ち昇る瘴気を闘気や魔力に見せかける……という理屈です。幻術の調整範囲外なのでテスディロス特有の雷は見えていますが、相手に幻であることを悟らせない意味でも、雷は見えている状態が良いのかなと。まあ、ここまでやっても相手に影響の出る瘴気侵食から正体を推測されたり、魔力の質そのものを探知できるような相手には誤魔化せないというような部分も出てくるのですが」
「これと同じ物をオルディアに、というわけか」

 理屈を掻い摘んで説明すると、イグナード王は感心するように頷いた。オルディアとレギーナも真剣な表情で調整の様子を見ている。

「そうなります。他者に奪われた際、悪用されないように安全策も講じる必要がありますが……ここも既存の魔道具の応用で問題無く対処できます」

 契約魔法で個々人専用の魔道具とし、契約違反時は他人の利用や解析ができないよう、術式阻害の魔法が働いて機能停止してしまう、というわけだ。

「魔道具を使う側の俺達としては、あからさまに瘴気弾を見せなければ良いわけだな」
「ああ。瘴気の盾はマジックシールドや闘気の防壁に見せかけられるけど、瘴気弾はどうしても幻影の範囲外に飛び出して飛んでいくから……。当たった後の効果も瘴気侵食があるし」
「つまり近接戦闘主体で、というわけか。理解した」

 と言って、テスディロスは頷く。

「テスディロスの幻影に関しては、変身の時に金属の全身鎧を纏うような幻影に変えても良いかも知れないね。テスディロスは変身すると防御力も上がるんだよね?」
「それは確かにな。見た目が違っていたほうが、より誤魔化しやすいかも知れない」

 アルフレッドの幻影改良案にテスディロスは頷いた。そうだな……。できるだけテスディロスの変身後の形を活かしつつ魔人であることを隠すという方向性なら、その方が良いのかも知れない。
 そのあたりは後で幻影の調整を行うとして。オルディアにも専用の幻影魔道具の調整を進めていくとしよう。



「では、始めます」

 少し緊張した面持ちでオルディアが言う。人目に付きにくいよう室内に移動し、そこでオルディアに変身してもらう。幻影の調整をするにしても変身後の姿をきちんと分かっていないといけないからだ。
 呪具の封印を解除すると、オルディアは大きく深呼吸をして目を閉じる。全身から瘴気を立ち昇らせ、覚醒魔人として形態変化した。
 額に宝石が浮き上がり、手足の先がガラスのような質感になって透けていく。透けた部分が淡く色づく。角度によって緑に見えたり紫に見えたり、という具合だ。全身から立ち昇る瘴気も、透ける手足と同様に色が変化している。

「……ええと、こういう感じなのですが」

 変身が完了したところでオルディアが目を開き、やや気恥ずかしそうに言った。間違いなく覚醒魔人であり、力も相当なもののように思えるのに、魔人らしからぬ自信の無さというか何というか。

「女性の覚醒魔人の変身は……何というか優雅な印象のものが多いですね」

 それを見たグレイスが感想を漏らすと、みんなも同意するように頷く。特にレギーナはうんうんと頷いて口を開く。

「あの姿のオルディア姉さんが、燃え盛る火の中を助けに来てくれたんです。あたしは魔人というより精霊様か何かかと思いましたよ」

 と、そんなレギーナの言葉にオルディアはますます身を小さくしている。
 レギーナとしては、オルディアの変身形態にも思い入れがあるのだろう。秘密にしなければいけないだけに、語れる相手もいなかったというところだろうか。イグナード王は静かにそんな2人を見守っている、という印象だな。
 まあ……大きく姿は変化しないというのは分かった。幻影の調整もそれほど難しくは無さそうだ。額と手足、それから立ち昇る瘴気あたりを誤魔化せばとりあえずは大丈夫そうだ。

「一先ずは変身を解いても大丈夫ですよ」

 頃合いを見てそう言うとオルディアは静かに頷いて人間形態に戻る。

「やはり、変身すると落ち着きませんね」

 苦笑するオルディア。当人としては呪具が発動している状態の方が良いようだな。というより、魔人としての感覚が好きではない、ということなのだろう。
 嫌悪しているほどでもないというのは、それを受け入れているイグナード王やレギーナが近くにいるからだろうか。
 グレイスも吸血衝動を苦手にしていたし、このあたりの機微は分からなくもない。呪具を発動させつつ今後の事を伝える。

「魔道具の調整は、出立までに終わらせておきます。調整が終わったら、仕上がりを見るためにまた変身してもらうかも知れませんが」
「分かりました。よろしくお願いします」

 と、オルディアが一礼してくる。幻影の魔道具についてはこれで良いとして。

「さて……。それでは工房見学ということで、魔道具等を見ていきましょうか」
「む。実は楽しみにしておったのだ」

 イグナード王が言う。

「イグナード陛下とレギーナさんも空中戦装備を試してみますか?」
「おお。それも興味があるな」
「あたしもです」

 俺の提案にイグナード王とレギーナが嬉しそうな表情で頷いた。



 案の定というか。イグナード王もレギーナも、説明を受けて少し練習しただけで空中戦装備をあっさりと使いこなしていた。シールドからシールドを蹴って空中を飛び回る。

「魔力を消費するのが少し慣れないですね」
「確かにな。普段使わない力だけに、これを使うなら今の自分の限界を把握しておくのは重要であろう」

 レギーナの言葉にイグナード王が頷く。ふむ。このあたりは慣れてもらうしかないかな。イグナード王は気を付けるべき点を分かっているから、俺からアドバイスする必要も無さそうだが。

 帰ってから黒幕と一悶着あるという事を考えると、2人に空中戦装備を提供しておく、というのは良い案かも知れないな。2人の実力ならすぐに使いこなせるようになるだろうし、鬼に金棒というか何というか。
 まあ、エインフェウスでの普及率や空中戦装備の性質を考えると、獣王継承戦では使用禁止かも知れないが、誘拐未遂事件の黒幕相手ならどこからも文句は出ないだろうしな。

 そうして空中戦装備を2人に試してもらったところで、迷宮商会の商品やら魔道具やらを見せていく。

「おお。あの泡の出る風呂の魔道具も販売しているのか」
「浴槽の下に設置する形になりますね」

 どうやらイグナード王はジャグジー風呂が気に入ったらしいな。

「いやはや。物珍しいものばかりで目移りしてしまうな、これは」
「イグナード様、これはどうでしょうか?」
「おおっ。これは――」

 カードやらビリヤード、炭酸飲料製造機、かき氷機等を見て回って、遊び方を教えたり魔道具を起動させて実演したり。そんな調子でイグナード王達は随分と楽しそうに盛り上がっている様子であった。
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