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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外78 獣人達と幻影と

 通信機に王城からの連絡があったのは、温泉での歓待が終わってからのことであった。
 連絡の内容は、イグナード王がエインフェウスから連れてきた供の者達に関してのことだ。

 あの熊獣人以外に内通者はいないし、ブレン達以外の別動隊もいない、ということだった。一先ずは……ヴェルドガル国内の状況も安全も確保されたというわけだ。
 そうとなればこちらとしても気兼ねなく供の者達を歓待できる状況ではある。エインフェウス内での策謀は気になるところではあるが、これからエインフェウスと交流を続けていくのなら、供の者にもヴェルドガルに良い印象を抱いてもらって損はないはずだ。

 なのでそのへんを含めてイグナード王と話をした結果、彼らも含めて境界劇場や幻影劇場、運動公園等に招待して楽しんで貰っては、ということになった。

 だが、そうなると、オルディアの事情は隠していく方向なので口裏を合わせておく必要が出てくる。
 レギーナ以外の供の者達の認識としては、オルディアはイグナード王の恩人の娘という認識であるらしいが……。

「オルディアさんが別行動をしていた理由についてはどうなっているのでしょうか?」
「オルディアは政治に無関係であるからな。儂がメルヴィン王やそなたと会談をしている間、護衛のレギーナと共にタームウィルズやフォレスタニアの観光の名目で別行動を許可した、ということになっている」
「実際は……オルディアさんと僕を引き合わせることも視野に入れた上での動き、というわけですね」
「そうなる。人払いした上でそなたと話をして……込み入った事情を話せるかどうかと考えていたからな。観光と言いながら2人が宿に留まっていたのも、防犯上の理由もあるし、いざ引き合わせたいとなった時に所在が分からなくなっては困るからではあるが……」

 そこまでは俺達もオルディアの立場については共通認識として持っている。その後のことを、どういう筋書きにするか、口裏合わせておかなければならない。
 熊の獣人はイグナード王の供の者として同行したのだし、その者が捕縛されている状況をどう説明するのか、ということになるわけだ。

 王城とも通信機でやり取りしつつ、カバーストーリーを考える。

「警備が手薄になったところにあの熊獣人がオルディアさんの誘拐を企てた、というところまでは明かしても問題はないと思います。実行犯の連中も、オルディアさんが魔人であることは理解していなかったわけですし。動機については取り調べ中、ということで」
「ふむ。そこは隠せぬからな。供の者達には、連れ出した連中をテオドール公が捕縛し、防犯のためにオルディアとレギーナも行動を共にすることになった、と説明しておこうか。猿獣人はともかく、ブレン達については……まあ現時点では伏せておくか」

 そうだな。エインフェウスに向かう際も前もって梱包したままシリウス号に積み込んでしまえばいいし。

「ヴェルドガル王国としても、エインフェウスとの友好のために大事にしなかった、ということで」

 そうしてメルヴィン王や俺との会談は上手くいって、今度は俺が交流のためにエインフェウスを訪問する予定になった……と、そんなところだろうか。
 というわけで共通認識と口裏合わせをみんなの間で済ませて、王城とも連絡を取る。
 供の者達も幻影劇場に招待して、幻影劇を観賞したりしようというわけだ。

 明日以降は境界劇場や運動公園等に足を運んだり、それから工房を見学したりという方向になるかな。
 それから……滞在中に封印の巫女として魔人と関わりの深いシャルロッテや、アルフレッドを初めとした工房関係者をイグナード王とオルディア達に引き合わせておきたい。フォレスタニアで働いているゲオルグや、ロビン、ルシアン達……それからアウリア達といった知人達も紹介しておきたいところだな。



 イグナード王の供の者達は熊獣人についての事情を説明されると、国の恥であるとか、側近の武官として選ばれた名誉が傷つけられたとか、腹に一物を抱えていた事を見抜けずに申し訳ないとか、憤ったり恐縮したりしていた。
 基本的には供の者達も信用の置ける者を選んでいるわけであるから、彼らの反応ももっともな話であると言える。
 俺も誘拐未遂事件に関わったヴェルドガル側の人物として説明に加わる。レギーナと協力して事態を解決した事。結果として深刻な事態にはならなかった事。ヴェルドガルとしてもこれからの両国間の関係を重視して事態を大きくしたくない、と考えている事等を説明する。

 このあたりは政治的な機微の話とも言えるので、王の側近としての彼らも心得たものだろう。終わった話、内々に処理された話なので殊更に口外して回るということもない、というわけだ。

 レギーナはそれでも自分の失態と挽回周りについての話が美化され過ぎていると若干申し訳なさそうではあるのだが……犯人一味捕縛に結構な活躍をしたのは事実だし、本人はまだ失点に足りていないと思っているようだが、イグナード王もオルディアも、そして俺もレギーナは良くやっているという認識である。このへんは全ての事情を知る者の方便として納得してもらうしかあるまい。

「そなたらが今回の事件について思うところはあると思うが、気持ちを切り替えてもらいたい」
「こうして夜分にフォレスタニアまで来ていただいたのは……そういった事情の説明もありますが、イグナード陛下やエインフェウス王国とは今後とも良好な関係を続けていきたいと考えておりますので、歓待をしたいという部分が大きいのです。どうか、共に幻影劇を見て楽しんでいっていただけたらと思うのですが……いかがでしょうか」

 そう言うと供の者達は顔を見合わせ、そして各々が頷いたのであった。

 といったわけで、一般上映の時間外にイグナード王一行を招いて幻影劇の貸し切り上映である。
 ドラフデニアとエインフェウスは大々的ではないものの貿易もしているし、冒険王の話は有名だ。アンゼルフ王の話はエインフェウスにも伝わっているらしい。ただ、そこまであちらではメジャーな話というわけでもないらしく、幼少期等については知らないという獣人もいた。

 東の国の英雄の話と、上映前に簡単な説明をすると彼らも気持ちを意識的に切り替えようとしているのか、浮かれてまではいないが興味津々といった様子だ。
 英雄譚だとか、獣人達も好きそうだしな。

 そうして――第一部の上映が始まる。正面のスクリーンから幻影が座席側へと広がると、獣人達の間からどよめきが漏れるのであった。



「いやはや……これは何とも素晴らしい……!」

 上映が終わったところでイグナード王が立ち上がって惜しみない拍手を送る。

「面白かったわね、レギーナ」
「本当……。幻影とは思えない程で……」

 オルディアやレギーナ。それに供の者達もイグナード王と同様に立ち上がって拍手を送っていた。

「ドラフデニア王国のアンゼルフ王、ですか。うむむ、これは続きが気になりますな」
「ゴブリンが襲ってきたところのあの臨場感と来たら。あの場にいたら自分も暴れているところなのですが」
「ああ。あのグリフォンに乗っているところも素敵でしたね。アンゼルフ様とグリュークが助かって何よりでした」

 と、作品の内容について語り合ったり、虚空に得物を振るうような仕草を見せている武官達や、アンゼルフ王が助かって良かった等と笑顔で語り合っている女官達。熊獣人の誘拐未遂事件から気持ちを切り替えるきっかけとしては充分なインパクトがあったらしい。獣人達のこういう反応は俺としても中々に嬉しい。

「三部作となっておりますので、明日以降に第二部以降もお見せする事が出来たらと思っております。昼間の上映時間は何分、座席が暫く先まで埋まっておりまして」
「実に面白かった。これは獣王の座を引退したらフォレスタニアに住みたいと考えてしまうな」

 と、イグナード王が言う。冗談めかしているが、割と本気で言っているのだろう。俺と視線が合うとにやりと笑う。ああ。先々の話ではあるが、それは良い案なのかも知れないな。
 イグナード王自身は偉大な獣王としてエインフェウスでの評価は不動のものであるようだし、獣王が代替わりしても両国間の橋渡し役となるならばその意味するところは大きい。
 オルディアも事件解決後はフォレスタニアに来ることになるわけだしな。見ればオルディアも、そんなイグナード王の言葉に、嬉しそうな表情を浮かべるのであった。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

8月25日発売予定の書籍版5巻について、表紙が公開となりました!
詳細については活動報告にて告知しておりますのでそちらを見て頂ければと思います。

こうして5巻を無事に刊行できそうな運びとなりましたのも、
ひとえに皆様の応援のお陰です。改めて御礼申し上げます。
今後もウェブ版共々頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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