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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外77 オルディアの決意

「何とも素晴らしいな、テオドール公の手がけた設備は」

 と、イグナード王はジャグジー風呂に浸かりながら楽しそうにそんなことを言った。

「気に入って頂けたなら何よりです」
「うむ。これは良い物だ」

 上機嫌なイグナード王である。
 その近くでテスディロスやウィンベルグも心地良さそうに湯船に浸かっている。

「疲れが湯に溶けていくようだな……」
「全くです……」

 と、温泉を満喫しているように見える。

「そう言えば、呪具の解放状態から封印状態になると、グレイスも反動があったけど。2人はそのあたり、どうなのかな?」
「どうだろうな。魔人としての力を振るってから封印状態になると、それなりの脱力感や疲労感を感じるのだが……これはこれで悪くないような気がしている。温泉に浸かっているから、余計にそう思うのかも知れないが」
「そうですな。何というか、これぞ生きている実感と言いますか……」

 んん。今日のところは大きな問題ではない、ようだが。
 まあ、魔人として無茶をした後に封印状態にする際、消耗の度合いによっては多少の注意は必要だろうな。消耗が激しいなら回復を待ってから封印状態にするだとか、そういった配慮は必要かも知れない。

 そんな俺とテスディロス達のやり取りを、イグナード王は興味深そうに聞いて小さく頷いていた。

 歓待の晩餐の後、植物園を見て回ったり、こうして温泉に来たりしたわけだが、イグナード王は植物園を相当に気に入っていた様子だ。
 様々な植物の育成環境を魔法、魔道具によって人工的に整える、というのがイグナード王の琴線に触れたようで、色々熱心に質問されたりした。植物の生態だとか、魔道具の仕組み、温室の仕組みといった内容についてだ。

 オルディアの両親が存命だった頃に、様々な蔵書を読ませてもらっていたと言っていたっけ。趣味嗜好が文化的と言うか何というか、武人であると同時に読書家、勉強家であるらしい。
 だからこそ鍛練や戦いの分析、技の研究等々怠らない、という部分はあるかも知れないな。

「話は変わりますが……イグナード陛下に興味がおありでしたら、魔道具を作っている工房の見学等如何でしょうか?」
「ほうほう。それは面白そうだ」

 と、話題を振ってみると湯船から上体を乗り出し、予想以上の食いつきを見せるイグナード王である。んー。滞在中の工房見学は決定だな、これは。



 そんな調子でのんびりと温泉を楽しみ、休憩所に帰ってくると女性陣も戻って来ていた。

「んん……。何だか、何時にも増して良いお湯でした」

 ほのかに湯気を立ち昇らせながらアシュレイが言って、マルレーンがこくこくと笑顔で頷く。

「戦って魔力を使った後だからね。火精温泉はそのあたりも回復してくれるからかな。まあ、今日は循環錬気もいつもより時間を長めにしておこうか」
「はい、テオドール様」

 胸のあたりに手をやって、にっこりと微笑むアシュレイである。その隣でステファニアやローズマリー、イルムヒルトが頬を赤らめていたり小さく咳払いしていたりするが……その、何というか俺としては別に今の言葉に他意は無いというか……うん……まあね。

「本当……。素晴らしいお湯でした」

 と、その微妙な空気感には気付かずオルディアが言った。小さく咳払いしたグレイスが、その言葉に応じるように頷いて口を開く。

「レギーナ様にも好評でしたよ」
「なら良かった」
「ふむ。レギーナは外で泳いでおるわけか。あれもよくよく鍛練が好きでな」

 イグナード王の言葉に遊泳場を見やれば、流水プールで楽しそうに泳いでいるレギーナの姿があった。勿論、流れに逆らう形でである。
 マクスウェルが磁力で水面を滑走し、それに掴まって流れていくコルリスの姿もあったりする。そしてコルリスの背中の上にシーラ。シーラの頭の上にセラフィナ。
 ……まあ、あれはあれで新しい遊び方なのかも知れない。楽しそうで何よりであるとしておこう。

「そう言えば、男湯でテスディロスとも話をしていたのですが、オルディアさんの体調は如何ですか? 能力から封印術の呪具に変えて、何か違和感等はありますか?」

 これから先の事を考えて、ということで、オルディアの力を封じた宝石から、魔人としての力を一旦彼女に戻し、改めて呪具で種族特性を封印したのだ。
 テスディロスはああ言っていたが、オルディアの場合はどうだろうか。力はほとんど使っていないから、疲労感等はない、と思うのだが。

「大丈夫、だと思います。力を分離して宝石にしていた時に比べれば身体が軽く感じるぐらいで……。これは凄いですね」

 なるほど。種族特性の封印とはまた違った理屈というか。
 特殊型故に戦闘能力はあまり高くないというような事を言っていたが、そこはそれ。オルディアの力を封じた宝石が解放される瞬間に感じた力は相当な物だったように思えた。そのあたりは、やはり覚醒魔人ということなのだろう。

 オルディアの能力は……ハルバロニスで行われていた研究に通じるものがあるな。魔人として変化することがないように因子を分離させ、それを収めておけるだけのポテンシャルを持つ別の器に封じる、という研究だったはずだ。
 そうした中で器となる予定だったシオン達が自意識を目覚めさせたので、ハルバロニスの研究は途中で止まってしまった状態ではあるらしいが。
 シルヴァトリアの七家による魔人に対抗する術式、ザディアスの行っていた瘴気を利用するための術式等、魔人に関しては色々各地で研究が行わている。俺としてはそれらの資料を統合し、魔人化解除の研究に繋げていきたいところだ。

「そう言えば、イグナード様と共に、テオドール様達もエインフェウスに同行なさるとお聞きしましたが」

 色々と考えを巡らせていると、オルディアが尋ねてくる。

「そのつもりでいます。まだ黒幕の目的が確定したわけではありませんし、もしオルディアさんの能力を知っていて手出ししてきたのなら、イグナード陛下の動向とは無関係にフォレスタニアに再度手出しをしてくる可能性がありますから」
「それは……確かに」
「とはいえ、オルディアさんが気に病む必要はありませんよ。可能性の話でしかありませんし、これは僕が引き継いだ道であり、成すべきことでもあるので」

 と、オルディアにははっきりと伝えておく。オルディアは静かに頷いて、それから真っ直ぐに俺を見て言った。

「エインフェウスに向かう際に、私も連れて行って欲しいと考えているのですが、駄目でしょうか?」
「それは……簡単には返答できませんね。オルディアさんも、色々お考えになった結果のようですし」

 俺の一存で即答できることではないし、オルディアも考えた上での事のように見える。話を聞いて、その上で相談して決めるというのが筋だろう。

「敵がそなたを狙ってくる可能性は高いぞ」

 イグナード王が言うと、オルディアが答える。

「承知の上です。今まで私は私が魔人であることに目を背けて、イグナード様の厚意に甘えていたように思うのです。私の――いえ、私達の未来のために戦ってくれている人達がいるのに、私だけ安全なところにいて、ただ守られているだけで良いのかなと思って……。私も、これから先の道を歩いていくために、自分が魔人であることと、向き合う時なのかも知れません。ですから私の力が、何かのお役に立てばと」

 ……なるほどな。俺の立場としては保護ではなく共存なのだし、その考えは間違っていないと思う。ただ守られるだけ。大切な人が戦っている時に見ているだけというのは……もどかしいものだ。気持ちは分かる。
 そうなると、封印状態の時には彼女の身を守る事。解放状態の時にはオルディアの正体が伏せられるように気を付けること。
 このあたりをサポートできればいいわけだ。

「しっかりとしたお考えがあってのことならば、僕は反対はしません。何もできずに見ているだけというのは……辛いものですから」
「確かに、な。己が道のために行こうとする者を止めるのは無粋。ならばその道行きの力になるのが儂の役割か」

 そう俺達が言うと、オルディアは嬉しそうな表情を浮かべた。逆に言うと、事態が解決するまでの間、イグナード王やレギーナ、俺達が護衛となるということで、フォレスタニアで留守番という形よりも防御は厚いかも知れない。

「目を背けていた、と言ったけれど。オルディアはレギーナを魔人としての力で一度助けているのでしょう? ならあなたは、きっと大丈夫よ。魔人としての力を使っても、道を誤ったりはしないわ」

 クラウディアが静かに言う。オルディアはその言葉を受けて少しの間感じ入っていたらしかった。レギーナに一瞬視線を向けて、頷く。

「頑張ります。その、囮役もできると思いますし」

 と、気合を入れて拳を握るオルディアである。
 あー……囮役か。確かに、敵の目標になる可能性が高いからできなくもないが。危険な役回りを進んでやらせたいとは思わないな。
 まあ、しっかり護衛をし、正体を隠す方法も含めて、エインフェウスに向かうまでに色々準備しておくとしよう。
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