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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外71 境界公出撃

 とりあえず……梱包した連中の背景を調べるのは王城の関係者に任せるとして、俺達は俺達で動く必要がある。時間をかけると猿獣人の仲間達に作戦の失敗を悟られ、逃走を許してしまうからだ。

 余裕があるなら、そちらも押さえておいた方が良いのは間違いない。イグナード王の敵対者に繋がる者がその中にいれば、それだけ魔法審問もやりやすくなるし、事実関係も明らかになりやすくなる。
 また、供の者の中にまだ内通者がいないとも限らない。審問でそのあたりの確認ができるまでは安心できないところがある。

 というわけで一旦王城に立ち寄り、必要なものを受け取ってからその後で西区の造船所へと向かうことにした。
 恐らく敵は空路で逃げるつもりなのだから、シリウス号に乗り込んで捜索と追撃を行おうというわけである。万全を期すために周辺の地図等を、王城から借りて来ようというわけだ。

「敵の捜索に向かうなら儂も連れて行ってはもらえぬだろうか。他ならぬエインフェウスに関わることであるし、やり口に少々頭に来ているのでな」
「どうかあたしも連れていって下さい。先程の恥辱をそそぎたく存じます」

 王城で準備を進めていると、イグナード王とレギーナが言ってくる。
 まあ……そうだな。オルディア達が人質に取られている状況では当事者であるイグナード王自身が動くわけにはいかなかったし、今度は衆人環視の中での戦いにはならない。当事者が動くというのは道理でもある。
 そうなれば、当然オルディアも同行する形がいいだろうな。

「分かりました。では僕達は捜索班兼、イグナード陛下の護衛という名目で動くことにしましょう」

 イグナード王達も同行する旨を城の女官達に伝えた上で、俺達は馬車に乗って西区の造船所へと出発した。

「あの船です」

 と、シリウス号が見えて来たところで紹介する。

「造船所は見学させてもらったが――あの白い飛行船に自分が乗ることになろうとはな」
「凄い船ですね……」

 イグナード王と違って、オルディアとレギーナはタームウィルズにやって来てもあまり外出できなかったのだろう。シリウス号を見るのはこれが初めてらしい。馬車から降りても、シリウス号やカイトス号を暫くの間、近くから見上げていた。

「シリウス号は最初から戦いを想定した船なので、艦橋にいて頂ければ安全だと思います」
「はい。よろしくお願いします」

 タラップを登って艦橋に到着したところで、机の上に地図を広げる。
 闇雲に捜索しても意味がない。相手の潜伏していそうな場所を絞り込んで探しに行く形だ。

 地図上に光魔法で複数の光の円を作って置いていく。

「この円は?」
「徒歩で移動できる距離と時間を表したものですね。拉致発覚からタームウィルズ外部への捜索に至るまでの時間を、連中がどの程度に見積もっていたのかは分かりませんが、恐らく早い段階で街道を逸れて森に入るのではないかと、思っています」

 地図上の置いた光の円の意味を説明すると、イグナード王は静かに頷いていた。
 エインフェウスに逃げるなら竜籠を待たせておいて空路を選ぶだろう。見通しの良い街道を真っ直ぐ進んでから東進したり、海側に逃げたりはしないはずだ。
 だからまず、そのあたりのエリアは除外できる。円の中の光の色合いを変えて、潜伏の確率の低いエリアは薄暗い色にしていく。
 そう言った説明を交えながら、円の形を歪ませて確率の高い場所を絞り込んでいく。

「街道を北に行けば、砦もあるものね。砦から目に着く距離で、飛竜に乗って北東に逃げたりはしたくないと思うわ」

 と、クラウディア。
 そうだな。砦――古参の騎士であるサイモン卿が守る、街道沿いの砦だ。あのあたりの森は魔物も多く難所である。そういう意味で潜伏先としては向いていないだろう。
 というわけで、砦から監視の目が届きそうなエリアを除外する。円の色合いを変えて、確率の低いエリアと言うことを示す。

「森の中を進んでいれば、目立たないし追跡も難しいから時間稼ぎにはなるわね。徒歩での移動距離を稼ぐこともできるのではないかしら?」
「そうすると……森の中の移動時間を少し長く見積もるかな。奴らからすると、街道は行き交う人に目撃されるから、早めに森に入りたいだろうし――」

 ローズマリーの言葉を受けて円の外周を森側へ広げていく。

「……待機している方の都合、というのはどうなのでしょうか?」
「というと?」

 グレイスに問うと、彼女は小さく頷いて自分の考えを説明してくれた。

「作戦は何日に決行して合流時間は何時だとか、正確なところまで決まっていないなら、何日かその場に待機する必要があるのではと。だから、滞在に適した場所を選びそうな気がします」
「つまり……炊事等がしやすい場所でしょうか」
「ん。つまり水場とか? 川が近くにあるような場所?」
「はい。私なら、と考えた結果ですが」

 と、アシュレイとシーラの言葉を首肯するグレイス。マルレーンが納得したというようにこくこく頷く。

「確かにイグナード陛下の歓待の日程は、敵からしてみると分からなかったでしょうからね」
「それに、竜籠を待たせているなら、飛竜の世話をしたり竜籠の番をしたりも必要よね。ゴブリンみたいな魔物から身を守ったりとか考え出したら、やっぱりそれなりの人数が必要なんじゃないかしら?」

 イルムヒルトとステファニアが言う。
 総合すると……何時までにどうする、と正確な予定は敵には立てようがないと。
 敵の動きを考えれば……森のどこかに潜伏しておいて、そこにオルディア達を連れて行く必要がある。猿獣人がその部隊の位置に案内できたとするなら、イグナード王のヴェルドガル王国訪問の予定が立った後に先行してエインフェウスから出てきたということになる。
 人員も多めに見積もる必要があり……そうなれば水場も近くに欲しくなる。

「そうなると……川か湖か――」

 森の中にそういった場所は――。
 ある。川が流れていて、しかも猿獣人達の行動可能な範囲内だ。

「それじゃあ……まずはこの川沿いを遡って捜索してみるか。それで駄目なら次に可能性が高そうな場所に捜索範囲を移す」
「分かったわ。水晶板の映像は――」
「生命感知の魔法をかけて、後はいつも通りに。高度は高めに飛行して視野を広く取って、反応を見ながら移動していく」
「ん。了解」

 みんなは各々水晶板のモニターを見るためにオペレーターの席に散らばる。

「……いやはや、手際の良い事だ。これは噂以上であるな」

 その光景にイグナード王は愉快そうに笑う。みんなが座席について帯を締めたところで、アルファに視線を送ると、ゆっくりとシリウス号が浮上を始める。

 充分に高度を上げて、緩やかに加速しながら絞り込んだエリアへとシリウス号を進めていく。
 安定飛行に入ったところで、グレイスがお茶を淹れてくれた。

「竜籠で来ているなら、飛竜の生命反応の輝き方はこんな感じになる」

 と、光魔法で色合いを調節して光球を飛ばしてやる。その他、グリフォンやペガサスなど、騎乗できる飛行生物の反応をいくつかサンプルとして艦橋に浮かべる。

「それにしても……儂の動きをあの連中が事前に掴んで、訪問に先んじて動いていたとなると、割と上の立場にいる者がこの一件に絡んでいる可能性があるな」
「敵対派閥の氏族長、というのは考えられますか?」
「ない、とは言えぬな。しかし、獣王を目指す者の卑怯、卑劣は何よりも軽蔑され、唾棄される国風でな。氏族全体の立場を悪くしてまでというのは、些か割に合わぬ気がする。氏族長は関与せず、一部の立場がある者の独断専行ではと……儂としては睨んでいるが」

 なるほど。だが、敵がある程度組織立った動きをしているのは間違いない。猿と熊の獣人達だけでなく、別動隊もきっちり押さえて証拠を固め、言い逃れの出来ない状況を作ってやりたいところだ。
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