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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外67 魔人と世界

 観光を一旦中断し、フォレスタニアの居城に向かって、まずはみんなに話を通してからイグナード王との会談の準備を進める事になった。テスディロスとウィンベルグには連絡を入れた。直に市内の警備巡回から戻ってくるだろう。
 その間に俺からはグレイス達に説明をしておく。テスディロス達には現状について忌憚のない意見を聞かせてもらうために、予備知識なしでイグナード王と話をしてもらった方が良いかなとも思っているが。

「そう……だったのですか」

 イグナード王の語った話を俺から聞いたグレイスは、静かに目を閉じて聞き入っていた。やはり自分の境遇と重なる部分があるのだろう。グレイスの両親に絡んだ事でも、母さんと俺の時の事でもそうだ。

「封印術のような力を持つ魔人……ね。特殊な事例ではあるけれど、それでも私達にとっては大きな意味を持つ話だと思うわ」

 クラウディアがそう言うと、ローズマリーも頷く。

「そうね。魔人に関してはまだまだ問題も多いわ。その中で今までずっと人の中でやって来れたというのは心強い話でもある。……ただ、イグナード王が獣王として現役の間は、少し取扱いに気を付けなければいけない話になってしまうわね」
「その方が魔人であったと周知するわけにはいかない、ということですか」
「明かせないからイグナード王も慎重になっていたのだものね」

 アシュレイとステファニアの言葉はもっともだ。テスディロス達は今に至った経緯が分かっているが、イグナード王は今日に至るまで隠してきたわけだから。それが悪事ではないにしても、勘ぐる輩、悪意を以って解釈する輩というのはでてくるものだ。情報が公開されるとイグナード王の立場を悪くしてしまう可能性はある。

「そう考えると、慎重だったのは納得だな」
「ん。でも、そういう理由なら私達も協力できる。獣王が悪い人じゃなさそうで、良かった」

 シーラが言うと、マルレーンも真剣な表情でこくこくと首を縦に振った。

「そうだな。俺としても、魔人絡みでこういう事情なら協力したいと思ってるよ。心情的にも、立場的にも」
「私としても、他人事とは思えません」
「そうね。私も頑張るわ!」

 と、俺を真っ直ぐ見てくるグレイスと、肩に乗せたセラフィナと一緒に拳を握るイルムヒルトである。そうだな。ここからの俺達の方針としては、イグナード王への協力ということで決まっている。お互い顔を見合わせて頷き合う。

 そうこうしている内にテスディロス達も戻ってきたようだ。セシリアが呼びに来てくれたので、まずは2人のところへ行く。


「仕事も途中だっただろうに、戻って来てもらって悪いね」
「いや。構わない。何か問題でも起こったのだろうか?」

 顔を合わせて言葉を交わすと、テスディロスが尋ねてくる。そうだな。仕事中に切り上げて呼び出すとか今まで無かったし。

「いや、そういうわけじゃないんだ。イグナード王が少し、2人に話を聞きたいっていうからね」
「エインフェウスの獣王が、私達にですか」
「そう。察してもらえると思うけど、魔人絡みの話になる。詳しいことは、俺から話すよりもイグナード王から直接聞いて、その上で2人の思うところを伝えて欲しい」

 迷宮の秘密や原初の精霊の事等は伏せているが、そこだけ気を付けて貰えれば大丈夫だろう。

「承知した」

 そのあたりのことを伝えるとテスディロスとウィンベルグは迷いなく頷いた。
 というわけで、みんなで連れ立って応接室へ向かう。

「お待たせしました、陛下。2人をお連れしました」
「すまぬな、テオドール公。儂の名は、イグナード。エインフェウスの獣王だ」
「テスディロスという」
「ウィンベルグと申します」

 と、互いに自己紹介を済ませ、お茶を入れて席に着く。

「話を聞きたいとは言ったが、込み入った事情をとなれば、まずは自分の手の内を晒してからが道理であろう。まず儂の話を聞いた上で色々と話を聞かせて貰えると助かるのだが」

 イグナード王の言葉に、2人の魔人が頷く。そうして、イグナード王の話が始まった。



「――なるほど、な」

 イグナード王の話が終わると、テスディロスは閉じていた目を開き、静かに言った。

「ヴァルロス殿と出会う前の事を振り返るのなら、俺達は戦場を渡り歩き、領主同士の小競り合いに参加して少々の負の感情と金を受け取るという日々だった。多分、ほとんどの魔人は各々の方法で飢えを癒し、力を蓄えながら上の段階に至るのを望むのだろう」

 その中で力を振るうことや殺戮に酔う者もいる、のだとか。魔人が魔人であるが故に、負の感情を食らうことそのものに喜びを見出していく、ということか。

「俺は覚醒に至れたが……だからと言ってその者達のように、酔いに没入することはできなかった。覚醒してもそれまでの日々と何かが変わるわけでは無かったが……そうやって出口の見えない鬱屈した日々の中で、ヴァルロス殿に出会ったのだ」

 今もなお、テスディロスとウィンベルグにとってはヴァルロスは尊敬の対象ではあるのだろう。

「あの方の圧倒的な力を見て、そして魔人の国の話を聞いた時は……そう。何かが変わると思いました。そうして私達はヴァルロス様の下に身を寄せたのです」
「だが、我等は敗れた。力が及ばなかった事については納得しているし不満はない。勝敗よりも――ヴァルロス殿が未来に託した遺志を守りたいと思ったのだ。あの方は変革を望んでいたが、殺戮も破壊も目的としてはいなかった。だからイシュトルムを止め、地上に安寧を取り戻すための力を残し、敗者たる我等には違う方法で生き永らえ、共存の道を模索することを望まれた」
「その結果が今の我等の立場ということになります」

 封印術を用いて魔人としての性質を押さえて、人として生きていると。そうイグナード王に伝える。

「封印術……か」

 イグナード王は目を閉じる。

「余人が俺達をどう見るかは知ったことではない。だが俺はこのことについて、テオドール殿に感謝をしている。魔人である時とそうでない時を比べれば分かる。世界の美しさを――知ることができた。魔人であった頃の、無味乾燥な殺伐とした世界に自ら戻りたいとは思わない。ヴァルロス殿もこれを知っていたから、魔人の現状を憂い我等を導こうと思ったのかも知れないと、最近ではそんなことも考えるようになった。今となっては……本当のところは分からないが、な」

 ……ああ。それは、そうかもな。
 ヴァルロスは自ら魔人になったから。ベリスティオも、そしてガルディニスやザラディ、アルヴェリンデ、イシュトルムも。魔人である時とそうでない時の見え方や感じ方、2つの世界を知っていたわけだ。
 世界の美しさを知ることができた、というのは……生まれつき魔人であったテスディロスだからこその感想なので、ヴァルロスらの受け取り方とは少し違うのかも知れないが……。

 魔人に転じた最古参の者達は、生まれつき魔人である第二世代以降の魔人とは、少し人との関わり方が違っていたような気がする。それぞれで、出した答えは違うとしてもだ。
 大きな力が伴っているから、自身の望む通りに振る舞えるのが高位魔人でもあるわけだし。

 しかしまあ……テスディロスの話を念頭に置いた上で考えてみると、イグナード王の恩人である魔人の夫婦もそうだったのかも知れない。
 子供の能力によって魔人としての性質を抑えたことで、それまでとは世界の感じ方が違って見えた。だから、それまでの仲間達から逃げ出して、親子で暮らすことを選んだ。

 イグナード王もそれに思い至ったのか、天を仰ぐようにして嘆息する。

「我が友も……そう思っていたのかも知れぬな。世界の美しさ……か。そういうこと、であったか……」
「無論、我等もその人物には興味がある。協力は惜しまないつもりだ」
「それは……感謝する。話を聞きに来て、本当に良かった」

 イグナード王に握手を求められる。俺やテスディロス、ウィンベルグが応じると、初めてイグナード王は目を細め、柔らかい笑みを見せたのであった。

 後は……当人と話をする必要があるかな。供の者とともに、タームウィルズを訪れているという話だ。それから……猿獣人に関してもイグナード王に何か心当たりがないか、聞いてみた方がいいのかも知れないな。
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