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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外64 隠された意思は

 人相書きを魔法で複製したり、シグリッタに手書きで増やしてもらったりして、警戒が必要な相手ということで各所に通達。その上で対策のための話し合いもしておく。
 とはいえ、連中は「怪しいかも知れない」というだけで、現時点では特に何もしていない。だからこちらも現時点では何もしない。所在を掴みつつ泳がせておいて、動きを見せたら対応する形だ。

 これには実際の動きを見ることで、敵の狙いを推測することができるというメリットがある。
 イグナード王と繋がりはあるのか。それとも別口なのか。無関係であるならそれはそれで構わない。

「――では、兵士達には伝えない、ということで良いのですかな?」

 ゲオルグが尋ねてくる。

「そうですね。獣人の感覚の鋭さを考えると、兵士が監視するというのは向こうにも警戒感を与えてしまいますから。いっそのこと不自然にならないよう知らせないというのも1つの方法です」

 そして何か事を起こしたらあの似顔絵をそのまま手配書として流用。迅速に対応するというわけだ。

「他の者に協力を仰いだり、感覚の鋭さが役に立たない方法を使うというわけね」

 ローズマリーが羽扇の向こうで薄く笑う。

「そうなる。既に盗賊ギルドが動いてるけど、これはギルドの構成員から胡乱な目を向けられる程度なら、自分達が新参の余所者だからっていう別な理由が先に立つし」

 イザベラは似顔絵を元に人員を変えつつ連中の動向を追ったりしているので、監視されているとは連中も気付けない。
 そして俺達の打つ手としては――。

「そこで儂の出番というわけじゃな」

 と、アウリアがにかっと笑みを見せる。
 顕現していない精霊達の監視の目なら、いくら感覚が鋭くても察知できないので、安全性が高い策となるわけだ。
 或いは――シーカーやハイダーによる監視網。これらは既に配置されている状態だから、迂闊に動かさなければ感覚による察知もしようがない。
 そういった方法で猿獣人への対策を講じつつ、イグナード王の来訪に備えるという寸法だ。

「そう言えば、アウリア様はエインフェウスについては何かご存じなのですか?」
「ふうむ。大森林のエルフ達か。儂は出自が違うし、そもそもヴェルドガル王国を活動拠点としてからの方が長いからのう……」

 アシュレイに尋ねられて、アウリアは首を捻りながら腕組みをした。

「じゃが、冒険者ギルドの幹部としては少し違ってくるかの。エインフェウスは他所に目を向けんから冒険者ギルドの規模も小さいものなのじゃが、それでも情報も多少は入ってくる。イグナード王は歴代の獣王の中でも相当な武勇らしいぞ」
「歴代で最強とか、そういう話ですか」
「うむ。獣王は選出されるその基準故に代替わりが早くもあるのだが、若い頃のイグナード王が獣王となって以来、今日に至るまで……氏族の代表として勝ち進んできた若い獣人の戦士を退け続けているのだとか」
「……でしょうね。護衛の武官と比べても圧倒的な印象がありましたから」

 これも一般的な話になってしまうが、獣王と氏族長達の合議によってエインフェウスの実際の統治がなされているそうだ。
 一度獣王となれば一定期間はその者が獣王を続ける。いつでも自由に挑めるとなっては落ち着いた統治もできないし……それはまあ、当然だろう。
 その代わり定期的に次の獣王候補の選出が行われ、候補の中から最も優れた力を示した者が獣王に挑み、そして獣王に勝てば新しい獣王となる、という決まりなのだとか。
 獣王が老いて力のピークを過ぎれば……戦わずして代表者に獣王の席を譲る、ということもありそうだな。

 対策は練った。ここからは……予定通りにイグナード王の歓待をこなすとしよう。



「――ふむ。無理を言って済まぬな」

 王城セオレムに滞在中のイグナード王をフォレスタニアに案内するということで迎えに行った。
 迎賓館前で顔を合わせ、自己紹介を済ませたところでイグナード王がそんなことを言った。

「いえ。興味を持っていただけるのは有り難いお話です。以前、僕の結婚に関して祝福の言葉も頂いておりますから。その節は、ありがとうございます」
「いや――。それについては礼を言われるようなことではないな。儂がそなたに興味を持っていたから、こうして訪問し、話をする機会を得たかったのだ」

 俺の言葉に目を閉じる。他に目的があったというのを、あっさりとイグナード王は認めた。
 その理由を興味と言っているが……俺に何か思うところがあるか、或いは用があるからこそというのは間違いないだろう。本当に単純な興味であるなら、ここまで手間をかける必要がない。

 イグナード王はタームウィルズの観光をしてから、街の見学であるとか、造船所や火精温泉を見に行って、それらを作った俺と話をしてみたいと打診してきたそうだ。理由は……俺の噂話を耳にしたり、実際作ったものを目にして興味が湧いたから、だとか。

 公爵クラスの重鎮と、今まで国交があまり無かった国の王が面会するとなれば、誤解を招かないよう主君に許可を得てからが良いだろうとイグナード王がメルヴィン王に直接頼んだ形だ。
 こちらとしては目的を見定める必要があるので、話に乗るのは吝かでは無かった。最初から想定の内だ。

 しかしまあ、確かに。俺はあちこちの国王や貴族とも割と気軽に付き合っているけれど、ヘッドハントや内通等を危惧するなら、そういった付き合いに良い顔をしない主君もいるだろう。
 そのあたりを割と自由にしてくれるのはメルヴィン王の度量ではある。特にイグナード王は俺やメルヴィン王の事情を知らないわけだし。力を持つ者が王となるエインフェウスだからこそ、そういう点は気になるのだろう。

「……良き主君であるな、メルヴィン王は。そなたについては、臣という器では収まり切らぬ程の傑物ではあるが、他ならぬそなたがヴェルドガル王国の臣であることを選んでくれたのだから、それを疑うようなことはしないと……そう言っていた。王たるもの、かくありたいものだ」
「そう……ですね。僕の今があるのもメルヴィン陛下の御心遣いがあったからこそだと思います。あの方には、感謝をしています」

 イグナード王の言葉に、そう答える。イグナード王との会話の中に織り交ぜた駆け引きではなく、メルヴィン王に関することについては本音の部分で話をしているところがある。
 メルヴィン王は、俺がタームウィルズに出てきてからずっと……いや、その前から気にかけていてくれたからな。
 母さんに感謝をしてくれていた人で、そしてその子供である俺の事も、気にしてくれていた。
 他に色々と事情があるにしてもヴェルドガルの臣であることを選んだというなら、それはメルヴィン王だったからこそ、という部分が大きい。
 数瞬の間だけ目を閉じ、そして目を開けた時には気持ちを切り替える。何はともあれ、イグナード王を案内する役をしっかりとこなさなければならない。

「では、そろそろ参りましょうか」
「うむ」

 イグナード王は頷き、そして馬車に乗り込んで移動を開始する。供の者は引き連れていない。御者と俺、そしてイグナード王だけだ。
 このことからも、イグナード王の目的が観光等ではないことが分かる。護衛を連れていないのは、やはり人払いだと思うのだ。
 イグナード王の言動や俺に会いにきた理由として語られた部分は、今のところ一貫している。だが同時に、肝心な部分を隠しているようにも感じられるのだ。それは何ゆえか。そこにあるのは悪意か、それとも――。

「しかし、驚いたものだな。その若さにして、儂から見ても隙が見当たらぬ程の武を修めているとは。テオドール公は魔術師と聞いていたが……いや、だからこその魔人殺しではあるのかな」
「恐れ入ります」

 イグナード王の言葉に苦笑して一礼する。イグナード王はそんなことを言いながらも終始、自然体で泰然自若としているが。
 やはり表情から感情や考えが読み取りにくいな。シーラのように耳や尻尾に反応が出るわけでもないようだし。

 やがて馬車は月神殿前の広場に到着する。馬車を降りて、月神殿内部から螺旋階段を降りて、迷宮入口にある石碑の前までたどり着く。

「では参りましょうか」
「うむ。噂に聞くフォレスタニアか。楽しみだ」

 気負ったところのないイグナード王。石碑に触れて、光に包まれると――そこはフォレスタニアの入口となる塔の上であった。空と湖の青。フォレスタニアの街と、俺の住む城が視界に飛び込んでくる。

「ほう。これは……」

 フォレスタニアを目の当たりにしたイグナード王の表情に、僅かな驚きの色が読み取れた。さて。猿獣人の動向等、他にも気になることはあるが、ここはしっかりと領内を案内していくとしよう。
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