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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外63 水面下にて

「お初にお目にかかる、イグナード王。余はヴェルドガルの王、メルヴィンと申す」
「これはメルヴィン王。儂はエインフェウスを預かる王、イグナードという」


 と、2人は丁寧に自己紹介をする。
 獣王国エインフェウス。北東に広がる大森林の中に獣人の都がある、という話だが……。

「イグナード王の訪問を歓迎し、これからの貴国との友好を深める意味を込めて、歓待の席を設けた。長旅の疲れをゆっくりと癒していって欲しい」
「これは気遣い痛み入る。これまでエインフェウスはあまり外に出てこなかったが、貴国とは長い友好関係を築いていきたいと考えている。此度の訪問が両国の歴史にとっての新たな第一歩となるよう努めていきたいものだ」

 イグナード王は気負ったところもなく自然体。作法等も洗練されている印象だ。
 何というか、前の獣王国からのこちらへの干渉の仕方は拙速に感じられたのだが、今イグナード王から受ける重厚な印象と重ならない……ような気がする。
 何か焦るような事情があったか、それとも配下の動きがイグナード王の意にそぐわないものだったか……?
 いや……印象などという不確かなもので判断するのは止めておこう。

 ともかく騎士団と魔術師隊のセレモニーの始まりだ。
 イグナード王は通された塔のバルコニー席に座り、メルヴィン王と共にセレモニーと料理を楽しんでいる様子だ。イグナード王の供の者達は迎賓館のテラス席である。
 騎士達が飛竜と共に空中でシールドを蹴って動きを見せると、イグナード王は椅子から少し上体を前に出して顎に手をやり……と、興味深そうにしていた。表情からは感情を読み取りにくいところがあるから雰囲気的なものではあるが……。

 武術の心得がある者として、という部分もあるだろうが……楽しむだけの余裕があるということだ。腹に一物あってこの状況で平常心を保っているというのなら、相手どった場合は中々厄介な手合いに思えるが……。さて。



「――やはり、テオドールに興味があるようではあるな」

 セレモニーが終わり、イグナード王一行は今日は王城セオレムに宿泊するということになった。本格的な観光は、竜籠による長旅の疲れを癒してから、ということになるらしい。

 俺達は王の塔のサロンでメルヴィン王と先程のイグナード王についての話し合いである。
 今のところイグナード王の言動、態度等に不審な点は見当たらないが。

「目的は、やはり僕ですか」
「うむ。それとなくテオドールの話題を振ると、不自然とは言えぬ程度には色々聞かれたな。まあ、そなたの功績を考えればそれをして不思議ということもできぬのだが。エインフェウスにも、そなたの話は伝わっておるらしいぞ」
「順序としてはそうなるわけですか」

 うん……。俺としては若干反応に困るところだ。まあ、エインフェウスにも話が届いたからイグナード王も使者を派遣してきたりと興味を示したんだろうが。

「フォレスタニアにも足を運んでみたい、と言っていたな」
「友好を目的としての訪問である以上、断る理由もありませんからね」

 当然それは織り込み済みで、俺も領主として歓待の準備を進めていたりする。今日のところは接触はなかったから、何かあるならその時が本命だろうとは思っているが……。
 まあ、だからと言ってその前後に何かないとも限らない。獣王自身は相当な猛者のようだし、理知的な印象も受けたが。それだけにやはり警戒は必要だろうと思う。



 そうして王城にて、メルヴィン王からイグナード王の様子等を聞いたり話し合いを終えたところで――タームウィルズの東区にある俺の家に来客があったと通信機に連絡が入った。

「これは境界公」
「元気そうで何よりです、イザベラさん」

 来客は盗賊ギルドの幹部イザベラだ。応接室に入るとイザベラは立ち上がり、丁寧に一礼してきた。 机を挟んで向かい合って座り、お茶を飲みながら話をする。

「幻影劇場、拝見させて貰いましたよ。何と言いますか。今までに見たことのないもので、実に素晴らしかったです。入場券、ありがとうございました」
「本当は正式に招待したかったのですが……」
「ふふ、お気持ちだけは有り難く受け取っておきましょう。代わりにドロシーは落成式に招待してくれたではありませんか」

 そう言って、イザベラは楽しそうに肩を震わせる。
 盗賊ギルドと俺との間では一線を引いておくべき、というのが互いの共通認識なので、落成式という公の場でイザベラを招待というわけにはいかなかったが……代わりにシーラを通して幻影劇場の入場券を送ったのだ。

 まあ俺の家に客として訪問してくる分には公の場というわけではないし、入場券だって俺が送らずとも手に入れることはできるからな。
 だが、イザベラは単純にお礼を言いに来た、というわけではあるまい。
 イグナード王関連の話で協力を頼んでいた以上、このタイミングで訪問して来たということは本題はそちらである可能性が高い。

 その推測はどうやら間違っていないらしく、イザベラはふと表情を真剣なものにすると言った。

「実はですね。イグナード王と関係があるかどうかは分かりませんが、西区に不審な余所者がうろついていたという情報がありまして」
「不審、ですか」
「同業者なら、真っ先に私らの所に挨拶に来ますからねえ。そうしないということは、私らの流儀を知らない連中ということです。まあ、そこまでは別に良いのですが……。連中の雰囲気が堅気ではないということと、それを束ねている猿の獣人が1人。イグナード王の訪問に先立つように、北門よりタームウィルズを訪れてきた、と……。そこまでは調べがついています。まあ、連中に目をつけたのは私達の勘ではありますが……」

 ……猿獣人をリーダーとする一団か。タームウィルズには獣人もそれなりにいるが、盗賊ギルドから見て怪しいと思ったのなら、こちらも警戒対象としてしておくのが正解だろう。

「で――これが連中の似顔絵になります。境界公の裁量でお役立て下さい」

 と、紙束をテーブルの上に置くイザベラ。
 ああ。人から話を聞いて似顔絵を描ける人材が、盗賊ギルドにいるという話だったか。

「では……ありがたく拝見させていただきます」

 というわけで似顔絵を見せてもらう。リーダーと目されるのは……獣寄りの姿をした獣人で、似顔絵を見る限りではヒヒを厳つくしたような顔立ちだ。それから……。

「他の連中は獣人ではないようですね」
「まあ、連中が獣王国に絡んで動いているとするなら、全員を獣人で固めて行動してはあからさまで、逆に目立ってしまうでしょうからねえ」

 そう、だな。それは確かに。だからこそ逆に怪しいと盗賊ギルドが踏んだのかも知れない。
 問題は……連中が獣王国に関係があった場合、何の目的で動いているのかという点だ。イグナード王の意向なのか、それともエインフェウス国内の事情に絡んだ、別の思惑が動いているのか。
 いずれにしてもエインフェウス国内の情報が不足していて、現時点では推測の立てようがない。俺としても確かに怪しい一団だとは思うが、現時点で何かの確信があるわけでもない。

 連中がフォレスタニアに向かうなら冒険者ギルドに案内の依頼をすることになるはずだ。
 冒険者ギルドに似顔絵を見せて話を通しておけば、それだけで動向が掴めるとは思う。後はカドケウスを送り込むかどうかというところだが……獣人は感覚が鋭いからな。
 シーラも初めて会った頃にカドケウスの気配を違和感として察知していたことがあったし、慎重に立ち回りたいところではある。察知できない方法で動向を掴めるなら、リスクは冒さなくても良いのかも知れない。

「では、渡すものも渡しましたし、これでお暇させていただきます。御武運を、テオドール公」
「ありがとうございます」

 立ち上がって辞去するイザベラに一礼する。

「ん。イザベラ。帰り道気を付けて」
「そうさね。シーラも気を付けるんだよ」

 応接室を出たところで、イザベラとシーラが気さくな感じの挨拶を交わしていた。シーラにとってはギルドの上役でもあり、恩人でもあるからな。
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