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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外62 獣王来訪

 王城でのメルヴィン王との面談を終えて……工房に移動してからみんなと話し合う時間を作った。
 獣王の国については情勢がよく分かっていない。だからと言って何も想定しないというわけにもいくまい。情報を皆で共有し、考えられる可能性を検証しておくぐらいは、やっておいて損はないはずだ。

「父さんと母さんは、獣王国の出身じゃないから……私はあの国についてはよく分からない」

 と、シーラが申し訳なさそうに首を横に振った。

「シーラが気にする必要はないよ。獣人って言っても氏族は沢山あるわけだし、獣王国内外それぞれの立場で意見も違うだろうから」
「ん。でも何か気付いたり思い浮かんだら、話す」

 俺の答えに、シーラは真っ直ぐ俺を見て静かに頷いた。いや、本当に獣人というだけで責任を感じたりする必要はないと思うのだが。シーラも律儀というか何というか。
 さて。BFOでの知識は……今回はあまり頼りにできないな。
 BFOの獣王と今の獣王は代替わりしているのだ。
 BFO……つまり並行世界の未来での獣王は、正式な手続きを経て王位を継承したという話なのだが、その内情までは分からない。あまり外とは交流しないという獣王国の性格も相まって、情報が出てこないのだ。

 一般的な情報として言えるのは……グランティオスと同じで、王位継承が世襲制ではない、ということだ。沢山の獣人の氏族の中から、最も優れた力を持つ者が王となる。

 だから当然というか、獣王の国では「分かりやすい力」である武術が推奨されるというわけだ。身体能力に優れる獣人族が切磋琢磨するという状況は、外からの干渉を跳ね除けるだけの国力を蓄えることにも繋がっているわけだ。
 近隣国と利害が衝突しなければどうでもいいというような態度は、そういった武力的な背景と獣人達の気風というか性格を反映したものだと言えよう。

 一方で獣人達は魔法行使を不得手としている。そこをエルフが補っている形だが、これまたエルフ達も割と閉鎖的な性格で……。
 大森林で暮らす者同士、獣王との方針や利害が一致しているので、獣人の氏族達とエルフ達の関係は良好という話である。

 このあたりが獣王国を語る上での基本的なラインだろうか。それらの情報をみんなに説明した上で、話し合いを進めていく。
 外から危害を加えられなければ我関せずという獣王国の国風は、俺としても共感できるところが多い。だから、できるなら向こうにも俺のスタンスを理解してもらいたいところではあるのだが……。

「獣王が何を企んでいるのかは分からないけど……警戒は必要かなって思ってる」
「最初に使者が探りを入れてきた後のわたくし達の反応で、取り入ったり利用したりされるのは嫌がっているというのは理解したでしょうにね。そこでまた接触してこようとする理由がよく分からないわね」

 ローズマリーは羽扇の向こうで思案しながらそう言った。その言葉を受けてステファニアが頷く。

「同時に、獣人族には悪い印象を持っていない、危害を加えるつもりはないというのを、こちらとしても示したわけよね。獣王国から接触してきたのは、テオドールの武勇が脅威に映ったからではないかというのを、父上は最初に考えたようだけれど……」

 そうだな。だがそれでも獣王が接触を図るというのなら、その想定は少し違っていたのかも知れない。

「警戒心を抱かせてしまったのを理解した上で、それでも接触してくるという事ですよね。理由はわかりませんが、何か強い動機がある、ということでしょうか?」
「強い動機……。テオドール様にしかできないことを頼みたい、とか……?」

 グレイスの言葉に、アシュレイが首を傾げる。

「テオドールにしかできないことというのは……流石に幅が広すぎて絞り切れないわね」

 クラウディアが目を閉じて少し苦笑して言うと、マルレーンも少し困ったような笑みで頷いていた。

「獣王の国は魔法に疎いから何か魔道具を作って欲しいとか魔法建築を依頼したい、なんてのでも充分に有り得るわね」
「後は何か……凶悪な魔物の討伐を手伝って欲しいとかかしら……? 他には……人脈とか?」
「もしかすると、テオドールと戦ってみたいとか」

 ステファニアとイルムヒルト、シーラが可能性として考えられるものを指折り列挙する。
 流石に戦ってみたいはちょっとな……。獣王国だから無いとは言い切れないという気もするが。
 如何せん接触した後、何を求めているのかが情報不足過ぎる。どれ1つとっても可能性としてないとは言い切れないのが困り所だ。色々やらかしてきた自覚は、一応あるし……。
 現時点では想定の幅が広すぎて絞り込めない、か。だが――。

「何かの強い動機があって接触しようとしていると仮定しても……重要なのは、こっちに悪意があるかないかだけかも知れないな」
「ん。獣王がタームウィルズに来た時、何か行動を起こすかもしれない。イザベラにも監視をしてもらったりとか、協力を仰いでみる」

 シーラが言った。まあ、そうだな。地の利は完全にこちらにあるわけだし、何か企んでいても対処はしやすい。

 切羽詰まった事情があって、それで依頼したい事があるというのなら話は聞ける。それは真っ当な交渉だからだ。
 しかし下らない理由、身勝手な理屈でこちらを利用したり、周りの誰かに危害を加えようとしているのなら……その時は遠慮なく叩き潰して退ける。それだけの話だ。

 獣王の国はエルフも絡んで来るからな。精霊絡みの可能性も無いとは言えない。ティエーラや精霊王、テフラやフローリア達にも話を通して警戒だけはしておいてもらうということでいいだろう。



 獣王のヴェルドガル訪問は――それから少ししてからの事であった。
 供の者を引き連れ、大型の竜籠複数でタームウィルズを訪問して来るとのことで。
 友好を目的としての訪問ということで、まずは王城セオレムにて歓待が行われる。

 俺に対して何か思うところがあるというのは分かっている。なのでタームウィルズにいる貴族の1人として歓待の席に出席して様子見をし、相手の出方を伺う形だ。
 まあ……今のヴェルドガルの状況でフォレスタニアに触れないというのも不自然だし、彼らのフォレスタニア訪問までは想定内ではある。
 冒険者ギルド、盗賊ギルドにも話を通して、協力をしてもらっているが。さて。獣王はどう出るか。

 迎賓館のテラス席に陣取り、みんなと共に歓待のセレモニーを見るために待機していると……複数台の馬車が練兵場前の広場にやってきて、そこから獣王一行が降りてきた。

 獣王の供の者達は……中々バリエーションに富んでいる。有翼種であるホークマンの武官もいれば、犬の特徴を持った女官もいるようだ。獣人と一口に言っても、その姿形は本当に氏族によって様々なのである。
 シーラは猫獣人であり……耳と尻尾がその特徴だが、もっと動物的な見た目をしている者もいる。
 丁度、変身したワーウルフであるとか、迷宮奥――エンデウィルズのクラウディアの居城を守るビーストナイトに近い姿と言えば良いのか。もしかすると……ビーストナイト達も魔物という括りでは無く、獣人に分類されるのかも知れない。

 のっそりとした仕草で……一際身形が良く、体躯も他の獣人より一回りも大きな獣人が、馬車から降りてくる。
 ――ああ。見るのは初めてだが、説明されなくても誰が獣王か分かってしまう程だ。
 単純な体躯や筋肉の量だけでなく、立ち居振る舞いが武術を修めたそれだ。明らかに――供の者達よりも抜きん出て強いというのが分かる。

「……最も優れた者が獣王に、か」
「相当なものですね、あれは。一目で誰が王か、分かってしまいます」

 俺の言葉に、グレイスが眉根を寄せて答えた。
 獣とは違う、理知を宿した瞳と鍛え抜かれた四肢。白と黒の体毛が特徴的な縞模様を成している。言うなれば、二足歩行の白い虎だ。それが――今代の獣王、イグナードの姿であった。
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