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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外61 北東よりの使者

 観劇や観光、買い物に温泉やらと、タームウィルズとフォレスタニアを満喫して招待客は帰っていった。
 帰っていったというか、遠方から来ている面々を俺達が転移で見送った形ではある。
 国内の貴族は折角タームウィルズまで来たので中央での仕事をしてから帰るということで、まだ残っているけれど。
 そうして、俺達にとっての日常が戻ってくる。
 執務に加えて、新区画の更なる探索、魔道具開発、ワグナー公の遺産解析、飛行船の建造、転移施設の建造計画立案。そして並行世界への干渉のための計画等々、リストアップすればやることは色々あるのだが……明確な期限があるわけでもなく、進捗状況を見ながら仕事を進めていくような形だ。

 メルヴィン王が午後から話をしたいということなので、それまでにフォレスタニアとシルン伯爵領の執務を何時も通りに終わらせて……面会の予定時間まで一般開放した幻影劇場と運動公園を見て来ようという話になった。

「確かに、集客や反応が気になるところではあるわね」

 ローズマリーが羽扇の向こうで頷く。

「一般開放の初日だし運動公園や幻影劇場も話題になってたみたいだから、期待しているところはあるんだけどね」

 運動公園は冒険者ギルドが口コミで広めてくれているし、衆人環視の中で幻影劇場を作ったのも……まあ、あれはあれで話題になればとも思う部分もあるのだ。
 だから、オープニングということで予想より沢山の人が集まることも想定している。
 ゲオルグは警備と誘導は任せておいて欲しいと胸を叩いて豪快に笑っていたから、そのあたりは心配しなくても大丈夫そうだが。

「何だか、想像以上に人が集まっていそうな気がするわ」
 にっこりと笑うイルムヒルトの言葉にマルレーンもにこにこと笑いながら頷く。
 というわけで、どうなっているのか見に行こうということで、みんなで街に繰り出した。橋を渡り……街中に入ったところで――それが見えてくる。

「これは……凄いですね」

 と、アシュレイが思わず声を漏らしたという感じで微笑みを浮かべた。
 幻影劇場の前から長蛇の列が続いていたのだ。予想以上に人が集まっている印象がある。

「これは、テオドール様」
「おお。テオドールか」

 と、ゲオルグとアウリアが揃って挨拶してくる。ヘザーやベリーネもいるな。

「こんにちは」

 ゲオルグや冒険者ギルドの面々への挨拶をして、今の状況を確認してみる。

「また……随分盛況なようですね」
「そうですな。想定していた以上に人が集まっているところはあります。ですが境界公の御膝元ですからな。皆、大人しくこちらの誘導に従って下さいますぞ」

 と、ゲオルグが豪快な笑みを浮かべる。
 ああ、うん。そういう理由でああやって綺麗な列ができているわけか……。まあ、警備に負担がかからないならそれはそれで良かったとは思うが。
 列に並んでいる顔触れも様々だが皆粛々と誘導に従っているようだ。順番待ちの客に串焼きを売り歩きに来たりもしている露天商もいるあたり、商魂逞しいというかなんというか。

「とは言え、人員が多いほうが良かろうと思ってな。儂らも協力させてもらうことにした。ゲオルグ殿は運動公園の警備の責任者でもあるからのう」
「それは、助かります」

 アウリアの言葉に礼を言う。
 比較的短い列と、かなり長い列とがある。片方は入場券を買い求める列、もう片方は次の上映待ちの列だ。長いほうが入場券を買い求める列であるが……。

「先程確認した時点で、4日先まで満席御礼という状態ですな。やはり、入場券制にしたのは正解ではないかと」
「現時点で4日先? また……凄いわね」

 ステファニアが感心したように目を丸くする。
 3部作だからというのもあるのだろうが……各国の王族と貴族が落成式を見にいったというのは話題性充分だったらしい。
 押印機が出来たことで入場券作りも簡単になったからまだ余裕はあるが、また充分な量を増刷しておかなければならないだろう。まあ、ゴーレムが製造してくれるから管理さえきちっとしていれば大丈夫なのだが。
 要人が上映待ちの列に並ぶのは警備上の問題があるので、高価な座席というのもあって、必要に応じて並ばなくても済むようにもできているが、そういった席も貴族家から使用人が来て買い求めているらしい。

「相乗効果でタームウィルズの境界劇場も満席が続いていますよ」

 と、ベリーネが上機嫌そうに笑う。

「それは何よりです」

 盛況なのは良い事だ。劇場周辺も経済的にも潤うしな。

「それじゃ、滑走場と遊具場も見に行ってみようか」

 というわけで、劇場の誘導に関しては問題無さそうなので運動公園の様子を見に行ってみる。
 ゲオルグによると、劇場で入場券を無事手に入れられた面々が運動公園や滑走場も見に来ているようで……こちらもまた盛況だった。

 行商人が公園内で店を広げている。冒険者達が楽しそうに滑走していたり、遊技場で親子連れが遊んでいたりといった具合で……中々に賑やかな雰囲気だ。
 遊技場については時間帯で入場制限を設けていたりする。
 子供が遊ぶための施設ではあるのだが、物珍しさも手伝って大人にも需要があるかなという部分があるので。時間帯が遅くなって日が暮れる前に子供には帰宅を促すとともに、客層にも使い分けしてもらおうという寸法だ。

「ん。劇場も滑走場も、話を聞いている感じでは評判が良い」
「ふふ、良かったです」
「子供達も楽しそうね」

 耳をぴくぴく動かしながら、客の噂話を聞いたらしいシーラがそう言うと、グレイスとクラウディアが嬉しそうに微笑む。

「そうだなぁ。ありがたい話だ」

 最初だからご祝儀的なところはあるが、幻影劇場も滑走場も反応は上々といった様子だし、この調子で盛り上がってくれると有り難い。

 さて。後は……そうだな。従業員の負担や警備体制等々、現場の声を聞いて、改善するべきところがあるなら早い段階で改善しておきたい。そのあたりも確認してから王城セオレムへ向かうことにしよう。



 諸々確認し、それから面会予定の時間に合わせて王城へと向かった。
 女官に案内されて、王の塔にあるサロンに通される。程無くしてメルヴィン王がやってきた。
 時間ぴったりというところか。メルヴィン王も多忙だから、早過ぎても遅過ぎても悪いしな。

「これは陛下」
「うむ」

 挨拶をするとメルヴィン王が相好を崩す。全員分のお茶と砂糖菓子が用意されてみんなで席についたところで、メルヴィン王が口を開いた。

「執務や他の仕事もあるのに呼び立ててすまぬな。だが、そなたの耳には入れておいた方がいい話があってな」

 話の内容が真剣なものなのか、メルヴィン王の口調も表情も真剣なものであった。こちらも居住まいを正してメルヴィン王に向き直る。

「実はな、北東の獣王国より、獣王がタームウィルズに来訪したいという旨を、使者が伝えてきてな」
「獣王が……」

 以前は確か、俺の婚約者回りを調べていたらしい。俺の結婚に関しては普通に祝福の言葉を送ってきたそうだから……来訪するにしてもまた婚約者をねじ込んで来るとか、そういう類の話ではないのだろう。
 だが、逆に言うと来訪の目的が読めない。獣王の国がヴェルドガルと友好関係を深めたいとか、本当にそれだけならば特に問題もないのだが……。

「表向き両国の友好関係を深めたいとのことではあるがな。しかし、それ以外に目的がないとは限らぬ。特に獣王が、そなたに興味を持っている可能性は高いと余は見ている」
「何でしょうね。あの国は資源が豊富で、文化も独自性が強いですし……あまり外とは積極的な交流を持たないという印象があるのですが……」
「うむ……」

 他国との貿易には積極的でもなければ極端に消極的なわけでもない。来る者拒まずだが、干渉もあまりしないという印象である。

 文化に関してはいくつか獣人の氏族があり、その中から最も優れた者が王となるとか。
 そんなわけで歴代の獣王は剛毅で勇猛な性格の者が多い。文官にはエルフも多くいるのだが……これがエルフもかなり閉鎖的だから……どうも外交に関してはあまりやる気が感じられないものとなってしまうというわけだ。因みにアウリアは、エルフの基準からは大分……いや、全く外れるので参考にならない。

 結論として、他国との軋轢が少ないというのは良い点ではあるが、それだけに情報が少なく、動向が読み切れない。獣王が俺に対して興味を示すというのが、既にイレギュラーなのだが……。

「タームウィルズに訪問するとしても……僕に何かしらの興味があるのなら、フォレスタニアも見たい、と言ってくるかも知れませんね」
「その可能性は高かろうな」

 そしてそれを、簡単に断るのも難しい、か。理由を付けて会わないという事もできるかも知れないが、まあ、俺に用があるというのなら会ってみるのも手ではあるだろうな。何かしら理由を付けて断るというのなら、それからでも十分ではあるし。
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