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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外59 滑走場にて

「通して見るとやっぱり違いますね。すごく面白かったです……!」
「本当に……。幻術ってすごいですね……」

 グレイスの言葉にアシュレイとマルレーンが目をきらきらとさせて、こくこくと頷く。
 そうだな。幻影の調整部分だけみんなにも見てもらったり、演出のアイデアを出したりしてもらったけれど、みんなにも楽しんで貰いたかったから全編通して見る、というのは、グレイス達も初めてだったりする。

「……見入って物語に入り込んでしまうというのは、貴重な経験だったわ。迷宮から解放されて、色々と物の見え方、感じ方も違ってきているのだけれどね」
「私としては本の中に入った時の事も思い出した部分もあるけれど……。幻影劇は楽しませようと思って作られているから、全然印象が違うわね」

 と、目を閉じて言うクラウディアと、羽扇の向こうで頷くローズマリーである。

「ん。楽しかった。イルムヒルトの歌も聞けたし」
「ふふ。自分の歌が別のところから聴こえてくるのって不思議な感覚ね」
 シーラの言葉にくすくすと笑うイルムヒルト。その隣でステファニアもアドリアーナ姫、アウリアと談笑して盛り上がっているようだ。

「やっぱり、アンゼルフ王のお話は面白いわね」
「私も小さい頃は憧れたものだわ」
「うむうむ。よく分かる」

 とまあ……みんなも幻影劇を満喫してくれたようで何よりである。

「いや、全方位作り込まれているとは恐れ入るのう」
「流石はテオドールじゃな」

 と、お祖父さん達はお祖父さん達で、時代考証やら魔法的な技術について話をしていたりする。
 迷宮村や魔物の子供達、ハルバロニスや孤児院の子供達は劇中のアンゼルフ少年や冒険者が繰り出した闘気技の真似をしていたりと……中々微笑ましい光景である。オリンピアも仲良くなったリリーと楽しそうに幻影劇の話をしていた。
 うむ。老若男女問わず楽しんで貰えたようで良かったというべきか。

 それから……レアンドル王の連れてきたグリフォン――。ゼファードが、劇中の御先祖様を見て随分喜んでいた。
 ドラフデニア王国にグリュークの彫像があったからな。割合ゼファードも理解しているようで、楽しそうに「あのグリフォンがお前の御先祖様だぞ」と話しかけるレアンドル王の言葉に、首を縦に振って頷いていた。

 幻影劇の第二部と三部については、ぶっ続けで見ると流石に疲れると思うので休憩を挟んだり日を跨いでからまた上映するとして……運動公園と滑走場のお披露目といこう。

 そんなわけで、幻影劇の興奮冷めやらぬといった様子のみんなと共に、劇場近くにある運動公園へと移動する。
 歩道を歩いて公園内部を見て回り、展望台やらトイレやらの場所を紹介しつつ、滑走場と遊具場にみんなを案内する。

「運動公園は内部を散歩したり、手軽に運動をしてもらうという目的で作った場所です。滑走場も運動奨励や鍛練促進の一環ですね。滑走場の隣にある遊具場は、主に小さな子供に遊んでもらうための場所です。読み書き計算等の勉強だけでなく、身体を鍛えたり遊んだりするのも大事な事かなと思いますので」

 といった調子で滑走場、遊具場の説明をする。まず招待客にお披露目し、続いて施設の一般開放という流れになる。
 まあ説明するより実際に体験してもらう方が早い。早速試遊ということで自由に遊んでもらうことにした。

 因みに……厨房も休憩所もあるので、飲み物や昼食の用意も進めてある。幻影劇場で軽く食事をしたが、運動して喉が渇いたり空腹になったら各々食事を楽しんでもらうということで。



 というわけで実際に滑走の仕方を教えて、みんなに遊んでもらう。
 高速リンクと低速リンクがあるが、やはり肉体派の面々は高速リンクで滑走というのが好みなようだ。
 オーレリア女王やファリード王、レアンドル王、それにウィスネイア伯爵やオズワルドといった面々は、やはり滑走のコツを掴むのも早く、思うように滑れるようになると思い思いに楽しんでいるようだった。
 マクスウェルは……普段使い用のボディは待機させて、鞘だけ装着した状態で滑っていたりする。まあ、確かにな。自分の身体で滑らないと意味がないと言えばそうだ。

 お祖父さんや七家の面々、ヴァレンティナやシャルロッテは移動床に対して一日の長があるからか、肉体派の面々に負けず劣らずの見事な滑走を披露していた。……うん。やっぱり普段から移動床で遊んでいたんだろうな、あれは。

 因みにリンク内を周回する方向はみんな同じ。これ自体が激突防止の策の1つになっているが、壁への激突は風のフィールドが防ぎ、滑走者同士の激突や転倒は床が隆起して防いだりと、安全装置もきちんと存在している。

 一方で低速リンクは低速リンクで高速リンクにはない特徴がある。賢者の学連のようにある程度移動床がサポートしてくれるのだ。運動や鍛練というよりは本当に遊びに近いところがある。
 体勢に関係なく滑走できるしな。その特色を活かすかのように、コルリスやベリウス……動物組が背中に子供を乗せて滑っていたりしている。
 リリーとオリンピアは仲良く一緒に手を繋いで滑っていたりと、これはこれで中々楽しそうだ。
 高位精霊や妖精達も低速リンクの方が好みのようで。

 遊具場に関しては……やはり小さな子供に人気な様子だが、物珍しさも手伝って、大人も割と楽しそうに混ざって遊んでいるのが見えた。
 孤児院のブラッド少年が小さな子供達の保護者ぶりを発揮しており、自分の滑走もそこそこに様子を見ているのが窺える。年少組が危険なことをしていないか、喧嘩をしていないかなどなど気にしているのかも知れない。

 アウリアも子供の面倒を見ている感じだ。「こうやって遊ぶのじゃ」と、遊具の使い方を説明したりしていた。ターザンロープは中々楽しそうだな。
 フラミアやオルトナも何やら滑り台から滑ってきたが……。

 そんな調子で一旦滑走の足を止め、リンクの入口付近でみんなの反応を見ていると、俺に滑って近付いて来た者がいた。ダリルだ。

「滑る感覚は面白いのですが……結構独特の疲労感がありますね、これは」

 と、ダリルが言った。一応他の人の目があるので、貴族家の後嗣らしい口調のダリルである。

「普段あまり使わない筋肉と、それから少しばかりの魔力を同時に消費するので、そのあたり慣れていないところがあるのかも知れませんね」
「ああ。確かに……魔力は使う機会がないですね」

 ダリルは納得いったとばかりに頷いている。それから何か気になったのか、顔を上げて尋ねてきた。

「そう言えば、鍛練と言っていましたが、やっぱり魔力も使っていると鍛えられるものなんですか?」
「そうですね。魔法の行使には術式の知識の他にも、魔力資質、魔力量や一度に放出できる量、制御能力等色んな要素が関わってくるのですが……移動床での滑走は、知識や資質以外の側面では若干の鍛練になります。日頃から滑走場で遊んでいれば結構違ってくるかも知れませんね」

 そうやって色々な要素が絡んで来るから個々人によって使える術がまるで違ってきてしまうというのが多々あるというのが魔術師という人種だ。
 まあ……魔力を消耗する遊びで魔法を使える人材を育成しやすい土壌ができれば、と期待できる部分も、少しはある。賢者の学連の塔にしたって、これを日頃から使っていたと考えば、魔術師の育成環境としては良好だったとも考えられるし。

「なるほど……。色々考えられているのですね」
「まあ、普通に遊んでもらえれば、それ以上の事はおまけのようなものかな、とも思いますが」

 ダリルに苦笑して答える。ダリルは応じるように笑って頷くと、滑走に戻っていった。
 うん。滑走場にしても遊具場にしても、みんなに楽しんで貰えているようだ。
 米、味噌、醤油を使った料理も用意してあるし、この調子でのんびりとフォレスタニア観光を楽しんでいって貰えればと、そう思う。
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