挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
803/1147

番外58 幻影劇開幕

 王城での歓待も終わり、皆でフォレスタニアに向かった。初めてフォレスタニアに来た面々もおり、迷宮内とは思えない光景に、歓声を上げていた。

「戦いが終わってから、こうして交流の機会が持てるというのは良いものだな。フォレスタニアの景色も実に素晴らしい」

 上機嫌なファリード王の言葉に、メルヴィン王やエベルバート王、レアンドル王も頷く。

「交流の機会……祝勝と、これからの平和を祈念する意味を込めて、か」
「そういう意味ではテオドール達に手間を掛けさせず、気軽に移動できるようになればとも思うがな」
「更なる親善を進めたり、万一の場合の対処もしやすくなるような気がしますな」

 いわゆる首脳同士のホットラインみたいなものだろうか。現時点でも通信機で情報の共有や交換は可能ではあるが、顔を突き合わせてというのはまた違うし。
 確かに、あちこち転移魔法で移動したり迎えにいったりというのはそれなりに大変だ。クラウディアの魔力をみんなで循環錬気をすることによって負担を分担して補ったりしているし。

「石碑に制限を設ける形で設置し、行き来する、というのは不可能ではないかなとは思います。双方からの許可が下りている時だけ起動するだとか、一度に転移できる人数と、使用の間隔に制限を設けるとか」

 迷宮核に触れられるから、そうした設備も作れなくはない。

「それなら確かに悪用はしにくくなるでしょうね」
「後は各国の管理の問題、かの」

 俺の言葉にオーレリア女王やエルドレーネ女王が頷いた。
 各国の王族、要人用に限定した転移用の門を一つ所に集積した空港のような設備……ということになるだろうか。それを作るならフォレスタニアではなくタームウィルズに作ることになるだろうが。

 そんな話をしたり、街を見ながらゆっくり移動し……そうして境界劇場の前に馬車が到着する。

「では、案内致します」

 招待客を劇場内に案内する。各国の王侯貴族やタームウィルズ内外の知り合い達。精霊に妖精、ハーピー、セイレーン達等々……招待客はかなりバリエーションに富んだ面々ではあるかな。

「おお。これはコルリスかの」
「あっちにはベリウスの彫像もありますよ」

 と、動物組の彫像やレリーフを見つけて盛り上がっている。
 みんなを席に案内し、それから最後にスクリーンの前に立って挨拶を行う。

「今日は幻影劇場の落成式にお集まり頂き、ありがとうございます。新しい形の観劇ではありますが、楽しんでいっていただけたら嬉しく思います」

 そう言ってから、観劇の際の注意事項を伝える。軽食や飲み物等の用意もあるが、上映時間がそこそこ長いので事前にトイレ等を済ませておいた方がいいだとか。
 それから五感を刺激する幻影を主体としているが害はないので驚かないで欲しい事。3D酔い――というか船酔いのような症状が出る可能性がある事。
 その場合、座席の肘掛横に水魔法の魔道具が組み込んであり、それによって酔いを止められるといった内容だ。

 それから軽食や飲み物の希望を聞いて、それらが行き渡るまでの間にトイレ等を済ませてもらう。 
 本来は売店で各自が買って上映時間に客が合わせる形だが、今回は落成式であるし来客もVIPなので特別仕様だ。

 パンに肉、レタスを挟んでハンバーガーを作ったり、サンドイッチを用意したり、唐揚げを作ったりと、観劇しながらつまめる、如何にもな食べ物を用意してある。
 飲み物は炭酸飲料やお茶の類。ホットとコールドの準備がある。
 惜しむらくは……コーンやポテトの栽培が間に合わず、ポップコーンやフライドポテトが提供できなかったことだな。

 そうして準備が整ったところで、客席が薄暗くなっていき――いよいよ幻影劇が始まった。

 ドラフデニア王国の高祖、アンゼルフ王の物語だ。
 第1弾ということで、生い立ちと共に相棒のグリフォンと旅に出るまでの話となる。3部作で悪王の国と戦う話、国を建国してから悪霊と戦う話等のストックも既に作ってあったりして。
 全部一気に上映すると相当長くなるので招待客滞在中に何回かに分けて見てもらう形で考えている。

 劇場のスクリーンに、大空から見た街道と草原――長閑な景色が映し出され、オープニングに相応しい壮大なイメージの音楽が奏でられる。
 同時にスクリーンの枠から映し出された風景が、はみ出すように劇場の観客席全体に広がっていく。

 あっという間に幻影劇場から、高所より街道を見下ろす風景に客席が包まれていた。客席の周囲には鳥の群れ。そう。鳥から見た視点だ。
 客席の眼下に馬車が見えてくる。主観視点となっている鳥が降下して、馬車が近付いてくる。
 ここから薬師である父親や冒険者達と共に旅をしていた頃のアンゼルフ王の日常パートに入っていくわけだ。

 冒険者が食べようとしていたパンをかっさらって、主観を担っていた鳥が彼方へ飛んでいった。馬車に同乗しているような視点となってBGMのボリュームも小さくなり、更に物語が続いていく。
 冒険者との会話でアンゼルフ王やその父の状況、国の状態等が語られる。

 生まれ故郷の街に帰ったら、近くの森で薬草を採って薬の材料を補充しなければならないこと等々。
 ここから、森で怪我をしたグリフォンの子供に出会ったりといった話に繋がっていくわけだ。

 さて。基本的に正面を見ていれば普通に観劇可能だが、VRを理想として幻影で劇を構成しているので、360度をリアルタイムで見回すことができるのも特徴と言える。
 馬車と共に進む揺れの感覚であるとか、草を薙いで迫ってくる風が到達した瞬間を肌で感じたりだとか。座席に着きながらもその場にいるような臨場感を味わえるという寸法だ。

 あちこちの街を巡って治療を施したり、街道を移動中にゴブリンに襲われたり。
 正面を見ていると襲撃のその瞬間までカメラが動かないから気付かないが、横を見れば草むらに紛れて迫ってくるゴブリンをきちんと見つけることができる。

 こういった劇にはあまりみんな慣れていないから、演出をハードにすると刺激が強すぎるというのもあり、戦い等は臨場感がありながらもややマイルドな表現ではある。
 オリンピアはコルクのコルリス人形を抱き締めたままウィスネイア伯爵に抱き着きつつも幻影劇に見入っていたから……まあ、演出の匙加減としては成功だったのではないだろうか。

 大人達も食い入るように劇に夢中になっていた。揺れを感じたり風を感じたり。真正面から客席の観客に飛びかかってきたゴブリンが横から冒険者に迎撃されたりして叩き落とされるシーンは、あちこちの客席から歓声が漏れたりしていた。
 そんな調子で幻影劇ならではの色々な演出を交えて上映が進んでいく。少年――アンゼルフが怪我をしたグリフォンの子供を助けるシーンではグリフォンに視点が移って、森の木々の間から手を振って見送るアンゼルフ少年が眼下に映し出されたりするわけだ。

 ちなみに、アンゼルフ王の彫像を元に、少年時代の容姿などをイメージしている。冒険者との交流の中で色々な技術を学んで、その才能の片鱗を見せたり。そうやってアンゼルフ少年やその父親に感情移入させたところで、話を動かしていく。
 父親が無実の罪で投獄され、少年が奴隷市場に連れていかれて……と、史実に合わせて話が動いていく。
 そうしてアンゼルフ少年はあの時のグリフォンと再会するのだ。機転を利かせて脱獄しグリフォンに跨って飛んでいく。夜の星々。アンゼルフ少年とグリフォン――グリュークと共に風を切って進む感覚。

 人助けをしながらの少年の冒険は続き――そうしてグリュークの背に乗っての旅はヴェルドガルへと。
 王城セオレムが遠くに見えてきたところで、アンゼルフ王の幻影劇、第1部が終幕へと向かう。周囲の幻影はスクリーンに向かって収束していき、王城セオレムがスクリーンに収まって、グリュークの視点でタームウィルズが映し出されるという具合だ。

 そうしてゆっくりと王城セオレムの周囲を巡りながら、オープニングのテーマをアレンジしたエンディングテーマが歌付きで流れる。
 因みに、劇中のBGMの収録に関してはゴーレム楽団とイルムヒルトやユスティア、ドミニク、それからセイレーンとハーピーの皆にも協力してもらっている。BFOで使われた曲を魔道具に記憶させたわけだな。

 劇が終わってスクリーンの光景もブラックアウトしたところで、客席のみんなが立ち上がって割れんばかりの拍手が劇場に響き渡った。

「これは……素晴らしい。言葉もない……」
「うむむ。王家の高祖として先々の展開を知っているというのに……思わず手に汗を握ってしまいましたぞ」
「この内容……何度同じものを見てもその度に新しい発見がありそうに思えてくるのう」

 ディテールや時代考証周りには結構拘ったからな。背景の街並み一つとっても当時の習俗等を反映していたりする。
 更にVRで、俺が初めて感動した点をそのまま演出に活かしている。同じ感動をみんなにも知ってもらえて……そこは嬉しく思う。
 孤児院や迷宮村の子供達も興奮冷めやらぬという具合で、あれがすごかった、ここが面白かった等と、色々話をしている。大人から子供に至るまで、みんなで楽しんで貰えたようで何よりである。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ