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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外57 月の女王と地下都市と

 幻影劇場落成式の日取りも決まり……それに合わせて各国の国王や国内外の貴族もフォレスタニアを訪れてくる形になる。
 だが、オーレリア女王に関しては一足早めに地上に降りて来て先にハルバロニスを訪問しておきたい、ということであった。
 なので長老達にも連絡を取って日程を調整し、一旦魔力送信塔へとオーレリア女王を迎えに行ってから、ハルバロニスへ転移魔法で飛ぶことになった。

 魔力送信塔にて光の柱が立ち昇り、そこからオーレリア女王が現れる。

「これは女王陛下。前回地上を訪問なされた折はお迎えに上れず、申し訳ありませんでした」

 フォルセトがオーレリア女王に挨拶をすると、オーレリア女王は柔らかく微笑んで答える。

「事情は聞いているわ。送信塔の完成に合わせたから些か急な話ではあったし、ハルバロニスのための仕事をしていたのなら、憚ることも気にすることもありません」

 そんなオーレリア女王の言葉に、フォルセトは静かに一礼した。

「では、ハルバロニスまで転移で飛ぶわ」
「よろしくお願いします、クラウディア様」

 状況が落ち着いたところでクラウディアが声をかける。オーレリア女王とフォルセトが頷くと、クラウディアの足元からマジックサークルが広がる。そうして転移魔法が発動し、俺達はハルバロニスへと飛んだ。
 転移魔法の光の柱が収まると、そこはハルバロニスであった。

「これがハルバロニス――」

 オーレリア女王はハルバロニスの内部を興味深そうに眺める。柔らかな光が天井から降り注ぐ地下都市だ。オーレリア女王はハルバロニスの構造に見入っている様子だ。月の離宮もまた、ハルバロニスに似たところがある。かつて地上の荒野に追放されたということを考えれば、オーレリア女王からしてみれば、ハルバロニスの重ねた歴史と、今に至るまでの苦労が実感として理解できる部分があるのだろう。
 ハルバロニスの町の広場では、長老達と、フォルセトの後を継いだ結界の管理人が揃ってオーレリア女王の訪問を待っていた。

「おおお……これは、女王陛下」
「お会いできて恐悦至極に存じます」
「女王陛下――。テオドール様、クラウディア様も……。今日の日の訪問を、心待ちにしておりました。貴き姫君と女王陛下から我等の祖の犯した罪業への赦しの言葉を頂けたことを、感謝しております」

 そう言って――長老達はオーレリア女王に深々と頭を下げる。オーレリア女王は長老達の言葉を受け、何かを感じ入るように目を閉じていたが、やがてその金色の瞳を開き、静かに頷いた。

「罪業。ですか……。子孫である貴方達に、何の咎があるというのでしょうか。私とて、月の地下に隠棲していた身。この地下都市を見れば苦労に苦労を重ねて今日に至ったことが容易に窺えます。月と地上の行き来が途絶してしまったばかりに、貴方達には途方もない程の永い時間、苦難を強いてしまいましたね」
「勿体なきお言葉です。しかし、我等の在り方が魔人を世に送り出し、戦乱を招いてしまった原因となったのも事実です。我等に罪が無いとはとても言えませぬ。ハルバロニスの子らには罪は無くとも、我等には――」
「だとするなら、それは私達月の王家が招いたものでもあるはず。貴方達だけに、罪を負わせはしません」

 オーレリア女王の言葉に、長老達も感じ入るように目を閉じて聞き入っている様子だ。そこで、クラウディアが口を開いた。

「――ヴァルロスとベリスティオは……私達に彼らの胸に抱いていた理想や未来を託したわ。他ならない彼らが私達を信じた。だとしたら、これから何を成していくかが重要だと……私はそう思うの」

 そう、だな。クラウディアの言う通りだ。
 目を閉じればヴァルロスやベリスティオの最期の言葉や、その行動が蘇ってくる。魔人達と手を取り合うというのは、連中の性質を考えれば口で言うほど簡単なものではないのだろうけれど――。

「願わくば、これからは共に歩んでいきましょう」

 オーレリア女王が言った。長老達も。そして俺達も。互いの目を見て頷き合う。
 ここにいる誰もが、魔人達との因縁浅からぬ故に。互いの思いを確認し合い、力を合わせていくというのは大事なことだと、そう思う。

「その――もしよければ、ハルバロニスを案内して欲しいのですが」

 というオーレリア女王の言葉に、少し空気が弛緩する。
 どうしても必要な話だったが、クラウディアやオーレリア女王が見解を述べて、それを長老達が受け止めれば、それでこの話は一旦終わりだ。ここからは互いに交流を深めて、信頼関係を築いていけばいい。幻影劇場や運動公園の滑走場の落成式も、その一助になれば俺としては言うことはない。

「勿論です。ハルバロニスの民も、女王陛下がいらっしゃると聞いて、待ちわびていましたからな。ささ。こちらへ」

 そう言って長老達はハルバロニスの案内を始める。大通りの沿道に老若男女詰めかけていて……オーレリア女王やクラウディアが手を振ると、笑顔で手を振り返してくる子供がいたりと、和やかな空気が漂っていた。

「オーレリア女王陛下も聞き及んでいらっしゃるようですが、バハルザード王国のファリード陛下とも話し合いをしまして、その結果が――」

 と、部族会議で決まった話をオーレリア女王に語って聞かせる。

「なるほど……。バハルザード王家からは随分と良くしてもらっているのね。これは……ファリード陛下とも、一度挨拶をして、お礼を言っておく必要がありそうだわ」

 そんな話をしながらハルバロニスの街並み、長老達の暮らす塔。稲作の段々畑や、バハルザード王国からの依頼を受けて新しく開拓中の農地やらを見学した。



 そうして――オーレリア女王のハルバロニス訪問も無事に終了し、俺達は転移魔法でタームウィルズへと戻ってきた。
 ハルバロニスの長老達も落成式に招待している。オーレリア女王共々迎える形になるので、一緒にタームウィルズに転移してきている。

 各地の要人は、幻影劇場落成式の前に一先ず王城セオレムで歓待する。
 その間に俺達が月神殿から月神殿へと転移して、各地の知り合いを迎えに行くという寸法だ。

 石碑で直接タームウィルズに来れる面々は、こちらから迎えに行かずとも、予定を合わせて訪問してきてくれる。シルン男爵領の面々、グランティオス王国やドリスコル公爵家は、エルドレーネ女王と共にタームウィルズにやって来れるというわけだ。
 シルヴァトリア王国のジルボルト侯爵もそうだ。テフラと一緒に転移して来れる。
 なので俺達が転移魔法で迎えに行く面々としては……国外ではエベルバート王、ファリード王にマスマドル太守のファティマ、レアンドル王やペトラ、ロベリア達といった顔触れになる。

 エリオットやマルコム、父さんやダリル。ウィスネイア伯爵にフォブレスター侯爵、デボニス大公家……それにハーピーの部族長達。あちらこちらの月神殿や拠点に転移して、挨拶もそこそこにタームウィルズの月神殿に共に転移してくる。
 迎えの騎士団が神殿前の広場で待機しており、馬車で一旦王城セオレムへと向かう。

 いやはや、そうそうたる顔触れというか何というか。月から海、東西南北あちこちからVIPが集まっている。
 歴史上でもこれだけの面子が一堂に揃うというのは無かったのではないかとメルヴィン王は笑っていたけれど……何というかあちこち迎えに月神殿へと転移していると、流石に感覚も麻痺してくるというか。

 ともかく、いよいよだ。王城での歓待が済んだら、フォレスタニアにて幻影劇場の落成式、滑走場のお披露目となる。招待を受けてくれたみんなに楽しんでもらえたら俺としては言うことはない。
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