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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外56 幻影劇場完成に向けて

 外壁が出来上がったところでじっくりと作業ができるようになった。
 気を取り直す意味も込め、厨房やトイレなどの水回りを丁寧に作り、建材から幻影劇場の内部を建築していった。受付、売店等々、やはり今まで作った劇場を踏襲する形ではある。セラフィナと相談しながら建物の強度などを見つつ建築を進めていくというのも、いつも通りだ。

 備品、調度品は後から入る形なのでまだ座席等もないが、装飾に関しては先に手を付けていけるので、みんなと相談しながら劇場の内装を仕上げていく。

 幻影劇場はエンターテイメント寄りだからな。高尚で上品な装飾で纏めるよりは、何かしら人目を惹いて期待感を高めるような内容が望ましい。劇場に入ってすぐのエントランスホールにグリフォンの彫像やレリーフを配置したりと、装飾を施していく。

 ……あー。彫像を見たベリウスやコルリス、アルファ達から俺への視線を感じたりするわけだが。期待されている、のだろうか?
 まあ俺の手がけた劇場ということで、動物組もレリーフとして装飾に組み込んでいくのが良いのかな……。うん。まあそうさせてもらうか。モチーフに困らないし。

 そうして幻影劇場の建築作業を進めていくと、アルフレッド達工房組も、調整中の魔道具と仕事道具を持って劇場にやって来た。

 というわけで、みんなで腰を据えて幻影の魔道具の調整を行っていく形になった。
 月の都で貰った映像記憶の魔道具や、マルレーンのランタンの解析、セラフィナやロベリアの属性を付与した魔石等々を経て、幻術回りにかなりの応用が利くようになったからな。それでようやく幻影劇場の構想が実現しているというところはある。

 さて。目指すところは映画館ではあるのだが――幻影の要素がそこに混ざってくると、若干勝手が違ってくる。正面の舞台スクリーンからの距離、位置関係も演出に影響してくるからだ。
 そこで……客席をいくつかのブロックに分け、それぞれのブロックを包むように幻影の演出を映し出せるようにする。
 これにより、どの位置の座席に座っていても同様の演出を味わうことができるようにする、というわけだ。スクリーンと連動した演出をする場合には、座席の位置次第で調整をしてやる必要があるのだが……終始それだと些か大変だということで、この仕様である。

 それぞれのブロック内に実際に移動して見て調整が上手くいっているかを確認していく。

「それにしても、その場に座っているのに、周囲の景色が動くだけで自分が進んでいくような感覚が味わえるっていうのは、面白いねえ」

 と、調整に付き合ってくれているアルフレッドが楽しそうに笑った。

「視界の端の景色も連動して動いているからね。視覚を頼りに周辺の情報を得ている部分が大きいから、まずそこを騙せば結構全体的な感覚も騙せるものだからね」

 例えばドームの内側に映像を映し出すようなタイプのモニターでも同じ感覚を味わえる。
 VR技術にしても似たようなところはあるかな。まあ、そのあたりの知識は幻術にも応用が利くので、活用できるだけ活用させてもらっているが。

 視覚の次は音響。ブロックごとに音源の位置を調整し、他の座席に影響を出さないように、消音の魔法でそれぞれのブロックを区切る。

「なるほど。区分けした座席ごとで音が聞こえるようにするのね」
「うん。音源からの距離があると意図した演出にならない場所が出てくるからね。緊急時の警報装置もそれぞれに取り付ける形になる」

 ローズマリーは俺の説明に納得したように頷いていた。
 セラフィナの性質を付与した魔石による立体音響設備。そこに風魔法で各ブロック内部の温度を変化させたり空気の流れを変化させることで、色々な演出が可能になる。現時点では味覚以外の五感の刺激が可能というわけだ。勿論、演出なので極端な温度や風速を出したりはできないようにはなっているが。少しひんやりする風が吹き付けて来るとか、その程度のものだ。

 ロベリアの性質を付与した魔石は方向感覚に影響を及ぼす。座席が傾いたりするように錯覚させることが可能だ。視界の動きに連動させてやればこれも演出強化に繋がる。

 これらをミスリル銀線で繋いで……大本となる魔道具と連動させる。幻術の内容を記した魔石をセットしてやり、それぞれのブロックの魔道具も指定された通りに動く、という寸法だ。

 つまり、映写機とフィルムの関係である。上映する内容を変えてもスクリーンと座席回りの魔道具を動かすための規格は共通である。
 これで後々、セットする魔石を変える事で、共通の制御術式を以って色々な内容の上映が可能になる。
 それから……観客が幻術に没入してしまっていると建物内で火災等が起こった時に気付かないので、緊急時の対策もきっちり詰めておく。幻影からの警告と劇場内の警報装置と、それぞれ設置してやる。

 そうやって色々詰めていき……1週間程の集中的な作業を経て、ようやく幻影劇場周りの魔道具の調整が完了したのであった。



「ああ……。出来上がった」
「お疲れ様でした、テオドール様」
「ふふ、仕事が終わると気分が良いですね」

 最後のブロックの調整を確認し……据え付けられた座席に身体を投げ出して思わず漏らした声に、グレイスとアシュレイが声をかけ、肩を揉んでくれたりしてくれる。

「そうだなぁ。演出回りに関しては、かなり完成度が高くなったと思うし。頑張った分だけ楽しんでもらえると良いけど」
「ん。みんなで頑張ったし、絶対楽しんでもらえる」
「そうね。演出としては相当なものじゃないかしら? 度肝を抜かれる皆の顔が見物だと思うけれどね」

 シーラやローズマリーが太鼓判を押すように断言してくれる。マルレーンも心配いらないというようににこにこ顔だ。
 基本となる幻影の映像部分は概ねでは出来上がっていたが、前にやった即興の幻影劇とは違って、取材もしてきたし、ディテールと演出に気を遣ったからな。
 映し出される映像に連動した仕掛けを動かして、みんなの意見を聞きながらああでもないこうでもないとアイデアを練って演出に反映させ……そして細かな魔道具の調整を繰り返してと、時間がかかった分完成度も増したと思う。

 そうやって俺達が魔道具の調整をしている内に幻影劇場にも備品が揃い、運動公園も人員が揃ってきてと、周囲の状況も動いている。
 通信機であちこちに招待の通知を出し、お披露目の上映を行う日程も決まった。
 各国の王と国内外の貴族も、幻影劇場の上映を見にフォレスタニアに来ることになるだろう。

「んー。歓待の準備も進めておかないとなぁ」
「執務用の魔道具の準備とか、食材の用意とか……かしら?」
「そうだね。執務用魔道具は、まだ渡してない人達に喜んでもらえると思うし。明日あたりは少し休んで、それから樹氷の森や魔光水脈に食材でも取りに行って来ようか」
「そうね。頑張りましょう」

 ステファニアの言葉に答えると、イルムヒルトがそう言って微笑んだ。

「オーレリア女王と、ハルバロニスの長老達の顔合わせもあるものね」
「そうだな。それも上映や歓待の席で盛り上げられれば、良い方向に働いてくれるかな」

 やはり、クラウディアとしてはオーレリア女王と長老達の顔合わせも気になっているわけだ。
 滑走場の一般開放もタイミングを合わせてということになる。メルヴィン王にも、運動公園と幻影劇場と合わせてのお披露目という形だ。
 落成式や一般開放まで含めての領地開発である。幻影劇場の魔道具の調整が終わったからと言って、ここで気を抜かずに頑張るとしよう。



 執務をこなしつつ、迷宮のあちこちに歓待のための食材を取りに行ったり、ワグナー公の術式の研究も兼ねて運動公園や滑走場の備品を改造したり、時間の許す限り仕事と準備を進めた。

 国内の、近場の貴族は船や竜籠でやってくる予定。遠方から来る貴族は俺達が転移魔法で迎えに行く予定だ。さてさて。お披露目はどうなることやら。
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