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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外54 滑走と検分と

 子供というのは――時代によっては貴重な働き手という位置付けだったりするので、のんびり親子連れでというケースは、人口比としては少ないのかも知れない。
 ただ、だからこそ息抜きに運動というのは悪くはないと思うのだ。
 俺としては迷宮村の子供達や孤児院の子供達に遊んでもらえればと考えている。読み書き計算等の勉強の他、安心して遊べる場所、遊ばせておける場所というのも必要なのではないかと思うのだ。

 運動公園内において、特に子供達のために作られた施設――自由にしていい場所というのを設ける上で子供達に対して力になる、困っていることがあれば相談にも乗ると……領主としての立場を明確にするわけだ。それで子供達の考え方に多少なりとも良い影響が出ればと、そう思う。

「まあ……単純というか浅い考えではあるのですが」

 そういった運動公園の意味合いを説明すると、アウリアとゲオルグは納得したといった様子で頷いていた。

「確かに……気に掛けられているという自覚は子供らにとって必要なものじゃな」
「期待されているという自覚もですな。周りから爪弾きにされていると思えば、周囲に対しても反発するものですから」

 アウリアとゲオルグは仕事柄か。アウリアは少年少女と言って良い年齢の冒険者達とも接してきているし、ゲオルグだって街の警備や見回りを通して色々な子供達を見てきただろう。
 そんな2人に同意してもらえるというのは心強い。

 そういった話を交えつつ、警備や見回りのしやすさはどうか。死角になる場所がないか、といった所を見て回る。
 展望台からの眺めも中々綺麗な物だ。

「全体的に見通しは良いですが、展望台の真下あたりは若干人目に付きにくいかも知れませんね」
「ああ、それなら厠の裏手とかもでしょうか?」

 一通り見て回ったところでヘザーとベリーネが言った。

「設備を作った分だけ、どうしても人目に付きにくくなる場所ができますからね。そういうところにハイダーを置いておけば、何かあった時に逆に迅速な対応が可能になるかなとも思いますので、どんどん指摘して貰えると有り難く思います」
「ふむ。手薄と思わせておいて伏兵を忍ばせると。有効な手だ」

 と、テスディロスが言うと、ウィンベルグが真剣な面持ちで頷いていた。いやまあ、内容的には合っては……いるのか。
 公園内とその設備を見て回り、そうしてスケートリンクと遊具のある施設へと最後に向かう。
 受付、厨房や休憩所、トイレ等、建物内の設備を見てどこに監視の目を置くかといったことを話し合う。
 そうして一通り警備上、補強する部分を洗い出したところで、いよいよスケートリンクや遊具を試してみる、という流れになった。

「大きな方は高速で滑走可能、小さな方は速度に制限がついています。壁への激突などを防止するために風魔法による防御を施す予定ですが、滑走自体はもうできますよ。まあ……まずは無理しない程度に滑ってみますか」

 と、スケートリンクについて説明し、みんなで試してみることにした。
 賢者の学連の移動床と同じように、意思を込めて軽く重心をかけるだけで自動的に滑っていってくれるが……。スケートに近い感覚で滑ることで、より高速で複雑な動きが可能になるように術式に調整を施した。
 身体を使っているという実感が増し、スポーツとしての側面が強調されるような形だ。まあ、魔力も緩やかに消費するので、身体と魔力の両面から鍛えられる形ではあるのだが。

「まず立ち方ですが、爪先を外側に広げる感じで。進むときは足の側面で床を蹴って滑るような感覚でしょうか。こうやって加速し、足をこうして進行方向に対して横向きにして床を押さえるようにすることで減速します」

 お手本として基本的な立ち方や進み方、止まり方を1つ1つ説明する。そうしてみんなも見様見真似、恐る恐るといった調子で滑り出した。
 自動的な移動と違って、自分の意志で滑走しようとなるとまた感覚が違ってくる。
 最初こそ慣れない感覚に戸惑っていたが、暫くするとみんなもコツを掴んできたらしい。流石に……戦闘職として現役の面々ばかりなので、上達が早く感じるな。

「マリー様もクラウディア様も、お上手ですね」

 と言いつつも、グレイス自身もかなり上手に滑っている印象である。

「学連や橋の移動床と同じ感覚でも動けるけど……。これは慣れてくると楽しいわね」
「夜会の舞踏も、一応は貴族の嗜みではあるものね」

 といった調子で、ローズマリーとクラウディアが答えた。アシュレイとマルレーンも、手を繋いでにこにこしながら滑走していた。
 シーラはもう滑り方を十分に理解したとばかりに、一際抜けた高速で滑走していった。そのあたりは流石だ。イルムヒルトは普通に滑ったり、人化の術を解いて滑ったりと、色々試しているようである。

 スケートのように滑走も可能だが……一方で移動床と同じなので、寝たままでも滑ることが可能だ。それを体現するように何やら低速リンクを腹這いで自堕落に滑っていくコルリスであるが……あれはあれで楽しそうにも見えるな。背中にセラフィナも乗っかって、何やら別な遊びを開拓しているような気がするが。
 さてさて。そんなみんなを横目に、アルフレッドと共に魔道具をリンクの内壁に設置してしまう。

「こんな感じかな」
「うん。で、一定以上の速度と角度で壁に突っ込むと魔道具が起動する、と。少し実験してみよう」

 術式を刻んだ魔石を壁に組み込み、ミスリル銀線を埋め込んで効果範囲を広げたところで、実際に起動するか試してみる。
 高速で滑走。垂直にぶち当たる軌道で壁に突っ込めば、柔らかな風のクッションに突っ込み、レビテーションで勢いを弱められるような感覚があった。急減速ながらも、負担が少ない。

「実験は成功かな?」
「ああ。これは中々いいね。もう少し色々な角度と速度で試してみる」

 そう言って何度も壁へ激突しそうな軌道、激突しそうで曲がり切れる軌道など、色々実験して反応を見てみる。
 曲がり切れる速度と軌道なら効果範囲に突っ込んでも風のクッションも作動しない、というのが理想ではある。その点、かなり思い描いていたものに近くなったのではないだろうか。

 これなら術式の調整次第で転倒や滑走者同士の激突の防止も可能ではあるかな。



「何というか、普段使わない筋肉を使う感じでしょうか」
「滑るのに力は要らないのですが、動き続けているので結構な運動になりますね」

 というのは、暫く滑った後のヘザーとベリーネの感想である。同行した面々の大半は……あの程度の滑走ぐらいでは運動の内に入らないとばかりにけろっとしているので、消去法で2人に運動量についての感想を聞くことになったわけだ。

「封印術の影響下にあるからどうなるかと思ったが、今の我等の鍛練としては高速で滑り回ると丁度良いようだ」

 テスディロスが言う。ああうん。2人ともかなり熱中して滑っていたからな。あれはあれで楽しんでくれていたのだろうか。

「私達はあまり疲れなかったですが……。ああやって滑っていく感覚は独特で、楽しかったです」
「慣れてくると速度も出せるし、中々爽快よね」

 と、アシュレイとステファニア。ゲオルグも目を閉じてうんうんと頷いていた。ふむ。みんなからの感想としては概ね好評なようである。

 スケートリンクの試運転と魔道具敷設が終わったところで、次は遊具区画へと移動する。こちらは子供用ではあるが、安全性を見てもらって、その意見も聞きたいというのもあるので、みんなにも実際に試してもらう必要があるだろう。

 遊具の使い方は簡単なものなのでゴーレムにブランコを漕がせたりして軽く説明をしておく。

「この遊具で遊んでいると、勢いを付けて飛び降りたりとか、したがる子供も出てくると思うんだよね」

 実際にゴーレムにブランコと立ち漕ぎさせ、最高速から遠くにジャンプさせて見せた。

「ああ。だから、風の魔道具がもう少し必要だっていうことかな?」
「そうなる。基本的に揺られて遊ぶだけの遊具だから、ああやって遠くに跳ぶのは割と危険だからね」

 アルフレッドと必要になる魔道具の数等々確認していく。

「ふうむ。滑走とはまた違うが、こちらの遊具は遊具で中々楽しいではないか。速度が出る割に落下の危険もなくて良いと思うぞ」

 と、スライダーを滑ってきたアウリアが言った。そういっていそいそとアスレチックツリーの中へと戻っていく。うむ。マルセスカやシグリッタもターザンロープで楽しんでいる様子だ。
 因みに、あのターザンロープは降りだけでなく、ロープウェイのように登りの軌道が用意されていて、掴まったまま魔力を消費することで、元の乗り場まで戻ることが可能である。
 まあ、何だ。全体的に運動公園内の施設、設備は大人から子供まで好評なようだ。
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