挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
796/1122

番外51 休暇と約束と

 公爵領は割と暖かい場所ではあるが、海水浴にはまだ少々早い時期である。
 しかし精霊王達の守護も働いているためにこのぐらいの水温でも充分心地良く感じる。水蜘蛛の糸で編んだ水着も持って来ているというのもあり、プライベートビーチ扱いの浜辺でのんびりと過ごさせて貰っている。

 月光島は現在、フォレスタニア境界公の飛び地という位置づけだ。
 交易所は開放しているしその運営は公爵とエルドレーネ女王が共同でという事になっているが、この浜辺に関しては一般には開放はされていない区画というわけだ。
 アルバートやオフィーリア達……水着を持ってきていない面々もいるが、アルバート達はゆっくりと釣りをすると言って海水浴場近くの釣り場に出かけて行った。
 エクレールとラヴィーネ、アルファ、ベリウスが一緒についていったのでそちらの護衛に関しては問題あるまい。

「ふふっ、これは中々面白いです」

 と、グレイスが浮き沈みするボールに掴まって楽しそうに笑う。水中呼吸の魔道具もあるから、浮き沈みに合わせて海中まで行って来れるからな。普段の海水浴とはまた違う感覚で楽しめるところがある。
 アシュレイもイルカ型の浮き輪に跨って海面を滑ってきて、こちらに戻ってきたところで海中に飛び込む。そうして水中を泳ぎ、俺のすぐ近くでグレイスと一緒に浮上してきて、2人で顔を見合わせてくすくすと笑う。

「アシュレイ様、大分泳ぎが上手くなりましたね」
「はい。グレイス様が色々教えて下さいましたから。テオドール様の循環錬気のお陰でもありますが」
「ふふ」

 と、明るい表情で答えるアシュレイと、それに答えるようににこにことしているグレイスである。うん。健康的で良い事である。

 さてさて。今回は――アクアゴーレムを作る要領で中に空気を閉じ込めた、球状やドーナツ状の物体を作ったりしてみた。適度に弾力を与えて水魔法で色を付けてやれば、浮き輪やビーチボールの完成というわけだ。イルカやボート型の浮き輪も作って、それらを海に幾つも浮かべて遊んでいるわけである。

 通常の浮き輪やビーチボールと違うのは、俺の制御で動かすことが可能ということだろうか。
 そんなわけで色んな軌道で海水浴場の中を巡回させたり、浮き沈みさせたりといった挙動を取らせていた。
 後は沖合に行き過ぎないように空気を閉じ込めたフェンスで海水浴場を囲ってやれば安心安全である。

 そんなわけで、飛竜型の浮き輪に乗ったイルムヒルトは、波間に揺られつつ、セイレーンから貰ったという竪琴を楽しそうに弾きながらセラフィナと一緒に歌っている。確かにセイレーンの竪琴なら濡れても安心だからな。

「楽しんでもらえてるなら俺としても嬉しい」
「ふふ。これは良いわね。マルレーンも海なのに楽に泳げて楽しいみたい」

 マルレーンと一緒に泳いでいたクラウディアが穏やかに笑う。浮き輪に身体を通して波間に浮かぶマルレーンもにこにことしていた。

「この感覚は……中々独特ですね」

 浮き輪を装着したヘルヴォルテの感想に、シオン達もうんうんと頷く。
 ヘルヴォルテだけでなく、フォルセト、シオン達は一緒に浮き輪を付けて波間に浮かんでいる。ヘルヴォルテとフォルセトは浮き輪というイメージがないのだが……まあそれは俺の感覚による感想でしかないな。
 マクスウェルも浮き輪で波間に浮かんで核を明滅させたりと、楽しんでいるようだ。

「これも、やっぱり前世の記憶にあったものかしら?」

 と、尋ねてくるのは、ビニールボートならぬゴーレムボートの上に優雅に寝そべるローズマリーである。

「本当はビニール――人工的な樹脂を薄く加工したものを使ったりしてたんだけどね」
「人工樹脂……。興味深いわね」
「まあ、自然に分解されないからゴミがいつまでも残ったりして、景観が悪くなったり野生動物が誤飲したりして……あれはあれで便利な半面、悪い面もあったかな」

 そう言うとローズマリーは感心したような表情で頷いていた。

「なら、ゴーレムで応用が利く分にはそういう点は安心ね」

 と、ステファニア。彼女は彼女で、巨大モグラ型の浮き輪に乗って楽しそうにしている。ゴーレム型の浮き輪……は、流石にコスト面で難があるが、アクアゴーレムのボートや救命胴衣というのは海難事故対策用品としては有りかも知れない。
 普段はゴーレム制御用のメダルや魔石だけという形なら、省スペースだしな。

 因みに……本物のコルリスはと言えば……浜辺で潮干狩り中だ。持ち前の嗅覚で貝の場所を突き止め、爪の先端で軽く掘り出して傍らのシーラが持っている桶に入れていく。
 こちらの視線に気付くとコルリスは軽く手を振ってきた。こちらも手を振り返しておく。
 リンドブルムは……砂浜で陽光を浴びて、心地良さそうに居眠りなどしている。カドケウスとバロールも一緒に日向ぼっこ中だ。

「大漁。もう少し掘ったら、私も泳ぐ」

 と、コルリスが手を振っている事に気付いたシーラが、潮干狩りの成果を報告してくる。

「あー。今日の夕食は貝尽くしかな」
「ん。貝は醤油や味噌汁によく合うから楽しみ」

 といった調子で……海水浴の時間をみんなと共に楽しく過ごしたのであった。



 釣りをしたり、交易所や公爵領で買い物をしたりグランティオスの海都まで足を延ばしたりと。予定の滞在日数を使って月光島での休暇を色々と楽しませて貰った。
 楽しい時間というものはあっという間に過ぎるものだ。予定していた日数も少なくなってきて……帰り道にウィスネイア伯爵の領地に泊まるという約束もあり、月光島を後にする日がやってくる。

「帰りの道中、お気を付け下さい。また遊びに来てくれる時を楽しみにしておりますぞ」
「ありがとうございます。図書館絡みの仕事もありますから、それほど時間を置かずにまた転移魔法で顔を出します」

 月光島の船着き場に公爵一家と、エルドレーネ女王達グランティオスの民が見送りに来てくれた。公爵一家とエルドレーネ女王達は、公爵家の保有する船で改めて月光島までやって来ている。帰りに俺達がカイトス号で見送りの手間が無くても良いように、との事であるが。

「私も肩の荷が下りた思いです。引き続き、夢魔事件での後始末に奔走していきたいと思います」

 レスリーが胸に手を当てて一礼する。

「分かりました。何か問題がありましたら相談に乗ります。無理をなさらないよう」
「ありがとうございます」

 レスリーは顔を上げて、穏やかに笑った。そんなレスリーの反応に、オスカーとヴァネッサも顔を見合わせて表情を綻ばせている。
 うん。レスリーに関しては家族が支えているからな。きっと大丈夫だろう。

「妾達もまたタームウィルズやフォレスタニアに遊びに行くと思う。その時はよろしく頼むぞ」

 と、エルドレーネ女王。隣にいるグランティオスの武官、ウェルテスが静かに一礼する。

「はい。その時は歓迎します」

 エルドレーネ女王に関しては割と気軽に転移魔法でタームウィルズに来れるからな。
 まあ、幻影劇場落成の際に国内外からみんなを招待する形になってはいるのだが。
 そうして。一時の別れの挨拶と再会の約束をしてから、俺達はカイトス号に乗り込んだ。
 ハーピー達は全員同行するが、セイレーンは再び俺達に同行してタームウィルズに向かう者と、一旦グランティオスに帰る者とに分かれる。リリーは……甲板から仲良くなったセイレーンの子供達に大きく手を振って別れを惜しんでいた。

「またすぐに会えるから」
「うんっ、約束したから、さみしくないよ」

 ドミニクの言葉にリリーが頷く。ドミニクとユスティアは頷いて、リリーの髪をそっと撫でる。
 船着き場からゆっくりとカイトス号が離れ、見送りの面々と手を振り合いながら……俺達は月光島を後にしたのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ