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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外50 月光島の交流会

「ご馳走様でした。美味しかったです」
「流石の完成度というか……満足感が高かったわね」

 グレイスがそうやって俺に言うと、ローズマリーも静かに同意するように頷く。

「ん。あら汁も美味。揚げ物もサクサクしてて好み。お腹いっぱい」

 というのは、お代わりまでしていたシーラの感想である。フライもそれなりに多めに作ったからな。みんな満足げな様子である。
 昼食も一段落して、お茶を飲みながらの談笑である。代わりに魔法生物組が食事ということで、バロールやカドケウス、ネメアとカペラ、ウロボロスやマクスウェルに魔力を補給していく。

「調味料も絶品でしたな。さっぱりした味わいが、油を使った料理と何とも相性がいい。いや、気に入りましたぞ」
「作り方はそれほど難しくないので、気に入っていただけたなら製法を紙に纏めておきます。手作業だと卵と酢と油の攪拌がやや大変ではありますが……」
「そう言えば、テオ君も、調味料作りは魔法でやっていたね。術式を書きつけてくれれば、魔道具化もできると思うよ」

 ふむ。ハンドミキサーのような魔道具は作れないわけではないか。調理器具として応用が利くから、そういうものを考えるのも有りかも知れない。

「いやはや、至れり尽くせりですな」

 と、公爵は笑う。

「うむ。あの調味料は妾も気に入ったぞ。地上の食文化は、やはり素晴らしい」
「では陛下が地上に来た折り、同じ料理を饗する事ができるよう、料理人に伝えておきましょう」

 笑みを浮かべて、公爵とエルドレーネ女王がそんな会話を交わす。セイレーンとハーピー達にも好評なようでリリーもにこにこしていた。
 そんな調子で昼食会は終始明るい雰囲気であった。



「――これはテオドール公。招待感謝しますぞ」
「こちらこそ、お忙しい中御足労かけてしまって申し訳ありません。夕食の用意もありますので、楽しんでいって頂けたら幸いです」
「いやいや。私としても執務用の魔道具を受け取りましたからな。時間に余裕ができました。このような招待ならばいつでも歓迎ですぞ」

 昼食会が終われば、残すところは洋館のコンサートホールで合同演奏会だ。
 その日の夕方頃になってリハーサルも終わったので色々と動き出す。
 折角演奏会を行うのだし、演奏会にウィスネイア伯爵も招待しようということで、月神殿経由の転移魔法でウィスネイア伯爵一家にも月光島まで来てもらった。

 用意した夕食もエビフライ定食と。伯爵一家にもそのあたり楽しんでいって貰えれば幸いである。

 オリンピアは転移魔法に少し戸惑っていたものの、みんながいると分かると嬉しそうににこにことした表情を浮かべ、マルレーンやリリー達にスカートの裾を摘まんで挨拶したり、コルリスやベリウスに抱き着いたりしていた。

 というわけでみんなを連れて洋館のコンサートホールへ案内する。
 月光島のコンサートホールは――ハーピー達用のゴンドラがないだけでブロデリック侯爵領のものとそこまで大きくは違わない。
 幻影の演出にしても応用が利くから、後はハーピー達が自力で飛行して立体音響効果を狙えばいいわけだが……それらは元々彼女達が普通にやっていることなので、問題はないというわけだ。まあ、ゴンドラがあれば毎回の演奏の度に飛んでいなくてもいいから楽、というだけである。
 合同演奏会も2度目ということで、セイレーンとハーピー達も大分慣れたものだ。リハーサルにかかる時間も少なくて済んだ。
 そうしてみんなが席に着いたところで演奏会は始まった。

 二度目の演奏交流会。しかし演出に関しては若干手を加えている。内陸部なら海が珍しく、海洋なら高山が珍しく感じるものだ。
 セイレーンとハーピーが合同で演奏を行うにあたり、ブロデリック侯爵領でのそれは船で海洋を行く幻影を用いたが、月光島の場合は雪の高峰だとかそういった幻影を最初に持って来て、交流であることを念頭に置いた上でインパクトを与えるのを狙う、というわけだ。

 セイレーンとハーピー達が歌声を響かせ、楽器を弾き始め……暗転した風景が変化する。トナカイの引く大型のソリで雪山を滑っていく。そんな演出で演奏会が始まる。
 周囲にハーピー達が随伴して飛行して立体的な歌声を響かせている。進行方向から音源が近付いてきたり遠ざかったりしていくような演出――ドップラー効果は彼女達の自前の歌声による再現なのだから恐れ入る。

 神秘的な音色と共に凍り付いた森の中をゆっくり滑っていったり、かと思えばスピーディーな旋律と共に雪山をソリが軽快な速度で滑っていったりする。もっと高速でスリリングな演出にも出来たが、オリンピアもいるのでスリル絡みの演出はそこまででもない。
 ソリが雪を跳ね上げてキラキラと陽光に輝いたりと、風景や一瞬一瞬の雪山の美しさを強調するような方向性である。
 オリンピアは……ウィスネイア伯爵の脇にしっかりと抱き着くように掴まっているが、演出には食い入るように目を輝かせていた。

 ソリが断崖を飛び越えたその瞬間。空中に滞空している間、歌も演奏も止まって無音になって、着地と同時に歌と音色が再開する。
 高速で滑るソリが曲がる方向に合わせて、エルドレーネ女王やマルセスカ、シグリッタやコルリスの身体が斜めに傾いたりしているのは……こちらの演出ではなく、臨場感故だろうな。

「これは……素晴らしい。何という迫力でしょうか!」

 と、一曲終わる度に公爵は大喜びで拍手を送っていた。

 ちなみに水中劇場のほうはと言えば……これは島の外から来た客がセイレーンの歌を聴きに来れる場所でもあるので、若干目的が違う。海中の風景を映し出すので、陸上にいながらにして海中を巡りながらセイレーンの歌を聴ける、という演出になっている。

 とは言え、コンサートホールの合同演奏会も途中からソリが海に飛び込んでトナカイが前足を動かして泳ぎながらの、海中遊覧となるが。
 スピーディーな雪山の展開とは打って変わってのんびりした雰囲気だ。熱帯魚の群れやら珊瑚の森やら、カラフルな世界が映し出されて賑やかな曲が臨場感を高めたり、深海で様々なパターンに光るクラゲの動きに合わせてコミカルな曲が流れたりと、海中の世界を楽しみ――それから海上に出て月夜をソリで飛行したりといった具合だ。

 星の世界から月面、砂漠や草原など、色々な場所に行くのは前回同様ではある。

 雪山から始めたから乗り物はソリで、それを引くならやはりトナカイだろうと設定をしたが……うん。空まで飛ぶとなるとサンタクロースを連想してしまうところはあるな。そのあたりを連想するのは俺だけではあるのだろうが。

 そうして全ての演目が終わるとみんなから大きな拍手が起こった。映し出されていた幻影が薄れて、コンサートホールの景色が戻ってくる。

 セイレーンとハーピー達は何というか、随分楽しそうに見えた。リリーもセイレーンの子供達と仲良くなったようで、手を取り合って喜んでいる。

「海の中、遊びに行っても良いの?」
「うんっ、そういう魔道具もあるから大丈夫だよ!」

 と、リリーはセイレーンの少女と月光島の水中滞在施設に遊びに行く約束をしていた。そんなリリー達を見て、ドミニクとユスティアや、族長達は表情を緩めている。
 娘に視線を向けられて、伯爵が小さく笑いながらも頷く。オリンピアは伯爵から許可を貰って、表情を綻ばせていた。

「中盤の海中遊覧に関しては水中劇場でも同じような演出になっています。乗り物に違いはありますが……」
「海中を見て回るというのは確かに、グランティオスに興味を持って来てくれた者達は喜んでくれるかも知れんな。いや、実に良かった」

 エルドレーネ女王が満面の笑みを浮かべながら拍手を送る。

「魔道具もきちんと動作しているようで何よりです。僕も肩の荷が下りましたよ」
「そうですな。アルバート殿下もテオドール公も、些か働き過ぎのきらいがありますからな。のんびりと羽を伸ばしていって下さい」

 アルバートの言葉に、公爵が笑みを深めた。
 肩の荷か。そうだな。西でするべき仕事も終わって……後は島でのんびりしたり、ウィスネイア伯爵のところに顔を出したりという流れになる。余った時間はみんなと一緒に月光島での滞在を楽しませてもらうことにしよう。
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