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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外49 南西の休暇

 海中で作業をしてから上がってくると、島の奥に続く道からアルバートがやって来た。
 アルバートは……カイトス号には鍛冶設備がないために古城探索には同行せず、タームウィルズで仕事をしていたが、月光島で魔道具を設置するにあたり転移魔法でやって来たというわけだ。
 仕事ではあるが、アルバートにとっての休暇でもある。変装も解いてアルバートの姿のままで仕事をしている。オフィーリアも一緒に月光島に遊びに来ているのだ。

「テオ君、こっちの作業は終わったよ」
「ああ。こっちも設置し終わった」
「水の中でも問題無さそう?」
「動作確認もしたし、その時の魔力の動きも見たけど、問題無いと思う」

 と、アルバートとそんなやり取りを交わす。

 海岸の水中劇場、島の奥にある洋館のコンサートホール。その両方に新たに演出用の魔道具を設置した。セイレーン達とハーピー達はそれぞれ新たな魔道具の使用感を試した上で、リハーサルをしてからお披露目する、というわけだ。
 魔道具の設置が終わったら、早速洋館のコンサートホールに篭って練習すると息巻いていた。

 まあ、モチベーションが高いというのは良いことだ。
 んー……。そうだな。魔道具の設置も早めに終わって時間も余っていることだし、いつも世話になっているみんなやアルバートへのお礼と労い、それからリハーサルをしているセイレーンとハーピー達の応援を兼ねて、今日の昼食の準備に多少凝ったことをしてみるというのはどうだろう。白米に醤油と味噌は持って来ているし、月光島の交易所で色んな海産物やら食材も手に入るからな。
 昼食だとか弁当だとか、みんなで作ったりというのは多いが、趣旨を考えれば俺1人か或いは俺主導で料理をさせてもらうことになるか。昼食の準備を始める前に、早めに提案しておくべきだろう。

「――というわけなんだけど、どうかな?」

 今日の昼食を俺1人で作りたいという旨を提案してみると、皆は嬉しそうな表情を浮かべた。

「分かりました。それでは今日のお昼はテオにお任せします。手が足りなかったら何時でも言って下さい」

 グレイスがそう言ってにっこりと笑う。うん。お礼であるからなるべく1人でこなしたいところではあるが、心強い言葉ではある。

「ん。今日のお昼が俄然楽しみになった」
「まあ、そんなに変わったものを作るわけじゃないけどね」

 シーラの期待に応えたいところではあるな。
 というわけで早速、交易所に食材の買い出しに向かう。
 月光島に同行している面々の人数を考慮すると、食材の量も結構なものになる。交易所で売られている食材を見て回り、手早く買い込んで洋館の厨房に運び込み、早速料理を始めることにした。

 さてさて。今回はコンセプトとして1人で料理をするわけだが……大人数の料理を昼までに充分な量仕上げるとなると、普通にやっていては時間が足りない。というわけで――清浄な水からアクアゴーレムを作り出して作業を分担させてしまうことにした。

「起きろ」

 作り出されたアクアゴーレム達がてきぱきと動き出す。
 米を研いで、大鍋で炊く作業をゴーレムに任せたりと、並行作業で別の料理を一度に作っていく。
 手早く作れて大人数にも対応可。そして比較的物珍しい料理となると揚げ物料理が良いだろう。
 ノンフライヤーは持ってきていないが、交易所で商人からラードが手に入ったからな。大きくて活きのよい海老だとか、イカや牡蠣が売っていたのが今日の献立の決め手だ。

「即席のゴーレム達を制御して料理を作るというのは、テオドールならではよのう」
「テオドール公は料理にも魔法を応用なさいますからな。最早魔法料理と呼んで良いのではないかと」

 と、洋館の庭園の窓越しに厨房の中の作業風景を見てエルドレーネ女王や公爵が頷いていた。料理作りの工程も楽しんでもらえるなら何よりであるが。

 ゴーレム達にエビや牡蠣の下処理を任せ、小麦粉やパン粉、卵を用意。ラードを溶かし、下処理の済んだ食材に衣を付けてどんどん油で揚げていく。
 揚がったものは余分な油を切ってから一旦大皿に盛っておく。エビフライにイカフライ、カキフライに白身魚もフライにする。野菜系のフライもあった方が良いだろう。

 並行して鯛のあら汁を作る。昆布と小魚を風魔法と水魔法を使って乾燥させ、出汁として使い、更に下処理した鯛からあらを取って、身は骨を取り除いて解してから鍋に投入。野菜と共に煮込む。最後に火を止めて味噌を入れれば出来上がりというところだ。

 白米、フライにあら汁。それからキャベツを千切りにして、と。
 後はそうだな。エビフライやカキフライとなればタルタルソースも欲しいところだ。卵黄と油、酢を用意し、空中に浮かべて風魔法で攪拌して一気にマヨネーズを作っていく。
 様子を見ながら味見して塩と胡椒で味を整え……好みの味になったところで、空中で混ぜ合わせていたそれを器にあける。
 マヨネーズはマヨネーズで使えるからな。このうちの何割かをタルタルソースにし、残りはそのまま使うということで。

 茹でた卵と香草、野菜等々をみじん切りにしてマヨネーズと混ぜ合わせ、更に塩と胡椒、酢やレモン汁で味を整えてやればタルタルソースも完成だ。ソース作りに手間があまりかからないというのは良いと思う。

 そうして順調に料理は進み、鯛のあら汁やフライの香ばしい匂いが厨房の窓から漂っていく。丁度昼頃になったところで、昼食の献立は完成した。

 白米に鯛のあら汁。千切りキャベツに各種フライの盛り合わせ。これを醤油やマヨネーズ、タルタルソース等のお好みで食べる、と。メインディッシュはやはり、大きなエビフライが存在感を放っている。
 うん……。内容的にはエビフライ定食だな。公爵一家やエルドレーネ女王達に饗するのは些か庶民的なイメージがあるが、それは俺の視点での話だ。こっちの世界では物珍しい料理だろうし、バランス的にも悪くないので問題はあるまい。



 と、そんな調子で料理を終えて、庭園にテーブルを用意してそこにエビフライ定食を並べていると、コンサートホールでリハーサルをしていたセイレーンとハーピー達もやってきた。

「おお。この調味料は初めて見るな」

 と、エルドレーネ女王が興味深そうに言う。

「酸味のあるさっぱりとした調味料なので、油を使った料理との相性は良いのではないかと思います。お好みで試してみて下さい」
「うむむ。これは楽しみですな」

 というわけで、公爵もお待ちかねのようだ。
 みんな揃ったところでゴーレム達による配膳も完了した。では――昼食会といこう。

「今日は日頃からお世話になっている皆への感謝の意味や、演奏会の練習を頑張っている皆への応援の意味を込めて、僭越ではありますが料理を作らせて頂きました。楽しんでいただけたら嬉しく思います」

 と、簡単な挨拶をして席に戻ったところで昼食会が始まる。

 まずは俺は鯛のあら汁から。味噌で味を整えた鯛のあら汁であるが……うん。旨味が良く出ていて中々良い味に仕上がったのではないだろうか。
 それから白米を口にし、続いてタルタルソースでエビフライを食べてみる。

 さっくりとした衣の感触と、揚げ物の香ばしい匂い。新鮮な海老のぷりぷりとした食感。それからタルタルソースの……俺にしてみるとどこか懐かしさを感じる味が口内に広がる。

「これはまた……美味ですな!」
「料理そのものも美味だが……調味料も完成度がまた高いというか……。確かに油を使った料理に合う……」

 タルタルソースを試してみた公爵とエルドレーネ女王がそんなふうに声を上げた。まあ、合うと分かっているから用意したわけだしな。
 そのあたりの絡繰りについては一応グレイス達は分かっているが、好評であることは間違いなさそうだ。

「これは良い。美味しい」
「テオドール様の料理は美味しいですね」

 と、舌鼓を打ってくれている。タルタルソースもみんなに好評なようで何よりだ。

「食材も新鮮だったからね」

 今回手に入った海老はかなり良い物だったからな。正直、俺以外のちゃんとした料理人が扱った方が良い品だったかも知れないが……まあ、楽しんで貰える料理に仕上がって良かったというか。

「これは美味しいですわね、アルバート様」
「うん。いやあ、休暇初日からこれだと、滞在中の間が楽しみになってくるなぁ」

 と、オフィーリアとアルバートも笑みを浮かべている。レスリーも一口ごとに驚いたような表情を見せて、それを見たオスカーとヴァネッサが嬉しそうに顔を見合わせ、と。昼食会は和やかに進んでいくのであった。
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