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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外48 月光島の現在

 椅子や机、本に書棚、燭台……損傷が比較的小さくて修復しやすいものは司書が修復できる。
 損傷の激しい物はこちらで木魔法等使って補ってやれば問題無いようだ。背もたれと足を修復してやると、椅子は飛び跳ねながら自分が元々置かれていたであろう所定の場所へと戻っていった。そして所定の場所まで来ると普通の家具のように動かなくなる。

 とりあえず、この場でできる修復に関しては魔石が砕けたり、魔石の内部に書かれている術式にダメージがなければ大丈夫だ。
 魔石にダメージがある場合はどうするのかと言えば……これは改めて魔石抽出の闇魔法を応用して魔石を再形成し、術式を書き直してやる必要があるだろう。

 司書が修復し切れない椅子や机達を回収させて貰って……後は魔石の段階から修復するためのサンプルとして各種一体ずつ回収させてもらう。これも連中にとって特に問題のない行為らしく、古城から持ち出しても大人しくしていた。
 司書に関してはワグナーの遺してくれた資料を見て、術式の全体像をしっかりと把握してからだな。まあ、またこの古城には訪れることになるだろう。

 そんなわけでカイトス号の艦橋に運び込まれた図書館の備品一式達。机の上に置かれた本。椅子と燭台。それから書棚であるが――。

「引き出しの中、何もないね」
「本も……動かない……」

 マルセスカやシグリッタは机の引き出しを開けてみたり本の中身を見てみたりと、物怖じせずに興味津々の様子だが……偽装中は特に変わったものは見られないようだ。オスカーやヴァネッサ、それからマルレーンやコルリスも、シオン達の後ろから首を傾げて引き出しの中身を覗き込んだりしているようだが。

「本の中身は……彼らが使っていた術式の詠唱が書かれてるみたいですね」

 と、シオンがシグリッタの横から本の中身を覗き込んで言った。
 その辺は魔術書っぽいところはあるか。魔石の容量を節約するためだな。

「活動している個体は、片付けを手伝っている時に私達とも連係してくれたのですが……こうしていると普通の家具みたいですね」

 と、アシュレイがそんなシオン達のやり取りを見て、不思議そうに言った。

「多分、普通の家具に見えるように偽装してるんだと思う」
「ん。面白い」

 と、シーラ。
 魔法陣からの命令が無い時や図書館内の管理の必要がない時は、普通の家具のようにしている、という作りなのかも知れない。各々所定の場所は決まっているようだが、そこから動かされたり持ち出された程度でいきなり動き出しては椅子や机に偽装している意味がないというわけだ。

 まあ……あれだけ跳び回ったり、片付けの際にこちらの動きに合わせたりしてくれるのを見ているこちらとしては、今更普通の家具のフリをされても……という気もするが。
 ともあれ大人しくしていてくれるのは手がかからなくて良いということにしておこう。動かないなら動かないで、それはそれで頑張って動かないようにしているのだと思えば愛嬌があるような気もするしな。
 そんな話を聞いてシグリッタはくすぐったりしているようだが……多分、それで反応はしないだろう。そんなシグリッタの様子に、フォルセトや公爵、レスリーを初め、グレイスやクラウディア、ステファニアやイルムヒルトといった面々が微笑ましいものを見るような表情を浮かべていたが。……ああ、ローズマリーも羽扇で顔を隠していたりするな。

「僕としては、動いているところも見てみたかった気がします」
「あらお兄様。父様やテオドール様の方針なら、彼らもこれから外に出ることになりますもの。その機会もいずれ来るものと思っていますわ」
「ああ、確かにそうかもね」

 オスカーとヴァネッサがそんな会話をして頷き合う。そうだな。術式に軽く手を加えてやれば、グラズヘイム対策としての自我の薄さも緩和してやれると思うし。
 そんな調子で、俺達は片付けや回収の仕事を終えて、古城を一旦後にしたのであった。



 古城の地下区画では戦いもあったので、公爵の直轄地に戻り、ゆっくり休ませてもらった。
 そして――明けて一日。
 やや日が高くなる頃合いまでゆっくりしてからみんなで月光島へと向かったのであった。
 前回来た時はヴェルドガルとグランティオスの民が交流できるようにと色々作っていったわけだが。交易所等はその後、公爵が色々と段取りを整えてくれたらしい。

「いや、灯台があって夜間の航行も安心と評判を耳にしますし、セイレーンの歌を聴けるとあって、人は沢山来るのですよ。商工ギルドに冒険者ギルドの支所も入って、随分と賑やかになっておりましてな」

 船着き場にカイトス号を停泊させて月光島に上陸したところで、公爵が案内役を買って出てくれた。前回は俺達しかいなかったが……船着き場周りは、商人や冒険者、船乗りや半魚人、マーメイドにセイレーンといった面々が行き交い、市場に屋台や露店も出ていたりと、かなり賑やかなことになっていた。
 分かりやすく異種族の交流が行われているその光景にハーピー達が感嘆の声を上げると、セイレーン達が嬉しそうな表情を浮かべる。

「ほほう。この塗料が噂の……」
「グランティオス産の塗料ですな。船体に塗れば長持ちするというのは請け負いますぞ。例えばこの槍の穂先……これは実際に海底で兵士達が携行していたやや古いものなのですが……」
「おお……。全く劣化しておりませんな。これが塗料の効果と」
「そういうことです」

 といった具合に、商人とグランティオスの文官らしき格好をした亀人がそんな会話をしながら盛り上がっていた。
 グランティオス産の海洋熟成酒も好評を博しているらしい。試飲して目を丸くしている商人や、酒場で盛り上がっている冒険者達の姿も見える。

「これはまた……賑やかになりましたね」

 グレイスがその光景を見て笑みを浮かべる。

「そうでしょうとも。あれだけ境界公にお膳立てを整えて頂いたのです。こうなってもらわなければ困りますな」

 と、公爵は嬉しそうに言うと、俺を見てにかっと笑った。いや、それにしたってこうやって賑わっているのは公爵の手腕と人脈があってこその結果だろうと思うのだが。
 グロウフォニカやシルヴァトリア等、外国から来たと思われる船も停泊しているな。あちこちから交易にやって来ている印象であるが。

「妾達にとっても、交易所は重要な場所になっておるぞ。グランティオスの特産品で魔石を確保できるから海都の復興も順調に進んでおるのだ」

 エルドレーネ女王もそういって笑みを浮かべる。

「滞在施設の使いやすさについては大丈夫でしたか?」
「ああ、岩場に作ってくれたあれのことよな? 皆からの評判は良いぞ。妾も泊まったが、必要な備品も揃って、中々我等にとっても快適な場所となっておるよ。人化の術を使えるものは、あの木の家も気に入った、と言う者もおるがな」

 ふむ。グランティオスの面々に好評であるなら俺としては言うことは無い。何やらツリーハウスも好評なようだが……。

「これは……我等も見習っていきたいところだな」

 月光島の様子にヴェラが感心したように頷く。んー。ハーピー達に関して言うなら、月光島を見習うというなら……特産品はかなり価値があると俺は思う。

「月光島のような交易をお望みなら相談に乗りますよ。恐らく、ブロデリック侯爵も喜ばれると思います」

 と、伝えると、ヴェラとラモーナは明るい笑顔で頷いた。
 例えば俺達は現在ハーピー達の羽毛布団を使わせて貰っているが……あれはかなり暖かく、そして軽くて寝心地が良い。防寒具として加工してもかなりのものになるだろう。
 ロックファンガスにしてもそうだ。スポンジぐらいの柔らかさから石の強度まで色々自由になるから利用の幅が広い。椅子の座面や寝具等にも応用が利くだろう。
 そして、そういった寝具や家具を加工できる職人にも事欠かない、と。ハーピー達の集落からの特産品は、かなり有用だと俺は見ている。

 まあ……ブロデリック侯爵領とハーピー達の交易の話は一先ず置いておいてだ。
 とりあえず、海岸の岩場にある水中劇場と、島の中にある洋館のコンサートホールに幻影演出の魔道具を設置してやればヴェルドガル西部での俺達の仕事は終わりとなる。
 その後は月光島でのんびりさせてもらうとしよう。
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