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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外43 地底図書館

 イグニスやコルリスにとっては部屋の入口や地下への階段入口がやや窮屈そうだが……そこさえ抜けてしまえばそこそこ広いので階下に降りる分には問題は無さそうだ。
 公爵家の持ち物だし何が罠の発動条件になるか分からないので、無闇に破壊したりしないに越したことは無い。とりあえずは……狭い通路に行き当たってイグニスやコルリスの侵入が無理そうな場合は転移魔法で近隣の月神殿まで脱出する、という方向で大丈夫だろう。

 階段を降りると、そこは装飾の施された通路だった。全体的に上階よりも細かく、豪華な装飾が施されている。一目で古城の上の区画よりもこちらが本命だと分かるが……。

「罠を仕掛けるなら、まずこの通路だな」
「警告?」
「そう。一族の者や使用人が間違って紛れ込んだだけなら、ここで軽い罠を仕掛けて御退散願う。色々目を引く装飾も、罠を紛れ込ませて隠すためじゃないかな」

 シーラの言葉に頷いて応える。逆に言うならここに仕掛けられた罠は致死性が低くなるだろうが……安心はできないな。

「ん。つまり、余計な物に触らないのが大事」
「床の模様も踏まない方が良いかもね。シールドの上を歩くように進もう」
「分かりました」

 グレイスが頷いて空中に浮かぶ。みんなも同様に地上から僅かに浮いた。
 罠に対する囮としてゴーレムや改造したティアーズを先行させる。後は魔力反応と、囮役が引っかからなかった罠への警戒をしつつ進んでいく。
 ティアーズの操作はバロールに行ってもらう。ティアーズの見た映像を水晶板に映すことで、離れた位置から怪しげな場所を特定していくというわけだ。

 少し進んでいくと通路のど真ん中に、如何にも意味有り気な彫像などが配置されていた。弓を引き絞るケンタウロスの彫像だ。
 彫像そのものに魔力反応は見えないが、機械的な仕掛けがないとも限らない。しかし、彫像を迂回するように通路の端を進んだ場合は――。

「何か……あのあたりから妙な魔力を感じますね」
「コルリスも何か臭うって」

 フォルセトと、ステファニアが殆ど同時に警告してくる。

「ああ。こっちにも見えてる」

 彫像から距離を取った場合、そこに魔法の罠が仕掛けてある、というわけだ。通路の端と彫像の頭上に、魔力の光線が網目のように交差していた。
 フォルセトはチェーンのついた水晶のようなものを床に向かって垂らしている。水晶の振り子の先端が――ゆっくりと引き付けられるように動いて問題のある個所を指し示している。
 イメージ的にはペンデュラム・ダウジングだ。フォルセトの説明によるとハルバロニス式の魔力感知の術式と、その精度を上げるための魔道具という話である。
 振り子の動き方、水晶の輝き方等々によって方向や術式の種類などがある程度の範囲で分かるそうだ。
 片眼鏡の視覚感知やコルリスの嗅覚感知と同等の精度となれば……かなり頼りにしていいだろう。レーダーの数と種類は多ければ多い程良い。

「警告だとするなら、あの像も多分罠。魔法と機構式と同時に仕掛けておくのが最善で、ワグナーにはその技術がある」

 と、シーラが言う。

「どちらかしか対処できないなら、どちらかに引っかかるという寸法ね」

 ローズマリーが眉を顰める。
 両方への対処ができないなら御退散願うという理屈。間違って忍び込んだ場合も同様。
 最初に行う警告であるなら、明確且つ端的に技術力を見せつけるのが重要だ。俺も……フォレスタニアの地下区画には似たようなコンセプトで初手の罠を準備しているからな。

 そしてグラズヘイムが侵入防止の目的で起動させた地下階の罠は、古城の主以外――例えば公爵家の者であっても侵入を拒む。要するに――ここからは通常区画と違って安全確保ができないしする必要もない。逆に言えば、罠を起動させないように気を遣う必要もないわけだ。

「どうする?」
「ここの狙い目は――機構式の罠かな。魔法式とは違うから、仕掛けが作動しないよう物理的に動きを止めてしまえば良い。シーラに罠を解除する危険性や負担は、かけさせない」

 アクアゴーレムを作り出し、彫像の周囲に接近させる。彫像が反応を示し、回転を始めたがそのままアクアゴーレムの形が崩れ彫像に水を浴びせるように覆いかぶさった。間髪を容れず、床ごと氷結させることで機構式の罠を無力化する。
 改めてゴーレムを飛行させて接近させるが、彫像周りから軋むような音が鳴っただけで、罠らしきものは作動しなかった。

「なるほど。じゃあ、私は水晶板を見て、罠がありそうなところを探すだけで良い?」
「うん。毎回解除してもらうと大変だし、危ないからね」
「ん。それは楽だし、嬉しい」

 と、シーラの耳と尻尾がぴくぴく反応する。
 光魔法で魔法の光を作り出して飛ばし、魔法式の罠の感知範囲を視覚的に分かりやすくしてやることで、最初の罠をみんなで潜り抜ける。

「これなら……私やアシュレイでも機構式の罠の発動を止めることができそうね」
「そうですね。罠の無力化のお力になれそうです」

 ステファニアの言葉に、アシュレイが頷く。

「けど、どうやってあの罠はゴーレムの接近を感知したのかしら? 床には触れていなかったわよね?」

 クラウディアが首を傾げる。機構式の罠が発動する条件としては床に重みをかけたりというのが一般的だ。だが、あの彫像の罠はそれ以外の方法で侵入者を感知した。

「今の罠の発動条件は特定してないけど……魔術師の侵入を想定しているなら音や振動、温度感知、光源の感知、契約魔法違反、魔法生物による監視……このへんを引き金にできるかな」

 魔法式と機構式の複合罠だ。完全に魔法のみで構築された罠と違い、魔石に最低限の働きをさせることで魔力を感知しにくい状況を作りながら発動条件を色々と複雑化させることもできるという寸法だ。仕掛けと魔法と。両方を扱えるなら複合罠にしない理由がない。

 だが、機構の部分を凍らせたり石化させたりしてしまえば動きを阻害して無力化はできる。
 一方で、大規模な魔法の仕掛けを用意しようとすると、どうしても魔法的な側面からの探知で察知されてしまう。
 だからこちらとして魔法式の罠は発動させないようにしつつ、ゴーレムを先行させて複合罠を見つけ次第、無力化していけば良いわけだ。

 だが問題は、この後だ。こういう複合罠を乗り越えて奥に進もうとする相手に対して、どういう手札を用意するかと言えば――その答えは自ずと決まってくる。

「そこの柱の陰が怪しい」

 というシーラの言葉に従ってティアーズを先行させ、映像を確認。そこに罠らしきものがあれば水魔法や土魔法の出番だ。
 氷結や泥の石化で罠を無力化しつつ通路を進んでいけば、いきなり開けた空間が通路の向こうに見えた。

「何というか、図書館……のような場所ですね」

 と、グレイスが眉根を寄せる。高い天井。細かな装飾。両脇に書棚が何列も連なって――奥へ奥へと続いている。机と椅子が多数配置して有り、書庫というよりは図書館のような風情があった。

「魔力反応が……そこかしこにあるな。床や装飾にある魔力反応は罠だろうけど……。一部の椅子や机や――。それから、書棚の本にも魔力が宿ってる」
「それは……どういうことですか? やっぱり罠だったり?」

 シオンが聞いてくる。
 罠。確かにこれらもひっくるめて全部が罠なのだろう。だが、通路に仕掛けられていたものとは別種だ。

「複合罠を突破してくる相手なら、実力行使で撃退するしかない。戦闘になれば罠に引っかかる確率も上がるからね」
「えっと。つまりそれって――」

 マルセスカが言いかけたその瞬間だ。

「椅子が……動いてる……」

 シグリッタが警告の声を発した。まだ図書館内部に侵入していないにもかかわらず、一番手前にあった、魔力反応のある椅子が動き出した。

 さながら獣のように駆け出す。一旦横に跳躍して迂回してからこちらに向かって飛びかかってくる。背もたれに血走った単眼。腰掛の部分に鋭い牙を覗かせた大きな口――!

 迎撃に動いたのはイグニスだ。飛びかかってきた椅子目掛けて思い切り戦鎚を叩き付ける。椅子は――背もたれの上部を砕かれながら床に叩き付けられたものの、咆哮を上げながら後ろに跳び退る。
 それを合図にしたかのように、書棚から本が抜け出して空中を羽ばたき、机や椅子が四つ足の獣のように動き出した。

「グラズヘイムの時も家具が襲ってきたけど……これは……」

 イルムヒルトがかぶりを振った。

「今度は……変わり種のゴーレムや魔法生物かな。不自然な魔力反応のある個所は、こっちで感知して光の球を飛ばしておく! アシュレイやステファニアの作る防御陣地が、機構式罠の動作不能になる範囲! 襲ってくる連中を防御陣地内で退けてから安全を確保して進む!」
「分かりました!」

 指示を飛ばすと、みんなもそれに反応して即座に動く。さて……。では、図書館の備品達との戦闘といこう。
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