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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外40 公爵領での再会

 ドリスコル公爵領。洋上に浮かぶ街と城といった風情の佇まいは相変わらずで、青い海洋と相まって何とも風光明媚というか……見栄えのする都市である。
 カイトス号の高度を下げて着水。公爵の居城へと続く大きな水路を進んでいく。

「海と一体化したような街だな。うん。面白い」

 と、マクスウェルも核をピカピカと光らせて、ヴィンクルやハーピー達と共に公爵領の街並みをモニター越しに食い入るように眺めていた。ヘルヴォルテも、割と公爵領の様子に興味があるようだ。

 うむ……。公爵領は初めての面々だからな。
 前に公爵領を訪れたことのある面々は、そんなマクスウェルやヴィンクルの反応に共感を覚えるもののようで。微笑ましそうにそれを見ていたり、マルセスカとシグリッタは目を閉じてうんうんと頷いたりしている。

 そうして水路を進んでいき、城の船着き場の水門が見えてくると、俺達の到着を待っていたというように門が開かれていく。
 船着き場の広場では……公爵夫妻、オスカーとヴァネッサの兄妹。公爵の弟レスリーに、執事のクラークと、一家揃い踏みで俺達の出迎えに来てくれていた。エルドレーネ女王も一緒だ。

 誘導された位置にカイトス号を停泊させ、みんなで甲板に出る。タラップを降りると、出迎えの面々も近くまでやって来て挨拶してきた。

「これはテオドール公。お忙しい中御足労頂き申し訳ない。此度の訪問……境界公の信義に感じ入っている次第です」
「いや、約束が他の案件で延び延びになってしまったのを、心苦しく思っていました」
「それも国の大事に関わる話ばかりですからな。私の方が恐縮してしまうというもの。しかし……新しい飛行船は輸送用の船と聞いておりましたがまた、随分見事なものですな」
「ありがとうございます」

 と、公爵や夫人とまず挨拶を交わす。それからエルドレーネ女王が相好を崩して口を開いた。

「ふむ。旅行先で色々あったと聞いたが、顔を見て安心したぞ」
「ご心配をおかけしました。陛下もお元気そうで何よりです」
「うむ。心配の種が無くなるというのは良いものだ」

 俺の公爵領訪問に予定を合わせてくれたというわけだ。つまり、逆に言えばグランティオスの情勢に余裕があるからできること、と言える。
 心配の種というのは……俺が悪霊と戦ったことに関する話だけでなく、公爵領との関係や海都の復興、ウォルドムの眷属達の融和等々についても、順調に進んでいるという意味も込められているのではないだろうか。

「ご無沙汰しております境界公。私の不始末故にこのようなご迷惑を。本当に……申し訳なく思っております」

 続いてレスリーが言う。このあたり、真面目なレスリーは気に病んでしまうのだろう。だから、改めて顔を合わせたわけだし、俺からもはっきり言っておこう。

「夢魔の一件に関しては、誰のせい、とは言えないでしょう。古城の探索はヴェルドガルの今後の安寧の為にも必要なことだと思っていますし、その危険性を認識できたのは夢魔事件があったからこそとも言えます。それより、随分血色が良くなられたようで何よりです」
「それは……境界公と、家族のお陰です」

 自身の体調について触れられると、レスリーはふと穏やかな表情を浮かべてそんなふうに返してくる。そしてレスリーの言葉に嬉しそうに顔を見合わせたオスカーとヴァネッサが、揃って挨拶をしてくる。

「ご無沙汰しております、境界公」
「再会の日を、楽しみにしておりました。精一杯歓迎致しますわ」
「ありがとうございます。こうして総出で出迎えとは恐縮してしまいますが」
「ふふ、境界公は私達にとっての恩人で、公爵領にとっての英雄ですから」

 ヴァネッサがそう言って笑う。執事のクラークにも挨拶し、初対面である面々を紹介する。
 そうしてみんなで再会を喜び合ったところで、公爵が言った。

「積もる話もありますが……立ち話も何ですからな。ささ、馬車へどうぞ」
「お城に歓迎の用意をしてあるのです」

 クラークが馬車の扉を開けて柔和な笑みを浮かべる。
 そうだな。では、場所を移動するとしよう。



 楽士隊に料理に菓子、飲み物と……飾り付けられた公爵の居城のダンスホールには宴の席が用意されていた。
 夕食にはまだ少し早い時間だから軽く摘まめるものが多いようだ。みんなでテーブルについて、お茶やお菓子を楽しみながら話をする。古城探索の話もしなければならないが、いきなり本題に入る前に色々渡すものを渡してしまう。つまり――計算機や押印機等の執務用の魔道具だ。

「おおお……! これは素晴らしい……! これこそ人の叡智の結晶ですな!」

 公爵は押印機の使い心地を確かめると感動の声を漏らした。何やらすごい感想が聞こえたが。

「押印機に計算機とは……。月光島での交易が始まって、何かと事務仕事も増えておるからな。そこにこれとは、流石にテオドールはよく分かっておるのう」

 公爵領に来るならエルドレーネ女王にもということで、エルドレーネ女王の分も用意してきている。押印機は活用にするにしてもグランティオスでは場所を選ぶが、計算機や計算ゴーレムは完全防水仕様だ。役立ててもらえれば俺としても嬉しい。

「テオドール公に以前作って頂いた椅子だけでも執務の負担が減っておりますからな。そこに来てこれらの魔道具となれば……いや、実に心強い」

 と言いながらも押印機で紙にスタンプしまくっている公爵である。どうやら押印の際の感触が気に入ったようだ。新しい物好きは相変わらずの模様である。

 そうして執務用魔道具の引き渡しと説明、実演が終わって、その興奮も落ち着いて来た頃合いで……今回公爵領を訪れた第一の理由である、古城の話題にシフトしていく。

「夢魔に操られていた時の記憶はおぼろげな部分もあるのですが……。グラズヘイムは侵入者を排除するために古城奥にある罠を起動させていた……ように思います。グラズヘイムに対抗したり、封印したりする手段が古城の中にあることを危惧したからではないかと」

 レスリーが言った。なるほどな。グラズヘイムにとって不都合なものがあると困るが、破壊してしまっては目立つから保険をかけたというわけか。

「正直、私共の手には余りますな。我が家の祖先が残したものではありますが、古城の中身を確認してもらった暁には、役立つと思われるものは全て陛下やテオドール公にお任せしたいと思っております。勿論危険物が残ったり、後々まで管理の必要があるようなものが出てきた場合であれば、それはこちらで管理を徹底します。お礼についての話とは、また別枠ということでご理解下さい」
「いや、出てきたものの取り扱いに関しては……流石に現時点では性急でしょう。持ち運びが可能で封印しておけば無害という代物なら、迷宮の深層等に安置してしまうという手もありますし。内容を確認する前から祖先の遺した良い遺産を放棄してしまったり、負の遺産を全て背負い込む必要はありません。ですが……公爵の心構えとお気持ちは理解しました」

 依頼内容は危険な物件の調査と処理。成功報酬を別として、仕事の上で見つけた代物は貰えるという役得的な話。仮に冒険者だったら諸手を挙げて喜びそうな内容ではあるが。
 ワグナーの遺したものを、ここで喜んで受け取ってしまうというのはな。

「そうね。子孫だからこそ価値があるというものだってあるかも知れないし。調査は必要だとしても、故人の遺志もまた、尊重されても良いのではないかしらね」

 と、クラウディアが言う。そうだな。俺も同意見だ。グレイスも静かに目を閉じて頷いている。母さんの手記を見つけた時のことを思い出せば、というところだな。
 まあ……何が出て来るかは現時点では本当に未知数なわけだが。グラズヘイムが起動させた罠だとかがあるのは確定ではあるけれど、それ以上のところではまだ何も約束しない、ということにしておこう。

 そうして、探索に向かうに当たって公爵とレスリー達が道案内として島まで同行すること。現地では安全のためにカイトス号の中で待機していてもらう事等……細かな段取りを定めるのであった。
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