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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外39 カイトス号と西の旅

 タームウィルズに戻って準備を諸々整えたところで……みんなでカイトス号に乗ってヴェルドガル王国西方、ドリスコル公爵領へ出発する。

「カイトス号の艦橋は……シリウス号に比べてすっきりしていますね」
「まあ、戦闘用じゃないからね。輸送船としてずっと船を職場にするのなら、乗組員もある程度寛げるようにって方向で考えた結果かな」

 グレイスの感想に答える。
 外部モニターや伝声管等が組み込まれているのはシリウス号を踏襲している。しかし戦闘を想定しているシリウス号程には隅々まで行き届いた作りではない、というわけだ。
 船内放送用の伝声管が細分化されておらず、一本化がされているのでオペレーター1人か2人で充分に回せる。
 オペレーター用の外部モニターについても、敵の位置や動きを把握しなければいけないシリウス号と違って、そこまで細かくはない。
 そういった事情もあって、艦橋は割と広々としていて、その分居住性を重視した作りにすることが可能だったというわけだ。速度はずんぐりとしたフォルムの割に中々軽快だ。

「確かに……居住性に関しては悪くないわね」

 ローズマリーが木製のティーカップを傾けながら頷く。広々とした艦橋に、穏やかな雰囲気の呪歌曲が響いている。イルムヒルトやハーピーとセイレーン達が交代で呪歌曲を奏でてくれているのだ。
 居住性やらモニターから見える外の景色――海岸沿いの綺麗な風景やらと相まって、かなりリラックスできている感覚がある。

 フォルセトはと言えば……長椅子に座ってうつらうつらと船を漕いでいた。シオン達が寄り添うように座っている。フォルセトはやはりハルバロニスでの仕事が忙しかったのか、結構疲れていたようで。体力回復、疲労軽減の呪歌曲が奏でられているから、道中で疲れを取ってもらえると良いのだが。

 カイトス号はハイジャック等を防止するために、乗組員の生活用区画や重要設備は艦橋から一繋がりになっていて、貨物用の船倉やら乗客用の船室やらの区画からは隔壁によって独立している作りである。
 艦橋内部と、下層にある乗組員用の居住空間とを合わせれば……なんというか、ちょっとした家のような感覚だ。飛行時の安定性も高いから余計にそう感じる。

「私としては……色々ついているシリウス号の艦橋も好きだわ」

 とはステファニアの意見である。隣に座るアドリアーナ姫が腕組みをしながらうんうんと頷く。
 飛行船の試験飛行ということで同道しているアドリアーナ姫と共に、しっかりオペレーター席に陣取っていたりする2人である。ステファニアの言葉に、アルファがにやりと口の端を歪ませた。それから――俺に視線を向けてくる。

「ん? 操船を代わってくれるのかな?」

 言いたいことを察して確認を取ると、アルファは頭をこくんと縦に振る。
 アルファに関してはシリウス号から離れられるように器を用意したわけだが……操船用の術式回りは共通している。当然、今のアルファでも飛行船の操縦はお手の物だ。

「それじゃ、少し休憩させて貰おうかな。現在位置はここ。海岸線に沿って南下して……ウィスネイア伯爵の領地までは何も迷うことはないかな」

 と、地図をアルファに示して現在位置を教える。アルファは頷いて席の上に座り、前足の肉球を水晶球に乗せる形で操船を引き継いだ。
 操船席からみんなのいるテーブルへと移動すると、アシュレイがお茶を淹れてくれた。

「ありがとう、アシュレイ」
「いえ。テオドール様も連日色々なお仕事をこなしていますが、お疲れではありませんか? もし必要なら体力回復の魔法もありますよ」

 礼を言うとにっこりと微笑んだアシュレイにそんなふうに尋ねられた。うむ。断るような選択肢もないな。

「んー。そうだな。折角アルファに操船を代わってもらったわけだし……魔法もお願いしようかな」
「はい。お任せください」

 そう言ってアシュレイは俺の背中に触れて体力回復の水魔法をかけてくれる。じんわりとした温かさが、添えられたアシュレイの掌から広がっていく感覚があった。
 アシュレイの場合魔力の反響で体内の弱っている個所などを判別できるからな。そういう点でも良く効く。

「このままみんなで肩をお揉みしたりというのも良さそうですね」
「それなら喜んで協力する」

 と、シーラが手をわきわきさせながら言って、グレイスがくすくすと笑うのであった。



 そんな調子の、のんびりとした公爵領への旅である。みんなからマッサージをしてもらって、俺も身体が軽くなった感じがある。
 道中、ウィスネイア伯爵の治める港町にも立ち寄り、事務関係の魔道具を渡してから公爵領へ向かうことにした。

「お久しぶりです、ラウル伯爵」
「これはテオドール公」

 と、港まで出迎えに来てくれたウィスネイア伯爵家の面々に挨拶をする。伯爵夫人のトリーシャと、令嬢のオリンピアも一緒だ。
 オリンピアは嬉しそうに駆け寄ってきて、マルレーンと手を取り合って再会を喜び合っている。年齢も近いし、大人しい子同士ということで、仲が良いようで。
 コルリスやラヴィーネ、動物組にも嬉しそうに抱き着いていた。

「実は公爵との約束がありまして。今から西へ向かうので、行きに関してはあまりゆっくりはできないのですが……お渡ししたいものがあったので立ち寄らせて貰いました」

 と、計算機や事務用ゴーレム。押印機を伯爵に見せて、使い方を説明する。

「ほほう。押印機……ですか」
「任意の印鑑をここに組み込んでやれば、後は力を入れたり朱墨を毎回つけずとも手軽に印が押せるようになります」
「これは素晴らしい……。どうもあの作業は私には窮屈でしてな」

 と、伯爵が肩に手をやって苦笑する。ラウル=ウィスネイア伯爵は筋骨隆々、巨躯の武人ではあるが、そんな人物でもというか、そんな人物だからこそ執務の印鑑押しのような細かな作業は窮屈に感じるのかも知れない。

「陛下にも献上したのですが、これが随分喜んでいただけました。執務が捗るということで、領主の皆様方には積極的に広めていこうという方向で話が進んでいるのです」
「なるほど。そういうことでしたか」
「計算機もそうですね。試作品を用いてもらって、事務仕事が効率化してくれるなら普及にも繋がるかなと期待しているところです。詳しい使い方はこの紙に記してあります」
「これはかたじけない。では……早速領地でも家臣に活用してもらって、感想を境界公への報告として纏めておきましょう」
「よろしくお願いします」

 それから伯爵と今後の予定について軽く話をする。
 すぐに出立すると聞いて残念がっていたオリンピアであったが、帰り道は伯爵領で泊まって行くという方向で話が纏まって、随分と上機嫌になっていた。

「では……そろそろ出発することにします」
「はい。では皆様のお帰りを楽しみにしておりますぞ」
「また、きてね」

 カイトス号に乗り込み、ウィスネイア伯爵家の面々に見送られる。オリンピアは舌足らずな口調でそう言って手を振ってくる。

「ええ。必ずね」

 クラウディアがマルレーンと一緒に手を振りながら答える。コルリスやリンドブルム達動物組も、オリンピアに応じるように、手や尻尾を振ったりしている。オリンピアは笑顔になると、更に大きく手を振る。

 そうして港から遠ざかっていき……やがて伯爵家の人達も見えなくなる。白い港町――ウィスネイア伯爵領を離れ、カイトス号は、青い青い海の上を進む。

「海がすごく綺麗!」

 と、テンションを上げているリリーである。
 南西部の海は確かに、透明度が高いので雰囲気がいい。山育ちのハーピー達はタームウィルズ近隣の海岸しか知らなかったというのもあるが、暖かで明るい南西部の海をすっかり気に入ったようだ。セイレーン達にとっては地元であるので、そんなハーピー達の反応に上機嫌である。

 そんなわけで速度を落とし、みんなで甲板の上に出て景色を楽しみながら少し遅めの昼食をとるということになった。
 大きな鍋で米を炊いたり、魚を塩で焼いたり、豚汁を作ったりして。それをみんなで食べながらカイトス号は西へ西へと進んでいく。
 そうして――やがて公爵の直轄地が水平線の彼方に見えてくるのであった。
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