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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外38 ハルバロニスの行く先

 オーレリア女王とレアンドル王の訪問も一段落。カイトス号も出来上がり、ドリスコル公爵とセイレーン、ハーピー達の予定をすり合わせてと、西への旅の準備も整って来た頃、ハルバロニスに帰っていたフォルセトから体制移行等の所用が済んだと連絡があった。

 シオン達と連れ立って転移でハルバロニスへ向かうと、そこには長老達とフォルセトが揃って待っていた。

「無事旅行からお帰りになられたようで何よりです」
「ありがとうございます。フォルセトさん達もお元気そうで何よりです」

 笑顔で挨拶してくるフォルセトにこちらも挨拶を返す。

「フォルセト様!」
「ふふ、あなた達も、元気そうで何よりです」

 と、シオン達がフォルセトに笑顔で駆け寄る。そんなシオンの様子に長老達が微笑ましいものを見るように笑みを浮かべた。それから俺に向き直ると一礼してくる。

「御足労かけて申し訳ありませんな」
「いえ。長老の皆様方はバハルザード王国の王都から戻ってきたばかりと聞きましたが、お疲れではありませんか?」
「問題ありませんぞ。ファリード陛下は日程に余裕を作って下さいましたからな」

 なるほどな。

「いや、しかし移動中の連絡が取れずに申し訳ない。オーレリア陛下が地上においでだったというのに、間が悪いことで」

 バハルザード王国は……王家が砂漠や山岳地帯、草原にいる沢山の部族達を纏めている。その会合があったそうで、長老達もそれに参加しなければならなかったのだ。ハルバロニスは正式にバハルザード王国に組み込まれる形になったので、色々話し合うことがあったそうだし。
 一方でハルバロニス内でも調整することがあったりでゴタついていたようで、長老達不在のところにオーレリア女王が地上に降りてきたので、今回の訪問帰還中には些かタイミングが合わなかった。

 というわけで次回、オーレリア女王が幻影劇場の落成式で地上に来る際は引き合わせができるように調整を、という方向で話が進んでいる。その際なら、今後のハルバロニスの方針や扱いについてなども色々話ができるから、というわけだ。

「ファリード陛下との間での取り決めについては、テオドール様にも報告せねばなりませんな。とはいえ、我らに利のある話ばかりで、寧ろ戸惑っているのですが」

 と、取り決めについて色々教えてくれたが……結論を纏めるならハルバロニスの独立性は確保されているし、自治についても干渉しないが王国の一部として庇護はする。その一方で作物の生産量を増やせるのならバハルザード国内に流通させる分を増産してほしいとのことで。増産能力についてはハルバロニスにはかなり余裕があるため、長老達も了承したとのことである。

「ファリード陛下は……先王が暴君で、前宰相が佞臣だったために色々苦労していますからね」
「将来に渡って王家がその轍を踏まないように、ということなのでしょうね」
「ファリード陛下も思慮深い方ですからね」

 俺の言葉に、クラウディアとアシュレイが頷く。

「そう、なのでしょうな」

 俺が言うと長老達は目を閉じて感じ入っていた。ファリード王との話し合いを思い出しているのかも知れない。
 長老達の話では、季節問わず作物を生産できるハルバロニス自体が、砂漠の国であるバハルザード王国にとって重要な場所になるとファリード王は見ているようだ。

 そしてハルバロニスとヴェルドガル王国との結びつきが強くなれば、将来に渡って暴君などが出た場合への抑止力になるから安心、などとも言っていたらしい。

「仮にバハルザード王家との仲が険悪になって……ハルバロニスが窮地に陥れば、月の民の関係からヴェルドガルや月の王家に救援を求めるという状況は考えられるわね。そうなると王家もバハルザードにとって重要な、ハルバロニスを無碍に扱うことはできない、と」

 ローズマリーが羽扇の向こうで思案しながら言った。
 バハルザード王国国内にあって独立性の高いハルバロニスではあるが……これを庇護することにより、王家と良好な関係を維持しておくことこそが重要、という方向性に持っていきたいと考えているわけだ。このへん、国内の混乱から国を立て直したファリード王らしい。王でありながら、王権に制限をかける方法を模索しているというか……。

「何となくヴェルドガル王家とクラウディア様の関係を彷彿とさせるお話ですね」
「迷宮との契約ね。影響を受けた部分はあるのかも知れないわね」

 グレイスが言うとステファニアが頷く。まあ、そうやって真っ当な友好関係を築いていくというのは良い話だ。マルレーンもその話ににこにことしていた。
 というわけでヴェルドガルやフォレスタニアとハルバロニスとの交流は色々な意味と方面から推奨される。その点現時点でもハルバロニスとは魔石や作物、食材等で、白米と交換してもらうなど、規模は小さいながらも交易に近い事をしている。

「というわけで、今回の手土産です」
「おお、これはかたじけない。こちらからお渡しする白米も用意してありますのでな」

 新たな作物やら食材を手渡すと、長老達も笑顔で応じてくれる。
 白米と色々な物資の交換は……ヴェルドガルでも米の生産が始まれば落ち着くのだろうが、その頃にはバハルザード王国有数の穀倉地帯としての地位をハルバロニスが確保している、というわけだ。

 一方でヴェルドガル、フォレスタニアとハルバロニスの先々についてはどうかと言えば、魔法絡みの技術協力や交流などもあるので、将来に渡っての関係も安泰、というところではあるか。

「フォルセトさんについてはどうなりましたか?」

 久しぶりの再会でシオン達もテンションが高くフォルセトにべったりであったが、それも落ち着いてきたようなので尋ねてみる。

「私については――予定通り隠蔽結界の管理者からは引退し、後進に席を譲る、ということで話が纏まりました。これからはフォレスタニアに留まり、ヴァルロスやベリスティオの慰霊や、魔人達との友好、迷宮の平穏に尽力させていただければと考えております」
「分かりました。改めてよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」

 フォルセトは俺の言葉に静かに微笑む。

「差し当たっては、ドリスコル公爵領の古城探索のお手伝いをさせて頂ければと思いますが……」
「危険が予想されますが……というのは、言うだけ野暮かも知れませんね」
「魔法の罠とか、そういうのは私はよく分からないし、多分そういう場所。テオドールやマリーや、みんなが頼り。フォルセトも、頼りにしてる」
「僕達も頑張ろう!」
「うんっ、シオン!」
「ん……頑張る……」

 シーラの言葉にシオン達がやる気十分という表情で言った。いや、シグリッタはいつも通りだが。

「ふふ、ありがとうございます。私もご期待に応えられるよう頑張りますので」

 フォルセトはそんなシーラの言葉と、シオン達の様子に相好を崩して言うのであった。
 そんなわけでこれからタームウィルズに戻って準備を整え、ハーピーやセイレーン達と合流したらいよいよ出発という予定であったが……。一応その前にフォルセトの体調は聞いておきたい。

「フォルセトさんは、お疲れではありませんか?」
「大丈夫ですよ。特に疲れてはいませんし、飛び入り参加ですからお気になさらず」

 うん。フォルセトの立場としてはそうなってしまうだろうけれど。

「マリオンさんやヴェラさん達も一緒だし、道中のんびり呪歌曲を奏でながらなんていうのも、悪くないんじゃないかしら?」

 と、イルムヒルトがにっこり笑う。
 そうだな。フォルセトに関してはハルバロニスで忙しかった分、呪歌曲で気力体力を回復させつつ空の旅を楽しんでもらえればとも思う。
 確かに古城探索も目的ではあるのだが、月光島にも立ち寄るし、カイトス号も静かな飛行が売りだからな。フォルセトにはシオン達と一緒に、のんびり骨休めの時間を作ってほしいところだ。
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