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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外37 再会の約束を

 試作型の貨物船に関しては順調に開発が進めばそのまま1番船として活用するようになるので、まずは奇をてらわずオーソドックスなデザインに、という話になった。
 女神像をあしらった船首。船首から甲板の手摺へと装飾と塗装を施すことで……ずんぐりとしたシルエットながらも落ち着いたデザインになったように思う。

 そうして意匠も決まったところで貨物船に浮遊炉や魔道具を組み込んで動作試験をしたりと、船の完成に向けて仕事が進んでいく。
 負荷がかかった際の浮遊炉の出力や均衡を保つ感度等々、調整がシリウス号とはまた違うので、そのあたりは慎重に安全確認しなければならない。

「ふむ。今日は何をするのかの?」
「魔道具は組み込み終わりましたし、貨物船としての最終的な安全確認が必要になってきます」

 と、アウリアに答える。オーレリア女王達、月とドラフデニアの見学メンバーに加えて、今日はメルヴィン王とアウリアも造船所に来ていたりする。貨物船が動かせる状態になったので、メルヴィン王も視察に来たのだ。
 アウリアは休憩時間を使って遊びに来たようだが。
 渡した事務用の魔道具の調子がいいらしく、今日の分の仕事はしっかりこなしてきたぞ、と胸を張っていた。

 まあ……これでアウリアも、必要な仕事ならしっかりこなすから問題はないだろう。
 というわけで、安全確認の作業に移るとしよう。
 大量にゴーレムを作り出し、貨物として積んでいく。船倉に積み重なるように所狭しと配置。バロールを残し、船倉内部のゴーレムの制御を任せる。

「では、始めます」

 他の誰も貨物船に乗せず、艦橋に移動。そうして船を浮上させる。ゆっくりとした速度で海へ移動しながら、貨物船を旋回させる。貨物船の操船感覚は……何というか癖のない、素直な印象だ。
 そこで――積荷となっているゴーレム達を制御し、船倉の一方に偏らせたりと、重心の位置を様々に変えて、浮遊炉の均衡の取り方やその際の船の挙動への影響等を細かく調べていく。

 積み方が最初から悪かった場合。或いは荷崩れを起こした時。そういった事態を想定して、船倉内部のゴーレムを色々と動かしてみる。
 ゴーレム達が雪崩を打ったように一気に中心から外側に動いても、浮遊炉が即座に反応して微細な均衡を保ってくれる。
 船が僅かに傾いて、すぐに水平に戻る。ゴーレムを動かして傾ければまた浮遊炉が反応して水平を保つ。その繰り返しだ。七家の長老達の行った浮遊炉の調整は、かなりの精度だと言えよう。
 そうやって浮遊炉に余計な仕事をさせればさせただけ魔石が蓄えた魔力を消耗してしまうというのはあるが……。シリウス号とはまた少し作りが違い、艦橋のメンバー全員から魔石に魔力を補充できるような作りになっているのだ。

 船にはしっかりとした魔力を持つ人員を乗せる必要はあるのだろうが……魔法を使えない面々でも魔力は持っているものだ。リソースは無駄にしない、という方向のコンセプトである。
 魔力の残量が乏しくなって来れば高度が下がる作りになっているし……後は艦橋にマジックポーションを常備しておけば問題も起こるまい。
 そうして実験を終えて造船所に戻る。

「お疲れ様、バロール」

 と、貨物船を土台の上に戻し、船倉でゴーレムの制御をしていたバロールに労いの言葉を掛けると、バロールは目蓋を瞬かせて俺に返事をして、それから肩に乗っかってくる。
 後部ハッチを開いてゴーレム達をぞろぞろと下船させる。

「どうだったかしら?」

 そうしてゴーレム達と共に船から降りたところで、お祖父さんと一緒にやって来たヴァレンティナに聞かれる。

「問題無さそうですよ。結構派手にゴーレム達に動いてもらいましたが、かなり安定して飛んでいられましたから。浮遊炉に負荷がかかった際の魔力消耗量増加もまあ……許容範囲内ではないかなと」
「ふむ。安全性はかなり高いと考えて良さそうじゃな」
「そう思います。船は安定性が高いので頻繁な荷崩れが起こるような状況を想定するなら、飛行する大型の魔物に襲われることぐらいかなとは思いますが。それでも魔力消費があの程度なら、逃げるための魔力も充分確保できますし……そもそも街道回りから大きく外れるような航路は取らない予定ですからね」

 だから、魔物に襲われるような状況そのものが考えにくくはある。
 だからと言って対策を放棄するというのはあまりに楽観視が過ぎるので、シリウス号の運用と同様、小回りの利く飛竜と騎士を乗せて有事に備えるというのが良いだろう。魔物だけでなく、ハイジャックをしようとするような輩への抑止力にもなる。

 とりあえず、安全性の確認実験に関しては問題無く終了ということで……約束通りこのままみんなを乗せての遊覧飛行といこう。シリウス号程の速度は出ないが、タームウィルズ周辺の景色を楽しむ分には何の問題もないからな。

 艦橋にみんなで乗り込み、席に着いて帯を締めたことを確認してから貨物船を再び浮上させる。そのまま、造船所から海の上へ移動して空からの景色を楽しむ。
 シリウス号よりも全体的なスペックは抑えめではあるのだが、浮遊炉の精度の関係上からほとんど揺れない、乗り心地の良い船だと思う。公爵領への旅も、この分なら中々快適なものになりそうだ。

「新しい飛行船の試験飛行に立ち会えるというのは……うむ。良い時期に居合わせたものだ」
「これから先、あちこちの国に飛行船が広まっていくのでしょうね」
「歴史の転換期に立ち会えたということかしら。感慨深いわね」

 レアンドル王やペトラ、オーレリア女王は艦橋から見える景色を楽しみながら、そんなふうに言っていた。

「そう言えば……この船の名前は決まっておるのか?」

 と、アウリアが首を傾げる。

「いえ、それはまだですが……ええと」

 みんながこちらに何か期待するように視線を向けてくる。何だか……命名の仕事が回って来ることが多い気がするな。

「僕で良いのでしょうか」

 と返すと、メルヴィン王達は揃って頷く。

「シリウス号からしてそなたの命名であるからな。貨物船を手掛けたのもそなたであるなら、船の名付けをするのは道理であろう」

 むう。俺もそんなに命名の引き出しが多いわけではないのだが。
 そう言われて考える。シリウス号とアルファが星にちなんでのものだし……そちら関係の由来で名付けていくというのが、姉妹船や貨物船が増えた後でも名前を考えるのに困らなくて良さそうだ。

「……カイトス号、というのはどうでしょう?」

 カイトス。星座や恒星関係でもあり、クジラを意味する言葉だったはずだ。ずんぐりしたフォルムがそれっぽいかなというところからの命名である。

「カイトス号か。うむ。良い名ではないか」

 メルヴィン王が言うと、七家の長老達もうんうんと頷いた。
 カイトス号はのんびりとした速度で、タームウィルズの周辺を飛んでいくのであった。



 カイトス号の試験飛行も終わり――レアンドル王やオーレリア女王が帰る日がやってくる。どちらも転移で送っていく形なので見送るのも俺達、という形だ。
 メルヴィン王達が見送りに楽士隊の列を用意し、そうしてみんなと共に月神殿へ向かう。月神殿に到着したところで、別れを惜しむように言葉を交わす。

「また幻影劇場の落成式に顔を合わせることになるとは思うが……あまり長い間国元を留守にするわけにもいかんからな。再会を楽しみにしている」
「僕もです。ドラフデニア王国では沢山の物を見せて頂きましたし、それを無駄にしないように頑張りますので」
「それはまあ……余では無く、ペトラの功績ではあるな」
「かなり参考になるお話を聞けましたので、彼女には感謝していますよ」

 そう言うと、ペトラはとんでもないといった表情で居住まいを正した。

「それを言うなら、私こそ沢山勉強させていただきました。貴重な秘術の数々や、境界公の研鑽された魔法行使の精髄、ヴェルドガル王国の技術……どれも素晴らしかったです」
「ふむ。ドラフデニアの将来のことを考えるのなら、ペトラや他、将来有望な者の……ヴェルドガル王国への留学を考えても良いな」
「それは……」

 レアンドル王の言葉にペトラは目を見開く。

「良いのではないか。ドラフデニアとヴェルドガルとの交流が増えるのなら、我等もここに遊びに来れる機会が増えるし」

 と、ロベリアはにんまりと笑う。
 ペトラの師に話を通したり色々調整する必要があるからこの場では明言できないが、とレアンドル王は言葉を付け加える。
 恐らく、幻影劇場が落成する頃合いにそれらの話も進むのだろう。

「私も、地上に降りて良かったわ。先人が何を思い、何を選択したか。その結果がここにある。地上を知ることで、月を治めることの意味を改めて考えることができました」

 オーレリア女王はそう言って、何か眩しいものを見るように目を細めた。

「これから先、地上との交流も増えるわ。そうなれば交代で地上に常駐する担当官を任命しなければならない。エスティータやディーン達にも、もしかすると苦労させるかも知れないけれど」

 どうやらオーレリア女王は、その担当官にエスティータ達を、と考えているようだ。勿論、エスティータ達が地上が苦ではないならという条件が付くのだろうが。

「とんでもありません。地上との親善の礎になれるのなら、望むところです」
「姉さんの言う通りです。僕もその、地上の景色とか綺麗で大好きですよ」

 と、姉弟はそんなふうに答えていた。
 オーレリア女王も人事に関しては帰ってから相談して、詳しいことを幻影劇場周りで再び地上に招待された際に伝えられるようにする、とそんなふうに言った。

 次の再会は幻影劇場の落成式ということになるか。
 一時の別れではあるが……各国の王をしっかり迎えられるように気合を入れていきたいところだ。差し当たっての仕事は公爵領での約束だな。頑張っていくとしよう。
 そうして、俺達はみんなと共に、オーレリア女王とレアンドル王達を転移で見送ったのであった。
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