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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外36 船の顔

「お茶が入りました」
「焼き菓子もあるわよ」

 造船所にある施設からテーブルを持って来て、そこにいそいそとティーセットを並べるグレイス達。ローズマリーも魔法の鞄からお茶請けを用意する。

「ああ、ありがとう」

 と、オーレリア女王に笑顔で礼を言われてマルレーンがこくんと頷き、イルムヒルトがリュートで和やかな音楽を奏で始める。
 見学モードのみんなの様子に和まされつつ、早速作業に移る。
 飛行船を建造する土台の上で、船の基礎となる骨組み――竜骨から作っていく。
 材料となる金属素材は、レビス合金という。迷宮の鎧兵を素材として錬金術で加工を施したもので軽量の割に頑丈というのがその特徴だ。

 闘気との相性があまり良くないので、武器や防具に加工する場合は一長一短であるが……機械的な武器の部品であるとか、船の建材や装甲として組み込むのならお誂え向きだ。
 マジックサークルを展開し、素材を光球の中に溶かして船の基礎となる部分を作っていく。竜骨を作って、それから梁や骨組みを形成していく。

「凄い速度で船ができていくのですね……」
「骨組みと船体に関しては、まあそうですね。魔道具が組み込まれていないので仕上がりはもう少しかかります」

 エスティータの言葉に応える。
 続いて使用するのは木材だ。輸送船として日常で目にするものなので、外装や内装として使うことで見た目にも安心感のあるものであることが望ましい。
 高空を飛ぶわけでもないし戦闘用でもない。重量、コスト、メンテナンス性も考えて木材を積極的に使用していくが……ここに紋様魔術で構造強化や耐火、耐圧の処理を施していくので、通常の輸送船の運用で想定されるより限界値はかなり上になる。木魔法で形を整えながら、二枚合わせにしたその内側に紋様魔術を施し、骨組みの間の空間を埋めて船体を作っていく、というわけだ。

「ふむ。紋様魔術による強化か。これでどの程度の耐久性になるのかな?」

 と、レアンドル王が首を傾げる。

「実験では……ファイアストーム程度では焦げ1つつかないぐらいにはなりました。勿論、剣や斧等でも、そう簡単には傷付けられません」

 流石にシリウス号には及ぶべくもないが、木材とは言え下手な金属装甲よりも頑丈だ。

「むう。輸送船と聞いていたが相当なものだな」
「火に風を送り込むと勢い良く燃えますが……こうして空を飛ぶものは常に風を受けているわけですから、特に火災対策に関して気を遣った結果そうなったと言いますか」

 航空事故で火災が起こると被害が大きくなるというのはそのあたりに理由がある。自分の速度で燃焼の勢いを高めてしまうわけだ。

「なるほど。素晴らしい設計ですね」

 魔法絡みと自然科学の混在した話に、ペトラは食い入るように船体を眺めている。

「二枚合わせにしているのは、内側の紋様魔術そのものを守るためね」
「そうです。同時に断熱、耐圧の効果を高める構造としても機能しているわけです」

 と、オーレリア女王の疑問にも答える。
 そうして木魔法での船体作りを進めていく。基本的なデザインは……やはり船を元にしている。
 両脇に翼が生えて、艦橋となる部分が甲板後方に迫り出しているという点は、シリウス号を踏襲している。
 外装には木材を使っているからか、シルエットと相まって……見た目はややレトロ感のある仕上がりとなった。

「ふむ。何となく愛嬌のある風貌をしておるのだな。我は好きだぞ!」

 ロベリアは高所から船の全体像を見て、笑顔を浮かべてそんな感想を漏らした。ロベリアがサムズアップしてくるのでそれに俺もサムズアップで応じた。にやっと嬉しそうに笑うロベリア。
 どこでそんなジェスチャーを覚えたのか。シーラとかコルリスとかアウリアとか……心当たりが多くて困るな。

 肝心のデザインについてだが……戦闘機動を求められるシリウス号とは違い、輸送力と安定性が求められるので船底側に向かうにつれてやや広くなっていく作りになった。ずんぐりとして丸みを帯びた、安定感のある形状だ。

「シリウス号は壮麗という感じがあるが、こちらはまた随分と印象が変わってくるものだな」
「輸送船ですからね。日常で見て、親しまれる形にしたかったというのはあります」

 とりあえず、ロベリアの反応を見る限りでは、意図した方向性のデザインにはなっているかな。

 外側の形ができたら続いて内部を仕上げていく。重心の取りやすい位置に船倉や船室を配置。左右には移動用の通路を配置。後部ハッチが開き、荷物を船内に一気に積み込める仕様になっている。
 艦橋の真下に動力室。浮遊炉を船の重心のある場所に配置する作り。動力室と浮遊炉はレビス合金の隔壁で覆われており、艦橋からメンテナンス用の通路を通らなければ向かうことができないという、船員以外の第三者が関われる場所から隔離されている形だ。

「実物を見てみて、どう? 防犯上、何か気付いたことは?」
「ん。ここは問題無い。あっちの通路は、壁の上半分を無くして――例えば手摺にするとか硝子張りとかすれば、見通しが良くなって安全かも」
「ああ。いいね。その案は採用かな。その場合……強度はどうかな?」
「んー。大丈夫だと思う」

 と、シーラやセラフィナに相談して実物を見てもらいながら船体に微調整を加える。
 そうやって船体内外を作っていけば、後は浮遊炉や動力を置き、ミスリル銀線で回路を通し、必要となる魔道具等を組み込んで、一先ずの完成だ。

「では、浮遊炉の組み込み等はお願いします」
「うむ。任せておけ」

 と、お祖父さんがにやりと笑う。
 浮遊炉、動力の設置はお祖父さんや七家の長老達が進めてくれる。アルフレッドの作業も軽減されるというわけだ。
 残りの俺の仕事としては……ミスリル銀線の回路を通したり、細かな部分の装飾をどうするか考えることだろうか。

「試作型の輸送船ではありますが、試験運用して問題が無いようなら基本的な形はこれで行こうかと考えております。もし良ければ装飾をするにあたり、みんなと一緒に相談に乗って頂ければとも思うのですが」

 と言うと、オーレリア女王とレアンドル王達は顔を見合わせて、それから揃って嬉しそうな表情を浮かべた。

「それはまた……嬉しい話だな」
「確かに、役得ね」

 というわけで、土魔法の模型をテーブルの上に置いて、ああでもないこうでもないと、皆でアイデアを出し合う。模型の段階ならいくらでも実験的なことができてしまうからな。

「船首部分は……少し凝った意匠にしたいですね」
「そうねえ。何せ、船の顔だもの」

 アシュレイとローズマリーが言うと、ステファニアも頷く。

「船首の意匠が決まれば、全体の雰囲気もそれに合わせることになるものねえ」
「輸送船は一隻というわけではないのだし……同系の船でありながら別々の意匠……というのはどうかしら?」

 と、クラウディアが言う。

「おお、それは良い。沢山の案が採用できるわけだしな」

 その分話し合いの時間も増えるわけだが……まあ、みんな寧ろ盛り上がっているようだから、そこは問題とはなるまい。

「ちなみに輸送船の長距離試験飛行は、僕達がドリスコル公爵領に向かうのを兼ねて行う予定です。それまでに短距離の試験飛行等も行いますが……そちらには陛下達も滞在日程的に乗船できそうですね。勿論、安全が確認できてからの話ではありますが」

 ある程度移動して使い勝手を見るというのも重要である。
 アルファも普段使い用の器が出来たので、シリウス号を休養させつつ旅に同行なんてことも可能だ。

「それはまた……至れりつくせりね。本当、地上に降りて良かったわ」
「うむ。余も同感だ。土産話が増え過ぎて、国元に戻ったら何から話せば良いのやら」
「全くだわ。言葉で伝えきれないと、側近も困ってしまうのではないかしら」

 そんなことを言い合って、オーレリア女王とレアンドル王達は楽しそうに笑うのであった。
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