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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外35 湖と輸送船と

 城内の見学をしたり、小舟で湖に繰り出して、湖底の宿泊設備を見に行ったり。オーレリア女王達やレアンドル王達と一緒に領地を巡ることになった。

「これは、テオドール様」
「こんにちは」

 というわけでフォレスタニアの湖に繰り出せばグランティオスの民が挨拶をしてくる。ヴェルドガルとグランティオスの正式な国交が結ばれたことで互いに割合気軽に来訪できるようになったのだが……フォレスタニアに遊びに来る者もいれば、迷宮に魔石を集めに来るためにここで休息を取る者と、色々だ。どちらにせよフォレスタニアの湖は安全で居心地がいいため、滞在施設として人気があるようで。

 彼らが迷宮を潜る先としては、やはり魔光水脈が主のようだ。水路の中なら十全に力を発揮できるし他の冒険者とも競合しない。ギルドの話では魔光水脈の陸上部分の探索も、水中からの不意打ちが減るので楽になっている、とのことである。
 そして魔光水脈産の魚介類が市場に沢山並ぶので、俺達としても恩恵に与れる、というわけだ。

「こんにちは!」

 と、親子連れなのか、子供のマーメイドも水面に顔を出して挨拶をしてくる。

「はい、こんにちは」
「ふふっ」

 グレイスが挨拶を返し、マルレーンがにこにこしながら手を振ると、その子も大きく手を振っていた。そんな光景にみんなが微笑ましいものを見るように表情を緩める。

 そうしてそのまま船で湖上を行く。

「ああ……。本当に綺麗ですね」

 エスティータが鏡のように遠くの風景を映し出す、湖面を見ながら呟く。みんなも遠くの景色に見惚れていたようだが……そこに近付いて来た影が1つ、2つ、3つ。

「姿を見かけたので、挨拶しに来た」
「お邪魔していますよ」
「こんにちは、テオドールさま」

 と、水中から次々顔を出したのはペルナスとインヴェル、そしてラスノーテの水竜親子だ。ペルナス達も、最近はフォレスタニアの湖に来てのんびりしている事が多いようで。グランティオスの民と交流もしているらしい。
 ヴィンクルが嬉しそうに声を上げてペルナス達に挨拶をする。

「ああ、こんにちは。今日は賓客を案内してるところなんだ」

 と、ペルナス達にオーレリア女王やレアンドル王達を観光案内しているところだと説明して、互いに初対面の面々を紹介する。
 流石に竜の出現には驚いたようだったが、オーレリア女王やレアンドル王、ロベリアに関して言うなら立ち直りが早い。普通に水竜親子に自己紹介をしていた。

「高位精霊に竜の親子にと……テオドール公もよくよく顔が広いな」

 と、レアンドル王が苦笑する。

「ああ……竜をこんな間近で見られるなんて思いませんでした。本当、ヴェルドガル王国へ同行させていただいて……もう感無量です……!」

 ペトラがそう言うと、ペルナスは何か思うところがあったのか首を傾げる。

「ふむ。湖底の設備を見学に来たというのなら、そなた達さえ良ければ我等の背中に乗って向かってみるか?」
「ああ。それは良いですね。観光だというのであれば、珍しい経験というのは多ければ多い程良いのでしょう? どうせならぐるりと湖の中を巡って来ましょうか」
「え、ええっ!?」

 ペトラは驚いているが、水竜親子はそんな反応を楽しんでいるようで目を細めていた。
 折角の申し出を断る理由もない。水中呼吸の術を用いてみんなでペルナスとインヴェルの背中に乗ってフォレスタニアの湖底へ向かう。

 妖精達は湖の中に入るのは初めてだからか、かなりはしゃいでいる様子が見て取れた。ラスノーテも妖精達なら乗せるのは簡単だと背中や頭の上に満載しているが……妖精達は滑らかな竜鱗の手触りを気に入ったのか、興味深そうに鱗を撫でたりしていた。そんな妖精達の反応に、ラスノーテがくすくすと笑う。

 湖の中は上からの光が差し込んでおり――水が澄んでいて透明度が高いので、かなり見通しが良い。青と緑に彩られた世界は見惚れるほどに綺麗だ。その中を、ペルナスとインヴェルの背中に乗って巡る。

 湖底の、遺跡風の設備からも照明の魔法の明かりがゆらゆらと揺れていたり、どこからかセイレーンの歌声が聞こえてきたりと……湖上から見ているのとはまた違った、何とも幻想的な空間であった。

 そんな調子でフォレスタニア観光は進んでいき――。オーレリア女王達とレアンドル王達には、かなり楽しんで貰えたようだ。

 明日以降はアウリアやオズワルド、それから騎士団のミルドレッド、メルセディア達と共に迷宮に潜ってみるとのことである。案内役、護衛役としてはこれ以上ない人選ではあるだろう。
 オーレリア女王とレアンドル王、そしてその側近達も実力者が揃っているので戦力に関しても十分。迷宮の見学や体験ということで、そこまで危険度の高い場所には向かわないという話であるし。
 ロベリアに関しては小さい者も沢山いるから、レアンドル王滞在中は眷属達が安全にのんびりできるようにと、タームウィルズやフォレスタニアで過ごすことに決めたようだ。



 さて。境界公として領主になることが決まってから、新しい生活や領地経営がどうなるやらと不安もあったのだが……領主生活も順調に軌道に乗って来ているような気がする。
 フォレスタニアは来訪者の数も伸びているし、警備関係、実務関係も体裁が整って人材の層が厚くなってきた。

 何より魔人との決戦のような戦いが控えているわけでもないから、短期的な予定にしても長期的な予定にしても余裕があるというわけだ。
 そんなわけで日々の過ごし方と言えば……みんなとの時間を充分に取り、朝はのんびりとした頃合いに起きて、食事をとってから執務をこなす。それから領地の視察を行ったりといった、割合余裕のある時間の使い方になる。それに加え、今はオーレリア女王やレアンドル王が滞在中だから、遊びに来れば対応するという流れになる。

 今日は……造船所に用があるので、フォレスタニアから出てタームウィルズ西区の造船所へと向かった。
 七家の長老達の手により飛行船用の浮遊炉の製造が進んでいるのである。シリウス号の姉妹船や、輸送船の建造計画が進行中だ。
 特に……姉妹船用の素材の準備はともかくとして、輸送船に関してはそこまで特別な素材を使うわけでもないからな。

「ああ、テオドール君」

 造船所に到着すると、七家の長老の1人であり、シャルロッテの父親であるエミールが明るい笑みを浮かべて挨拶してくる。

「こんにちは。作業のお手伝いに参りました」

 こちらも挨拶を返す。まず輸送船を試作していこうという話になっているのだ。動力源となる魔石にしても、戦闘用ではないのでそこまで大出力を要求されない。負荷がかかった際の浮遊炉の能力を高めることで輸送能力が高くなるように調整している。

 骨組みの素材は強固なものにし、船体の素材は軽量なものに。代わりに紋様魔術で強度を確保するという寸法だ。動力源と浮遊炉、輸送能力周りの兼ね合いを考えた調整である。
 これに加えて契約魔法を用いて有事の際に外部から出力制限が可能なようにすることで、万が一ハイジャックされるなど、悪用されそうになった場合に動力を低下させて航行不能にできる。

 最低限の出力は残っているので、自然に低空まで降下してくる。高所から墜落させたり重要設備に持っていって特攻させたりといったテロは不可能になるというわけだ。後は通信機で外部への非常事態を連絡可能にしておけば完璧である。

 魔石に組み込まれた術式等を点検しつつ、建造作業を進めていると、造船所にオーレリア女王達とレアンドル王達も見学にやって来た。アウリア達も一緒なので、迷宮探索に行ってきたのだろう。
 挨拶をしてから迷宮の感想を聞いてみる。

「迷宮探索はどうでしたか?」
「いや、実に興味深い体験だった。アンゼルフ王も迷宮に潜ったとなると、中々に感慨深いものがある」
「ゼファードと共に暴れられる場所、ということで幻霧渓谷に足を運んだのじゃがな。まあ、レアンドル陛下もオーレリア陛下も強いこと強いこと。案内役や護衛といっても、そこまで出番はなかったのう」

 と、アウリアが言うと、オーレリア女王が頷く。

「魔物対策や探索の方針を、私達主体で決めさせてもらえたから中々楽しかったわ。迷宮に寄り添ってきた人の営みはこういうものなのかしらとか……色々考えさせられました」
「それと……カノンビーンズの豆が必要とお聞きしまして」
「できるだけ集めてきました。調味料の元になるとか?」

 エスティータが微笑み、ペトラもそんなふうに尋ねてくる。

「ああ。それは助かります。もし良ければ味噌や醤油の原物もお土産として持っていって下さい」

 貰った分だけ増産できるしな。まあ、それはさておき……予定通り飛行船建造を進めていくとしよう。
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