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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外33 老騎士の訪問

 特別公演も終わって、再びタームウィルズに場所を移す。
 後は火精温泉でのんびりと過ごしてもらって、来訪の歓迎として予定していたスケジュールも消化というところだ。
 明日以降はフォレスタニアや迷宮に足を運んだりもする予定ではあるので、タームウィルズ観光はまだ続く予定ではあるが。
 オーレリア女王達は諸々満足してくれたようではある。主賓とは別に盛り上がっている面々もいるが。

「実に……有意義な時間でした。是非また一緒に演奏したいものです」
「それはまた。こちらこそ願っても無い話だ。今回の公演は、想像していた以上に楽しかった」

 と、マリオンとヴェラ。特別公演は行う側にとっても随分と刺激になったようで、次は月光島で、という約束をして盛り上がっている様子だ。
 ふむ。月光島の劇場に幻影の魔道具を取り付ける必要もある。公爵領には俺も訪れる約束をしているから、その時までに月光島での公演における幻影の内容も、色々と考えておこう。

 そんな調子で盛り上がる面々を見ながらオーレリア女王達を火精温泉に案内する。

「それでは、オーレリア陛下やロベリア様は私達が案内をしますね」

 グレイスが言う。

「うん。風呂から上がったら休憩所にいるから。また後でね」

 にこにこと笑って手を振るマルレーンにこちらも手を振り返す。一旦女性陣と別れ、メルヴィン王やレアンドル王、マルコムやアルフレッドと共に男湯に繰り出した。
 湯に浸かりながら先程の公演の話や、執務用の魔道具の話題で盛り上がる。

「そんなに素晴らしい魔道具なのですか」
「うむ。あれならば随分負担も軽減される」

 と言いながら肩に手をやるメルヴィン王の言葉に、レアンドル王がうんうんと目を閉じて頷く。
 印鑑押し疲れとでもいうのか。署名に切り替えたりして凌いだりもするそうだが効率が落ちる、とか何とかの話で盛り上がっている。長く執務を行っている面々ならば実感を持って分かる内容の話であるか。

「侯爵にお渡しする魔道具も用意してありますので、それについては後程休憩所で」
「おお。それは楽しみですな」

 マルコムが笑みを浮かべる。

「執務用の魔道具っていうのは、もっと色々作っていっても良いのかもね」
「そうだな。執務だけじゃなく、役人の仕事の補助になるようなものも必要かもね」

 簡単な所では穴あけ用のパンチ機とバインダーで書類のファイリングであるとか、タイプライター的な印字装置やコピー機であるとか……あれば便利なオフィス用品というものは色々思いつく。

 工房の生産能力も上がっているけれど……手を広げすぎるというのもなんだし、世に出したものの受け入れられ方やそれによる状況の変化を見ながら進めていくというのが良さそうではあるかな。



 男湯から上がってマルコムにも魔道具を渡し、みんなで休憩所で寛いでいると女性陣も女湯から上がってきた。

「ああ。良いお湯だったわ」
「気に入ってもらえて何よりだわ」

 頬を朱に染めたオーレリア女王に、クラウディアが笑みを浮かべる。

「我等は少し、遊泳所を見て来るぞ。セラフィナやアウリアと約束をしておるのでな」
「ちょっと行ってくるね」
「はい。いってらっしゃい」

 ロベリアはセラフィナと一緒に連れ立って、妖精達、花妖精達と共に休憩所のテラスからプールへと飛んでいく。アウリアは……ペトラと一緒にウォータースライダーで既にスタンバイしているな。満面の笑みで腰に手をやって、遊ぶ気満々である。水蜘蛛の糸で編んだ水着を着用しているのは……火精温泉用だろうか。
 動物組は流水プールでハーピーやセイレーン達と一緒に泳いでいるようだ。頭や背中に妖精達を乗せていたりするが。

「後で泳いでくるのも良いが……そうだな。余としては遊技場の品々が気になるのだが」

 レアンドル王は遊技場のビリヤードで遊ぶつもりのようである。
 メルヴィン王が付き合おうと立ち上がり、オーレリア女王もそれなら私も、とそれに続いた。まあ……皆色々と満喫してくれているようで何よりである。

 そんな調子で、歓待の夜は更けていくのであった。



 さて。明けて一日。
 昨日は訪問初日の歓待ということで演奏やら食事、温泉やらと、ベクトルは歓迎の意を示したり、楽しんでもらうことに向いていたが、今日は役人の仕事風景であるとか、南区のドワーフの工房を見に行ったりだとか、色んな場所を視察してメルヴィン王と意見交換をするなど、少し真面目な方向でのヴェルドガル見学を行うとのことである。

 午後からフォレスタニアも見に来る、ということなので、それまでに日々行うべき仕事をこなしてしまう。執務の他、ドリスコル公爵に通信機で連絡して、ハーピー達と共に領地に向かう日程を調整したり、新たに作る飛行船の模型を作ったりする。
 決戦前にあちこちで約束をしているから、それをしっかりこなさなければならない。
 公爵領の古城探索については、それなりの危険も予測されるし。
 ワグナー=ドリスコル。公爵家の祖先にあたる人物で、かなり高名な魔術師だったという話だ。召喚術を駆使して魔人と戦ったという記録も残っているから……相当なものだったのだろう。
 夢魔グラズヘイムもワグナーに封印されてしまったから、その子孫に復讐だ何だと動いていたようだしな。

 夢魔に魅入られてしまった公爵の弟――レスリー=ドリスコルに関しても体調はもう万全だという話だから、後は俺達とハーピー達の日程を調整すれば公爵領に向かえるだろう。

 執務をしながら通信機でやり取りをしていると、セシリアが執務室にやってきた。

「旦那様。お客様が参りました」
「ああ、分かった。すぐに行くよ」

 そう答えるとセシリアが一礼して退出していった。
 客――というのはオーレリア女王やレアンドル王達のことではない。まだフォレスタニア訪問には早い。
 みんなと共に居城に作った迎賓館の、応接室へと向かうと……そこに見知った顔があった。

「これは境界公。お忙しいところ申し訳ありません」
「いえ、お元気そうで何よりです」

 応接室で待っていたのは――ヴェルドガル王国古参の騎士であるゲオルグだ。中央から北方の領地へとステファニアと共に領地を預かる身として派遣されていたが、エリオットが領地を引き継ぐことになって、中央から出向していた者はタームウィルズに戻ってくることになったのである。

「旅行先では獅子奮迅の活躍だったとか。姫――いや、奥方様達も相当大暴れだったと聞きましたぞ」
「ふふ。コルリスが頑張ってくれてね。ゲオルグにも見せてあげたかったけれど」

 と、ゲオルグの言葉にステファニアが笑う。そんな反応にゲオルグは苦笑を浮かべた。

 ステファニアの領地の家臣というのは、王家の姫が領地を預かるということで中央からの出向組と地元出身の者に大きく分かれていた。ステファニアとゲオルグの人望もあって、反目なども起きずに上手く回っていたのは確かだ。

 エリオットの引継ぎに関しても……結構上手く行っているようではある。討魔騎士団の中にも北方出身の者はいたし、魔人との戦いにおいて功労者、英雄や勇者の1人と言われているエリオットの人望はかなり厚い。シルヴァトリアとエリオットの関係性も含めて北方の領地でもかなり歓迎ムードとのことである。

 とは言え、王家がステファニアに領地を統治させている状況も終わり、中央の出向組に関しては希望者はそのまま残り、中央に戻りたいものは戻る、という話になった。
 エリオットは新しく家臣を募集しつつ、地元出身の者や居残り希望の騎士や役人達と共に今後の統治を進めていくというわけだ。

 そして……戻ってきた者達に関しては、フォレスタニアの助っ人としてみてはという案が持ち上がっていた。
 フォレスタニアは迷宮の秘密等にも深く関わっているため、エリオットのところのように広く家臣を募集、とは言えない事情がある。俺の権限でフォレストバード達のようにスカウトすることはあるけれど。
 その点、ゲオルグやゲオルグの信用している中央の出向組なら、信用と実績のある顔触れが揃っているというわけだ。

 役人として色々実務をこなす人員も必要だしな。迷宮村の住人達もそれは可能ではあるのだが、読み書き計算ができることと、その面々を集めていきなり役所としての仕事が回せるかは別問題である。エリオットのところにそう言った人材はいるが、俺のところは不足気味で、後進を育てる意味でも助っ人の話は有り難い。

「フォレスタニアはどうでしたか?」
「いや、大変美しい場所ですな。他の者達も、迷宮に降りて来た時に景色の美しさに圧倒されていたようですぞ」

 と、ゲオルグは相好を崩す。気に入ってもらえて何よりであるが。

「もしゲオルグ卿さえよろしければ、力添えをお願いしたいのです。封爵はされましたがまだフォレスタニアは出来たばかり。人手が足りないところも多く……若輩故に至らぬ点もあるかとは思いますが、ゲオルグ卿や、皆様のお力をお借りできれば、心強く思います」
「無論です。フォレスタニアはヴェルドガル王国にとってというよりも、ルーンガルド全域にとっての安寧のための要衝。今後の平和の礎となるのであれば、この老骨めは、喜んでお手伝い致しましょう。他の者達も、同じ気持ちであることを確認しております」
「ありがとうございます」

 そう言って一礼し、ゲオルグと握手を交わす。そうしてゲオルグはにかっと笑って見せた。

「というよりもですな。皆、あの境界公と共に仕事をできる、というのを楽しみにしている様子でしてな」
「そうなのですか?」
「はい。まあ、私と気が合うという時点で、少々癖のある連中ではありますが」

 ゲオルグと気が合う、か。それは、中々剛毅だったり豪胆な性格が揃っていたりするのではないだろうか。
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