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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外26 魔力の塔

 腹這いに寝そべるコルリスに寄りかかってラヴィーネやフラミア、ベリウスの毛並みを楽しんだり、リンドブルムやヴィンクルの頭を撫でたりしてのんびり休憩させてもらう。
 魔力の自然回復はリラックスすることが重要だ。そういう意味ではこうやって動物組とのんびり過ごすというのは有効だろう。

 カドケウス達、魔法生物の面々も一緒だが、今回は作業も控えているので魔法生物達への魔力補給は自重している……というよりカドケウス達が遠慮しているようだな。

「魔力補給は、建築が終わってからかな」

 そう言ってカドケウスの喉のあたりを撫でてやると、カドケウスは小さく頷く。
 変身を解いているアンブラムが、緩慢な仕草でティーポットを持ち上げ、お茶はもう一杯どうかと尋ねてくる。

「んー。それじゃあもう一杯頼めるかな」

 そう言ってティーカップを渡すとアンブラムはゆっくり頷いてお茶を淹れてくれるのであった。そんな調子で、春の日差しの中、たっぷりと脱力したまま過ごさせて貰った。

 さて。作業中の皆はどうかと目を向けてみれば、魔法陣やら結界やらの下地はもうかなり出来上がってきているようだ。魔石を砕いた粉末で陣を描いていくわけである。
 地脈の魔力を塔に集中させるための仕組み。その基礎部分であるので、エスティータやディーン、ハンネスが何度も魔法陣に間違いがないか確認をしている。

 魔力送信塔は内部に一旦魔力を蓄積し、それが一定の量になったところで月に向けて魔力を送るという仕組みだ。常時送信ではないので魔力資源を浪費しにくく、従って周辺の環境――魔力溜まりなどにも影響を及ぼしにくい。
 森の魔物をあまり刺激しないというのは……シルン伯爵領も近いし、こちらとしても有り難い仕様と言えよう。

 そうこうしている内にみんなの仕事も一段落したようだ。
 続いては建材を月の船から降ろし、魔力送信塔を作っていく流れとなる。ここから大仕事となるので気合を入れていくとしよう。



「起きろ」

 マジックサークルを展開。月の船で運んできた大量の建材を一旦ヒュージゴーレムに変えて地上に降ろしていく。
 月の船の座標は固定。地上に降りたヒュージゴーレムを階段状に変形させ、地上と月の船を繋ぐ即席の巨大タラップとする。そのタラップを建材を作り変えたゴーレム群に降りさせていけば……迅速な建材の積み下ろしが可能となるというわけだ。

 大挙してタラップを駆け降りるゴーレム達を先導する。

「何というか……賑やかな光景ですね」

 それを見たアシュレイが何やら微笑ましいものを見るように表情を綻ばせる。

「テオの即席型ゴーレムは、造形も丸くて愛嬌がありますからね」

 と、グレイスが微笑んでそう言うと、みんなも一緒にうんうんと頷いている。……いや、そうやって分析されてしまうと若干気恥ずかしいものがあるが。
 そうして何度か地上と月の船とを往復。建材を月の船から地上に降ろしたところでようやく魔力送信塔の建造に移る。
 塔と言っているがそれそのものが魔法の設備だ。内部に居住空間等は用意する必要はないが、メンテナンス用の通路や階段などは後々のことを考えれば必要になってくるだろう。

「さて、と――」

 バロールにも魔力を充填。設計図となる月の民から預かってきた魔導書が目の前に浮かんで必要なページを開いていく。準備が整ったところで深呼吸。術式の制御に集中する。
 地面に描かれた魔法陣と自分の位置――座標を合わせ、細かな制御可能な範囲を見極めつつ環境魔力を取り込んで魔力の出力を増大させる。
 右手にウロボロスを掴み、左手を翳したその先にバロールが浮かぶ。左右に手を伸ばし――マジックサークルを展開した。ぼんやりとした光球が左右に浮かんで――その光の中に溶けて混ざるようにしてゴーレム達が塔へと変化していく。

 身体ごと回転する。回転しながら螺旋状に塔を上へ上へと伸ばすように構築していく。
 同時に立体的なマジックサークルを構築するように壁面に紋様術式を刻んでいくわけだ。塔内部の壁面全体に呪文が刻まれるようなものである。
 地脈からの魔力が紋様術式に流れ込み、力を与えることによって塔そのものが巨大な術式と化すわけだ。構造強化に関しても紋様の中に組み込まれているので、ちょっとやそっとでは壊れない頑強な構造物になるはずだ。

 魔力送信塔については月の民から設計図となる魔導書を預かっているが……一石二鳥というか合理的というか、実に無駄がない。よくできている。紋様術式の内容に間違いがないかを魔導書で確認しながら構築を進めていく。

 塔の外壁側にもゴーレム移動用の螺旋階段を付けている。ある程度作ったところでメンテナンス用の床を作り、螺旋階段をゴーレムに登らせて上階に移動させ、再び光球の中に溶かすようにして、塔を上へ上へと作り上げていく。

 バロールが俺の手元から離れて飛んでいく。タラップに作り替えた建材を、再びヒュージゴーレムに戻して塔に隣接させる。バロールがマジックサークルを閃かせるとヒュージゴーレムがばらけて小さなゴーレムとなり、螺旋階段に直接乗り込んで塔の上階を目指して行進を開始する。

 いつしか塔は巨木要塞以上の高さとなっていた。最上階と屋上には魔石や魔道具など、色々と設置して最後の仕上げをする必要がある。俺の作業だけで終了というわけではないが――。

 最後のゴーレムが光球の中に飛び込み、塔本体そのものが完成する。
 集中を擁する作業はここで終わりだ。魔力循環を解除して大きく息を吐く。地脈の魔力を取り込んで利用させて貰ったが……結構な魔力を消費した後特有の脱力感があった。マジックポーションは飲んでおくか。

 地脈からの魔力は一旦、塔を経由してもう一度地脈に戻って流れていく仕組みだ。その過程で月への送信に必要になる魔力を塔の内部に溜め込む、という寸法である。

「お疲れ様、テオ君。後は僕らの仕事かな」
「ああ。うん。後は頼めるかな」

 シリウス号に乗ったアルフレッド達工房組と、エスティータ達が甲板から塔の屋上へと魔道具を持って移ってくる。

「まさか、こんな巨大建造物まで一気に作ってしまうとは……」

 と、ハンネス達は信じられないものを見たというように目を瞬かせている。

「僕も地脈の魔力を利用させてもらいましたからね。普通にやったら途中で息切れしていますよ」

 制御が必要なのは光球の中で溶かして構築している部分だけだからな。となると、後は継続性の問題でしかない。そこを地脈からの魔力で補えるのであるなら、一気に作ることも可能というわけだ。塔という構造自体、一方向に伸びるシンプルな建造物であるし。

「なるほど……。いや、理屈の上ではそうなのかも知れませんが……結果を見るとやはり衝撃的ですね」

 エスティータは納得しかけたようだが、かぶりを振ってそんなふうに言っていた。

「さて。後はここに、月との交信の手段や転移門も建造していく形になるわけね」

 ローズマリーの言葉に、ハンネスが頷く。

「そうですな。魔力送信塔は月の結界を越えて魔力を送れるようになっておりますから」

 そこに魔力通信機と同様に信号を組み込んでやれば、向こうで魔力を受け取ると同時にメッセージをやり取りすることが可能となるわけだ。
 魔力送信塔の話が月との間に持ち上がった時、メッセージの送受信が可能なように通信機の片割れをあっちに残してきているから、これで双方向での通信が可能だ。

 そうやってメッセージをやり取りし、転移門を起動する時期などを合わせて月の結界を一時的に開いてやれば……侵入者等の可能性を最大限排除した上で、月と転移での行き来ができる。

 転移魔法では大人数の行き来や、大量の物資等を運ぶのには向いていない。だから月と地上の物資のやり取りには、どちらにせよ月の船が必要になってくるが……少人数であれば気軽に地上と月の間を移動できるようになるだろう。

 これで……月に魔力も送れるし、オーレリア女王を地上に迎える準備もできたと言って良いだろう。
 後は巨木要塞の内部と魔力送信塔を囲む外壁を作れば、魔法建築絡みの仕事は完遂だ。塔の外観にもう少し装飾を施したりもしたいから、流石に今日一日で全部は終わらないが……ベリオンドーラの修繕を進める余裕もありそうだな。
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