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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外25 巨木要塞

 シルン伯爵領には無用な混乱などを引き起こさないよう、月の船――つまり浮遊城で向かう旨を通達してある。
 街道から一定の距離を取って飛行し、シルン伯爵領から見える程度の位置に留まって、領内への挨拶等はシリウス号を用いるというわけだ。

 シルン伯爵家に顔を出して、ケンネルに挨拶をしに行く。

「こんにちは、ケンネルさん」
「これは境界公、お帰りなさいませ」
「ただいま、爺や」
「はい。アシュレイ様。お帰りなさいませ。奥方様達も、皆お元気そうで何よりです。伯爵領へのご帰宅を歓迎致しますぞ」

 アシュレイがにこにことしながら言うと、ケンネルは柔らかく笑って一礼し、みんなにも挨拶をする。

「道中は如何でしたか?」
「乗り心地は良かったですよ。殆ど揺れずに、静かに移動できました」
「ほうほう」

 アシュレイの返答にケンネルは興味深そうに相槌を打つ。

「国内を月の船で移動するのは初めてなので、混乱を招かないか心配でしたが……領民も街道を行く人達も、割と好意的な反応でしたね」
「境界公が死睡の王の手より奪還した城ですからな。タームウィルズに攻めてきた時は恐怖の象徴だったとしても、今となっては受ける印象も違ってきておりましょう」

 ああ。世間ではそういった認識か。街道を行く冒険者に手を振られたりもしたしな。用があって移動するというのも周知されているわけだから、怖がるよりも面白い物が見れた、という反応が先に来るものなのかも知れない。

 まあ、移動で領民達を怖がらせたりしないというのなら、俺としてはそれで良い。

「この後は、すぐに魔法建築へ向かわれるのですか?」
「そのつもりでいます。他の魔法建築に比べて規模が大きいので、その分頑張らないといけませんからね」
「では夕食を作って待っていることにしましょう」
「楽しみにしています」

 ケンネルとそんな言葉を交わし、再びシリウス号に乗り込んで月の船まで戻る。そうして魔力送信塔建造予定地となる地脈が通る座標へと移動していく。
 タームウィルズから続く東への街道の、難所と呼ばれる森だ。街道から離れると、すぐに鬱蒼とした原生林になるのだが。
 まあ、流石に月の船に向かってくるような魔物もいないか。

「……このあたりかな」

 方位磁石と地図、速度を頼りに現在位置を合わせて月の船の動きを停止させる。
 クラウディアが目を閉じ――足元に向けて手を翳し、それから言う。

「そう……ね。地脈の真上になるわ」
「よし。それじゃ、作業を始めるかな。強力な魔物が出てくることも予想されるから、警戒はきちんとするように」
「ん。任せて」
「頑張るわ」

 シーラが自分の胸を拳で叩きながら言い、イルムヒルトが表情を引き締めて頷く。

「ああ。頼りにしてる。シリウス号は――そうだな。フォレストバード……ロビン達に任せて良いかな。ライフディテクションでモニターから生命反応を感知できるようにしておくから、何か強い反応が近付いてきた場合は外部伝声管で教えて欲しい」
「了解しました、テオドール公」

 ロビンはにかっと笑って敬礼する。フォレストバードの面々は正式にフォレスタニア境界公家の家臣となったわけだが……立場が変わっても彼らの明るさや性格は今まで通りだ。これで仕事はしっかりしてくれるから信頼できる。

「手順だけど。まず木々を動かして建築用の空間を作る。それから基礎部分を作ったらそこに魔法陣を構築して行くから……みんなは魔法陣を構築する面々に対して護衛に付いてくれるかな」
「分かりました」

 魔術師の面々は手分けして魔法陣を描き、それ以外の面々は作業に集中できるように護衛という形だ。
 さて。では作業を始めるとしよう。
 資材の積み下ろしは後だ。まずは鬱蒼とした原生林に作業用のスペースを作らない事には何も始まらない。甲板から森の上空へと降下する。
 ライフディテクションを使って様子を見てみるが――月の船とシリウス号で乗り付けている状況だからか、周辺には気になる反応は無いようだ。

「起きろ――」

 木魔法を用いて原生林からウッドゴーレムを作り出す。木々や茂みが根っこを足のように動かしながら俺の制御によって誘導されて付いてくる。
 月光島の原生林を拓いた時や母さんが家を作った時と同様の手法だ。
 幾つかの木々を組み合わせ、そのままツリーハウスにしてしまおうというわけである。

 魔力送信塔が完成すれば管理するための拠点が必要になる。その意味合いでも、ツリーハウスがあれば一石二鳥というわけだ。
 塔の陰にならないように、日当たりのよくなる東側に木々を誘導。組み合わせて大木化させていく。
 近付いてくる魔物に対応できるよう、できる限り大きくするべきだろう。いずれにせよヒュージゴーレムを起こしたり移動させたり等の作業が必須なので、空き地も広めに作らなければならない。

 空き地側に魔力送信塔が出来上がった後で、ツリーハウスの内部空間も作っていく予定だ。弓兵が身を置くスペースを作ったり、遠くまで監視できる場所に足場を作ったりしていく。大木と大木の樹上で枝を繋ぎ、蔦の手摺を伸ばしていくなどという構想をしている。

 内部構造についても大浴場にトイレ、個室に居間、大食堂に厨房、貯蔵庫等々、できるだけ快適な集団生活が可能なように工夫を凝らすべく、模型を用意してきているからな。公的な施設ということを考えれば、応接室や貴賓室等も必要になって来るはずだ。

 やがて――木々を誘導させての合成が終わったところで、原生林に立ち並ぶ何本かの馬鹿げたサイズの巨木と、魔力送信塔を建造するための空白地帯が完成した。

「いやはや、これは中々の威容というか……。分かっていたことではありますが、境界公の魔法建築は凄いですね」

 エスティータがやや呆然とした面持ちで言うと、ディーンとハンネスもこくこくと頷く。

「そうですね。テオドール様の魔法は繊細なのに豪快というかなんというか」
「これも……後で絵にしておく……」
「その絵、出来上がったら欲しいなぁ」
「任せて……」

 シオンとシグリッタ、マルセスカがシリウス号の甲板から巨木群を見てそんな話をしていた。

「完成したら……家というよりも巨木の要塞になるわね。これは」

 ローズマリーが感想を漏らす。要塞。要塞か。確かにそうだ。

「かもね。魔物対策も必要だったし。魔力送信塔を作ったら、敷地全体を外壁で囲うから……居住用の空間兼、詰め所になるわけだし」
「巨木要塞なら色々兼ねていて便利、というわけね」
「こっちはこっちで、仕上がりが楽しみだわ」

 ステファニアとアドリアーナ姫が甲板から身を乗り出しながら完成に期待を寄せるような目で巨木群を眺めている。マルレーンはにこにこしながら姉の言葉に頷いていたりするが。

「内部を作るのは塔の後になるかな。次は――塔の基礎部分を作って、そこに魔法陣と結界の仕込みをしていくことになる」

 みんなの仕事はそこからだ。手分けして仕事をする意味でも、俺がやらなければならない工程をガンガン進めていこう。
 マジックサークルを展開、ヒュージゴーレムを作り、掘り起こした部分を固めて構造強化を施すという工程だ。セラフィナに基礎としての強度を聞きながらヒュージゴーレムを分割して建材にし、掘り起こした部分を埋めるように基礎作りに没頭していくと……やがてその作業も終わる。

「これで……基礎に関しては大丈夫だと思います」
「うむ。では儂らの出番じゃな」
「護衛と見張りはしっかりと行いますので、テオドール様は次の工程まで甲板でお休みになられては如何でしょうか」

 と、アシュレイが微笑む。
 見ると、甲板の上に敷布が広げられており、そこにティーセットとお茶菓子が用意されていた。こう、動物組がそこで待機しているというのは……これで癒されて欲しいという心遣いだろうか。

「ああ。それじゃあ、魔法陣と結界の作業が終わるまで、休ませて貰おうかな」

 その間にマジックポーションを服用したりして、消費した魔力を補充、お茶とお菓子で集中力の回復に務めさせてさせてもらうとしよう。
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