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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外24 浮遊城にて

 出来上がった舞台の上で、ドミニクとユスティア、それからリリーが楽しそうに声を響かせている。ヴェラとラモーナ達も天井から吊るされたゴンドラからドミニク達に合わせるように輪唱を行う。
 劇場の設備を整えたところで実際の使い勝手を見てもらっているのだ。声の響き方はどうか。舞台演出装置の見栄えはどうか等々……。

 聞こえてくるハーピー達の歌声。元々こういう立体的な合唱はハーピー達の得意分野ではあるようで、特に打ち合わせをしたというわけでもないだろうに、その歌声は思わず聞き惚れてしまうほどだ。テスディロス達も目を閉じて歌に集中していたのが印象的だった。やはり、特性封印をしている間は色々物の見方などが違ってくるようで。
 そうして歌が終わって、みんなから拍手が巻き起こる。

「何というか……不思議な聞こえ方をしますね」
「でも、聞いていて心地良いです」

 と、グレイスとアシュレイが相好を崩してそんなふうに感想を述べた。
 頭上――右左から立体的に歌声が重なる。音の広がりが心地良いと感じるのは、ハーピー達の技量によるものだろう。

「このあたりは、ハーピー達の特性に合わせたからね」

 ハーピー達の希望を反映し、特性を発揮しやすい設備にした、つもりではある。

「いやあ、役得だなあ」
「境界劇場の座席も、中々競争率高いものね」
「本当ですねぇ」
「これで即興で合わせただけというのですから、何とも素晴らしいですな」

 と、フォレストバードの面々がそんな会話を交わし、マルコムとベルティーユ夫人も惜しみない拍手を送る。
 そんな調子で拍手を受けながら、ドミニク達が舞台から降りてくる。

「お姉ちゃん達と一緒に歌えて、楽しかった」
「うんっ。あたしも楽しい」
「ふふ。リリーに喜んでもらえて光栄だわ」

 リリーの言葉に、ドミニクとユスティアが相好を崩す。ヴェラはそんな3人の様子を見ながら穏やかに目を細め、それからゴンドラから降りて来たところで俺に言った。

「最近ではセイレーンの皆と共に歌や演奏を行うことも多いですから……落成式では互いの友好を示すためにも、合同で演奏を行うというのも良さそうですね」
「ああ。それは良いかも知れませんね」

 セイレーンとハーピーの友好。それに準えて地上と月、ヴェルドガルとドラフデニアの友好も祈願する、と結びつけるのは有りかも知れない。そのあたり、メルヴィン王に提案してみるか。
 ブロデリック侯爵領の劇場は、まだ細々とした備品も揃っていない。リハーサルも必要になってくるから、公開までにはもう少しだけ時間が必要だ。その時間を利用して話を進めてみるというのは、中々良さそうだ。



 そうして劇場の魔法建築も終わったところで一旦タームウィルズに転移で戻る。ヴェラ達は、マリオン達に合同演奏会の話を持ち掛けてみる、とのことだ。
 一応何か問題があったら相談に乗る、とは伝えておいたが、ハーピーとセイレーン達の仲は相変わらず良好だし、呪歌曲隊として一緒に練習を積んでいたので、そのあたりの心配はしなくても大丈夫だろう。

 さて。次は魔力送信塔の建造に移っていくわけだ。造船所に集めた建築資材をシリウス号を使ってベリオンドーラへ運んで……ベリオンドーラを動かして一気にシルン伯爵領へ持っていく、という具合になる。
 俺達が他の魔法建築をしている間に、お祖父さん達がベリオンドーラへと建築資材を運んでくれているはずだ。

 ヴェラ達と一旦冒険者ギルドの前で別れ、造船所に顔を出すと、エスティータとディーン、それからハンネスと、月の使者達が揃い踏みであった。アドリアーナ姫も一緒だ。月の船を動かす予定だからな。

「こんにちは、皆さん」
「これは境界公。今日はよろしくお願いいたします」

 といった調子で顔を合わせて挨拶をする。

「皆さん、地上には慣れましたか?」
「そうですね。最初は四六時中重くて、少し大変なところもありましたが、慣れてくると変化に富んでいるのが目につきますし、色々新鮮だし、綺麗で楽しいですよ」
「最近では海岸に出かけて、貝殻を拾ってきたりしてます」

 と、姉弟が答えてくれる。
 ああ、月には海がないからな。彼らにしてみると見ていて飽きないのかも知れない。
 さてさて。挨拶もそこそこに、現状の進捗状況を確認してみる。

「建築資材の積み込みは、次あたりで終わりそうですな」
「では、その時に一緒にシリウス号に乗って、そのまま月の船でシルン伯爵領へ向かいましょうか」
「既に魔法建築をこなしてきたという話ですが……余力がおありとは流石ですな」
「まあ……何と言いますか。少々変わった食材を口にして、持続的に魔力回復をしている状態でしたので」

 そろそろ効果も薄れてきたが、魔力回復は緩やかながらも持続的だった。腹持ちしている間はぬっぺっほふの肉が効果を発揮していた、というわけだ。
 急速に回復するマジックポーションとは少し性質が違う。探索をしながら持続的な魔力回復ができる。戦闘中に急場をしのぐためにマジックポーションを、というふうに使い分けができると考えると利便性が高くなるか。

 と、そこでシリウス号が洋上の月の船から戻ってくる。
 それじゃあ、みんなで手分けして資材搬入を終わらせてしまうとするか。



 シリウス号をベリオンドーラの中庭に降ろし、それから鍵の間と呼ばれる場所へ向かう。城の地下の回廊を進むと辿り着ける。位置としては月の船の内部にあたるわけだ。

 壁を魔力の光が走っていたり、印象や建築様式としては迷宮の中枢によく似ている。台座の上に鍵を配置すると、月の船が起動した。

 月の船の場合は、シリウス号のように外部モニターがあるわけではない。操縦者は五感リンクの要領で外から情報を得られるという仕組みだ。鍵に手を翳しながら、目的地に向かって予定通りに月の船を動かしていく。

「ベリオンドーラの城は……崩れている場所だけ修繕してやれば遠目にも綺麗になりそうですね」
「ふむ。それは確かに」

 俺の言葉にお祖父さんが頷く。
 ベリオンドーラの城は――イシュトルムが消滅したことで黒い建材も剥がれ落ち、本来の姿に戻って来ている。流石に年季というか元々廃城であったためにあちこち崩れていたりもするのだが……まあ、それも風合いだ。威圧感のある黒い城よりは今の方がずっと良い。

「魔力送信塔を作って、それから余力があったら城の修繕に手を付けてみるのも良いかもね」
「それなら……私も修繕に参加してもいいかしら。土魔法を使える身としては、魔法建築の手伝いが出来ればいいなって思っていたのよ」

 と、ステファニアが言う。その言葉を聞いて、コルリスとヴィンクルも何やら期待を込めた眼差しで俺を見てくるが……。ああ。確かに。ステファニアも土魔法が得意だし、コルリスも普通に土魔法で色々造形できる。ヴィンクルもゴーレムを操っていたしな。

「そうしたいならコツを教えるよ。大分独学混じりではあるけどね」

 繊細な魔法建築ができる面子が増えれば俺としても楽になるところはあるかな。魔力送信塔は重要設備なのでそちらで練習というわけにはいかないが、廃城の修繕ならば丁度良いかも知れない。
 そんなふうに答えるとステファニアは嬉しそうに笑みを浮かべた。コルリスもふんふんと鼻を縦に動かしているし、ヴィンクルもぱたぱたと翼を動かして一声上げてと嬉しそうだ。

「ベリオンドーラの城……外は崩れていたりするけど、中は綺麗よね」
「それは、ガルディニスが指示を出してやらせたことだ。自分達の拠点とするならある程度の体裁は必要だと、調度品やら家具をどこからか調達して持ち込んだのだ」

 首を傾げるアドリアーナ姫の疑問に、テスディロスが答えた。なるほど……。ガルディニスらしいと言えばらしいな。

 ベリオンドーラの城内でもある程度快適に過ごせる、というのはあるので、建造予定地でも活用させてもらおう。
 まずはシルン伯爵領でケンネルに挨拶をしてから現場に向かう形となる。
 森の中なので生い茂る木々を切り拓き、魔力送信塔を作るためのスペースを確保する必要があるわけだが……重要設備だけに気合を入れて頑張らせてもらうとしよう。
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