挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
768/1062

番外23 魔法技師達の未来

 植物園については温室を拡張し、温度調整をするだけなのでそれほど難しいことはない。
 月から貰って来た作物については栽培するにあたり、適切な温度や湿度、環境は既に聞いているのでそれに合わせて調整してやれば良いからだ。

 妖精の森で得た薬草については、詳しい育成環境はマニュアル化されていないが、こちらも問題はない。

「この子は、もう少し涼しいのが好きだって言ってるわ。湿度は今のままでいいみたいだけど」
「だとすると……このぐらいかな」
「そうそう。そのぐらい」

 といった調子でフローリア、ハーベスタ、花妖精達に立ち会ってもらって、アルフレッドと共に1つ1つ魔道具に細かな調整を加えていく。
 後は敷設した導水管と散水用のスプリンクラーが機能するかどうか等々を点検すれば、植物園の拡張作業については完了だ。

「そう。きちんと動作するのね?」

 と、ローズマリーが言うと報告に来たらしい花妖精がにこにこしながらこくこくと頷く。ローズマリーは満足そうに頷く。
 見ていると、スプリンクラーを作動させる魔石を、花妖精がぺしぺしと叩いて水を出したり止めたりと、起動テストを手伝ってくれている。その上で、ローズマリーに報告したりしているようだ。
 ローズマリーは元々植物の世話も得意だし、園芸や温室の管理に熱心だからかな。花妖精達に懐かれてきている感がある。

 そんなふうに花妖精に懐かれているローズマリーに、ステファニアやマルレーンを初め、みんな微笑ましいものを見るように表情を綻ばせているが……それに気付いたローズマリーは羽扇で口元を隠して明後日の方向を向いてしまった。

 まあ……そんな一幕はあったが、みんなで手分けして確認と動作テストを行ったお陰で、植物園の拡張も手早く完了した。
 ブロデリック侯爵領での作業等もこの後に控えているからな。あの食材のお陰か……魔力も充実しているし、ガンガン作業を進めていこう。



「これはテオドール公」
「無事にお帰りになられたようで何よりです」
「ありがとうございます。今日は――戦いの前からの約束が伸び伸びになってしまっていましたが、それを果たしたく思います」

 ユスティアとドミニク、それからハーピーのヴェラやラモーナ、リリー達と迷宮入口前で合流する。ヴェラ達は顔を合わせると相好を崩して挨拶してきた。返答をするとヴェラ達も静かに一礼してくる。
 ドミニクはといえば、家族や親戚とは俺達の新婚旅行中にも顔を合わせていたようだな。リリーと一緒に上機嫌な様子である。

 ともかく、ハーピー達と約束したコンサートホールの建造である。ヴェラ達に見届けてもらい、使用感を確かめてもらおうというわけだ。面子が揃ったところで、今度はブロデリック侯爵領へと転移で飛んだ。
 現ブロデリック侯爵こと、マルコムは現地で俺達の到着を待っていてくれた。

「これは境界公。旅先で問題が起こったと耳にしておりましたが、奥方共々お元気そうで何よりです」

 と、月神殿で待っていたマルコムは俺達の到着に気付くと、そう言って相好を崩す。

「ありがとうございます。戦いにはなりましたが、まあ……何とかなりました」

 ドラフデニアでの顛末も通信機で一部始終を連絡したからな。知り合いの間では悪霊との戦いについても話が広がっている様子だ。
 挨拶もそこそこに、コンサートホール建造予定地に案内してもらう。
 月神殿から少し移動したところに、建設予定地はあった。こちらが指定しただけの広さのある空き地に建築用の資材が積まれている。

「必要となる土地と資材は用意しましたが……後は境界公が?」
「そうですね。このまま作業に取り掛かってしまおうかと。完成予想図の模型もありますので」

 予め作っておいた土魔法の模型を、ローズマリーの魔法の鞄の中から取り出して言う。マルコムは興味深そうにそれを眺める。
 ヴェラ達の希望は前に聞いていたから、それを反映した形だ。
 舞台上だけでなく、コンサートホールの天井から足場を吊るして、そこに腰かけて会場に立体的に歌声を響かせることができる、という仕様となっている。

「起きろ」

 と、指を鳴らしてゴーレム達を立ち上がらせる。大通りに面した場所なので、既に人だかりができていた。

「何が始まるのかの?」
「ハーピー達が呪歌を聞かせてくれる場所を、あの境界公が作ってくれるとか」
「呪歌を聴くと疲れが取れるんだとか。酒も飲めると聞いたがの」
「ほーう。そりゃ素晴らしい」

 領民達はそんな話をしながら盛り上がっている様子だ。
 ハーピー達としても気楽に呪歌を披露できる場所にしたいとのことで。侯爵領にはドワーフ達が多いことも加味すると、酒と食事も楽しみながらが良いだろうという話になっていた。このへんはタームウィルズや月光島の劇場とは少し違う点だ。

 要するに……イメージ的には舞台付の大型レストランだろうか。ディナーショーというかなんというかな完成予想図が脳裏に浮かぶ。

 まずは建物の基礎となる部分から作っていく。地下部分をゴーレムにして掘り起こし、基礎となる部分を硬質化させて固め――楽屋や衣装部屋、倉庫等々、必須となる設備を作っていく。それから舞台や客席、それから厨房や酒の貯蔵庫等の建造へと移っていく形になるだろう。

「木材はどこに置けば良いですか?」
「ありがとう。そこに積んでいってくれれば大丈夫だよ」

 必要な資材をみんなにレビテーションで運んでもらう。木魔法を用いて木材からウッドゴーレムを作り出し、それを必要な形に形成し直して床や壁に作り替える。
 セラフィナと相談して建物の強度を確かめ、舞台の音の広がり具合をヴェラ達が声を響かせて実際のところを見てみる。
 そんな調子で作業を進めていけば、どんどん建物が完成に近付いて行く。

「いやあ、やっぱりテオ君と魔法建築をするのは楽しいね。砦の時とは違って戦いに絡むものじゃないから、気分的にもそう思うのかな」

 と、魔道具を組み込んで調整しているアルフレッドがそんなふうに言った。

「そうだな。それは……確かに」

 アルフレッドの性分としては、魔道具の使用用途も戦いよりこうやって日常に役立ってくれる物の方が好みだろうしな。

「これからは、日常に役に立つ魔道具なんかも考えていきたいところだけどね」

 そう言うとアルフレッドは目を閉じてうんうんと頷いていた。

「日常に役立つと言えば……演出用の魔道具にも、貴族や騎士から発注がかかっているんだ」
「へえ。泡とか光を出したりの?」
「そうそう。結婚式用に是非使いたいって言うことでね。多分、テオ君やエリオット卿の結婚式の影響だね。貴族や騎士が結婚を発表する数そのものも増えてる」

 ……ああ。魔人絡みの事件も解決して、みんな触発されて……という感じだろうか。
 しかし、魔道具での演出がスタンダードになると、貴族の結婚式には魔道具が必須という流れになってしまって、費用がその分増えるので大変だとは思うのだが。まあ、流行り廃りというのはあるので、定着するかどうかは不明であるが。

「そう言えば、チェスター卿も発注していたな」

 と、魔法の照明装置を調整しながらタルコットが呟いた。

「という事は、例の商家のお嬢さんと?」
「そうなるね。まだ準備を進めている段階みたいだけど、その内正式な日取りなんかも発表されるんじゃないかな」

 騎士団のチェスターは……ガルディニスがタームウィルズに攻めてきた時に助けた女性と交際をしていたはずだ。そうなるとチェスターの交際も順調だったというわけか。

「タルコットはどうなんだい?」
「……俺の事は心配いりません。シンディーの親族にも割と良くしてもらっています。アルバート殿下とオフィーリア様がいてくれたからこそ、とは思っていますが」

 目を閉じて顔を赤くするタルコット。照明の調整を間違えて物凄く明るく発光させていたりするが。
 ふむ。シンディーとの仲は前進しているらしい。親族にも、となるとタルコットの前途も明るいように思う。

「そういうアルフレッド様こそ、どうなんです?」
「んー。僕は時期まで決まっているし、彼女との仲も良好だと思ってるけど。でも……最近の流れに乗って、時期が早まる可能性はあるね。今度オフィーリアと一緒に、フォブレスター侯爵とお会いするということになっているから」

 となると、その時に結婚を早めようなんて話が出るかも知れないな。

「まあ、アルの結婚の時は魔道具はいらないな。俺が直接演出役をやらせてもらうから」
「あっはっは。それは楽しみだな」

 と、俺達はそんな会話をしながら、劇場の舞台装置等の調整をしていくのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ