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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外22 鍛冶師と業物

「ん。中々美味しい」

 とはシーラの感想である。
 ぬっぺふほふの肉に関しては俺が試食して問題も無いようなので、みんなも食べてみたが……割合好評だった。
 ……原物があれなのがネックではあるか。そこで好みが分かれそうなところではあるが、味そのものについては癖が無いので、結局は慣れの問題なのかも知れない。特に魔物の食材に慣れている冒険者達は、あんまり頓着しない気がする。

「魔物の素材にしてもこの武器や鎧にしても、冒険者達に宣伝する見本として丁度良いですね。境界公が利用するご予定が無ければ、買い取りという形で引き取らせて頂きます」
「見本というわけですね。では、そのように」

 ベリーネの言葉に頷き、使うもの、使わないものを分別して引き渡す。忍者刀なども余りがあるので見本として渡して問題はあるまい。

「査定金額については、他の区画で得られる物品と比較し、未知の素材であることなども加味して算出することになりそうですね。相場が決まっていませんし、現時点では希少なので勉強させてもらいますね。後で見積もりを持っていきます」
「あまり無理はしなくても大丈夫ですよ」

 ヘザーの言葉に苦笑する。
 希少品や目新しいものの値段が上がるのは……まあ、世の常とも言えるか。見本としてという意味合いも強いから、冒険者ギルドにとっては現時点では値段以上の価値があるのだろう。

「ふむ。この区画に関しては冒険者から人気が出るかも知れんのう。このあたりの情報も含めて、周知しておくとしよう」
「ありがとうございます。フォレスタニア入口の塔広場に新区画に通じる扉が出来ていますので。通行止めは解除しておきます」
「うむ。後の事は任された。タームウィルズでも周知しておこう」

 アウリアは任せろ、とばかりに胸を張って言う。冒険者達の安全に関することについては信頼できる面々だ。
 俺達もこの後、工房でみんなと合流してからあちこち回って仕事をこなしてくる予定だし、有り難い話である。

「では、何かありましたら通信機に連絡を頂ければ。僕達は工房のみんなと合流して、他の仕事に移ります」

 というわけで、警備用ゴーレムに命令を下して通行止めを解除してから、俺達はタームウィルズの工房へと向かうのであった。



「ああ、テオ君」
「こんにちは」
「こんにちは!」

 工房に顔を出すとアルフレッドが笑みを浮かべ、みんなも挨拶をしてくる。いつもの工房の面々ではあるが、フォレストバードとシオン達、それからテスディロスにウィンベルグも一緒だ。
 魔力送信塔は魔物の出る難所での建造ということで「人手は多い方が良い。それなら家臣予定の自分達が」ということで同行を申し出てくれているわけだ。
 シオン達の立場はまだ流動的ではあるが、フォルセトとしては外で色々と活躍の場を作ってほしいと考えているそうで。

「お疲れ様。ヴィンクルの装備品については調整も終わったよ」

 と、アルフレッド。
 ヴィンクルも今日はリンドブルムと共にタームウィルズの家から工房に向かって、朝から色々と魔道具や装備品の調整をしていた。
 フォレスタニア所属の印であるスカーフの他、飛竜に見せかける幻術の魔道具、専用の破邪の首飾りに、リストバンド型魔力通信機といった装備品の数々。
 ヴィンクルは俺達の姿を認めると、小さく尻尾を振りながらこちらにやってくる。スカーフを首に巻いたりリストバンドを装備していたりして……中々似合っている。

「予想以上にいい感じじゃないか」

 そう言うとヴィンクルは嬉しそうに一声上げた。

「機能も問題無し。成長に合わせて調整できるようにしてあるから、しばらくは大丈夫だね」
「良いね。こっちも新しい区画を見てきたんだけどさ……。ヴィンクルが最初の戦闘訓練に行くには問題無さそうな場所だったよ。今後は暇を見繕って、ヴィンクルも連れて行くことも増えるかも知れない」
「フォレスタニアから直接行けるんだよね」
「そう。それで……その場所が色々と変わった場所でさ」

 新区画についての説明をし、そこで手に入れたものをみんなにも見せる。特に長刀はビオラとエルハーム姫に見せておきたい一品であったりするので。

「これは……また凄い業物ですね」
「何でしょうか、この武器は……。刃の部分が見たことがない製法のような……」

 白拍子の長刀を見るなり、それまで割合和やかな雰囲気だったのに、ビオラとエルハーム姫の表情が変わった。やはり……見る者が見れば分かるということか。

「ガーディアンの持っていた武器であるから、やはり相当なものなのだろうな」
「……道理で」

 マクスウェルの言葉に2人は感心しながら頷く。

「それと同系統の刀も何本か回収してきたんだけどね。こっちは――それに比べると若干作りが粗いかなとは思うけれど」

 忍者刀やら手裏剣やクナイ、鎖分銅等々も工房の机の上に並べる。

「また、変わったものが沢山ですね」
「ん。こっちの刀は確かに粗いけど、頑丈だし取り回しは良さそう」
「そうね。この短刀も使いやすそうだし」

 斥候役であるシーラやモニカからの評価はまた違う、というわけだ。
 忍者は確か……刀の鍔に足をかけて壁を乗り越えたりとか、クナイの柄頭をスコップ代わりにしたとか、武器以外の用途として色々便利に使っていたとも聞く。
 業物より使い捨てにできて頑丈という方向に特化しているというのも、需要はあるのかも知れない。
 まあ、いずれにしても忍者刀の製法もまた、近隣諸国とは違うものなので、サンプルとして有用だろう。

「俺としては、この刀や長刀は2人に預けたいって考えてるんだけれど」
「えっ。ガーディアンからの鹵獲品じゃないんですか……?」
「こんな貴重なものを……私達が預かってしまってもいいんですか?」
「武器に関しては、今の段階でみんなに行き届いてるからね。個人的には、製法を分析して今後の仕事に活かしてもらえれば、俺達が使うより後で大きな価値を持ってくるかなって。ゴドロフ親方にも協力の話を持って行けば、今後の関係的にも良くなるかも知れないね」

 そう言うと、俺に同意するようにみんなもビオラとエルハーム姫を見て頷いた。

「武器はやっぱり手に馴染んだものが一番ですからね」
「確かに。そういう点で言うと、新しい武器を使い始めるにしてもビオラさん達が調整してくれたものが良いのかも知れません」

 グレイスの言葉にアシュレイも頷く。
 うむ。忍者刀は数があるので分析に持って来いだろう。エルハーム姫にはファリード王の剣を打つという目標があるし、その参考になれば俺としても幸いだ。
 そういった考えを説明すると、2人は感激したように立ち上がる。

「あ、ありがとうございます! 絶対良いものを作りますから!」
「せっ、責任を持ってお預かりします! 見ていて下さい!」

 と、嬉しさを隠せないといった様子が見える。2人で手を取り合って喜んでいるな。
 うん。忍者等と長刀についてはこれで良いだろう。

「こっちの人形は、工房に置いて、解析を進めていく感じかしらね」
「そうだなあ。ゴーレムや魔法生物作りの参考になるようならそれを活かしていきたいとは思うけど……」

 ローズマリーの言葉に答える。マルレーンも興味深そうに絡繰り人形の腕を持ち上げたりして、歯車の動きを観察している。

「んー。絡繰りか。物によっては魔法建築に活かすこともできるかもね」

 魔法的な対策ができない仕組みがあれば、斥候役と魔術師、どちらにも対応したセキュリティの建築物等も作れる。迷宮外部では迷宮核を頼りに魔法建築できるわけではないし。

「その場合、こういう歯車で作った仕掛けが建築物に仕込まれるのかしら?」
「それは面白そうね。わくわくするわ」

 と、イルムヒルトが首を傾げて言うと、ステファニアが笑顔でその話題に乗ってくる。まあ、絡繰り人形の機構を活かすとなると自動的にそうなるか。

「まあ、絡繰りを組み込んだ建物はともかくとして……これから魔法建築の仕事だよね」
「ああ。まずは植物園の拡張からかな」

 月から貰った作物やら、妖精の森で集めてきた薬草やらを植える予定だ。温室を作ってから植物の声をフローリア達に聞いてもらって、適した環境に整えるだけなので、それほど問題はない。

「では、準備を始めるとしよう」

 テスディロスが必要な魔道具やらを馬車に積んでいく。うん。では、みんなで魔法建築の仕事といこう。
 ブロデリック侯爵からも準備はできていると連絡が来ている。植物園の次はコンサートホールだな。頑張って仕事を進めていくとしよう。
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