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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外17 迷宮変化

 ドラフデニア王国からの帰り道は王国の北西に広がる山岳地帯へと入り、そこからヴェルドガル王国へと帰るルートとなる。往路と復路で同じ道を行き来する形なので気楽な物だ。

「この場面はアンゼルフ王や将軍よりも、兵の視点で進めた方が面白いかも知れないわね」
「そうだなぁ。アンゼルフ王の策による混乱が良く伝わるかも知れない」

 方向を合わせ山沿いをのんびりと進みつつ、みんなと相談しながら土魔法でゴーレムをこねくり回す。
 ジオラマのようなセット上で沢山の将兵をわらわらと動かしたり、或いは色々な歴史的場面を再現したりといった具合である。
 ドラフデニア王国で調べたことを反映させて、具体的にどんな場面にするのが良いのか、今の内に構想を練っておこうというわけだ。
 それを興味津々といった様子で、机の縁から顔を出して覗き込んでいるのはヴィンクルである。勉強している、というよりは普通に楽しんでいるように見えるが。

「これでも結構楽しいね!」

 と、セラフィナは明るい表情で言う。セラフィナを肩に乗せたマルレーンも、こくこくと頷いた。
 今やっているのはリアルタイムで動く人形劇やクレイアニメみたいなものだからな。確かに、小さなゴーレムが賑やかに動いているのは、傍から見ている分には面白いかも知れない。

「小さなゴーレムを動かして劇をさせるのも確かに面白そうではあるね」

 ゴーレムの演奏も中々評判が良かったしな。

「でもまあ、アルもフォレスタニアの劇場用に魔道具を準備を進めてくれてるし、今は幻影劇に集中する予定ではあるけど。だからこれは、みんなにだけ楽しんでもらうっていうことで」

 そう言いながら小さなゴーレムを動かして、みんなに向かって手を振らせたりすると、みんなも顔を綻ばせた。ミニゴーレムの視点からすると大空に向かって手を振るような感じではあるのだが、見ている方からすると突然舞台に自分も参加するような感覚、だろうか。

 幻影劇も普通の映画のようにただ見るだけではなく、客席側にも色々組み込みたいと考えている。演出として上手く行くと良いのだが。

 まあ、仕事についてはフォレスタニアに関することだけではないから、これにばかり目を向けているわけにもいかないが。

 やがてシリウス号はヴェルドガル王国国内に入る。ここまで来てしまえば文字通りのホームグラウンドなので気持ち的にも楽だ。
 東のブロデリック侯爵領からガートナー伯爵領、シルン伯爵領を経て、街道沿いに進み――そしてタームウィルズに戻ってくる。

 造船所ではシルヴァトリアの関係者が飛行船絡みの作業中だ。シリウス号が姿を現すと嬉しそうに手を振ってくる。

 シリウス号を造船所に降ろし、甲板から顔を覗かせるとみんなで出迎えてくれた。

「おお、テオドール、戻ったか!」
「お帰りなさい、先生!」
「ドラフデニア王国でも、大活躍だったようね」
「新婚旅行中に黒き悪霊の再来だなんて、災難だったわね。無事で何よりだわ」

 お祖父さんにシャルロッテ、アドリアーナ姫とヴァレンティナが歓迎してくれる。

「ただいま戻りました。いや、成り行きと言いますか、乗り掛かった船と言いますか」

 そんな風に答えつつ、七家の長老達の何時もの歓迎ぶりに苦笑いしながら応じる。
 アドリアーナ姫の使い魔――フラミアも、コルリスや他の使い魔達の帰還を歓迎するというように、挨拶して回っていた。

「しかし、それでもしっかりと悪霊を下し、ドラフデニア王国との親善を深めて帰って来るのだからな。頭が下がるというか」
「今度はレアンドル陛下から是非タームウィルズを訪れたいとのことで。その話ついてもメルヴィン陛下に報告しないとなりません」
「では、これから王城へ?」
「そうですね。急ぎの用事というわけではありませんが、ドラフデニア王家の方をお迎えするとなれば、直接報告しなければならない内容ですから」

 ドラフデニア側とやり取りをして、予定日をすり合わせつつ、こちらも歓迎の準備を整えて転移で訪問してもらう、という形になるだろう。

 荷物などを降ろしたら早速メルヴィン王に報告してくるとしよう。



 そんなわけでリンドブルムに乗って王城へ向かうと、女官は王の塔のサロンへと通してくれた。
 メルヴィン王もすぐにやってきたが、一足先にタームウィルズに帰っていたティエーラも一緒だった。

「只今戻りました」
「うむ。無事で何よりだ。先程ティエーラ殿が王城の練兵場で顕現なされてな」
「お帰りなさい。迷宮の方で変化がありましたので、早めに知らせておこうと思いまして」

 と、ティエーラが静かに微笑む。
 迷宮の変化、というと……。

「もしかして、新しい区画ができた、とか?」
「はい。何層かに分かれた、比較的大きな区画のようですね。とりあえずフォレスタニアのお城から進めるように、最低限の調整はしておきました」

 大きな区画ときた。迷宮核内部で作業したり、色々迷宮と深く関わっているからな。俺の影響で迷宮に作られた区画であることに間違いは無さそうだ。

「では……そちらには追々調査が必要ですね。あまり危険な区画なら手に入る資源が貴重でも、自由な立ち入りというわけにもいきませんし」

 難易度によっては俺達やヴィンクルの戦闘訓練に丁度良いかも知れないが。魔人絡みの事件は解決したが、腕は鈍らせないに越したことは無い。
 どんな区画でどんな魔物が出るかなど、まだ不明な点が多いので、これについては一先ず保留ということにしておこう。
 新しい区画の話を程々で切り上げ、メルヴィン王にドラフデニア王国で行ってきたことについての話や、これからについての話をしなければならないだろう。

「旅行では、ドラフデニア王国での歴史を探訪してきました。その過程で、少々問題も起こりましたが」
「妖精の女王と、黒き悪霊、であったな。そなたにとっては災難ではあったが……何にせよ無事で良かった。我が国としては、ドラフデニア王国との関係が良好な方向に転んだようで喜ばしい結果と言える」

 メルヴィン王が苦笑する。このあたりの事は通信機で連絡済みなので話も早い。

「そうですね。レアンドル陛下に関しましては、噂通りと言いますか。気さくで、感じの良い御仁でした。次はタームウィルズを是非訪問したいとのことです」
「うむ。レアンドル王の人柄については武人というより、冒険者に気風が近いと聞いていたからな。そなたの訪問もあまり心配はしておらなんだが。逆にタームウィルズに来訪してくるというのであれば……ヴェルドガルに失望されることの無いようにせねばな。レアンドル王と……妖精の女王も気に入ってくれると良いのだが」

 メルヴィン王の言葉は、アンゼルフ王がタームウィルズを見て、その国の在り方に感心した、という逸話を踏まえてのものだろう。レアンドル王もアンゼルフ王の行動になぞらえてタームウィルズを訪問すると言っているのだし、同じようにレアンドル王には良い印象を持ってもらいたいと考えていることが窺える。

「きっと、大丈夫でしょう。この地に住まう人々は、最近はかなり楽しそうにしているように見えますから」

 と、ティエーラが笑みを浮かべた。精霊からお墨付きをもらえるというのは有り難い話ではあるかな。ティエーラの言葉に頷いて、メルヴィン王に答える。

「日程についてはこれからすり合わせをする形になるでしょうか。連絡役はこちらで引き受けます」
「承知した。では早速、レアンドル王への書状を認めておこう。それから、あちこちの建築用資材も準備が整っている」
「では、そちらも併せて作業を進めていきたいと思います」
「うむ」

 植物園の拡張、ハーピー達のコンサートホール建造と、魔力送信塔の建造。
 どれも魔法建築絡みの仕事だ。仕事の進み具合によっては、レアンドル王を迎える前に、月の王家――オーレリア女王を地上で迎えることになるかも知れない。
 まあ……少々予定外の、悪霊との戦いというトラブルもあった事はあったが、新婚旅行で羽も伸ばしてきたことだし。1つ1つしっかりと仕事をこなしていくとしよう。
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