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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外16 ドラフデニア王国からの帰途

 俺達の持ち込んだ魔力楽器を実演して、それを宮廷お抱えの楽士達や、楽器の心得がある冒険者がキーボードを演奏してみたりと、宴会の席は中々他の国にはない自由さがあった。

「これは良いですな。音階が明確に分かれている上に様々な音色を奏でられるとは」

 宮廷楽士が楽しそうに魔力キーボードを弾きながらそんな感想を口にする。
 楽士達は流石は本職だ。初めて見る楽器でも少し経つとコツを掴んで割と弾きこなしていたりと、後々の発展に期待が持てそうな印象だ。

 炭酸水生成の魔道具も早速宴会で活用されていたりと、ドラフデニアの冒険者達にも好評な様子で何よりである。
 レアンドル王はそうした宴会の様子を満足げに眺めていたが、頃合いを見計らって話しかけてきた。

「楽しんでもらえているかな?」
「良い雰囲気ですね。冒険者の国らしい空気と言いますか。僕は好きですよ」

 そう答えるとレアンドル王は嬉しそうに相好を崩す。

「それは何よりだ。少々これからの話をしたいのだが、構わぬかな? 何、気楽に聞いて貰って良い話だ。こういった話を明日以降にするとなると、それ程大したことでもないのに旅行の邪魔をしてしまうからな」
「それは、お気遣い頂きまして」

 と、軽く笑みを浮かべて応じる。

「国難を救ってもらったからには、余からもヴェルドガル王国を訪れ、メルヴィン王にも直接礼を言わねばと考えていてな。我が国の高祖も影響を受けたというタームウィルズ。後学のために、是非この目で見ておきたいというのもある。賢君と名高いメルヴィン王であれば、きっと学べるものは多かろう」

 なるほど。アンゼルフ王に倣って、ということか。

「シリウス号に乗っての移動もできますし、少人数であれば月神殿を通しての転移も可能ですよ。シルヴァトリア王国やバハルザード王国、海の国――グランティオス王国ともこの方法で交流を行っています」
「ふむ。移動を短縮できるのならば、確かに予定を付けやすくはあるな」
「何じゃ? テオドールの住んでいる場所に遊びに行くという話か?」

 ロベリアも興味津々といった様子で話に加わってくる。

「うむ。タームウィルズについては最近、劇場や温泉街ができたとか、色々な噂を耳にしている。魔法建築で作られたというが……」
「やはり境界公の手によるものかな?」
「ん。テオドール作」
「ほうほう」

 と、ロベリアの言葉にシーラが頷く。
 レアンドル王としては、タームウィルズ観光も兼ねて、という部分もあるのかも知れない。

「僕も歓迎しますよ。迷宮の奥に領地がありますから、タームウィルズにいらっしゃるのならすぐに足を延ばせるかと」
「それは楽しそうだ。境界公の領地に限らず、迷宮内部を見てみたいとも考えていたしな」

 迷宮にも興味を示すあたりは如何にもレアンドル王らしい。
 ……宰相がそわそわしているのが見えたが大丈夫だろうか。レアンドル王の場合だと「アンゼルフ王も迷宮に潜ったのだから」という理屈で押し切りそうな気がするが……。
 観光を兼ねた後学のための旅行、ということで、将来を嘱望されているペトラも一行に加わるという話が出た。そのあたりも、俺としては否やはない。

 そうしてタームウィルズ訪問についての話が一段落したところで、話題が変わる。

「ところで、あの平野に作った砦についてだが」
「ああ。あれですか? もしあの場に砦があって管理が面倒なのであれば解体しますが」

 使い勝手の悪い所に砦などを残しておくと、盗賊の根城にされたりするからな。

「いや。それには及ぶまい。あれはそなたが我が国の危機に戦ってくれた足跡のようなもの。しっかりと管理し、後世に伝えていくつもりだ。そうだな……。妖精の森からも程近いし、ロベリア女王や妖精達との交流の場にしたいとも考えている」
「我に異存はないぞ。小さな者達は臆病だからあまり今まで人間達に関わらなかったが……ドラフデニアの者達と共に戦った、今となっては戦友と言えよう」

 そんなロベリアの言葉に、クラウディアを初めとしてみんなも相好を崩す。そうだな。ドラフデニア王国と妖精達が友好関係を築いてくれるのなら、それは何よりだ。

「ああ。それは良いですね。僕としては他種族との橋渡し役を陛下から仰せつかっていますから、これで国元にも顔向けできるというものです」
「それは何よりだ。余はタームウィルズ訪問のために明日から少々仕事をこなさねばならんが……何か困ったことがあれば遠慮なく言って欲しい。国難を退けた英雄の滞在中に、不便や不満を感じさせたとあっては国の名折れだからな」
「ありがとうございます。とりあえず明日は薬草採集が中断してしまったのでもう一度妖精の森に出かけてみようかなと考えていますが」
「ふむ。珍しい植物を探しているというのなら、良い場所がある。案内しよう」

 と、ロベリアが言った。妖精の女王が案内してくれる穴場か。
 そんな言葉を聞いて、ローズマリーは羽扇の向こうでほくそ笑んでいる感じだ。ローズマリーが嬉しそうなのでマルレーンもそれを見てにこにことしているし。

 悪霊対策が色々あったので滞在日数も少なくなってきているが……元々かなりのんびりとした旅行のつもりだったからな。予定通りの歴史探訪をこなしてから帰るには充分な時間がある。
 ドラフデニア王国観光か。悪霊退治は予定に無かったが……アケイレスの最後の王や宮廷魔術師グエンゴールの顔など後世には伝わっていなかったし、黒き悪霊の姿や実態等も見れたので、俺としては良い取材旅行になったんじゃないかと思う。



 そうして――宴会の次の日の妖精の森探索は、ロベリアの案内のお陰で珍しい草花が沢山見つかった。満月の夜にしか咲かない花、等と言うのもあるらしく、ローズマリーによれば花粉が貴重な薬の材料になるという話だ。通常、植物というのは何某かの種類の虫などに生活サイクルの一部を頼っていたりもする。だから、そのまま持ち帰っても生態を知った上で世話をしてやらないと上手く育たたないというものであったりもするのだが、そこはそれ。フローリアやノーブルリーフ、花妖精達も一緒なので植物の育成に関しては割と安心だ。

 ロベリアの話によれば、妖精達は身の周りの植物の世話や育成を行うことで自分達に必要な環境魔力を整えていたりするらしい。フローリアも植物の感情が理解できたりするしな。

 そんなわけで丁寧に根ごと掘り返して何株かをタームウィルズに持ち帰ることにしたりと、色々収穫があった。

 後は……宿屋で夫婦水入らず、のんびり過ごしたり、ペトラの案内を受けての史跡探索や、ドラフデニア国内にしかない場所、ということで大洞窟にもシリウス号で見学に向かったりと、滞在中は新婚旅行らしく過ごしたりする他にもあちこちに足を運んで見て回り、かなり充実した時間を過ごさせて貰った。

 そうして滞在日数はあっという間に過ぎていき――そしてドラフデニア王国から帰る日がやってくる。

「滞在中は、お世話になりました」

 と、河口港に見送りに来てくれたレアンドル王達に挨拶をする。
 タームウィルズに向かうにあたり、シリウス号に乗っていくという手もあったが……タームウィルズでもレアンドル王を迎える準備などもする必要があるため、月神殿の転移を介して何回か予定をすり合わせてから訪問するということで話が纏まったのだ。

「いや。世話になったのは余らの方だ。黒き悪霊に関する助力については重ね重ね感謝を述べたいが、そればかりでなく、境界公の滞在中は余としても随分と楽しませて貰ったからな」

 レアンドル王がにやりと笑う。
 シリウス号に乗って高速で飛ばしたりというのもそうか。

「次は我等から遊びに行くからのう」
「はい、お待ちしていますよ」
「その、タームウィルズの訪問は……色々と楽しみです。境界公の案内役ができて光栄でした。魔術師として私はまだまだだなと、本当に勉強になりました」

 ロベリアやペトラとも言葉を交わす。レアンドル王達の訪問はそれほど先のことではないから、あまりしんみりした別れにはならない。或いはこれもレアンドル王の人徳なのかも知れないが。
 そうして、みんなでシリウス号に乗り込む。グリフォンのゼファードにコルリス達も一時の別れを言うように手を振る。ゼファードも前足を振り返して、とコルリスの影響が見られた。

「では、また後日。僕も機会があったらまたドラフデニア王国を訪れたいと思っていますので」
「うむ。そなた達ならいつでも歓迎しよう」

 そう言って。ゆっくりとシリウス号は春の日差しが降り注ぐスタインベールの河口港を出港する。

「冒険者達の国……。想像していた以上に素敵な所でしたね」

 遠ざかっていくドラフデニアの皆を見ながらグレイスが微笑んで言う。

「そうだな。アンゼルフ王の昔話からここに来ることになったけど……来て良かったよ。帰ったらアンゼルフ王の幻影劇も考えていかないとな」
「出来上がりが楽しみです」

 アシュレイの言葉に、みんなが頷いた。
 そうして。俺達はドラフデニア王国からの帰途についたのであった。
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