挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

755/1268

番外13裏 悪霊と魔物と・前編

 上空に巨大な結界が生まれる中、森の奥より憑依された魔物達が押し寄せてくる。
 構成される魔物達の種族はゴブリンやコボルト、オークを主としている。特にゴブリンに関しては、族長とも言うべきソーサラーと呼ばれる上位種の姿があった。大物としてはオーガが何体か。
 飛行能力を持つ魔物はロックバルチャーやブラッドバットと呼ばれる大型の鳥やコウモリの魔物……亜竜などと呼ばれる翼を持った巨大トカゲもいる。

 結果として、全体を見れば人間に敵対的な種族がほとんどと言えた。悪霊に同調しやすい性質だからなのだろう。一様に赤く染まった目を輝かせているのが特徴的だ。

 憎悪と怨嗟。怨敵に出会ったとばかりに喜悦で顔を歪ませながらも、動きそのものは訓練を受けた兵卒のように統率が取れている。
 だとするなら悪霊に組み込まれているのはアケイレス王国の将兵達ということになるのだろう。グエンゴールがその生涯を掛け、未練のある魂を集めて回り、営々と作り上げた――。

 それは根源的な恐怖を呼び起こす光景ではある。だからと言って、ドラフデニア王国の将兵達とてそれに怖気づくような弱卒達ではない。特に――彼らが王と仰ぎ尊敬するレアンドル王自らが陣頭に立っているから。

「行くぞっ!」
「陛下に続けーっ!」
「おおおおっ!」

 レアンドル王とゼファードは体力回復のポーションを飲んで、シリウス号からすぐに戦場へと舞い戻った。グリフォンに跨る騎士達を率い、雄叫びを上げながら敵に向かって突っ込んでいく。

 滑空しながら闘気を纏ったランスチャージを見舞ってゴブリンやコボルトを宙に舞い上げ、同時にグリフォン達が鉤爪でオークの肩口を切り裂いて舞い上がる。普通ならばそれで敵の出鼻を挫くことができるのだろう。
 だが、オークは手傷を負いながらも口元を笑みの形に歪ませ、そのまま砦の前に展開している部隊に向かって、他の身軽な魔物達と共に突っ込んでいく。

 魔物の肉体を操る悪霊は、痛みを感じない。死体となっても動き続ける。だからこそ、力尽くで強引に切り崩そうという考えなのだろう。
 森の上空に展開していた、翼を持つ魔物達も……悪霊本体の咆哮を受け、その意を汲んで動き出した。結界を展開している高位精霊達の妨害に動くためだ。当然、それを排除するのがシリウス号やグリフォン部隊、ということになるだろう。
 悪霊からして見れば、グリフォン部隊に地上の援護をさせないための牽制でもあるが、分かっていても対応せざるを得ない。

 そのままであれば地上の苦戦は免れ得ない状況だっただろう。アケイレス王とグエンゴールの戦術は正しいと言えよう。但し――想定外の戦力を計算に入れていないが。

 巨大な水晶の柱が地面から飛び出した。大質量の物体が突然飛び出し、痛覚の有無などお構いなしに先頭にいた魔物の一団を吹き飛ばす。
 予想もしない光景に流石に魔物達の足並みが乱れる。

「今です!」

 そこに砦の城壁から魔法が雨あられと浴びせられた。ドラフデニア王国お抱えの魔術師と、冒険者の中で魔法を使える者達とで構成された魔術師部隊の援護射撃だ。ペトラとその師である老魔術師も、矢継ぎ早に魔法の光弾を放っている。

「ステファニア様!」
「ええっ!」

 林立する水晶の柱は――地下から攻撃を仕掛けているコルリスによるものだ。それにタイミングを合わせ、戦場を巨大な氷壁が横切り、あちらこちらに巨大な石壁が作り出される。
 アシュレイとステファニアの用いる魔法だ。防御陣地は既に砦があるからと、まずは戦場を変異させ、易々と力任せに切り込めない状況を作り出す。先頭集団の足並みを乱し、団体をより小規模に分断する。

「では、我等も動くとするか」

 ロベリア率いる妖精達の手に妖しい光が宿る。障害物の多い戦場に更に幻影が作り出されていく。氷の柱。石の壁。ロベリア達の術は、視覚だけでなく感覚も騙す幻術だ。方向感覚を乱し、どこからどう進めば敵のところに辿り着けるのかさえ見えない。

 そこに将兵達が多勢を以って各個撃破するために突っ込んでいく。痛覚がない。それは確かに非常に厄介な性質だ。だから、分断して数的有利を作り出すことにより、力尽くで抑え込む。

 空中で、地上で。あちこちで戦いが始まった。精霊達を守り、敵の空中部隊を牽制する役割がレアンドル王率いるグリフォン部隊ならば、彼女達は戦況を有利に導くために遊撃に回れるということだ。

「行きます――!」

 シリウス号の甲板から、グレイスが魔物の密集する只中に単身飛び降りていく。双斧の動きに連動した暗黒の闘気が渦を成して、グレイスの刃圏にいた魔物達を一匹残らず微塵に吹き飛ばした。地面を割り砕いて、無人の野を行くがごとく双斧を振るって一切合財を両断しながら突き進む。

 あまりと言えばあまりな光景だ。凄まじいまでの力に、ドラフデニアの将兵達や冒険者ばかりか悪霊の取り付いた魔物でさえも足を止めて見入ってしまう者が出るほどに。

 痛覚がどうこうだとか、防御がどうこうとか。まるで関係がない。進めば進んだ分だけ、振るえば振るった分だけ、魔物が吹き飛んでいく。

 本来なら死体となってもそのまま器を操れるはずなのに、グレイスの一撃を受ければそれもままならない状態にされてしまう。
 そして――堪らずに肉体から飛び出した黒い靄。それを大剣と槍が一閃して霧散させていた。

 グレイスの露払いとばかりに、緑の炎を纏う首無しの騎士と、翼を持つ戦乙女が突っ込んできたのだ。
 デュラハンは哄笑を上げながら空中を疾駆し、ヘルヴォルテは淡々とした表情のままで優雅ささえ感じさせる動きで飛び回る。

 結界に阻まれて本体に戻ることもできず、さりとて取り付くべき器もない。右往左往する雑多な悪霊達を次々と霧散させる。
 未練だとか恨み言だとか。そんなものは関係がないとばかりに、此岸から彼岸へと容赦なく叩き落としていく。或いは、それこそが怨念に囚われた死者への慈悲、なのかも知れない。

「それじゃあ、私達もいきましょうか」

 地面から飛び出したコルリスが、こくんと頷き、ステファニアをその背に乗せる。
 ステファニアを守るように、諸共に結晶の鎧を纏う。ステファニアの魔法と、結晶弾や伸縮する槍とを用いて、地上と空中の敵を同時に牽制していく。

 その隣に随伴するのが、氷の鎧を纏ったラヴィーネとアシュレイ。
 氷弾を雨あられとばら撒き、氷の蔦を空中に広げて空中から突っ込んできた魔物達に網をかけるように制圧する。

「そこね」

 氷の蔦に囚われた魔物へとイグニスがローズマリーの指示を受け、真っ向から突っ込んで戦鎚で粉砕していく。

 イグニスを前に出しているローズマリーの身を守るのは、マルレーンのソーサーとエクレール、それからリンドブルムだ。マルレーン自身はシリウス号内部で月女神の祝福を維持するために祈りを捧げている。
 ピエトロとシェイドは専ら地上部隊の援護。分身で敵の足止めをしたり、妖精の幻術で方向感覚を乱された魔物を更に暗黒の空間で覆って、行動を阻害していくという役割。

 空中を瞬くように現れては消えるシーラが、当たるを幸いとばかりに飛行型魔物の翼を斬り落としていく。

「――遅い。イルムヒルト、後は任せた」
「ええっ!」

 そうして器から抜け出した悪霊を、イルムヒルトとセラフィナが力を合わせて放つ破邪の鏑矢が霧散させてしまう。
 グレイス達が仕留めているのは――まだまだ全体の一部ではあるが、その処理速度が尋常ではない。自由にさせればあっという間に天秤が傾くだろう。特に、デュラハンやヘルヴォルテ、イルムヒルト達の存在は、本体から離れている悪霊達にとっては脅威だ。取り付き直せばいくらでも戦えるはずが、その場で終わりにされてしまう。それは通常心配する必要のない、士気に関わってくる。

 だから……天秤を傾けさせまいとしたか。それとも援軍として間に合っただけか――。戦場に巨大な咆哮が響いた。

 森の木々を砕いて沼地の巨人と呼ばれるグレンデルと、背中に宝石を抱えた巨大蜘蛛――ジュエルタランテラ、そして魔に落ちたリザードマンが歳経て変異するソードリザードと呼ばれる強力な個体が次々と姿を見せた。

「何じゃ! あんな連中まで操られておるのか!?」
「妖精の森の高位種か――!」

 それを見て取ったロベリアとレアンドル王が声を上げる。
 森の奥地に点在している、魔力溜まりを独占している強者達だ。
 いずれも攻撃的で凶暴な性質を持つが、縄張りを独占することを最優先にしているため外には出てこない、という連中である。
 妖精の女王たるロベリアもまた、妖精の森における強者の1人ではあるのだろうが……妖精達は精霊に近い性質上、陰の気が満ちる魔力溜まりには近付かない。

 グエンゴールはそうした妖精の森における陰の魔力溜まりの位置を把握していた。いつかアケイレスの王が目覚めた時に、強力な魔物を真っ先に手駒とするために。
 魔力溜まりに縁を結び、呪法をかけたのだ。強力な個体の意識を塗りつぶし、そして確実に操るために……何体もの悪霊が黒い靄となって高位種に纏わりついている。

 グレイスが斧に暗黒闘気を纏う。無造作に振るえば巨大な闘気の刃となって高位の魔物達目掛けて放たれた。
 それを見て取った沼地の巨人の腕に悪霊の靄と巨人の闘気が宿り――。グレイスの闘気に向かって砲弾のように撃ち放ってくる。

 真っ向から激突。爆発して相殺された。

「……なるほど。確かに危険な連中のようですね」
「充分に気を付けてグレイス。悪霊が集まって取り付いた器は、凄まじい力を持つと伝承にあったわ」

 ローズマリーの言葉に、グレイスが頷く。
 グレイス達が自由になる時間がもう少し長ければ……もっと戦況を有利にできていたのだろうが、状況が変わった。
 まだ――全体を見て敵の性質を考えれば、押し切れるほどの数的優位には立っていない。高位種も現れ、戦いは依然、予断を許さない状況と言える。
 諸々鑑みても敵からの被害を抑えるには高位種を抑える必要があった。あれらがまともに地上部隊に切り込めば死傷者が多数出るだろう。そう、グレイスもローズマリーも見積もっている。

「じゃあ、あれは私達が相手をする」

 そう言ってシーラは真珠剣を構えた。グレイスとローズマリーも頷く。
 グレイスは闘気を全身に纏い、ローズマリーは身体の周りにマジックスレイブを無数に浮遊させ、高位種の魔物達と向かい合うのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ