挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
747/1202

番外5 妖精の森

 シリウス号はやがてガーラドノフ城砦跡に到着する。
 崩れた壁や倒れた柱等を見て、建築様式等を確かめながら、土魔法の模型を作って元の形を再現していく。
 どこから敵が攻めてきて、どうやって迎え撃ったか。想像を巡らしながら模型の上で再現していくわけで、作業としては中々面白い。

「結構堅実な城砦に見えますが。放棄された理由等があるのですか?」
「井戸水の出が悪くなったことや、老朽化等が進んで放棄された、という話です。平和な時代になって近場の開拓が都市規模まで発展したせいで、防衛拠点としての役割がそちらに移ったのですね」

 なるほど。水源の枯渇と都市の発達か。それは確かに放棄されてしまうか。軍事的にも近場に都市があればそれで事足りるだろうし。

「あら。コルリスが何か見つけたようだわ」

 と、ステファニアが教えてくれる。

「ん。見に行ってみようか」

 コルリスが瓦礫の近くでもぞもぞやっているので何があったのかと近付いてみると……埋まっていた武器の残骸らしきものを掘り出したようだ。金属の匂いを探知したのだろうか。コルリスは掘り出したものを城砦跡の石畳の上に並べる。

「ああ。ありがとう、コルリス」

 食べるために掘り出したわけではないようだし。何か見つけたからステファニアを通じて教えてくれたらしい。礼を言うとコルリスはこくんと頷く。

「武器か。これも当時の兵士達の装備を知ることのできる資料にはなるかな」
「今の兵士達の装備とちょっと形式が違う?」
「ああ、確かに」

 シーラの言葉に頷く。古い時代の武器ということで今よりシンプルな感じがあるか。

「観光というよりは、まるで学者の研究のようだな。いや、面白い」

 レアンドル王はそんな光景を見て上機嫌な様子で笑っている。

「城塞の再現模型が出来上がったら、1つお渡しします」
「おお、それは嬉しいな」

 出来上がってしまえば更なる複製は簡単だしな。
 そんな調子で城砦跡を見て回り、模型を完成させたところで俺達はその場を後にしたのであった。



 ペトラの解説を交えてドラフデニア建国に至るまでの歴史を聞きながら古戦場の見学をしたりする。シリウス号で高度を取って地形を見ながらどこに伏兵を配置した、どうやって兵を動かした、などと実際の流れに沿ってみんなと一緒に模型上で実地検分していく感じだ。

「この部隊の指揮官があっさり退いてしまったのは理解できないわね。まだ戦線を支えられたでしょうに」
「そうですね。ここを支えられないと、こっちの部隊も孤立してしまいますし」

 クラウディアの言葉に、グレイスも頷く。

「実際、この場面を基点に押されて苦しい戦いを強いられる形になっています。指揮官であるルビオン将軍が優秀なので暫くは支えられていますが……流石に耐えきれなかったようですね」
「ルビオン将軍もそれで包囲されて結局捕まってしまったと。確か……こっちの部隊を率いていた将軍と不仲だったと聞いたような」
「はい。そのように伝わっています」
「ということは、将軍は味方に裏切られて部隊を孤立させられたようなものですね……」

 ペトラの言葉に、アシュレイが眉根を寄せた。

「だからルビオン将軍が捕えられた後の敵軍は連戦連敗となるわけだ。彼の悪王に仕えた者の中では最後の傑物と呼べる人物であったからな」

 と、レアンドル王がその後の顛末について教えてくれる。
 実際の兵の動かし方については用兵に詳しい面々も多いし、みんなも戦いに慣れているので自然と話の内容も濃くなる傾向にあった。
 マルレーンは真剣な表情で話を聞いているが内容も理解しているらしく、時々話に相槌を打ったり、意見に同意するように頷いたりしている。イルムヒルトは話の内容に合わせて臨場感を出すように音楽を奏でたりしていて、気分が盛り上がるので中々に楽しい。

 ちなみにルビオン将軍は相当優秀だったようで、何度かアンゼルフ王と一進一退の攻防を行っている人物だ。
 この戦場で捕虜になったが、その後のアンゼルフ王の待遇に思うところがあったのか、悪王の国が滅んだ後に説得に応じてドラフデニアの発展にも尽力した……という話である。実際、今も尚その子孫がドラフデニアの貴族に名を連ねている。

 幻影劇もルビオン将軍との手の内の読み合い等を描けば盛り上がることだろう。その後のアンゼルフ王の快進撃もいい感じにカタルシスが生まれているし。
 そうして古戦場の見学が一段落したところで、次はどこに行くか、という話になった。

「ええと。妖精の森がここからもう少し進んだところにあるようですが」
「興味がおありですか?」
「ヴェルドガルでは、植物園や温室等で色々栽培していますし、僕達も冒険者稼業をしていましたからね」
「確かに……西では手に入らない薬草や作物が見つかるかも知れないわね」

 と、羽扇で口元を隠しながら言うローズマリーである。
 うむ。ローズマリーだけでなく、ステファニアも装備品を確認したりと冒険者的な活動に期待しているようだ。妖精の森ということでセラフィナもにこにことしている。みんなで向かって探索と薬草採集などしてみるのも面白そうだ。

「ふむ。ここまで足を延ばしたのだし、妖精の森の視察をしてくるというのも王の勤めかも知れんな。最近の森の様子はどうか、冒険者達の声を聞いてくるとしよう」

 と、レアンドル王も割と乗り気のようである。というわけで……次の行き先は妖精の森に決定したのであった。



 大きな街道から逸れて、道沿いにシリウス号を飛行させていくと……やがて大きな森林が見えてくる。
 妖精の森、と呼ばれるそこは……上空から見ても普通の植生とは明らかに違うのが見て取れた。それに片眼鏡で見ると森全体に靄のように魔力が漂っているのも分かる。

「沢山生えているあの木ですが……夜、月明かりを受けると葉が薄い紫色に見えたりして、すごく綺麗だったりしますよ」
「それはまた……」

 宵闇の森とは別な意味で神秘的な雰囲気がありそうだ。
 とは言え、護衛の騎士がいるとはいえ、レアンドル王も同行しているのだし、夜まで待つだとか、危険と言われる森の奥までの探索はしない方が無難だとは思うが。
 森の手前でシリウス号の高度を下げていく。薬草採集に来ていた冒険者達の注目は集めてしまっているが……。

 というわけで、シリウス号を停泊させて、タラップを降ろす。
 甲板にレアンドル王が出て冒険者達に挨拶するように片手を挙げると、冒険者達は戸惑っていたようだが、それぞれに敬礼を返してくる。

「これはレアンドル陛下……!」
「精が出るな。最近の森の様子はどうだ? ヴェルドガル王国の英雄と、空飛ぶ船で近くまで来たので足を延ばしてみたのだ」
「そ、そうだったんですか。いやあ、森の浅いところはいつもながらで平和なもんですよ。魔物も最近は少なく感じますね」

 レアンドル王が冒険者達に声をかけると、冒険者達も明るく応じていた。そのやり取りは顔見知りと言うかなんというかのそれである。やはり冒険者達とも馴染みがあるようで。

「ふむ。異常も無さそうだし、余も少しばかり採集に付き合うとしよう。護衛も控えておることだし、問題はあるまい」

 と、レアンドル王は楽しそうな様子である。
 精神体のアルファが甲板に立って、俺に視線を向けてにやりと口角を釣り上げる。停泊中のシリウス号の守りは任せろ、というわけだ。アンブラムにも残っておいて貰うか。



 妖精の森は浅い場所は安全、とは言うが……だからこそ浅すぎる場所に薬草等はあまり生えていない。冒険者達の仕事の場所なので、浅いところの薬草等は採集されつくしてしまっているからだ。
 名前の通り妖精もいるとのことだが……少し奥まで行かなければ出会えないという話であった。というわけで、危険ではないぐらいの深さで、薬草採集が期待できるぐらいの場所まで森の上空を通って移動する。

 少し枝の開けた場所を見つけて、そこから森の中へと降りる。
 上空から見るのとはまた雰囲気が違う。色取り取りの花や、人の背丈ほどもある巨大なキノコが生えていたり……空気も澄んでいて、何とも綺麗な森だ。

「……面白いわね。色々持ち帰りたいところではあるのだけれど」

 と、その光景を見てテンションを上げているローズマリーである。

「薬草やキノコの同定もある程度はできると思います。気になる物があったら聞いて下さい」
「じゃあ、私達は魔物に警戒しておく」
「よく出没する魔物の種類を聞いても良いかしら?」
「はい。ええと――」

 シーラとイルムヒルトの質問に、ペトラは森に出現する魔物の種類を列挙していく。
 ゴブリン、コボルト、オークあたりは普通に出てくるらしい。トレントやエントのような植物系の魔物もいるそうだが。
 とは言え野生のトレント、エントあたりはあまり積極的に攻撃を仕掛けてくるわけではないから無闇に火を使ったり木を伐り倒したりしなければ大丈夫とのことである。

 では、俺もみんなの位置を把握しつつ薬草採集をさせてもらうとするか。今のところ妖精達は姿を見せていないが……セラフィナもいるし普通に会えそうな気もする。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ