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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外4 アンゼルフ王の足跡を求めて

 ドラフデニア王城での晩餐の席は貴族を広く呼んでの歓待……というよりは、どちらかと言えばレアンドル王の私的なものに近く、出席者も王妃やまだ幼い王女や王子、それにレアンドル王に親しい主だった側近達が若干名という、アットホームな雰囲気のものであった。当然、ペトラとその師である宮廷魔術師も出席している。

 料理は大河で獲れた魚や地鶏等々を素材としたものだが、王城で饗されるだけあって手間暇かけられていることが窺えるものが多い。盛り付けやソース等、視覚的にも華やかで、味付けも繊細且つ上品な印象だ。グレイスは料理をしっかり分析しているようだったし、シーラも耳と尻尾を見る限り食事を満喫しているようであった。みんなの反応も上々と言えよう。

 そうして食事が一段落したところで、宮廷魔術師に声を掛けられた。

「改めてご挨拶をと思いましてな。滞在中、我が弟子が御厄介になりますゆえ」
「いえ。お世話になるのはこちらの方です。ペトラ殿にはお手間を取らせてしまいまして恐縮ですが、博識なので助かっています」
「それは何よりです。同年代で明らかに実力が上の魔術師というのが、我が国でも滅多におりませんでな。ペトラとしても良い刺激になっているようで」

 ペトラの師である宮廷魔術師は、お祖父さん――ジークムント老より更に年上ぐらいだろうか。長くて白い眉毛と白鬚とが、柔和そうな雰囲気の老魔術師だ。

「境界公があっという間に広場の彫像の小さな複製を作ってしまったのは衝撃でした。あれ程の速さで、緻密な魔法制御を行うというのは……」
「ヴェルドガル王国や、かの魔法王国シルヴァトリアを含め……当代切っての魔術師じゃからな。滞在中、学べるものも多かろう」
「はい」

 と、師の言葉に真剣な表情で頷いているペトラである。

「テオドール卿の持ってきた品々も面白いな」
「これらもテオドール卿が作ったと耳にしましたが」

 レアンドル王は上機嫌な様子だ。チェス盤やら魔力楽器、炭酸水製造機やら……ドラフデニア訪問にあたり、色々と土産物も持ってきたのである。

「正確には、懇意にしている魔法技師と共に作ったものです」
「……なるほど。流石はヴェルドガル王国というべきか。これは……明日の飛行船も楽しみだな」

 そんな調子で晩餐の席は和やかに過ぎていったのであった。



 そして明くる日――。
 レアンドル王は近衛の騎士数名と案内役であるペトラ、それからグリフォンを連れて河口港へやって来たのであった。

「おはようございます」
「ああ。おはよう。うむ。良く晴れた絶好の日和よな」
「おはようございます、境界公」

 挨拶をするとレアンドル王達が答える。レアンドル王はかなり動きやすそうな格好だ。このままグリフォンを駆って狩りにでも出掛けそうな、というか。

「紹介しておこう。我が友、ゼファードだ」

 グリフォンの名はゼファードというらしい。レアンドル王がその頭を撫でてやると、ゼファードは心地良さそうに目を細めていた。

「よろしく、ゼファード」

 声をかけるとゼファードは小さく喉を鳴らして応えた。

「ゼファードは余が生まれたのと同じ月に生まれてな。以来、共に育ってきた相棒と呼んで差し支えない。そして、アンゼルフ王の友、グリューク直系の子孫でもある」
「グリュークの子孫ですか。それはまた由緒正しい血統と言いますか。ドラフデニア王家とグリュークの絆は、今も尚健在というわけですね」

 歴史を感じさせるというかなんというか。ドラフデニア王家はやはり、グリフォンを随分と大切にしていると見える。俺の反応にレアンドル王はにやっと笑った。

「うむ。しかし、そなた達の使い魔はまた、変わった顔触れが多いようだな」

 甲板から顔を覗かせているリンドブルム達を見てレアンドル王が言った。
 昨晩の晩餐の席で事前に打ち合わせ済だ。ゼファードとの顔合わせの意味合いもある。
 ゼファードは温厚な性格だから使い魔達と顔を合わせても問題ないだろうとの事だったが、まあ手順は踏んだ方が良い。

 甲板から顔を出していることにはゼファードも気付いているようだが、落ち着いたものである。
 というわけで問題無さそうなので、シリウス号で留守番していた動物組をレアンドル王達とゼファードに紹介していく。

 リンドブルム、ラヴィーネにコルリス。アルファ。エクレール、ウロボロス、カドケウスにバロール、ネメア、カペラといった魔法生物組まで含めて順番に紹介していく。

「ベリルモールとはまた珍しい魔物ですね。初めて見ます」
「確かに。だがベリルモールに頻繁に出没されては困るな。初めて見たのが使い魔で良かったというところか」

 ペトラにしてもレアンドル王にしても、やはりコルリスは珍しいようだ。食性が食性なためか、ある程度魔物に知識があると興味を惹くというのは分かる気がする。鉱脈を食べてしまうという意味で、為政者やそれに近しい立場の者としては把握しておかなければならない魔物なのかも知れないが。

 それから……ネメアとカペラは流石にレアンドル王もペトラも予想外だったのか、かなり驚いていたようだ。衣服に住む魔法生物がいる、と前置きはしたけれど。

 ともあれ肝心のゼファードはと言えば、こちらの動物組と顔を合わせても喧嘩腰になることもなく……コルリスに握手を求められて最初は首を傾げていたが、少しの間を置いてから握手に応じたりしていた。ふむ。とりあえず、この分なら大丈夫そうだ。

「では、どうぞこちらへ。船内へ案内致します」

 そう言って、シリウス号の内部へとレアンドル王達を案内する。グリフォンも厩舎ではなく、艦橋まで一緒に来て貰おう。自動的にリンドブルム達も付いてくることになったが。

「ふむ。やはり普通の船とは色々違うのだな」

 艦橋というのがまず、一般的な船とは違う。内部を見回して、レアンドル王は思案しながら頷いていた。

「対魔人用を想定して作られた船ですので。乗員は全員、外から遮断されて瘴気弾等から守られるようにと。高空の寒さや空気の希薄さ、船を動かした際の甲板からの転落等から身を守る意味合いもあります」
「見た目は船でも、空を飛ぶ場合は色々勝手が違ってくるわけですね」
「そういうことです」

 ペトラの言葉に答える。
 シリウス号が稼働して外の景色も映し出される。おお、と声を上げるレアンドル王。目を見張るペトラと護衛の近衛騎士達。みんなに席についてもらい、お茶を淹れたところで操船席の水晶球に触れた。

「では――シリウス号、発進します」

 ゆっくりとした速度で港を出て、大河の真ん中あたりに来たところで、周囲に何もないことを確認してから浮上させていく。
 モニターに映し出される風景。その視点が高度を増していくとレアンドル王の楽しそうな笑い声が響き、ペトラの年相応な歓声と近衛騎士のどよめき声とが重なる。

「それでは、道案内致します」

 ペトラが円卓の上に地図を広げる。
 さてさて。それではドラフデニア国内の史跡や名勝を、あちこち巡っていくとしよう。

「最初は……どこに行く予定だったかしら?」
「んー。アンゼルフ王が空城の計を仕掛けた城塞跡、なんていうのはどうかな」

 クラウディアの言葉に答える。アンゼルフ王は元々このあたりの土地を支配し、圧制を敷いていた王を打ち倒してドラフデニアを建国したわけだが……建国に至るまでには当然戦いもあった。その中に、敢えて城門を開いて敵将を警戒させ、敵軍を退却させたという逸話があったりする。

「空城の計、ですか?」
「敢えて自分から城門を開いて、いかにも罠があると思わせる……。心理作戦ね」

 首を傾げたアシュレイにローズマリーがその内容を説明する。

「自分の普段の用兵能力を相手が理解しているっていう下地と……それから相手方の将軍の技量や人格を把握してないと、まず成功しない策かな。この場合、土壇場でそれをやれる胆力がすごいって言うべきなんだと思う」

 地球では……兵法三十六計だったかな。徳川家康も用いたとされる策だが、いかにも罠があると思わせるのはルーンガルドでも有効に働く場面があるということだ。勿論、アンゼルフ王の普段の用兵が優れていたからこそ敵が警戒したという部分はあるだろう。互いに技量を信頼するからこそ計略が上手く嵌る、というのは……何とも浪漫のある話だ。

「戦は極力避けるべきものだが……その中から様々な物語も生まれるものだ。アンゼルフ王の話は余も寝物語に聞いて心躍らせたものだよ。アンゼルフ王は悪しき王だけでなく、魔物や悪霊とも将兵を率いて戦っているしな」

 と、レアンドル王が相好を崩す。

「となると……ガーラドノフ城塞跡ですね。東の街道沿いに進んでください」

 というわけでペトラの道案内に従い、東にシリウス号を進めていく。
 古い時代の城塞は放棄されて遺跡になっていたりもするが……跡地を見れば過去の姿がどんなだったかを想像して、幻影劇の参考にもできるだろう。
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