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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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番外2 古都スタインベール

 シリウス号を停泊させて、早速ヴェルドガルから到着した旨を伝え、入市の手続きを行う。

「テオドール公――いえ、境界公とお呼びするべきのようですね。ようこそお出でくださいました。宮殿まで案内するようにと仰せつかっております」
「そうでしたか。では、よろしくお願いします」

 河岸側の兵士達の長らしき人物が丁寧に応対してくれた。シリウス号は一旦アルファとアンブラム、ラヴィーネやコルリス達に任せる形で河口港に停泊させておく。何かあれば応対は人の姿を取っているアンブラムが行い、防衛戦力は居残りになる使い魔の面々が、ということになるだろう。

 というわけで、みんなで大型の馬車に乗って街中を移動する。

 ドラフデニア王国王都、スタインベールは古都と呼ばれる風光明媚な場所である。元々、医者、薬師の家系に生まれたアンゼルフ王は文化や学問の奨励にも力を注いだという話だ。
 そうして、しっかりと整備された広々とした道。統一感のある建築様式の家々。神殿に広場……と、洗練された都会的な雰囲気と、積み重ねてきた歴史の長さをうかがわせる側面とが同居する都市が生まれた。

 ドラフデニア建国以前から都であった場所。何度かの戦火を乗り越え、今もなお都としてあり続ける場所。

「――だからドラフデニアの人々はそれを誇りに思っていて、古都と呼んでるって話だよ。実際歴史も長いからね」

 移動中にスタインベールについて掻い摘んで説明すると、みんなは興味深そうに聞き入っていた。

「確かに、綺麗な街ですね」
「そうね。タームウィルズとヴィネスドーラの中間、という感じかしら。冒険者も沢山いるし」

 グレイスの言葉に、ステファニアが頷いて答える。

 シルヴァトリアの王都、ヴィネスドーラ。あの街も確かに整然とした作りだ。
 整然さと魔法を組み込んだ街並みが、魔法と学術の都であるという雰囲気を醸し出していたが……。
 そう言われれば、スタインベールは確かに、タームウィルズとヴィネスドーラを足して2で割ったという雰囲気かも知れない。冒険者の姿を結構見かけるから、というのが俺達にとっては馴染みやすい空気ではあるだろう。

 馬車は河口港から大通りを抜け――そして街の中心部にある城へと入っていく。城は小高い山というか丘の上に作られている。ここはかつての時代の名残なのか、街並みから感じるより古めかしく、質実剛健で実用的な印象がある。地形を利用してそのまま城を築いたわけだな。

 庭園で馬車が停止する。みんなで降りると、女官達がやって来て城の中へと案内された。
 貴賓室に相当する場所に通されたようだ。謁見の間ではないのは、俺達の訪問が私的な目的だったからだろう。

 お茶と砂糖菓子が出され……女官にメルヴィン王から預かってきた書状を渡す。
 そうして少しすると、護衛の近衛騎士を連れて、1人の人物がやって来た。王冠と出で立ちがその人物の身分を物語っている。
 現ドラフデニア国王、レアンドル=ドラフデニア王だ。

 年齢は30台そこそこ。40にはなっていないだろう。顎鬚が精悍で野性味溢れる印象で……その立ち居振る舞いから相当身体を鍛えているのが窺える。王というよりは武人とか……そう、冒険者と言われた方がしっくりくるな。

 先王が引退して円満に王位を継承。継承してまだ数年という話だが、先王の基盤をそのまま継いで、公明正大で評判は悪くない、とのことだ。ヴェルドガルとの友好路線も継承しているのは、魔人殺しの偽情報流しに協力的だったことからも分かる。事前の情報では信用の置ける人物のようだ。

「これは……レアンドル陛下。お初にお目にかかります。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

 レアンドル王を立って迎え、一礼して自己紹介する。

「遠路はるばる良くぞ参られた。レアンドル=ドラフデニアだ。よろしく頼む」

 と、レアンドル王は握手を求めてきた。握手に応じると、掌に武器の修練でできたと思しきタコがあるのが分かった。レアンドル王も、握手を通してこちらの何かを察したのか、目を見開いた。

「これは……驚きだな。その若さで魔術師でありながら体術まで恐ろしい程の技量と見える。立ち姿に隙が全く見当たらないとは。いや、だからこそ魔人殺しの英雄か」
「恐れ入ります」

 武人は立ち姿や振る舞いから相手の技量をある程度察することができる、というのはあるが……レアンドル王もそうらしい。
 一礼して答え、俺とレアンドル王の自己紹介が終わったところでみんなの紹介をしていく。レアンドル王は妻の多さに少しだけ面食らった様子だが、静かに頷いていた。
 みんなの紹介が終わったところでレアンドル王が口を開く。

「ふむ。丁寧な紹介痛み入る。テオドール卿の勇名はかねがね耳にしている。メルヴィン王の書状にも目を通させて貰った。私的な新婚旅行との話だが」
「はい。アンゼルフ王の足跡を求めての観光旅行ということになります」
「公的な訪問ではなくとも、ヴェルドガル王国の英雄が、我が国の誇るアンゼルフ王に親しんでもらうことは両国の友好に繋がるものと期待している」

 そう言ってレアンドル王は笑った。

「ありがとうございます。妻達と共にあちこち見て回りたいとは思っているのですが……何か注意するべきことはありますか? 立ち入ってはいけない場所だとか」
「城や砦のような現役の軍事施設に関しては、流石にどこもかしこも見せるというわけにもいかんが……。遺跡や古城、古戦場等を巡りたいというのなら止める理由も問題もあるまい。必要なら案内役を用意するが」

 案内役か。ドラフデニア国内の地理にそこまで詳しいわけではないし、ここは素直に頼んでおいた方が良いだろう。
 魔人殺しであるとか飛行船であるとか、自分を外から見た印象というのはそれなりに理解しているつもりだ。仮にお目付役だとしても後ろめたいことはないのだから受け入れてやれば、滞在中お互いに心安らかでいられる。その上でもし……何かの策謀や別の意図があるとしたら、その時はその時だ。こちらも心情的に遠慮のない対処をすることができるしな。

「では、よろしくお願いします」
「承知した。しかし……空飛ぶ船と聞いていたのだが、普通に河を下ってきたのだな」
「そちらの方が騒ぎになりにくいと思いまして」
「ふむ。それは確かに」
「……もし良ければ、陛下も一度乗ってみますか?」

 そう尋ねるとレアンドル王は表情を明るくした。どうやら割と空飛ぶ船というのに期待をしていたようだしな。

「おお。では……そうだな。明日……最初の案内役として余も同行させてもらうということで構わんかな? 流石に滞在中、あちこちに付いていくというのは無理があるからいずれにせよ案内役には他の者を紹介することになるが」
「はい。是非」
「ふむ。では決まりだな。続いては……宿の話をしておこうか。城に滞在してもらっても一向に構わないが……その場合に想定される状況は、話に聞いているテオドール卿の嗜好とは、やや合致しないであろう。私的な観光や新婚旅行であるということを考慮し、街の宿を紹介する用意もしている」

 レアンドル王は「今日の晩だけは歓待の用意があるから晩餐に招待したいのだが」と付け加えて言葉を締めくくった。
 俺の嗜好、ね。確かに、貴族の派閥が云々だとか挨拶回りだとか、そういうのはあまり好みではない。城に滞在するとそういった挨拶回りなども想定されるから、のんびり過ごせないだろうというわけだ。

「重ね重ねのお心遣い感謝します。街の空気を感じたいとも考えておりました。もしよろしければ街の宿をご紹介頂ければと存じます」
「では、決まりだな。滞在中の案内役を連れて来る故、その者に宿まで案内させよう。また晩餐の席で会えるのを楽しみにしている」

 レアンドル王はそう言って上機嫌な様子で退出していった。明日、飛行船に乗ると約束したから、今日中に終わらせておきたい執務が色々ある、とのことで。

「ファリード陛下と気が合いそうなお方ですね」

 と、アシュレイが言った。

「ああ、確かに」

 ファリード王は自ら戦場に立っていた王で、レアンドル王は……何だろう。ドラフデニア王国はレアンドル王の時代に外国との戦いは無かったが、レアンドル王は叩き上げという雰囲気を纏っていた。

 ああ、そうだ。タームウィルズの冒険者ギルドの副長、オズワルドに近い雰囲気があるのだ。
 流石にお忍びで冒険者稼業……というのはないだろうが、冒険者との共同作戦で魔物の討伐ぐらいはこなしていそうな雰囲気があるな。ドラフデニアの気風からすると、有り得る話だ。
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