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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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709 境界公の新婚生活

 今は……朝だ。
 映し出された太陽でも黄色く見えるものなのかと愚にもつかないことを考えながら朝風呂に入っている。
 風呂は広く、足を伸ばしてのんびりと湯船に浸かれる。白い列柱の向こうに、領地の景色が見えるという、見晴らしの良い風呂である。
 列柱に蔓が巻き付いていたりして、緑も配置してあり、デザインとしても中々に気に入っている。

 あの後……宿泊客の見送りや宿泊施設のリサーチと改善案の取りまとめ、ティエーラやヴィンクル達との交流、これから先の領地に関わる人達としておくべき話などの交流や仕事といった事を除けば……後は新婚ということで、ずっとみんなと過ごしている状態に近い。

 ともかく、俺の年齢的なところから来る問題も出なかったし、グレイス側の知識の乏しさにしても俺の方に知識があったから何とかなった。グレイスは、年齢に比して今までそういった情報に触れる機会が少なかったから恐縮していたが。

 俺はともかく、景久はどうなのかと言われると……まあその……ネット環境などもあったし、そういう知識ならみんなよりも大分豊富なんじゃないかと思う。知識ではなく経験はどうなのかと言われると……ネトゲ廃人に何を況やという感じだが。

 いずれにせよ、タームウィルズに来た後、自制しておいて良かった、と思う。そうでなければ間違いなく歯止めが利かなくなって、今とは状況も大分違っていただろう。それぐらいには、耽溺してしまっていたのではないだろうか。

「テオのことが、好きです。ずっと昔から……これから先も。愛してます……」

 なんて。事が終わった後で抱きしめられながら言われて。そうやって、ストレートに感情を吐露してくれるのは、自分で想像していた以上に嬉しかった。

 そして……婚約の順番で行くと次はアシュレイとマルレーン、それからクラウディアと年少組が続いている。クラウディアに関しては肉体的な年齢の話なので2人と同じ括りになるので、彼女達に関しては抱擁したり口づけを交わしたり程度で抑える形だ。

 添い寝をしたり口付けを交わしたりながら、これからの事も話をした。

「その……みんなとの結婚生活で、年齢が来るまでは少し不便なこともあるかなって思う」

 と、俺がそう言うとアシュレイ達は納得してくれているらしく、微笑んで答えてくれた。

「それは大丈夫です。テオドール様には言ったと思いますが、それは私達の事を気遣ってくれているからですし」
「そうね。それにその……王城から借りてきた本を読んだ限りだと……ええと……別の方法だって……ある、ように思うのだけれど」

 顔を赤くして言ったクラウディアの言葉に、マルレーンもどこか興味がありそうな様子で耳を傾けている。

「いや……それは……」

 確かに論理的に考えるとそれはそうなのかも知れないが……倫理的に色々問題だ。何というか、そうなると色々俺のほうで歯止めをかけるのが大変だし。
 とりあえずは年少組については現状維持で、感情的な問題が噴出しないようなら一先ず保留、ということで納得してもらった。暫定的な措置なのでどうなるかは不透明だ。これからのみんなの気持ちの動き次第というところだろうか。

 そして、年少組の次はローズマリー。
 ローズマリーは一応王族として必要な知識だけはある、という感じだったが、それも割合最低限のものだ。自分が王になるなら必要ない、と教育を自主的に切り上げてしまったとのことで。

「……こんなことになるなら、もっときちんと勉強しておけば良かったわね」

 と、珍しく自信無さげにしているローズマリーであった。だが一旦行動に移すと最善を尽くすのが彼女の性格でもあるので、色々とどうするのが良いのかと聞かれてしまった。

「無理はしなくても……」

 俺の言葉に、ローズマリーは首を横に振った。

「その……。テオドールの求めることには何でも応えられるようになりたいもの」

 そんなふうに顔を赤らめながらもローズマリーは言っていたので、俺の方も顔が赤くなってしまった。

 シーラの場合は……普段飄々としていて、真面目な時とそうでない時の区別がつきにくいのだが……割合感情表現は素直だったりする。

「ん。テオドールは好きだから、何をしても良いし、されても良い。分からないから、色々教えて」

 そんな風にストレートに言われると頭がくらくらしてしまうところがある。まあ……こっちの方が知識は豊富でもあまり無茶な要求はすまいとは思うが。因みに……尻尾と耳の動きは色々と複雑な反応を示していた。

 そして、イルムヒルトとはどうなのかというと。

「その、人化の術を解くのは……」

 イルムヒルトは最初遠慮していた、というよりラミアの姿になって拒絶されないか心配していたようだが、いずれにしても人化の術は解く必要があった。

「いや、イルムヒルトは綺麗だし、尻尾の感触も好きだけどな」

 そんなふうに言うと、イルムヒルトは安心したのか人化の術を解いたのであった。
 尻尾にそっと絡まれてくすぐったかったりしたが……ともあれイルムヒルトの心配は杞憂だったと言える。
 人間とラミアの子供についての話もあちこちで残っているしな。そういった話は結構心強い。因みに男の子は人間、女の子はラミアになるのだとか。

 責任感の強いステファニアは……ローズマリーと違って、王族として女官からの教育課程をしっかりと修了していた。
 だがまあ、それも貴族同士を想定しているわけで。知識は相手方も持っているのを前提としているので、殿方に任せれば大丈夫という部分が多いようだ。

「年上なのに……テオドールに色々と教えてあげられるようじゃないのは、申し訳ない、わ」

 そんなことを言って、恥ずかしそうに身体を小さくしているステファニアであった。

「大丈夫。ステフの年長者っぽいところも、貴族として尊敬できるところも、しっかり見せてもらってる」

 ステファニアにそう言うと、愛称で呼ばれたのに気付いたらしく、見る見る顔を真っ赤にしていた。何というか……ローズマリーのことをマリーと呼んでいるのを、少し羨ましそうにしていたから。ならステファニアも愛称でと思ったのだが……まあ、ああいう場で最初に呼ぶのは些か刺激が強かったかも知れない。
 だが、ステフ、と呼ばれたことそのものは嬉しかったそうだ。これからもステフと呼んで欲しいと言っていた。

 そうして無事皆との夜を過ごし……今に至る。体力的なところはどうなのかと言えば……どうやらこれも問題は無さそうだ。魔力循環と循環錬気、それに環境魔力などでも補える。

 魔力循環は身体に流れる魔力の流れを制御し、生命力と魔力を合わせることにより、身体機能を強化させ魔力そのものを変質させるというものだ。だから、循環のバランスを調整し、魔力の流れを操ってやることで生命力や身体を活性化させたりも可能、というわけである。実際今だって……疲労感もそれ程ないしな。

 もう一点……。心配だったのは貴族が色に溺れて身を持ち崩したなんて話は枚挙に暇がないことだ。
 だから新婚の今はともかく、あまり耽溺し過ぎた生活を送るようになってしまう、というのもよろしくないと考えていた。しかし、それについても大丈夫だろう。魔力循環についても昔より色々応用が利くようになっているからな。

 身体的な欲求を、魔力の流れを操ることで抑制する方向に応用することも可能になっている。身体の反応を抑えれば感情の動きや欲求もそれに連動する、ということだ。

 まあ今は新婚だから何も考えなくても許されるのかも知れないが、ずっと、というわけにもいかないからな。
 風呂の中で色々思い返していると頭に血が上ってしまうが……ともあれ結婚生活も何とかこなしていけそうで、割と安心した。
 みんなのことを大切にしつつ、領主や他の仕事も疎かにしないように……上手く自分自身を律することも忘れずに行きたいと思う。
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