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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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707 披露宴と思い出と

 みんながフォレスタニアの風景に息を呑んでいるところに、更に騎士の案内を受けた孤児院の院長と子供達も転移してくる。

「案内ありがとうございます」

 孤児院の皆を案内してきたのはメルセディアだ。

「いえ。お役に立てれば何よりです」

 こちらが一礼すると笑みを浮かべて敬礼で返してくる。先日お披露目に各国の王や領主達をフォレスタニアに呼んだ際、騎士団長と共に護衛の1人として同行していたので、フォレスタニアまで来れるということもあり、孤児院のみんなの案内役を買って出てくれたのである。
 孤児院のみんなの招待に関しては……結婚式当日の人出の多さを考えると、混雑の中を中央区まで引率してくるのが大変そうだったので、王城から馬車と迎えを送ってもらう手筈になっていた。

「わあ……」

 やってきた子供達は目を丸くしてそんなふうに声を上げていた。シーラがどこか嬉しそうに尻尾と耳をぴくぴくと反応させ、イルムヒルトがにこにこと笑う。
 迷宮村の子供達もはしゃいでいるのでクラウディアも微笑んでいたりと嬉しそうだ。
 さて。それでは浮石で下へ降りて、フォレスタニアを案内していくとしよう。浮石のエレベーターの使い方を説明して、4基のエレベーターで、皆で下へと降りる。

「すごい!」
「何だかカッコいい!」

 浮石のエレベーターは、子供達には大好評だ。楽しそうに乗り込んで盛り上がっていた。
 下の広場から外壁の門を潜って、市内へと入る。大通りを行きながら街中や湖の底の説明などを交えて進む。

「――空地が多いのは、後で建築できるようにですが、建築様式を合わせる形で街並みに統一感を持たせれば、こちらで作らず職人の手で建築してもらう形でも良いのかなと」
「なるほど。お仕事を提供する形ですね」
「先に拠点として使える建物だけは作っておく、と」

 ミリアムとベリーネは感心したようにふんふんと頷いている。街の見学をしながら説明を交えて進むが、流石に2人の理解は早い。

「ふうむ。冒険者が休息を取るってんなら、鍛冶場も必要になってくるか」

 と、ビオラの知り合いということで招待しているドワーフの職人、ゴドロフ親方も興味深そうに視線を巡らしている。
 そうだな。迷宮分岐点で武器を修復できるようにしておけば色々と安心だ。

「鍛冶場については音が外に漏れないようにできますので、場所はどこでも大丈夫かなと思っていますよ」
「はっはっは。そりゃ至れり尽くせりでありがたい事ですな。まあ、儂らドワーフとしちゃ、近くに酒場があればそれで満足する連中なんですがのう」

 と、ゴドロフ親方は豪快に笑った。
 ふむふむ。酒場ね。酒場に関しては冒険者達も利用するだろうし、割と真面目に参考にさせてもらおう。
 大通りや商店や市場の場所、住宅街等、街の区画ごとに色々想定しているが、重要設備の立地場所についてはそういった利便性等も考慮していきたいところである。

 そうして大通りを抜けて、城へと続く橋に到着する。

「橋の両端は動く歩道になっています。足を置いてやるだけで足場が動いて前に進むことができる、という寸法ですね」

 勿論、賢者の学連のように、ある程度の速度調整も利くし、転倒や激突の防止機能もある。歩道についての説明を受けたみんなは、最初はおっかなびっくりといった様子で足を踏み出して、そこからゆっくりと身体が並行に流れていくと段々と驚きから笑顔になる。

「あははっ」
「面白い!」

 子供達ははしゃいでいるが、大人達も案外楽しそうに見えるな。七家の長老達は流石というか……実に慣れた様子で歩道を滑って、みんなの様子ににやりとした表情を浮かべていたりする。

 ふむ。実装はしたけれど、橋が子供の遊び場になってしまう可能性もあるかな。それに目くじらを立てようとは思わないが、向かう先が城だから常態化するのは問題がある。
 改めて街中に、この動く足場で遊べる場所を作る、なんていうのも良いかも知れない。
 スケート場のようになりそうだが……少し調整してやればスポーツっぽくもできるだろう。身体を鍛えるという目的であれば、大人も楽しめる理由付けにできるはずだ。火精温泉にあるプールとの差別化もできるしな。

 映画館だなんだと、好き勝手やってしまっている気がするが……まあそういった施設は冒険者にも受けが良さそうだし問題はあるまい。
 歩道は最高速度を低めに設定。滑走場は高速で滑ることが可能……とすれば、より楽しく遊べるのは滑走場、となってこちらで遊ぶ理由もなくなるはずだ。差別化してやることで入場料金などを取る理由にもなるのではないだろうか。

 そんな青写真を脳内で描いていると、城門の前に到着する。ここも場合によっては人が集まることを想定しているので、少しだけ広くなっている。

「開門!」

 城門は砦の時と同じくゴーレムが組み込んである仕様だ。俺が指示を出すと独りでに開門していく。

「これは凄い……」

 初めて居城を訪れた面々は、庭園や建築様式に驚いたような顔をしている。迎賓館に進んで……そのままダンスホールへと案内した。
 テーブルの上に、炊き込みご飯にトンカツ、唐揚げ、大きな海老や白身魚の天ぷら、貝の網焼き、キノコの味噌汁にサラダ等々、料理や酒が並んでいる。

「今日はこうして皆様に集まって頂き、温かな祝福の言葉まで受けて、感謝の言葉もありません。お返しというわけではありませんが、ささやかながら宴の席を用意しました。楽しんでいっていただけたら嬉しく思います」

 俺がそう言うと拍手が起こった。拍手が収まったところで、待機していたゴーレム楽団が演奏を開始する。セイレーンやハーピー達はお客なので、こちらから持て成すという意味ではゴーレム楽団の演奏をまずは楽しんでもらいたいと思う。イルムヒルトにユスティアやドミニク、それに族長達も、自分達でも演奏したいと思っているだろうから、頃合いを見て楽士役を交代する用意もあるけれど。
 ともあれ。迎賓館で寝泊まりできる準備も万端なので楽しんでいってもらいたいと思う。



 醤油や味噌を使った料理は好評であった。発酵蔵の構想なども好意的に受け入れられている。
 みんなはと言えば――今日一日はドレス姿で過ごすので、食事等で汚さないかやや気にしていたようなので、風魔法のフィールドで覆ってやることにした。

「ん。料理美味しい」

 と、もぐもぐやっているシーラは満足そうだ。

 やがて食事が一段落すると子供達は、ダンスホールからすぐ外の中庭に出ていって、動物達の所に行って遊んだりしていた。孤児院の子供達と迷宮村の子供達。それにグランティオスやハーピーの集落から来た子供達にラスノーテも混ざって一緒に仲良くしている。
 コルリスやベリウスの背中に乗せてもらったりとか、ラヴィーネやフラミアを撫でたりとか。ダンスホールのテラスの外から楽しそうな声が響いていた。

 マクスウェルの騎士人形も子供達から人気のようだ。イグニス共々男の子からの人気が高いようで。注目を集めながらも核を明滅させているマクスウェルである。

 シャルロッテは……七家や封印の巫女として披露宴にやってきているということもあり、今回は流石に子供達と一緒に動物を愛でる中には加われなかったが、ティエーラと共にテーブルの側にいたヴィンクルを撫でたり抱きしめたりして中々ご満悦な様子だ。
 その間にものんびりとみんなと同じテーブルでお茶を飲みつつ、挨拶を受けたり談笑したり。招待客は親しくしている顔触れが多いのでこちらとしても気が楽だ。

「領地のほうは……何と申しますか。雰囲気が明るくなった……いや、暖かくなったという気がします」
「ああ。暖かくなったというのは……何となく分かる気がします」
「何だか、前よりみんな親切になったみたいです」

 ダリルの言葉に、ハロルドとシンシアが同意する。
 父さんと一緒に挨拶に来たダリルに近況を聞いてみると、ダリルはそんなふうに答えたのであった。ハロルドとシンシアの墓守の兄妹も招待を受けて父さん達と一緒にやって来ている。
 俺が境界公となったのもあるのだろうが、ダリル自身も次期当主としての自覚があるからか、言葉遣いがきっちりしたものになっている。身のこなしや振る舞い方も、洗練されてきた印象だ。ダリルが努力しているのは分かるから、俺もこういう場ではきっちり応じよう。

「多分、前に伯爵領にいらした時の話が広まったからではないかと」
「あれが、全体に影響するぐらいですか。当時関わりの薄かった領民も、母のことを気にしてたのかも知れませんね」
「それもありますし、きっと境界公や奥方様のことも気に病んでいたのではないかとも思います」

 母さんや……俺やグレイスの事を気に病んで、古傷になってしまっていたか。前に領民と和解したことで、それが全体にも良い方向に繋がったと。
 明るくなったのではなく、暖かい雰囲気になったというのは……きっと過去を悔いているからだと思う。悔いて、何かを変えたくて。そして互いに対して優しくなった。
 その気持ちが続くのなら、その優しさも後悔からではなく、それぞれの心に根付いたものになるのではないかと、そう信じたい。それはきっと……母さんも喜んでくれるだろう。少しの間、目を閉じる。

「月で――リサにお会いしたと耳にしましたが」

 父さんが尋ねてくる。

「はい。母さんが死睡の王の力を抑えていてくれました」

 月でのイシュトルムとの戦いについては王城でも説明をしたからな。父さんに伝わっていても不思議はない。
 もう一度顛末について詳しいところを説明すると、父さんやジークムント老――お祖父さんやヴァレンティナ、七家の長老達は静かに話に聞き入っていた。

「パトリシアは……ずっと守っていてくれたのじゃな」
「そうですね。きっと、これからだって……」

 お祖父さんがしみじみと呟き、ヴァレンティナが頷く。

「旅行に行く前にガートナー伯爵領にて……改めて墓前にお参りをしたいとお話をしていました」

 グレイスの言葉に、父さんは目を細めて静かに頷く。

「そうだな。リサは喜ぶだろう」
「ええ。きっと、こういった品をお供えすれば、喜んでくれるのではないかと」

 ややしんみりしてしまったので、デフォルメされたドクロの人形を土魔法で作り出してやると、父さんや長老達の間から笑いが漏れた。

「そうですなあ。パトリシアとの思い出と言えば、そう言ったものを可愛がっていた記憶が確かにありますぞ」

 長老のエミールが言った。そうして母さんが小さい頃の思い出話を語り出す。
 賑やかに。そして和やかに、披露宴の時間はのんびりと過ぎていくのであった。
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