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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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704 封爵と婚礼

4月28日1:30分頃、本文加筆修正しております。
儀式の繋ぎの辺りの下りを修正しました。話の流れについては変化はありません。
 諸々の準備を終えて日々が過ぎていく。
 指輪に衣装、装飾品。魔道具類の準備は完了している。式のリハーサルを重ね、いよいよ式の当日を迎えたのであった。
 天気は快晴。式当日の天候としては申し分ない。

「みんな、準備はできてる?」
 朝食後、各々準備をして戻ってきたみんなに声をかける。
 準備、といっても着替えにしても装飾品にしても、既に王城に持っていってあるので、俺達は特別な事をする必要もなく、まずは馬車で王城へ向かうだけで良い。
 王城に到着したらすぐに着替えてしまうとは言え、結婚式当日に相応しい格好でなければならないからと、みんなある程度着飾ってはいるけれど。

「はい。いよいよ……ですね」

 グレイスが胸に手を当てて微笑む。みんなもこの日が来たことに思うところがあるのか、思い思いに思案している様子であった。

「私が一番最後にやって来て……第一夫人になってしまうなんて思いもしなかったわ」

 と、ステファニアは若干気にしている様子だ。
 結婚後の事もみんなで話し合って取り決めたのだが……ステファニアとしては対外的な意味合いから先んじてしまうことに遠慮があるのだろう。王家の親戚筋である公の爵位の根拠にもなっているしな。

「まあ、公私を使い分けるだけの話よ。姉上も地位的、対外的には仕方のないことと割り切りなさいな。わたくしは王位継承権を失っているし、マルレーンもフォブレスター侯爵家の令嬢という立場になっている。クラウディア様の事情は表に出せない、となれば――」

 ローズマリーが言った。
 公私――。実際の形としては序列や扱いに差を設けないということになっている。
 みんなの仲も姉妹のように良いのは事実だ。だがそれでも、問題点が持ち上がることもあるだろう。それらは話し合って解決して進むという形である。

「公の部分では、ステファニアに負担はかけないようにするよ。皆を守るのは俺の仕事だから、ステファニアも守るのが当然だろ」

 責任感の強いステファニアだけに、そういった事情で負担を強いるようなことはしたくない。そう言うと、ステファニアの表情が赤くなる。

「……わ、分かったわ。けれどもう一回確認するけど、立場は表向きだけ、ね。その……私だって、テオドールとグレイスの話を聞くと、応援してあげたいって思うもの」
「それはまあ、そうね。ずっとテオドールを支えてきたグレイスが、まずみんなに優先されるべきでしょうし」

 クラウディアが目を閉じて答えると、マルレーンもこくこくと頷いた。グレイスは……少し目を丸くしてから静かに頭を下げる。

「ありがとうございます。けれど、そんなにお気遣いいただかなくとも」
「グレイス様の事は、みんな納得していますから」

 と、アシュレイも微笑む。

「私達については、今まで通りにしてのんびりと、というのは道理に合っているものね」
「はい。テオドール様が気遣って下さっているからです」

 クラウディアが言うとアシュレイが嬉しそうに首肯する。年少組については……もう少し年齢を重ねるまで色々と待つというのも、みんなとの話し合いで決まっていることだ。

「まあ、テオドールならきっと大丈夫。私達も、今まで楽しくやってきたし」
「ふふ、そうね。何だかんだ言って何とかしてしまうのがテオドール君だもの」

 シーラの楽観的な言葉に、イルムヒルトが肩を震わせる。
 うん……。そうやって信頼を示されると、こちらとしてもしっかりしないとな。気合が入るところだ。
 セラフィナはにこにこと、満足そうな様子である。

「旦那様。王城からのお迎えが参りました」
「ああ。分かった」

 セシリアの言葉に頷く。
 王城から迎えの馬車もやって来たようだ。では、みんなで馬車に乗り、王城へ向かうとしよう。

「私達は、月神殿の方でお待ちしていますね」
「うん。また後で」

 式はまず王城で始まる。それから街中を一周し、月神殿に行ってそこからフォレスタニアに向かい、披露宴等々という流れになる。
 使用人や街中の知り合い全員で最初から最後まで参加となると流石に謁見の間が混雑してしまう。なので王城に列席する者と、月神殿側で待つ者とに分かれる形になる。
 遊びに来ていたテフラやフローリア、ハーベスタにマクスウェル達も出掛ける準備をしている。使い魔、魔法生物組も一足先に月神殿で待っている形だ。



 ――今日が式当日ということで、街は結構浮かれている様子であった。あちこちに花が飾られていたり、通りを行く人達が着飾っていたり。気が早い冒険者達がドワーフ達と酒杯を酌み交わして盛り上がっているのも見えた。
 俺達を乗せた馬車だと気付くと手を振ってくる者もいたりして。

 この前の祝勝の宴から引き続きの流れではあるのだろうが、こうしてみんなが祝福してくれているのを見るというのは……嬉しいな。

 馬車はそのまま俺達を乗せて、王城へと入る。王城では女官達が待っていた。

「それでは、案内いたします」
「では……また後程」
「うん。また後で」

 王城に到着したところで新郎と新婦は一旦別々の控室に向かう。控室で衣装を着替えたり髪型を整えたり、更に女性陣は薄く化粧を施したりと、式に出るための準備を進める。

 列席者は既に会場となる謁見の間に入り始めているはずだ。列席者が謁見の間に入り、そして新郎新婦の準備が終われば式が始められる。各国の王とティエーラ、精霊王達が見守る中で式を挙げ、その後街中を月神殿までみんなと共に飾り立てたシリウス号で移動する形となる。

 つまり、俺は着替えたら後は準備が整って呼ばれる段になるのを待つだけだ。女性陣のほうは人数や準備の手間暇を考えれば、俺よりも時間がかかるだろうとは思うが。

 早速服を花婿衣装に着替え……その上にローブを羽織る。
 女官達はこまめに進捗状況の連絡を取り合っている。
 どうやら……列席者も花嫁も、もう少し時間がかかりそうだ。その状態のまま、宝石箱に収められている指輪を確認しておく。

 宝石箱の蓋を開けると、そこには8つの指輪が鎮座していた。
 ミスリル銀の指輪と台座に宝石が中央に据えられ、8つの小さな魔石が台座周辺、八芒星を描くように配置されている。同じ指輪が8個。婚約者達も、俺の指に嵌る同じ指輪をもう1つ用意している。
 中央の宝石は光源の種類によって色が変わって見える特殊な宝石だ。金緑石の変種で……地球ではアレキサンドライトと呼ばれる宝石である。

 これだけの宝石を取り揃えるのは相当骨が折れるのだろうが……他種族や迷宮とを繋ぐ境界公に相応しい宝石はこれしかないだろうと、各国の王達が乗り気になってしまい……俺への恩義を少しでも返したいからという名目の下に、そこからはもうあっという間だった。
 冒険者ギルドやハーピーの族長達、月の使者も含めて情報を交換し合い、各地から必要な分を集めて、職人達が技術と知恵を総動員して加工して作った形となる。

 そして出来上がったのがこの8つ――俺の分も含めれば9つ――の指輪だ。
 神秘性の高い宝石、属性変化を受けた魔石にミスリル銀という、魔法に対して親和性の高い素材に加え、高位精霊の祝福まで込められているという……中々にとんでもない品である。

 呪いや困難を退け、同じ指輪を所有する者同士の危機を知らせる、といった効果がある。要するに破邪の首飾りや、自動で魔法防壁を作り出す幸運の髪飾りなどの効果が複合……どころか強化されているわけだ。
 感じる魔力の強さからしても相当なものなので、恐らくこの指輪だけでも全身鎧以上の堅牢さや、かなりの魔法耐性があるものと予想される。
 しかも様々な属性の魔石が装飾も兼ねてくっ付いているので、魔法を予め込めておいて、必要な時に発動すると言った使い方もできるという、応用範囲も広い仕様だ。……各国の王達や精霊達が気合を入れ過ぎてしまった結果と言えよう。

 宝石箱の蓋を閉じると、何というか――俄かにここにきて緊張してきたな。戦いに赴くのとは違う空気感というか。うん……。とりあえず深呼吸をして気を落ち着けることにしよう。
 そうしていると、女官が準備が出来たと呼びに来る。

 頷いて、女官の案内を受けて控えの間に通される。

「テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニア様のおなりです!」

 そう声が響き――ゆっくりと控えの間の扉が開いていく。
 列席者からの拍手が巻き起こる。新郎の入場――にして、戴冠式だ。

 どうせなら同日に行うことで盛大にできるだけやってしまおうという発案の下に、戴冠式から結婚式という流れなのである。

 作法に則り一礼し、赤い絨毯を真っ直ぐに進む。ジョサイア王子、ヘルフリート王子にアルバート王子。宰相に騎士団長。各国の王達や領主達。ティエーラ、精霊王達……。
 正面には正装したメルヴィン王と王妃達だ。第二王妃――ローズマリーの母もいるな。

 ローズマリーいわく、有能だが割と暢気な人ということで、陰謀や政争とは距離を置く性格らしい。だから自分がしっかりしないとと昔は考えていたらしいが……ふむ。当人はにこやかに拍手を送ってくれているな。

 メルヴィン王達の待っているところまで行って、膝をついて待つ。

「これより、テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニア境界公の、封爵の儀を執り行う! これに異議のある者は前に出でよ!」

 メルヴィン王の言葉が響く。そして周囲を見渡すが――厳かな雰囲気がそこにあるだけだ。異議がない場合は同意した、と見做されるわけだ。この場にいる列席者の全てに了解を取り付けるのと同義となる。

「ならば、彼の者にヴェルドガル王国、そしてこのルーンガルド全ての国々に安寧を齎した功績を称え、この宝冠を送ろう。テオドールよ。そなたの治世が百年――いや、千年先の平和の礎を齎すことを願っている」
「ヴェルドガル王国に連なる領主として、忠節と誇りを守り、そして民の安寧のために善政を敷くことを誓います。謹んで境界公の冠をお受けします」

 そう答えると、メルヴィン王の手で頭に宝冠が乗せられた。そして大きな拍手が巻き起こる。
 基本的に宝冠は公爵、大公位に与えられるものと同じだが、円環竜の家紋もあしらわれている。
 何というか、こういう大事なものを頭の上に乗せているというのは、気分的に肩が凝りそうだ。式が終わったら、これは居城に大事に保管しておこう。

 メルヴィン王達は封爵の儀を執り行ったところで、一旦謁見の間から退出した。そうしてすぐに衣装を着替えて戻ってくると列席者の列に加わり、代わりに正装した巫女頭のペネロープが前に出てくる。

「続いて、境界公の婚礼の儀を執り行う!」

 役人の声が響き、婚礼の儀の宣言がなされる。
 少しだけ横に移動して所定の場所に立つと、高らかにラッパが吹き鳴らされ、振り返れば開け放たれていた控えの間に、8人の花嫁が立っていた。俺の封爵の儀も後方から見ていた形だろうか。

 ――――。

 言葉を、少しの間失う。
 長い裾とレース、フリルのついた純白のドレスに身を包んだみんなの姿がそこにあった。薄いヴェールで顔を覆い――胸元や腕に珊瑚や真珠、宝石をあしらった首飾りや腕輪などを身に着けて。細やかな刺繍が施されたドレスは……何とも見事だ。みんなに良く似合っている。
 謁見の間に差し込んで来る陽光を浴びた彼女達は……輝くような、現実離れした美しさがあった。
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