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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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702 王と領主達の心に

 領地に関しては考えることも色々とあるが、メルヴィン王達、要人がこれから先、必要な時に訪問できるよう、一度領地に案内しておく、というのが今回のお披露目の目的の1つであった。

 迷宮に領地を作るそもそもの理由……深層の防衛とその権限という意味合いにおいては大体達成している。地下要塞に関しては相当堅牢だし、街や城の防衛力も充分なものがあるからだ。
 それから副次的な義務として貴族、領主としてこの場所を治める必要があるので、家臣や領民となる者達も必要になってくるだろう。

 家臣については勧誘や募集をして、実務を行う者や街の治安維持のための衛兵を組織したりといった流れになる。諸々の体制が整うまでは人手が足りないが、これは迷宮核によって生成したゴーレムやガーゴイルを用いることでカバーし、徐々に人を増やす形へと移行していく。
 ゴーレム達は確かに人件費がかからないが、逆に言うと雇用に繋がらないからだ。人を増やした後で交代要員や非常時の予備戦力ということで待機させておけば無駄にもならないし余裕もできるだろう。

 領民については――領地における特色を出しつつも雇用を作っていく、というのが、とりあえずの目標か。冒険者達とも色々連係していきたいところではあるが。
 庭園の東屋に場所を移し、料理が出来上がるまでの間、今後のことについての説明を兼ねて色々と話をする。
 家から使用人のみんなもやってきて、歓待のための料理を作ってくれているのだ。良い匂いが漂い始めていた。噴水の近くに腰かけたイルムヒルトのリュートの音色も響いてきて、庭園も綺麗なので中々良い雰囲気だ。

「では、冒険者ギルドの出張所を領地に作るということで良いのかの?」
「そうですね。タームウィルズと競合させるつもりはないので、治療や休息、探索に必要となる物品の販売等で、冒険者を補助できる形にできれば、などと考えていますが」
「この街から地下20階の分岐点に双方向で移動できるわけじゃからな。迷宮内部に補給拠点ができた、という認識で考えるのが良さそうじゃな。ふむ」

 アウリアは思案を巡らしながら頷く。

「それからもう一点。フォレストバード達に関してですが――」

 と、俺の考えを説明する。気心の知れた信用のある人物を領地周辺に置きたいと考えているが、だからといって、こっちの考えを押し付けるのも好みではない。
 フォレストバード達にしても冒険者稼業を好きで続けていたりするかも知れないし、当人達が乗り気だとしてもギルドの意向とも折り合いを付けたい。

「それは連中喜ぶかも知れんのう。少し前、冒険者を辞めた後の将来の身の振り方についても話しておったからのう」
「そうだったんですか。冒険者ギルドとしてはどうなんですか? フォレストバード達は冒険者として見るとかなり有望株なのではと思うのですが」

 そう尋ねると、アウリアは笑った。

「儂らとしては連中が乗り気であるなら今回の話は諸手を挙げて応援してあげたいところじゃがな。何せ、冒険者ギルドとしての理念がそうなのじゃから。当人や雇用先が信用の置ける人物であると太鼓判を押せるなら尚更でな。要するに円満な職の斡旋や仲介、紹介は、儂らが補助して冒険者を育て、そして送り出すことができたと……胸を張って誇れる仕事の1つなのじゃよ」

 なるほど……。微笑んでティーカップを傾けているアウリアである。

「まあ、まずは当人達の意向を確認してみるかの」
「ありがとうございます」

 アウリアに礼を言う。返事は数日中にはあるだろう。

「後は……領地の特色を出していきたいところですね。街に発酵蔵を作ろうかなと考えていますが」
「あの味噌や醤油をもっと大規模で製造する、というわけか。それは……良いのではないかな」

 俺の言葉に、メルヴィン王は頷いた。

「風光明媚で美しい風景。温暖な性質。魔法技術が潤沢に活用された街。そして珍しい食べ物、となれば……もうそれだけで十分に人を呼べるであろう」

 その言葉を聞いた公爵は「確かに」と目を閉じて頷いている

「いずれにせよ冒険者達で賑わうのは間違いない。そこで食の面から売りを作るというのは良い案と言える」
「タームウィルズとの競合は起こらないでしょうか?」

 物資がタームウィルズとフォレスタニアで分かれることで、どちらかで食料品が不足したりといった状況は避けたいところだ。

「ふうむ。元より迷宮の食料生産についてはやや過剰気味であったからな。新しい領地の噂を聞きつけて人が流入してきたとしても、暫くの間は問題なかろう。それに、過去の記録では日照りで食料の不足が予測された際、迷宮に騎士団を遣わして食料を増産した、という記録が残っておってな。拠点が増えた分、探索者を増やすこともできる。先々の話をするのであれば、シルン伯爵領やガートナー伯爵領、ブロデリック侯爵領では……稲作を始めて農地を増やす予定であろう?」
「それは確かに」

 ミシェルの持って来てくれた資料では稲作可能という見通しも立っているからな。
 小麦もそうなのだが、稲も面積あたりの収穫量が大きく沢山の人口を支えることが可能だ。しかも月からコーンも持ち帰っているからな。これも主食になり得る優秀な作物である。

「よって、タームウィルズとフォレスタニア、及びシルン伯爵領以東の領土で連係を密にして調整すれば、問題は起こらぬもの、と考えている。冒険者を更に外部から招き、迷宮からの増産体制を整えるまでは、騎士や兵士達の実戦訓練も兼ねて、迷宮探索を今後も続けるというのも悪くはなかろう」

 実戦訓練か。魔人絡みの一件以前にそれがあまり行われてこなかったのは……有事でもないのに迷宮の魔物を相手に正規兵が戦う必要が無かったからだ。何せ、迷宮の魔物は沢山倒したからといって尽きることが無いし、迷宮の外にも出てこないのだから。
 だったら冒険者達へ任せてやれば雇用も生まれて経済も潤う、という形に落ち着いている。まあ逆に言えば、理由があれば正規兵を派遣することもある、という意味でもあるが。
 直近では討魔騎士団の寒冷地訓練や、精霊殿の封印の扉を探索していたのがそれにあたる。過去には日照りが続いた際の緊急措置、というのもあったわけだ。

「話を聞いている限り、当面も先行きも大丈夫そうですな」
「うむ。何か問題があれば何時でも相談に乗りますぞ」
「左様。これでも領地経営で様々な問題を乗り越えてきておりますからな」

 と、ブロデリック侯爵とデボニス大公。ドリスコル公爵や他の領主達、国王達も乗り気なのか、うんうんと頷いている。

「国王や領主ともなると……責任の重さゆえに様々な事を最大限活用しようと考えてしまうというのは否定できぬがな。ことそなたに対しては……皆、恩を返したいのだよ。余も含めてな」

 そんな領主達の様子を見て、メルヴィン王が苦笑した。

「ありがとうございます。何かの際には頼りにさせて下さい」

 みんなに一礼する。
 そうだな。メルヴィン王はずっと魔人達に対抗するために俺への負担が大きくなることを気にしていたし……他の領主達も、そういう気持ちを抱えていたかも知れない。
 迷宮の恩恵で領地経営に関しては恵まれた環境ではあるが……そう言ってくれるのなら問題が起きた時は相談して知恵を借りるなどして、頼りにさせてもらおう。

「大事なお話の途中、失礼致します。お食事の用意ができました」

 話が纏まったところで、セシリアがやってきてそう言った。

「ありがとう。それじゃあ、場所を移動しましょう」

 ダンスホールに食事を用意している。みんなを連れて歓待の食事会といこう。
 移動の最中、みんなの話が聞こえてくる。

「これで名実共に境界公としての準備が整った、というところでしょうか」
「後は……結婚式ですな。いや、実にめでたいことです」
「結婚式は国を挙げて盛大に、か。うむ。楽しみだ」

 領主達の言葉に、ファリード王が頷く。

「そのつもりで準備を進めておる。魔道具等にて幻術による演出もするとアルバートは言っておったから、相当盛り上がるのではないかな?」

 ああ。うん。メルヴィン王の協力と、こちらの企画した部分と……色々あるのだ。
 領地絡みやラストガーディアン関係については一先ずこれで良い。結婚式の準備もきっちり進めていかないといけないだろう。
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