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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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701 領地と竜と

 街、神殿、城、そして湖畔内の設備、上空、地下要塞部分、と領地内部を見て回り、確認すべきことを確認していく。

 地下要塞部分は重要設備なので、ティエーラに転移させてもらって要所要所を確認してから戻ってきた。俺達は迷宮管理側なので地下要塞では魔物から攻撃を受けないようになっているが、もし攻略するとなると相当骨が折れるのは間違いない。

 俺達のパーティーぐらいの戦力を前提として、しっかり対策を考えて慎重に進めば、という印象だろうか。もっとも、対策を考えればなどと言えるのは作った俺がいるからで、そもそも侵入禁止の場所故に人が立ち入らない。だから情報が出回らず、対策の進めようもないというわけだ。
 仮に侵入者が城をくぐり抜けて到達したとしてもそれは散発的になるだろうし、初見の侵入者は嵌める気満々で作ったからな。

「堂々巡りを抜けようとして……最初の隠し部屋の扉からあれは厳しい。何も考えずに動けば罠が起動するし、慎重に動いても魔力が察知ができないとまず確実に罠に嵌る」

 とはシーラの弁である。機械的な罠の仕掛けに魔法的な仕掛けが連動していて、機械的な罠を解除すると、それが契約魔法のトリガーとなって魔法の罠が発動するというわけだ。
 閃光と爆音で思考と行動を阻害したところに魔法を封印する術式を叩き込み、その後に、城の地下にある牢へ向かって転移魔法が発動、そして罠が動作したことを通信機に連絡、という具合である。

「いや……。迷宮核の補助のお陰で、魔法の罠なんかも含めて色々設定出来るから、ついつい」

 できることが多いとやってしまいたくなるというか、目的に合致しているから気合が入ってしまったというか。
 とりあえず、本格的に侵入されて魔物と罠相手に決死の攻略などされる前に牢屋に叩き込むというのは、非殺傷であるだけマシだと思うのだが。罠部分に到達するというのは、要するに最初の警告を無視してるわけだしな。

「まあ……魔法的な知識がないとあんな複合的な罠は設置できないでしょうけれど」
「誰が迷宮核を弄っても、というわけにはいかないのね」
「もっとも、滅多にあの罠にも出番がないでしょうけれどね」

 クラウディアが言うとステファニアが感心したように頷き、ローズマリーが羽扇の向こうで薄く笑った。
 アルフレッド製の音響閃光弾や契約術式、封印術等々を迷宮核に情報集積させることで色々組み込んだわけだ。
 他の難所もしっかりと稼働しているのは確認できたから……とりあえずはあれで問題あるまい。

 そうして領地を一通り確認したところで、王城や神殿、冒険者ギルドや工房にも通信機で連絡を入れる。すると……程無くしてあちこちから見に来たい、という返信が来たのであった。

 では……迎え入れの準備をするとしよう。領地の空を飛んだりするのはなかなか気持ち良さそうだし、リンドブルムやアルファも連れて来てやるか。アルファに関しては魔石があれば顕現できるし、今はシリウス号を動かす予定もない。仮の器等が無くても大丈夫だろう。
 リンドブルムも一度こっちに連れて来れば、次からは迷宮入口から自分で遊びに来れるようになるはずだ。



「おお……」
「これはまた、何という――」

 迷宮入口の石碑からみんなを連れて領地に飛ぶと、広場に出たところで早速歓声が巻き起こった。
 特にエスティータ達、月の民は地上の景色が珍しいのも手伝って目を奪われている様子である。

「美しい領地だな。ここが迷宮の中とは……俄かには信じられん」
「球体の内側に、遠景を投影しているとお考え下さい」
「ふうむ。なるほどな」
「何やら湖の底にも色々見えるが」
「あれは、水中にも滞在施設を作ってあるのです。水上から見ると水没した遺跡という印象に見えるように仕上げました」
「おお。素晴らしいではないか」

 エベルバート王やエルドレーネ女王の言葉に答えて説明をする。

「湖上の都市に水没した遺跡とは。何とも風情のある……」
「私としてはあの城も気になりますな。外から見ただけでそれと分かる程に美しい形をしているというのは……今から中を見るのが楽しみですな」

 と、大公と公爵が言葉を交わす。公爵の好奇心旺盛振りは相変わらずなようだ。
 領地見学は結構な大所帯になった。
 メルヴィン王とジョサイア王子は言うに及ばず、各国の王と、俺と親しくしている領主達、エスティータ達月の使者、冒険者ギルドからアウリアとヘザー、工房のみんなと七家の長老、それに巫女頭のペネロープもいる。

 関係者にあちこち見てもらうために集まってもらった形だ。リンドブルム達は一足先にやって来て、湖上を悠々と飛行したりしている。

 使い魔達や動物組は自由行動だ。飛んだり泳いだりと、それぞれに領地を満喫している。ラヴィーネが氷の小島を作って、そこに幼竜が乗り――それをコルリスが押して氷の小島ごと湖上を進ませたりしている。幼竜は楽しそうに声を上げてはしゃいでいる。近くの湖上に竜の姿に戻ったラスノーテが顔を出し、幼竜と尻尾を振り合っている。
 水温は区画の気温に関わらず、高過ぎず低すぎず。泳ぐのに丁度良いぐらいだ。

 湖上にはあちこち休憩できるような小島もあって……。そこにピエトロが寝そべって日向ぼっこをしている。バロールとセラフィナも一緒だ。日当たりの良い芝生の上で心地良さそうにしていた。まあ……使い魔達や動物組は楽しそうにしているようで何よりである。
 一旦五感リンクを切って、メルヴィン王に尋ねる。

「ええと……。ラストガーディアンの新生も問題無く済みましたが……今は飛竜や使い魔達と湖上で遊んでいるようですね。領地と幼竜と、どちらを先に紹介しましょう?」
「ふむ。子供が遊んでいるのを中座させるのも無粋であろう。まずは領地から、といこうか」

 メルヴィン王が笑みを浮かべて言った。
 というわけで早速、塔の上の広場から浮石のエレベーターで下の広場へと移動することになった。
 浮石のエレベーターは密閉式だ。上か下か。所定の場所に浮石がある時だけ柱の一部が開き、中に乗り込んで水晶球に触れるとゆっくり扉が閉じて上昇、下降する。
 到着すると柱の一部が開いて降りられる、といった具合だ。扉に何かが挟まると動かせない。安全対策もされている。

 エレベーターへの反応は様々。王城セオレムに慣れている面々や月の民は割と馴染みがあるし、ファリード王やエルドレーネ女王は面白がっている様子だ。

 そうして下の広場に到着。門を潜り、街中へと入る。
 芝生と木陰、水辺を街中にも用意して、領民の憩いの場などを作ったりもしている。水の流れる音が心地良い。

「まだ入植者も決まっていませんので、街中の建造物はとりあえず必要な物だけを作りました。後は通りになる部分と、建物の基礎部分だけですね。家を建てれば下水道も使えますし、上水も引けますが」
「至れり尽くせりじゃのう」
「迷宮の分岐点から向かえると聞きましたが」

 アウリアが頷き、ヘザーが尋ねてくる。

「そうですね。迷宮に潜る冒険者達に利便性が良いようにと。転界石を温存したまま拠点として使えます。冒険者ギルドの支部があってもいいのかも知れません」
「ふむ。塔の上から見て気付いたが……基礎の上に建造物ができれば、いくつかの通りを封鎖するだけで防衛したり、区画ごとの封鎖をしやすくしてあるのだな」

 ファリード王が言う。バハルザードは戦乱続きだったからな。ファリード王の視点と見識は、そのあたり流石と言える。

「そうですね。迷宮深層に続く道を守る領地なので、有事の際の備えも、と考えてあります」

 市街地に賊が出た場合は囲い込み等が容易だ。
 城にしても湖畔の真ん中に建っていて、地上から向かうには一本の大橋を渡るしかない。有事に際しては橋をゴーレム化して切り離してしまえば籠城も可能だしな。

「風光明媚に見えて質実剛健。実に素晴らしいことだ」

 ファリード王がうんうんと頷く。

「神殿も綺麗ですね。砦の中に神殿を作った時もそうですが、テオドール様はしっかりと信仰のための意味を持たせた建築様式にして下さるから安心です」

 ペネロープが笑みを浮かべた。

「神殿は幾つか建てましたが、まだ形だけですね。封印の巫女は別として、神職の方々もいないので……」
「それに領民達や家臣についても考える必要があろうな」
「まずは信用の置ける人達に声を掛けて、治安等々の安定した領地にしていきたいところではありますね。それまではゴーレムによる警備等を考えていますが」
「うむ、そうだな」

 メルヴィン王が言った。
 迷宮村の住人や、月神殿の経営する孤児院を出ていく子供達に雇用を創出することもできるな。迷宮村の住民もそうだが、孤児院の子らも読み書き計算ができるように教育が進んでいるので、結構な人材だったりする。出自もしっかりしていて馴染みもあるし。

 ああ……。信用と能力をと考えると、フォレストバード達も領地に来てくれないかな等と思うのだが。冒険者にも迷宮にも理解があるし。冒険者の勧誘になるからアウリアに話を通したほうが良いかな。

 んー。知り合いに色々声をかけて見るというのは悪くないと思う。テスディロス達にもこっちに来て貰うというのは悪くないかも知れない。傭兵としての経験は結構貴重だし、呪具の管理もしやすくなるしな。

 そんな調子で街中を案内しながら思考を巡らしつつ、橋へ到着する。ここを渡れば居城だが――。

「おお。これは賢者の学連と同じような仕掛けじゃな」
「橋が長いので、折角ですから足場が動くようにしてみました」

 ジークムント老が笑みを浮かべる。長老達やヴァレンティナ、シャルロッテも嬉しそうだ。
 橋の中央に馬車が行き違いに通れるスペースを作り、両端を歩行者用に動く歩道を用意。足場に乗れば後は居城まで歩かずとも滑って行ける。

「ここからも水底の遺跡が見えるのね」
「綺麗……」

 イルムヒルトは橋の欄干から湖畔を眺めながら笑みを浮かべ、アシュレイやマルレーンも風景に見惚れている。
 のんびり景色を見ながら進めば、段々と居城が近付いてくる。

 円形の城壁に囲まれた城だ。城壁も城も装飾を施された白い石材を基調とし、青や茶色の屋根、あちこちに植えられた植物の緑等がアクセントとして彩を添える。

 領主の居城となる本棟の外観は――尖塔とそれらを繋ぐ橋を備えた立体的な構造が特徴的な建物である。
 外壁の四方に監視塔。兵舎と練兵所。厩舎や兵器庫等々必要な建物。
 城壁内部に庭園。城の内部に湖畔の水も引き込まれていて、庭園には水路や生垣、白い石材の回廊や、噴水のある池、東屋等が存在する。

「回廊を覆うように水が流れ落ちているとは」
「また涼しげというか何というか……これは良いですな」

 公爵が感心したように声を漏らした。
 水のカーテンが白い列柱の間を流れている。

「因みに夜間はフェアリーライトが光で飾ってくれるわ。街も魔力の明かりが灯ったりして、そこそこ明るくなるわね」
「ふむ。魔法の街灯か」

 クラウディアの説明にエベルバート王が上機嫌そうな笑みを浮かべる。

「そうですね。ヴィネスドーラを参考にさせてもらったところもあります。後は、色々なところを参考に。ガートナー伯爵領等もですが」

 父さんがいるからぶっちゃけてしまうが。

「湖畔は……確かに落ち着きますね」

 と、グレイスが微笑みを浮かべた。

「しかしまあ……遠くから見ても内部から見ても美しい城だが……区画ごとに区切られていて、侵入してくる者には建物の高所から矢を射掛けることができるようになっているようだな」
「防衛という意味ではかなり強固よな」

 ファリード王が顎に手をやって唸り、メルヴィン王が頷く。
 入口の塔の上から見えるのは、城の高所の一部だけだ。城内の様子を覗かれると防御態勢も丸見えになってしまうからである。

「壁で区切られた区画は結界を張ることも可能です。上空からの攻撃にも対応できるようにですね」
「なるほど……。屋根の上にガーゴイルもいるんだね」

 アルフレッドがガーゴイルに手を振ると、向こうも振り返してきた。
 うむ。調整してあるので割とコミュニケーションが取れる。空からの侵入を防ぐための衛兵といったところだ。
 防御面の厚さは見る者が見れば分かる作りだ。装飾などは施しているが本質は防衛拠点であるので。

 侵入者を迎撃するため、防衛するための構造で、余計な考えをそもそも起こさせず、仮に実行に移したとしてもスムーズに迎撃、鎮圧するのを第一義としている。あちこちに作った庭園にしても、兵を多数展開しやすくするためだったりするし。

 正面側の庭園を抜けると、そこは謁見の間や控えの間、ダンスホール等を備えた建物となっている。回廊正面が控えの間。右手側をいけばダンスホールや迎賓館。左手側に行くと第1兵舎に繋がっている。
 来客を迎える場合は……基本的にはここだけで事足りるようになっているわけだ。

 最初に来た者を迎える場所なので、コンセプトに忠実に。天井を高く、柱を太く。天井から吊るされたシャンデリアだけでなく、光源をあちらこちらに配置してスケール感を増大させている。
 廊下は広くて一本道。逃げ場がないから仮に攻撃を仕掛ければ戦いを避けることができない作り。

 ちなみに第1兵舎や迎賓館内部等はもう少し普段使いとして過ごしやすいよう、暖色系を主とし、木材や観葉植物等が用いられていて落ち着いた上品な内装だ。

 正面の建物を抜けて、更に奥へ。城の内側、本棟の周辺となる区画に第2兵舎や第1食糧庫、竜舎等を配置している。

 本棟に関しては、上層が領主の居住スペースとなる。内装は大人しめで、広さも控えめ、落ち着ける環境。中層に第2食糧庫や兵器庫。
 本棟上層から橋を渡った棟に大図書館、実験室、宝物庫等々。

 宝物庫といっても、今の段階では何も収められていない。しかし物理的にも魔法的にも防御は分厚く、奥の壁に更に隠し扉と隠し通路がある。
 そこを通って地下要塞まで降りられるような構造になっているのだが……宝物庫破りを敢行して更に隠し通路を見つけないと地下要塞に降りることもできないという寸法だ。
 まあ要するに、地下城砦に侵入した時点で何重にも罪を重ねているということになるわけだな。

 城のあちこち、案内できるところを案内してから……城の裏側へと出る。
 階段を降りると水辺になっていて、そこにちょっとした遊泳場を作ってある。小舟も停めてあり、水門を開けば城壁の外――湖畔側へと出て行けるというわけだ。シーラの要望に応えて釣りも可能である。

「これで領地内は一通り案内出来ました。地下に要塞がありますが……そこは深層に進む者が出ないようにと、あれこれと罠や魔物を配置していますので相当な危険が予想されます。残念ながらこの顔触れでは案内はでき兼ねます」
「それに関しては致し方あるまい。だが領地に関しては、充分過ぎるほどよな」

 メルヴィン王は俺の言葉に頷き、そして言った。

「では、領地の名を決めねばなるまい」
「そうですね。フォレスタニア……というのはどうでしょうか」

 扉や門を意味する言葉を地名っぽくしてみた。ヴェルドガル王国と迷宮深層を繋ぐ『門の土地』といった意味合いになるだろうか。

「フォレスタニア境界公か。良いのではないかな」
「ありがとうございます」

 メルヴィン王に一礼する。そこに、湖上から使い魔達が戻ってくる。
 頃合いを見てカドケウスに呼んできて貰ったのだ。

「紹介します。この幼竜が、ラストガーディアンが新生した姿となります」

 幼竜を呼んで、頭を撫でてやってからメルヴィン王達に紹介する。
 幼竜は翼をぱたぱたと動かしていたが、床に降りてからぺこりと一礼した。

「おお……。あの巨大な竜が変われば変わるものだな。名は決まっておるのか?」
「まだ名付けてはいませんが……それも必要かなと思っています」

 ティエーラに視線を向けると、にっこりと笑みを返してくる。幼竜も俺を見ながら何か期待を込めた眼差しで見つめてきた。
 揃って俺に名付けろ、ということか。名付けに自信があるわけじゃないんだが。んー……。そうだな。

「……ヴィンクル、っていうのはどうかな?」

 今度は絆を意味する言葉のもじりだ。そういうふうに育って欲しいという願いを込めてだな。竜族のセンスは分からないので気に入ってくれるかどうかは未知数だったが……幼竜は嬉しそうに声を上げて応えるのであった。
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